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上級公務員の能力主義・業績給への移行は必然 先進国の公務員制度改革

前回は、内閣一元管理、政官接触、キャリア制、労働基本権が争点 壮絶な国会論戦についてまとめた。ここでは、上級公務員の能力主義・業績給への移行は必然 先進国の公務員制度改革について解説する。

日本の公務員制度の問題の根幹

日本の公務員制度の問題を突き詰めていくと、各省ごとのコミュニティが強固にでき上がっているという点に行き着く。このコミュニティを支えているのが、キャリア制度と天下りという人事の仕掛けである。

そのため、安倍政権下での第一次公務員制度改革では「人材バンク」を作り、天下りのほうから攻めた。そして、福田政権下での第二次公務員制度改革では「内閣人事局」を作り、キャリア制度という各省割拠主義を打ち砕こうとした。

 

政権交代で3000人がかわるアメリカ

日本の対極にあるのがアメリカである。アメリカでは、中央省庁幹部など上級公務員は、みな「政治任用」となっている。政治任用とは、政権トップ(大統領)が決まり、次いで大臣が決まると、各大臣が自分の任命したい人を各省庁の幹部に据えるという制度である。そのため、政権が変わると幹部公務員3000人が交代すると言われている。

しかし、そのような公務員の「政治化」が進むと、行政の「継続性」がなくなるという批判がある。飯尾潤『日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ』(中公新書)によれば、こうした批判に答えるために、1978年の公務員制度改革法で「上級管理職(SES)」という制度が導入された。SESとは、審議官、課長クラスの専門的な能力を持つ管理職で、現在約7000人いる。SESは基本、終身雇用であり、行政の継続性を維持している。

 

能力主義・業績給への移行は必然

日本の公務員の給料は年功序列で運用されている。給与法に基づき給与を決める棒給表が年齢にリンクしており、能力給・業績給になっていないからである。また、給与法ではどの官職がどの等級かは規定されておらず、官僚の自由裁量が大きい。しかも、給与法は財務省が所管しており、事実上、公務員制度の立案を行っている(年功序列制の廃止と各省庁による再就職の斡旋禁止 公務員制度改革の肝参照)。

アメリカの公務員の給料は職階制が採用されており、仕事の内容とポストと給与がリンクしている。具体的には「一般職階表適用者基本給与システム」というものがあり、好成績基準に達した優秀者には、各省庁で自由に等級が上乗せできるようになっている。

 

根強い平等主義の思想

日本でも戦後のアメリカ占領下で、GHQ(連合国軍総司令部)が駐留していたとき、日本の公務員にも職階制を導入しようと考え、法律までつくられた。しかし、日本側が実施のための細則をつくらなかったため、その後、大きな改革は何もないまま今に至っている。

背景には根強い平等主義があり、業績評価プロセスが難しいという意見があるからである。たしかに業績評価プロセスは簡単ではないが、各国で取り組みが行われているため工夫は可能である。それらの取り組みからいえることは、業績評価は職務の標準的な基準より、むしろ目標設定に基づくべきという点である。評価者と被評価者との対話をベースとし、プロセスの透明性が成功の鍵となっている。

 

仏独も幹部公務員は政治任用

フランス、ドイツ両国とも、幹部公務員は政治任用となっている。ただし、その候補者はアメリカと異なり、職業公務員の中から選ばれる。そのため、政権交代があっても、ある程度は行政の継続性も保たれている。

フランスでは、本庁局長クラスに加え「大臣キャビネ」という側近が政治任用される。財務監査官などの職業グループに属し、省庁横断的な人事の下で政府の内外を渡り歩きながら出世していくのである。

ドイツでは、次官や局長などは「政治的官吏」と呼ばれて政治任用される。政権交代によって職を失うリスクがあるので、恩給や他のポストへの異動が認められている。

省庁の事務次官になるのはその省庁の出身者というのは、日本だけの特徴である。フランスでもドイツでも、同じ省内から次官に登用されるというのは、全次官のおよそ3分の1と言われている。

