politician-and-bureaucrat

革新を起こす政治家と継続性の番人の官僚 政治主導と官僚主導

前回は、議員立法のモデルケースで地域主権の先駆け NPO法ができるまでについてまとめた。ここでは、革新を起こす政治家と継続性の番人の官僚 政治主導と官僚主導について解説する。

官僚主導のはじまり

官僚主導から政治主導の実現というテーマは、戦後間もない頃からうたわれていた。中曽根改革や橋本行革、そして国家公務員制度改革と流れは続いている。しかし、高度成長期のように経済が好調で社会がうまく機能していたため制度変更をする積極的理由が見当たらず、そのまま官僚の権益が拡大して既得権益化していった。

 

日本の官僚制のルーツ

日本の官僚制のルーツは、官制・官位が体系的に整備された律令制、さらにはそれ以前に続いていた冠位制にまで遡ることができる。2001年の中央省庁等再編で大蔵省が財務省に改称されたが、当時の大蔵官僚は必死で抵抗した。大蔵省は大宝律令の官制で規定された8省の1つで、約120年間使われた中央省庁の中で最も伝統のある名前だったからだ。

明治時代に入ると、欧米にならって統治制度の近代化が図られた。しかし、内閣を筆頭とする行政府は天皇の行政権を輔弼・執行し、立法府は天皇の立法権を協力・同意する機関にすぎなかった。戦後、国民主権のもと三権がそれぞれの機関に属する仕組みに変更されたが、大日本帝国憲法以前から続いてきた慣習などがいまだ残っているのだ。

 

官僚のチカラの源

官僚主導の源泉は3つある。①予算編成、②法律の企画・立案、③法律上の行政命令や法規の性質を持たない行政規則である。③は法律そのものが制定された後につくられる、具体的なルールや運用方法などを細かく定めたもののことである。具体的には、政令、府令・省令、規則・庁令、告示、通達である。官僚の本来の仕事は政策の執行や行政事務が中心だが、現状は8-9割は官僚が法律案をつくっている。

 

政官業の癒着はなぜ起きたか

政官業の癒着(鉄のトライアングル)とは、政治家と官僚と業界団体が一体化することである。業界団体は自己利益のために政治家(特に与党の族議員)に働きかける一方、政治献金や集票を行う。政治家は人事面で行政への影響力を持ち、政策立案・立法を官僚に委ねつつ重要な局面で政治力を行使してきた。官僚たちは政策調整や国会審議の膳立てをしたり、業界団体へは許認可権や補助金の配分を通して天下りポストを確保してきたのである。

 

ボトムアップ方式の限界

バブル崩壊以後、税収が減り、再配分する余力がなくなった。予算を確保するためには政策の優先順位をつける必要がある。本来、そこを調整するのは内閣、つまり総理大臣と閣僚たちである。閣僚たちは所管大臣として省庁の主張を代弁する側に立ちがちなため、総理大臣と財務大臣の調整力が求められているのである。

 

そもそも官僚とは

そもそも官僚は「継続性の番人」といえる。法治国家として社会秩序を維持するには、合理的な管理・支配のシステムが必要である。行政府は内閣を頂点にヒエラルキー(階層秩序)に基づいたピラミッド型組織で、定められた規則に基づいた正当な権威として合理的かつ機能的に動く。継続性や一貫性が保たれる反面、規則や命令をかたくなに重視する形式主義や事なかれ主義が横行するのである。

 

政治家と官僚のあるべき関係

政治家と官僚のあるべき関係は、革新を起こす政治家と、継続性の番人である官僚の役割分担をして、緊張感を持ちながらよりよい方向へ変革・変化していくのが望ましい。政治主導とは、内閣、特にその首長たる総理大臣が政府機関全体をガバナンスできる体制を整えるとともに、政権の運営力を高めていくことが重要である。

リーダーシップを発揮して政権運営を行うためには、人事権組織編制権の行使が重要となる。しかし、日本の内閣には組織編制権がなく、各省の「設置法」を改正する必要がある。そのため、現時点では閣僚たちの「任免権」といった人事権の行使や、各省を所管する政務三役をなるべく長くとどまるようにすることが基本となる。

 

