「プラスチックを生分解するバクテリアは身近なところにありました」2人の若き科学者は語りかける。ここでは、85万ビューを超える Miranda Wang と Jeanny Yao のTED講演を訳し、ミスでさえ発見を生み出しうる実例について理解する。
要約
プラスチックは、ひとたび作られると(ほぼ)なくなることはありません。高校3年のとき、ミランダ・ワンとジニー・ヤオは新しいバクテリアを探す旅に出ます。プラスチックを生分解する、正確には、有害な可塑剤であるフタル酸エステル類を分解するバクテリアです。2人が見つけた答えは、ビックリするくらい身近なところにありました。
Miranda Wang and Jeanny Yao have identified a new bacteria that breaks down nasty compounds called phthalates, common to flexible plastics and linked to health problems. And they’re still teenagers.
1 今日はアクシデントについてお話しします
今日は アクシデントについてお話しします。アクシデントについて どう思いますか? アクシデントと聞いて 思い浮かべるのはたいてい 有害とか 不運とか 危険なことです。確かに そういう場合もあります。でも 悪いことばかりでしょうか? 例えば ペニシリンにつながる発見は 今までで最高のアクシデントによるものです。生物学者 アレクサンダー・フレミングがずさんな実験をして カビを生やしてしまうアクシデントがなければ これだけ多くの細菌感染症に私たちは対抗できていないでしょう。
2 ゴミの集積所ではプラスチックの分別は難しい
今日 ミランダと私はここで 私たちのアクシデントがどう発見に結びついたか お話ししたいと思います。2011年 私たちはバンクーバーのゴミ処理場に行き 大量のプラスチック廃棄物を目の当たりにしました。そこで気づいたのはゴミの集積所では プラスチックの分別は難しいということです。みんな同じような密度で 有機ゴミや建築廃材と混ざろうものなら プラスチックだけ取り出して 環境に優しい形で処理するのは本当に不可能になります。
3 プラスチックは便利だが、深刻な問題を引き起こす
プラスチックは便利です。耐久性や柔軟性があり 様々な形に成型して使うことができます。でも この便利さの裏返しとして 高い犠牲を払わないといけません。プラスチックは深刻な問題を引き起こします。例えば 生態系の破壊 天然資源の汚染 そして 処理にも場所を取ります。この写真は 太平洋ゴミベルトです。プラスチックによる汚染や 海洋環境を考えるとき このゴミベルトを思い浮かべます。プラスチックのゴミからなる浮島のようなものです。でも それはもはや海洋環境における― プラスチック汚染の実態を正しく表わさなくなっています。今 海全体がプラスチック廃棄物のスープの状態で 海のどこを探しても プラスチックの破片がないところなんてありません。
4 バクテリアで分解する方法を見つけよう
プラスチック依存社会において プラスチックの減産は良い目標ですが十分ではありません。だって すでに作られたプラスチック廃棄物はそのままでしょう? プラスチックの生分解には何百年 何千年とかかります。そこで 私たちは考えました。ただ ゴミがたまって積みあがるのを見ているのではなくて 分解する方法を見つけよう。バクテリアでです クールでしょ?(会場から「イエス」)ありがとう。でも 問題がありました。プラスチックは とても複雑な構造をしていて 生分解は難しいんです。でも 好奇心と希望にあふれていた私たちは それでも やってみたいと思いました。
5 フタル酸エステル類が怖いのは簡単に体に取り込まれてしまうから
このアイデアをもとに ジニーと私は ネット上にある何百という科学論文を読み 研究計画書をまとめました。高校3年の初めのことです。考えたのは 地元のフレーザー川でフタル酸エステル類と言われる― 有害な可塑剤を分解できるバクテリアを見つけることです。フタル酸エステル類は一般的なプラスチック製品に 柔軟性 耐性 透明性を向上させる添加剤として使われています。それは プラスチックの一部ですが プラスチックの構造自体とは共有結合していないので 簡単に 外の環境に流れ出てしまうのです。フタル酸エステル類は環境を汚染するだけでなく 私たちの体まで汚染してしまいます。さらに悪いことにフタル酸エステル類は 私たちがよく使う物に使われています。例えば 赤ちゃんのおもちゃ 飲料容器 化粧品食品用ラップフィルムにもです。フタル酸エステル類が怖いのは 簡単に体に取り込まれてしまうからです。肌と触れたり 口にしたり吸い込むだけで 体に吸収されてしまいます。
6 フタル酸エステル類を分解できるよう進化しているバクテリアがいるのではないか
毎年 21万トン以上のフタル酸エステル類が 私たちの空気 水 土を汚染しています。環境保護庁は フタル酸エステル類を最優先取組み汚染物質としています。ガンや出生異常を引き起こすとされるからです。ホルモンかく乱物質として作用するのです。毎年 バンクーバー市は 河川でのフタル酸エステル類の汚染レベルを監視し 安全性を評価しています。それで思いました。フレーザー川沿いで フタル酸エステル類に汚染されている場所で 生きているバクテリアがあるとすれば たぶん ひょっとしたらそのバクテリアは フタル酸エステル類を 分解できるよう進化しているのではないか。
7 ゴミ集積場に行って…アクシデントと発見の旅が始まった
