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クリスティーナ・ワーリナー 歯垢をもとに古代の病気を探る

「歯垢に何が含まれているか考えたことがありますか?古代DNAを研究する私はそういうことを考えます」ワーリナーは語りかける。ここでは、50万ビューを超える Christina Warinner のTED講演を訳し、化石化した歯垢中の微生物のDNAから見える古代の病気について理解する。

要約

疾患の歴史をヒト科の祖先から現代人にわたって調査することで学べることは多くあります。でもどうやって調査するのか? 古代DNAを研究するTEDフェローのクリスティーナ・ワーリナーが、化石化した歯垢中の微生物のDNAという意表をつく新しい調査対象を紹介します。

Christina Warinner is a researcher at the University of Zurich, where she studies how humans have co-evolved with environments, diets and disease.

 

1 歯垢に何が含まれているか考えたことがありますか?

歯垢に何が含まれているか 考えたことがありますか?ないでしょう? でも古代DNAを研究する私は そういうことを考えます。私はチューリッヒ大学の 進化医学センターで ヒトの「健康と病気」の「起源と進化」を 古代のヒトの骨とミイラの 遺伝子をもとに研究しています。これにより 人体の進化における 脆弱性の理解を深め 私たちの健康とその管理を 向上できたらと思っています。進化医学のアプローチには様々な方法があります。その1つは古代の骨から ヒトのDNAを抽出することです。そしてこの抽出物から 異なる時代の人間のゲノムを再現し 適応・リスク要因・遺伝性疾患などに 関連し得る変化を探すことができます。でもこれらが全てではありません。

 

2 現代人が暮らしている環境はヒトの体が進化した環境とは全く違う

現代の最も深刻な健康問題は ゲノムの単純な突然変異によるものではなく むしろ遺伝的差異・食生活・微生物および寄生虫 そして免疫反応などの 複雑で変動する 相互作用から生じています。これらの疾患に必ず見られる 大きな進化的要素に 直接関係するのは 現代人が暮らしている環境は ヒトの体が進化した環境とは全く違うことです。これらの疾患を理解するためには 古代のヒトゲノムの研究だけでなく 古代人類の健康に対する より包括的なアプローチが必要です。

 

3 骨やミイラや糞石には限界がある

でもこれには多くの問題があります。まず 一体何を研究するのか? 骨はあちこちで発掘され どこにでもあります。でも当然 軟組織は全てなくなっていて 骨格自体から得られる 健康の情報は限られています。ミイラは素晴らしい情報源ですが 地理的に非常に限定されていて 時代的にも限られてきます。人間の排泄物の化石である糞石は 実は非常に興味深く 古代の食生活と腸の病気について多くを学べます。でもめったに発掘されません(笑)

 

4 歯石はネアンデルタール人や動物からも見つかる

そこで この問題に取り組むため 国際的な研究者のチームを スイス・デンマーク・英国で組み ほとんど研究されず知られていない でも世界中の人々から採集できる物質を 研究することにしました。石灰化した歯垢で 正式には歯石と呼ばれます。「タータ」とも呼ばれます。歯医者に行くと 歯から削り取ってくれるものです。通常1回の歯石取りで 約15~30ミリグラムが除去されます。でも歯磨きがされていなかった古代では 生涯で最大600ミリグラムもの歯石が 蓄積することがありました。ここで非常に重要なのは 歯石は他の骨格と同様に化石化するので 古代の歯石も豊富にあり 世界中で見られるということです。数万年遡ったどの時代の世界中のあらゆる人種から 歯石を見つけることができます。ネアンデルタール人や動物からも見つかります

 

5 遺伝子工学やプロテオミクス技術を応用した

これまでの研究では 顕微鏡観察のみが行われていました。顕微鏡下で歯石を調べた結果 確認されているのは花粉や 植物性デンプン 動物の肉にある筋細胞や 細菌です。ですから私の研究者チームが目指したのは 遺伝子工学および プロテオミクス技術を応用して DNAやタンパク質を調べ これをもとに分類状況を改善し実態の理解を 深められるか試すことでした。

 

6 歯垢は多くの深刻な疾患が発症する肺へアクセスできる

そして分かったのは 鼻腔や口に生息する多くの 片利共生的な病原菌が見られるということでした。感染症や炎症に関連する免疫タンパク質や 食生活に関連する タンパク質やDNAも見つかりました。でも私たちが驚き 非常に沸き立ったのは 通常 上部呼吸器系に生息する 細菌も見つけたことでした。つまり 多くの深刻な疾患が発症する肺へ 事実上アクセスできるということです。

 

7 腸や臓器系でさえ実質的にアクセスできる

また 通常腸内に生息する 細菌も見つかり さらに離れた臓器系でさえ実質的に アクセスできるようになりました。とうの昔に分解され 骨格のみでは 分からない臓器系です。古代の歯石に古代のDNA配列と タンパク質の質量分析技術を 適用することにより 莫大な量のデータが生成でき 何千年も前の食生活と 感染症や免疫の間にあった 変動的な相互作用の詳細な状況を 再現し始めることができるのです。

 

8 家に帰って歯を磨くときもう一度考え直してください

1つのアイデアだったのが 今では膨大な配列データ生成のため 実施されているところです。このデータをもとに ヒトの健康と病気の長期的進化の歴史を 個々の病原体の遺伝子コードのレベルで調査し この情報から 病原体がどのように進化するか 人はなぜ病気になり続けるのか学ぶことができます。皆さん歯石の価値について 分かっていただけたでしょうか。締めくくりとして 将来の考古学者に代わってお願いします。家に帰って歯を磨くとき もう一度考え直してください(拍手)ありがとう(拍手)

 

最後に

歯垢は多くの深刻な疾患が発症する肺や腸、そして臓器系にもアクセスできる。そのデータをもとに、人はなぜ病気になり続けるのか学ぶことができる。石灰化した歯垢、歯石の価値の物語

和訳してくださった Sawa Horibe 氏、レビューしてくださった Takafusa Kitazume 氏に感謝する(2012年2月)。

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