行政命令・行政規則とは

国の法令は大きく以下の4層構造になっている。①憲法(日本の最高法規)、②法律(国会が制定)、③命令(法規)、④行政規則(法規の性質を持たない)である。行政命令・行政規則はこのうちの③と④のことである。行政命令は効力の強い順に、まずは内閣が制定する政令(閣議決定、天皇公布)がある。次に内閣府令(総理大臣)と省令(各省大臣)、規則・庁令(府省以外の行政機関)と続く(学校の階段の踊り場、理髪店、酒税、電気料金 日常生活の規制参照)。

その性質は以下の2つに分けられる。1つは上位の法律などを執行する上で必要な細則、解説などについて定めた「執行命令」(法施行令・施行規則)で、もう1つは法律が立法権を行政機関に委任したことにより定められる「委任命令」(-は別に定める)である。

行政規則は、必要な事項について公示する「告示」、所掌事務に関する見解・法令解釈・運用指針などを示達する「通達」などがある。こうした規則がある理由は、法律を改正するのには時間がかかるため、現実的でないからである。各種業界にある希世の多くは、法律よりも「省令」や、文書で業界団体や経済団体などに配布する「通達」といったかたちで実施されているのが実情である。

 

行政命令・行政規則の問題点

行政命令・行政規則の問題点は、行政による判断余地が生じることである。法律を変えなくても運用レベルでルール変更もできてしまうため、官僚が恣意的に判断することができるのだ。官僚は所管する分野の許認可権や行政指導、そして行政処分などを行う権限を握っており、そうした権限を拡大させることで業界への天下りなどの影響力を誇示してしまうことも多い。

許認可権と行政指導は官僚の隠れた権力である。許認可とは、公正な経済的活動の確保や国民の権利保護、生活上の安全確保などを目的に、監督官庁の判断で実施する規制行為である。許認可権とは、監督官庁にある許可、認可、承認、指定、届出、登録、検査、検定、認証といった様々な規制権限のことである。

行政指導とは、監督官庁が行政手続法を根拠に、その事務の範囲内で指導、勧告、助言などを行うことをいう。行政指導には行政処分は含まれていないため、法律上、指導を受けた事業者に従う義務はない。しかし、行政処分や許認可による間接的制裁をちらつかせ、事実上の強制力をともなわせている。官僚に裁量余地のある「委任立法」を国会主導でなくしていかなければならない。

 

官僚主導のルールづくりの防止策

官僚主導のルールづくりを防止するためには、国会議員が所管官庁の言質をとることがポイントである。委員会質疑は議事録として残り、質問主意書は閣議決定を経て書面で見解が示される。多くの言質をとっておくことで、拡大解釈や解釈変更がしにくくなるのだ。また、法律で拡大解釈がしにくい条文にしたり、拡大解釈ができないよう詳細規定を盛り込んだりしていくことも有効である。

 

これからの政治家の役割

国会議員の役割には、民意を国会の場に届けるとともに、国会審議を経て議決時に成否のどちらに投じるかという決定者という側面と、民意を踏まえて政策・法律案をつくる立案者という側面がある。どちらがより重要な責務かといえば、前者である。そのためには、国会議員をサポートするスタッフや専門家などの政策ブレーンを確保し、チームで取り組んでいく必要がある。

 

議員立法のすすめ

政治主導の立法を実現するには、与党が政府提出法案と議員立法をうまく使い分ければいい。与党党首でもある総理大臣が党執行部に法案作成を指示し、党で法律案を作成すればいいのだ。特に、行政改革や公務員制度改革などのような行政の既得権に絡む問題は、議員立法で対処する必要があるだろう。

 

最後に

日本の官僚制のルーツは冠位制にまで遡ることができる。官僚の力の源泉は、①予算編成、②法律の企画・立案、③法律上の行政命令や法規の性質を持たない行政規則。行政命令・行政規則の問題点は、行政による判断余地が生じること。許認可権と行政指導は官僚の隠れた権力。官僚主導のルールづくりを防止するためには、国会議員が所管官庁の言質をとることが重要。政治主導の立法の実現のためには、与党が政府提出法案と議員立法を使い分ければいい

次回は、省内外根回し、内閣法制局、与党審査 政府提出法案ができるまでについてまとめる。

ニッポンの変え方おしえます: はじめての立法レッスン


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>