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ピーター・ディアマンディス 「人類の次なる飛躍」

「宇宙を探査し続けることは人類の倫理的要請である」とピーター・ディアマンディスは語る。同時に、賞の発見プロセスやルールを研究することで、イノベーションを起こしやすくすることができると言う。ここでは30万ビューを超えるピーター・ディアマンディスのTEDでの講演を和訳し、発想の大胆さと賞の有効性について考える。

要約

宇宙を探査し続けることは人類の倫理的要請であるとピーター・ディアマンディスは言います。そしてX PRIZEやその他のインセンティブによってそれを行う方法を語っています。

Peter Diamandis runs the X Prize Foundation, which offers large cash incentive prizes to inventors who can solve grand challenges like space flight, low-cost mobile medical diagnostics and oil spill cleanup. He is the chair of Singularity University, which teaches executives and grad students about exponentially growing technologies.

 

1 惑星の予備を持てるようになる

宇宙を開拓することは、倫理的要請であると私は思っている。惑星の予備を持てるようになる、初めての機会が得られるからだ。生物圏をバックアップする機会である。宇宙を考えるとき、私たちが地球上で価値を見出しているもの、金属や鉱物や土地やエネルギーが宇宙には無尽蔵にある。地球は資源に満ちたスーパーマーケットの中のパンくずみたいなものである。

かつてのアラスカと同じであり、アメリカはアラスカを買った。1850年代のことで、当時はスワードの愚行などと言われた。アラスカの価値はどれだけアザラシの毛皮が手に入るかで計算された。しかしその後様々なものが見つかった。金、石油、魚、木材など兆ドル規模の経済になった。新婚旅行先にもなっている。同じことが宇宙でも起きるだろう。我々は人類史上最大の大航海時代を迎えようとしている。

 

2 恐怖、好奇心、欲が私たちを突き動かす

宇宙探査する理由は3つある。一番小さいのが好奇心だ。これまでNASAの予算を支えてきたものである。これは1997年に火星から送られてきた画像である。今後10年以内に間違いなく火星の土壌中や至る所で生命が発見されることでしょう(11/6現在はまだ見つかっていない)。

もっと強い動機になるのは恐怖だ。これは私たちを月へと駆り立てたものだった。文字通り恐怖によってアメリカはソ連と競い月へと向かったのだ。宇宙には数キロの大きさの岩が無数に漂っていて、確率は小さいもののその1つが地球に衝突したなら、その衝撃たるや巨大なものである。だから観察し、探査し、備えることに多少のお金をかけるのは十分理にかなっている。

そして3つ目の動機は、起業家である私が惹かれるものだがだ。それもすごく大きな小惑星には、鉄やニッケルの塊があり、岩を1つ発掘して持ち帰れたなら、白金属元素の市場価値だけで20兆ドル規模になる。私のプランは希少金属市場でプットオプション(ある商品を決められた特定の価格で売る権利)を買い、採掘してくると宣言するというものである。それがミッションを行うための資金源になる。恐怖、好奇心、欲が私たちを突き動かすのである。

私自身には、右のちびの方(写真)だが、アポロ計画が動機になった。アポロ計画ほど大きな動機づけはない。何があったのでしょう?1961年5月25日、ジョン・F・ケネディが「我々は月に行く」と言ったのだ。するとみんな職を捨てて辺ぴな場所に集まり、このものすごいミッションに参加したのだ。宇宙に行くことについては何もわかっていなかった。何もないところから始めてアラン・シェパードが弾道飛行をし、人類が月にたどり着くまで8年である。参加した人たちの平均年齢は26歳だった。何が不可能かさえわからず、すべてを作り上げる必要があった。そしてそれはものすごい動機づけになったのである。私の有人のユージン・サーナンは月面着陸した最後の人間だが、こう言っている。「月に行けるのであれば、不可能なことなど何もない」。

そのようなことをするのは政府だと私たちはずっと思ってきた。しかしあえて言うが、宇宙へ連れて行ってくれるのは政府ではない。政府には宇宙開拓のようなリスクを負うことができないからだ。スペースシャトルの打ち上げコストは、1回10億ドル。絶望的で理不尽に大きな数字である。このようなことを甘受すべきではない。私たちがアンサリX PRIZEで取り入れたのは、リスクをとるのはかまわないということだ。宇宙という新たなフロンティアへと乗り出すためには、リスクを許容する必要がある。リスクを冒すべきではないという人たちを、横にのけておく必要がある。私たちの目の前には、かつてない大きな発見が待っているからだ。宇宙ビジネスの起業家をほ乳類とするならば、軍産複合体やボーイングやロッキードやNASAは恐竜なのだ。

