前回は、増税なし、東電解体、脱原発 復興の原理原則と3つの切り札についてまとめた。ここでは、日本の政治に国民なし 東電と日銀に見る政治主導の問題について解説する。
1 東電をめぐる官民癒着の構造
東電をめぐる官民癒着の構造は、東電と経産省原子力安全・保安院のもたれ合いである。東電が経産省から天下りを受け入れる代わりに、保安院からの規制を厳しくしないように手心を加えてもらっていたという図式である。さらに東電は、そうした状況が発覚しないように、マスコミや学会も取り込んでいた。
東電を取り巻く御用学者たち
例えば東電は、東大などの有力な大学に多額の寄付を行っている。東大で言えば、東電からの3.5億円程度の寄付講座がある。また、東電は巨額の広告宣伝費をマスコミに使っている。有価証券報告書には2007年度以降の起債がないが、それ以前は年間100億円以上も使っていた。
東電=経産省と日銀=財務省の相似
問題は、こうした関係が日本の他の分野でも見られることだ。例えば、日銀と財務省の関係も、東電と経産省と似ている。財務省の増税路線にとって、日銀の金融引き締め路線によって生じる低い名目成長は、税収が減って増税を言いやすくするのである。このように、天下りが問題なのは、監督する側がされる側に取り込まれてしまうことなのである(虜理論と天下り バランスシート思考で考える東電問題参照)。
急に脚光を浴びた原子力安全・保安院
福島第一原発の事故が起きるまで、原子力安全・保安院が脚光を浴びることはなかった。原子力安全・保安院は、法令上の位置づけでは経産省資源エネルギー庁の特別機関とされ、その主な仕事は原子力に関する規制と安全確保である。職員数は600人程度である。
また、「原子力安全委員会」という組織もある。これは、内閣府におかれた審議会であり、原子力安全確保のための規制を担当している。委員会を構成する人員は5人であるが、それを支える事務局として100人程度の職員がいる。委員は学者や技術者であり、専門性がある。また、事務局も旧科学技術庁出身者ばかりで、大学で原子力工学を専攻していた人が多い。
実態は経産省の「植民地」
しかし、原子力安全・保安院の実態は、経産省の植民地といえる。歴代の保安院のトップは事務系官僚であり、原子力の専門ではない。経産省にも技術系官僚はいるが、当初記者会見をしていた中村幸一郎氏は「炉心溶解の可能性」に言及したことで、担当を海外に飛ばされてしまった。
有名無実のダブルチェック体制
保安院と安全委員会の関係は、保安院が規制官庁であり、現実に東電の原発に対する安全指導などを行う。これに対して安全委員会は、業者を直接規制することはなく、規制官庁に内閣総理大臣を通じて勧告するだけである。
これをダブルチェック体制というが、専門性のある原子力安全委員会が規制当局になっておらず、世界的に見ればかなり奇異な安全管理体制である。
なぜ国際協力銀行を分離・独立したのか
天下りについて、国際協力銀行の分離・独立にも疑問が残る。2008年秋の政府系金融機関改革で日本政策金融公庫に統合された国際協力銀行(JBIC)を、政府が全額株式所有する形で独立させるというものである。政府が株式を所有している時点で「官業」となるが、それはすなわち財務省の天下り先が増えるということである。
2 日銀はこの震災で変わったか
日銀は震災直後に何をしたのか
震災後の3月18日、白川方明総裁(当時)は、野田佳彦財務相(当時)とともに防災服に身を包んで会見し、「日銀としては強力な金融緩和を推進するとともに、金融市場の安定を確保するために、今後とも潤沢な資金供給を行っていく方針」と述べた。
しかし、実際に行ったのは当座預金残高20兆円強の増加で、バランスシートで20%程度の増加でしかない。リーマンショック後、世界各国が中央銀行のバランスシートを2〜3倍にしたのに比べると、強力な金融緩和と胸を張ることはできないだろう。
需給ギャップが拡大している可能性も
内閣府が発表した1-3月期のGDPギャップは、マイナス3.9%、20兆円程度と、供給とともに需要も落ち込んでいることを示している。円高による輸出減少や金利高による設備投資減少を防ぐ意味で、日銀はもっと強力な金融緩和を行う必要がある。
失態だった総裁の記者会見
3月14日の金融政策決定会合での記者会見では、金融緩和の度合いが少ないとの質問に対して、総裁はそうではないと強く反論してしまった。このような場合は「状況に応じて弾力的に対応していく」と答えるのがセオリーだが、結果として日銀は「増額したくない、増額するとしてもタイミングが遅れる」というメッセージを送ってしまったのだ。
また、日銀の直接引受についての質問でも、白川総裁は強い調子で否定してしまった。この場合も「それは国会で決めることなので国会の意思に従っていく」と柳に風と受け流して答えるのが鉄則である。
OECD報告書
パリに本部のある経済協力開発機構(OECD)は、通称「先進国クラブ」といい、先進国が国際経済全般について協議するためにつくられた国際機関である。現在の加盟国は34カ国である。経済協力開発機構には3つの目的があり、OECD条約第1条に明記されている。
- 経済成長:できる限りの経済成長、雇用の増大、生活水準の向上を図ること
- 開発:経済発展途上にある諸地域の経済の健全な拡大に寄与すること
- 貿易:多目的かつ無差別な世界貿易の拡大に寄与すること
この目的に沿って作成される報告書が「エコノミックサーベイ」であり、毎年加盟国の経済政策を調査して発表している。作成は経済協力開発機構と各国の政策担当者の話し合いのもとで行われる。「対日審査」とも呼ばれる。
オリジナル報告書は常識的な内容
2011年4月21日に発表された対日審査のオリジナル報告書は、①東日本大震災の経済見通し、②金融政策、③財政政策、④新成長戦略、⑤教育システム、⑥労働市場、という順番の章立てになっていた。
対日審査の項目順が入れ替えられた
しかし、日本の記者会見で配布された対日審査のアウトラインでは、①日本の財政の持続可能性の達成、②デフレを終了させる金融政策、③日本の潜在成長力を加速する成長戦略、④教育システム改革、⑤労働市場、という順番に変更されていた。
財務省・日銀の意向が常識を曲げる
オリジナル報告書は「経済成長なしで財政再建できない」という自然な立場である。しかし、新聞報道では消費税増税だけがクローズアップされてしまった。増税を言いたい財務省、インフレ目標を避けたい日銀の意向が働いたのだろう。
3 復興プランはこう進めよ
復興プランとしては、繰り返し述べているように現状復旧をさせないことが大切である。その上で、まず「復興院」を創設し、国会を福島県に移転して人心の一新をする必要がある。また、SPEEDI(放射線等の予測システム)などの情報は最大限に公開すべきである(復興財源は国債の日銀引き受けと埋蔵金の活用 シンプルな復興政策参照)。
長期的には天下り根絶を徹底させるといった、公務員制度改革を行うことが必要であろう(国政進出、復興、法案作成、教育、公務員制度改革 維新八策の真相参照)。
最後に
東電は専門性のある原子力安全委員会が規制当局になっておらず、原子力に対して素人の原子力安全・保安院が規制当局になっている。日銀も金融引き締めによって経済を低成長にすれば、財務省が増税を言いやすくなる。官僚から政治を取り戻そう。
次回は、重要なのは誰が負担するか 東電救済に見る電力とエネルギー問題についてまとめる。
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