また、日本には業績給の要素はほとんどない。偉くなってもならなくても給与は一緒。この一緒という考えが、天下りの容認につながっている。一方、ドイツでは業績主義がかなり徹底されており、フランスでも上級公務員という一定のポスト以上については、業績給が適用されている。

 

イギリスでは政治家が政官の橋渡し

イギリスの制度では、政治家が政官の橋渡しを行っており、政治家と公務員の関係のあり方が参考になる

まず、イギリスではエージェンシー制度を導入しており、中央省庁の執行部門を切り離して、外部委託している。エージェンシー(代理人)は執行業務に特化しており、PDCA(Plan-Do-Check-Action)というサイクルで目標を決めて、それに基づく成果主義で評価される。そのため、そこで働く職員は業績給になる。

一方、イギリスの制度では、公務員は政治的中立性が重要として、政治家との接触はできない。そのため、それぞれの省庁に政治家が相当数入っており、その人たちが政官をつなぐ役割を代行しているのである。

 

イギリスでも一部の公務員は「政治化」

イギリスでは公務員制度改革はかなり行われており、その中心となるのが1996年に導入された上級管理職(SCS)である。SCS制度は幹部公務員を政府全体で養成することを目的とするもので、課長クラス以上を対象とし、中央省庁全体で約4000人(全体の1%未満)いる。

また、イギリスでも顧問制度の活用によって、幹部公務員の一部は政治化している。これは、1997年のブレア政権において、政治任用という形で特別顧問を増やしたことが影響している。閣内の各大臣は顧問を原則2人採用でき、首相の採用する顧問数に制限はない。

イギリスの給与体系は、エージェンシーはいうまでもなく業績給であり、上級公務員についても内閣が評価する業績給である。給与の決定を各省庁が行うのではなく、内閣が行っているのがポイントである。

以上のことをまとめると、アメリカは政治任用を中心にしており、ドイツ、フランスも政治任用だが、その候補は職業公務員が中心になっている。そして、イギリスはアメリカと独仏の両者を折衷したような形になっているといえる。

 

多様化する事務次官の出身母体

ニュージーランドとオーストラリアでは、NPM(New Public Management)が導入されており、様々な改革が行われている。NPMとは、民間企業の経営手法を政府部門に導入して、効率化を図ろうとするものである。

ニュージーランドの改革は2つあり、その目玉はCE(Chief Executive)制度の導入である。各省のトップを人事権者と位置づけ、CEとして公募採用する。任期は5年である。もう1つは「上級管理職(SES)」の導入だったが、当時は急進的で競争が激化したため、廃止された。

オーストラリアの場合は、事務次官について非公募ながら任期制を入れ、さらに上級管理職制度も導入した。各省の事務次官は内閣が候補者を選び、首相が勧告し、国家元首の代理である総督が任命するという形をとっている。この改革によってオーストラリアの事務次官の出身母体は大きく変化した。具体的には、省庁からの持ち上がりが50%から20%に低下し、他の省庁からの登用が20%から60%に増加したのである。

給与体系についてもすべて各省の事務次官に任されている。各省の事務次官には政府からミッションが与えられており、それを達成するために各省が最もよい仕組みづくりを行っているのである。

 

制度改革の焦点は上級公務員

これらのことから、先進国の公務員改革の焦点は中央省庁の幹部層に当てられていることがわかる。それ以下の公務員はほとんど対象になっていない。能力給・業績給についても、その対象となるのは中央省庁の公務員の数%以内である。

さらに、公務員の中立性を守りながらも、政治主導も強化するというバランスが重要である。現在の日本の制度では、公務員の中立性があまりに強く、各省庁の強固な縦割り主義ができ上がっている。これをどのように崩していくかが、今後の公務員制度改革のポイントである。

 

最後に

アメリカは政治任用が強く、ドイツ、フランスは職業公務員のみの政治任用、イギリスは両者の折衷。ニュージーランドやオーストラリアは、NPMを導入して効率的な公務員組織をつくっている。中立性と政治主導を保つために、トップ層を厳しく評価しよう

次回は、脱藩官僚の活用と法案作成能力が鍵 「日の丸官僚」の育成手段についてまとめる。

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