宇宙にあるリソースにアクセスできれば、惑星規模の冗長性(余裕)が得られる。遺伝情報をはじめとするあらゆる情報を集めて、データベースに収め、地球外にバックアップして破滅的な災害に備えるのだ。そこへ至る中で大きな困難は、地球軌道に乗せるコストにある。軌道に乗せることさえできれば2/3は達成したようなものである。月に行くにしろ火星に行くにしろ、現在そのための乗り物は3種類しかない。米国のスペースシャトル、ロシアのソユーズ、それに中国のもの。スペースシャトルでは1人あたり1億ドルかかる。私の始めたスペース・アドベンチャーズではチケットを売っているが、これまでに2枚売れた。さらに2枚、ソユーズで宇宙ステーションに行くチケットを、2千万ドルで売り出す。しかしこれは高価であり、宇宙の可能性を考えるなら…(笑)たしかに高い、でも喜んで買う人もいる。私たちは今とてもおもしろい時代に生きている。個人の手に十分な富が集積され、利用可能な技術を使ってポケットマネーで宇宙探査ができるのである。しかしこれはどこまで安くできるのでしょう。目標地点を出したいと思う。

今はチケットが2千万ドルするが、これはどこまで安くできるのだろうか。ちょっと物理の復習をする。位置エネルギーはmgh。人間と宇宙服を高度200キロまで運び、時速2万6千キロまで加速する。運動エネルギーは1/2mv^2なので、計算すると5.7ギガジュールになる。それを1時間でやるとすると1.6メガワットである。電力は安いところでは7セント/kWhで売られているので…計算が得意な人?人間と宇宙服を軌道に乗せるのにいくらかかるかというと、100ドルである。価格下落のグラフを描くなら、どこかで物理学上の発見が必要になるだろう。その願いを叶えよう(笑)。

歴史が教えてくれるのは、想像することができるならそれは実現できるということである。物理学や工学は、私たちみんなに軌道周回宇宙飛行できるようにしてくれる日は遠くないと信じている。

難しい点は投資を引き寄せられる本物の市場が必要だということである。今日ボーイングやロッキードは研究開発に、自分の金を一文も使っていない。す べて政府の研究予算でわずかなものである。実のところ大企業や政府というのは、リスクをとれないものなのだ。だから宇宙で経済活動の爆発を起こしてやる必 要がある。今日の世界の商用ロケット市場はどんなものか?年に12回から15回の打ち上げが行われている。会社はいくつあるか?12から15社だ。1つの 会社が1回ずつである。これを狙っているわけではない。めざす市場は1つ「炭素質自律移動ペイロード」打ち上げである。自分のお金で乗りにくる貨物、人間だ。アンサリX PRIZEが私の答えだった。

リンドバーグについて読んでいて見つけた、そこへ至る乗り物を作るための方法である。3人を乗せ100キロの高度まで行って戻り、2週間以内にそれを繰り返すことのできた最初の再利用可能な宇宙船に、賞金1千万ドルを提示した。7カ国から26チームがこのコンペに参加し、それぞれが百万から2千5百万ドルを投じた。そして2回の飛行を成功させ、勝利を勝ち取ったのが我らがSpaceShipOneである。皆さんをその日の朝にお連れしましょう(映像)。

た ぶん一番難しかったのは資金を募ることで、文字通り不可能に思えた。私は100人200人というCEOやCMOに会った。誰も信じない、みんな言うことは 「NASAはどう思うんだろうね?」「人が死ぬことになるぞ」「どうやってこんな話を進めようというんだ」。先見の明があるアンサリ家の人々やチャンプカー(自動車レース)がスポンサーになり、資金の一部は確保できたが1千万ドル全部ではない。私が結局やることになったのは、保険業界に出向いて賞に保険をかけると いうことだった。保険会社がボーイングやロッキードに行って、「コンペに参加するか?」と聞くと「いいや」「だれも達成できやしないよ」という返事だ。そ れで彼らは2005年1月まで誰も達成できないという方に賭け、私の方は誰かが達成するという方に賭けたのだ。一番良かったのは、彼らの小切手が不渡りに ならなかったということである。私たちは多くのことを成し遂げ、大成功を収めた。私にとってことに嬉しかったのは、今やSpaceShipOneが航空宇 宙博物館で、スピリット・オブ・セントルイスやライトフライヤーとともに吊るされていることだ。

未来を少し先取りして、今日でもできることを教えましょう。皆さんは無重力状態を体験できる。2008年までにヴァージン・ギャラクティック社による弾道飛行の値段は20万ドルに なるだろう。この値段を下げようという本格的な努力が3、4ヵ所で行われている。弾道飛行は2万5千ドルくらいになるだろう。軌道飛行では皆さんをスペー スステーションへと連れて行く。そして起きるだろうことは一度地球周回軌道に乗ったなら、燃料を軌道上に備蓄してそこから月に直行し、土地を少しばかり確 保するということである。

この場にいる設計者の方たちのために一言、無重力飛行にFAAの認可をとるのには11年かかった(画像)。セブンアップがコマーシャルを作って、今月流している(映像)。これはうちの飛行機内で撮影された。皆さんもできるのだ。フロリダでやっている。

 