私たちは この素敵なアイデアを ブリティッシュコロンビア大のリンズィー・エルティス博士に提案しました。すると驚くことに博士の研究室で受け入れてくれ 院生のアダムとジェームズをサポートにあててくれました。当時は夢にも思っていませんでした。ゴミ集積場に行ってインターネットで調査をして 思い切って ヒラメキをもとに行動したら 人生を変えるような― アクシデントと発見の旅が始まるなんて。
8 フタル酸エステル類が唯一の炭素源となるよう集積培養を行った
プロジェクトの最初のステップとして フレーザー川沿いの3つの場所から 土のサンプル採取をしました。何千もいるバクテリアの中からフタル酸エステル類を― 分解できるものを見つけるため フタル酸エステル類が唯一の炭素源となるよう 集積培養を行いました。つまり この培養物に何かが増殖すれば それはフタル酸エステル類を食べて生きていることになる。万事うまく行き 私たちは素晴らしい科学者になりましたとさ(笑)
9 汚染レベルが全く違う場所からバクテリアを取って分解能力を比べればいいんじゃないか
あー ジニー冗談よ。そう あれは私の失敗でもありました。フラスコをうっかり割ってしまったんです。3つ目の集積培養物が入っていました。それで 培養室を隅々まで拭くはめに。漂白とエタノールで2回も。しかも これは私たちの実験で起こった― 数々のアクシデントの一つに過ぎません。でも このミスが予期せぬ発見を導きます。無事に残った培養物は 汚染レベルが正反対の所からのものだったので このミスのお蔭で こう思い至ったんです。汚染レベルが全く違う場所から バクテリアを取って 分解能力を比べればいいんじゃないか。
10 バクテリアがフタル酸エステル類を食べている
バクテリアは育てたので これを培地上に画線培養をして菌株を単離することにしました。これなら安全で アクシデントも起こりにくいと思ったから。でも また間違っていました。培地に画線を引いているとき寒天に穴をあけて いくつかのサンプルと菌を汚染してしまいました。それで 何度も培地に画線を引き直すはめになりました。フタル酸エステル類の利用と バクテリアの増殖を観察し 両者には逆相関関係があると気づきました。バクテリアが増えれば フタル酸エステル類の濃度は減少する。つまり このバクテリアがフタル酸エステル類を食べているのです。
11 最も効率的な3つの菌株で遺伝子を増幅して配列を解析した
フタル酸エステル類を分解するバクテリアを発見して このバクテリアが何か気になりました。ジニーと私は 最も効率的な3つの菌株で 遺伝子を増幅して配列を解析し そして そのデータをオンラインの総合データベースで照合。嬉しいことに 3つの菌株は すでに発見されていたものの うち2つは これまでフタル酸エステル類分解とは 関係づけられていなかったので新しい発見をしたことになりました。
12 3つの菌の異化経路を検証した
この生分解がどう作用するのか良く理解するため この3つの菌の異化経路を検証する必要がありました。そのために バクテリアから酵素を抽出し フタル酸の中間体と反応させました。光度分析法で この実験を観察し 得られたのが この美しいグラフです。このグラフによれば私たちのバクテリアには 遺伝的に フタル酸エステル類を生分解する経路があり 有害な毒であるフタル酸エステル類を 分解して 二酸化炭素や水アルコールなどの― 最終生成物にできます。
13 自然淘汰によって自然は進化する
こう思っている方もいるでしょう。二酸化炭素なんて最悪だ。温暖化ガスじゃないかって。でも このバクテリアがフタル酸エステル類を生分解しなくても 他の炭素源を使って 好気呼吸をするので どっちみち 二酸化炭素などの最終生成物を生み出します。面白いことには 生分解力を持つバクテリアの種類は 鳥類生息地でより多く見つかりましたが 埋立地のバクテリアの生分解力が最も効率的でした。だから 自然淘汰によって 自然は進化するんです。
14 地元の川に行って地元の問題を解決する方法を探したのは私たちが初めて
ミランダと私は この研究を サノフィ・バイオジニアス・チャレンジ・カナダに出し 商業化可能性が最も高いと評価されました。フタル酸エステル類を分解するバクテリアを初めて発見したわけではありません。でも 地元の川に行って地元の問題を解決する方法を 探したのは 私たちが初めてです。私たちが示したのは バクテリアが プラスチック汚染の解決策になりうることだけでなく 不確実なことを受け入れ、リスクを取ることによって 予期せぬ発見の機会を生み出せるということです。
15 近い将来モデル生物を作りたい
この旅を通して 私たちは科学への熱い思いを確認し 今も 大学で 他の化石燃料の化学物質について研究を続けています。近い将来 モデル生物を作りたいと思っています。フタル酸エステル類だけでなく たくさんの汚染物質を分解できる生物です。これを汚水処理場で利用して 私たちの川をきれいにしたり 他の天然資源をきれいにしたり したいです。きっと いつか 私たちは プラスチック廃棄物そのものの問題を解決できるでしょう。
16 ミスでさえ発見を生み出しうる
この旅によって私たちの微生物への見方は 本当に変わりました。ジニーと私が示したのは ミスでさえ 発見を生み出しうること。アインシュタインによれば 「問題を生み出した時と同じやり方で 考えている限り 問題は解けない」のです。合成によってプラスチックを作っているとしたら 解決策は 生化学的にそれを分解することでしょう。ありがとうございました(拍手)
最後に
「問題を生み出した時と同じやり方で考えている限り問題は解けない」(アインシュタイン)。試行錯誤しよう。
和訳してくださった Yuko Yoshida 氏、レビューしてくださった Akiko Hicks 氏に感謝する(2013年7月)。