3 「賞」という高効率なスタートアップ

私が夢中になっている別のものを紹介する。未来の賞である。賞とは古くからあるアイデアだ。経度法やリンドバーグを後押ししたオルティーグ賞からアイデアを拝借している。X PRIZE財団ではこのコンセプトを別の技術領域でも進めることにして、新しいミッションステートメントを掲げた。「人類に貢献するために宇宙やその他の技術領域に革新をもたらすこと」これには本当にワクワクしている。このスライドは最近取締役会に加わったラリー・ペイジに見せたものだ(画像)。非営利組織に寄付したら、1ドルに対し50セント程度、マッチングギフトなら通常1に対して2から3、賞を設けたら1に対して50のレバレッジが得られる。それほど大きい。そしてらペイジが振り向いて言った。「じゃあ賞を主催する組織に出資して10個の賞を設けたら、1に対して500になるね」。私は「そりゃいい」と。それで私たちは実際、X PRIZEを世界的な賞を主催する組織にしようと取り組んでいる。

これは賞を設けたとき何が起きるかを示している。告知して様々なチームが挑戦し始める。知名度が上がっていき、受賞者が決まったとき知名度がグッと上がる。適切に管理されたなら、これはスポンサーに大きな利点になる。そして受賞に伴って出てくる社会的利点がある。新しい技術に新しい能力、スポンサーにとっての利点は知名度と長期の社会的利点を合わせたものになる。これが私たちが賞で提案する価値である。SpaceShipOneのような新技術を直接生み出そうとするなら、不確かな結果に対して最初から出資し、資金を提供し続ける必要がある。成功するかしないかわからないにもかかわらずだ。賞を設けるのが素晴らしいのは、維持費をとても小さくできて、成功したときに払えばよいということである。オルティーグは大西洋横断に挑戦しようという9つのチームに一銭も払っていない。私たちもアンサリX PRIZEを誰かが獲得するまで一銭も払わなかった。だから賞はとてもうまく機能するのだ。

イノベーターや世の起業家たちがゴールに向かっているとき、最初にすべきことは自分は成し遂げられると信じることである。それから人々の嘲笑に遭うかもしれない。「バカなアイデアだ」「うまくいくわけがない」。それから人々を説得して、資金集めを助けてもらう必要がある。前に進むことを望まない政府や組織の官僚主義を相手にやり合う必要がある。そしてまた失敗に対処する必要もある。賞を設けることで私たちが体験したのは、これらすべての問題に対して近道やサポートが得られるということである。賞はアイデアの良さにお墨付きを与える。いいアイデアに違いないと。何しろそのために1千万ドル出すという人がいるわけだから。アンサリX PRIZEを通してこれらの問題すべてに対し、イノベーションの近道をする助けが得られた。

私たちは組織としてどうやって賞を考え出すかという賞の発見プロセスをまとめ、ルールを作った。そして様々なカテゴリで賞を設けようとしている。エネルギー問題や環境問題やナノテクノロジーに挑もうとしている。そのための方法はX PRIZE内にチームを作るということだ。宇宙賞チームがある。軌道飛行の賞を追求している。いろいろなエネルギー賞を検討している。クレイグ・ヴェンターが取締役会に加わり、高速遺伝子解析賞を準備している。この秋に発表する予定だ。誰でもDNA解析を千ドル以下で受けられるようになることを想像してみてください。医療に革命をもたらすでしょう。きれいな水、教育、医療、それに社会起業まで視野に入れている。

最後のスライド(画像)。人類の大きな難問を解決する最も重要な道具は、テクノロジーでもお金でもありません。それはただ1つのもの。情熱を持って打ち込む人間の精神なのだ。

 

最後に

ピーターの講演を聞いて、筆者が感じたことは以下の3つである。

第一に、発想が大胆である。「惑星の予備を持てる」とか「生物圏をバックアップする」といった発想は、筆者にはまったくなかった。「アラスカの価値はどれだけアザラシの毛皮が手に入るかで計算された」が、様々な資源が見つかるにつれて兆規模の経済になったということも知らなかった。歴史に対する圧倒的な知識の差を感じた。

第二に、人間の感情について理解がある。「恐怖、好奇心、欲が私たちを突き動かす」で述べているように、人間がどういうときに行動に移すか(移してきたか)について、端的に指摘している。

第三に、自分の価値観がわかるということだ。筆者の場合「惑星の予備を持つ」という考え方にはそれほど興味がわかなかったが、賞の発見プロセスやルールにはとても興味がわいた。関係者がみな豊かになるようなしくみづくりは、単純にすごいと感じたからだ。成功報酬型の賞を作成することで、起業家にとっては知名度と資金が、スポンサーにとっては知名度とその知名度を持つ優秀な起業家たちと関係を持つことができる。ビジネスモデルとして、GREEリブセンスもこういった面を活用しているのだろう。ピーターは2008年にも「ゼロGのスティーブン・ホーキング博士」で講演している。宇宙に興味がある方は観てみてほしい。

TED映像に日本語字幕を入れてくれたYasushi Aoki氏、レビューをしたTakafusa Kitazume氏に感謝する。

楽観主義者の未来予測(上): テクノロジーの爆発的進化が世界を豊かにする


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