前回は、経済のあやしい主役とされる株についてまとめた。ここでは、払うのか取られるのか、税金について解説する。
1 そこから民主主義は始まった
民主主義は税金の問題から始まっている。古くは王様のポケットマネーと国家財政の区別がなく、王様の無駄遣いを監視する役割として議会が生まれた。だから一番最初の民主主義の原点は「租税民主主義」だった。
その後ブルジョアジーといわれる有産階級の豊かな人たちが、王様と相談しながら税金のことをあれこれ決めるという制度になった。日本の明治時代は部分的な民主主義で、決定権はあくまで天皇にあるという立憲君主制だった。
人頭税というのが理想の税。国民一人ひとりの頭数にかける税金のこと。直接税から間接税、つまり所得税から消費税という流れの中で、サッチャーが人頭税をやろうとしたが失敗した。
政策は政府が民間のマーケットに対して何かを働きかけること。例えば行政指導や補助金がある。これは親が子どもをお金で釣っているのと同じこと。最後に残された政策が税金・税制である。
2 ヤクザの「みかじめ料」と国の税金
税金は正当化されたヤクザの「みかじめ料」みたいなもの。ヤクザが地域の私設警察なのに比べ、政府は夜警として治安を保証している。「徳治政治」とは単なる正当化で、武力で人を脅しているだけである。
3 よい税金の3条件
よい税金の3条件は、簡素・公平・中立であること。簡単でわかりやすいこと、他人と比べて平等であること、資源配分(お金の使い方)を変えないこと。
公平には水平的公平と垂直的公平という2つの考え方がある。前者は一人ひとり受ける益は同じだから同じ額でいいのではないかというもの。後者は所得の多いひとほど税金を多く払うべきというもの。価値を生み出している人を罰するつもりがないのであれば、税に差をつけない方がよい。
4 払える人が払うか、得した人が払うか
どういう人に税金を払わせるべきかについても2つの考え方がある。1つは応能負担という能力に応じて払うもので、もう1つは応益負担という便益を受けた人が払うというものである。所得税は応能負担、消費税は応益負担といえる。
5 地域振興券の裏側に隠された問題
日本では所得の再配分が多くなされている。例えば地域振興券や補助金など。こうした再配分が多く行われると、いくら働いても税金を取られるということでやる気をなくさせる。もう一方に対しては、そんなに働かなくても食べていけるということでやる気をなくさせる。だから公平であることが求められる。
6 サラリーマンの3割が「所得税ゼロ」の現実
サラリーマンの3割が所得税を払っていない。人口の所得上位6%の人が、税金の40%を払っている。地域振興券は1998年に政府が景気刺激策のために行った商品券減税。本来は所得税減税を行いたかったが、税金を払っていない人には減税のしようがない。そのためこうした策を行った。
簡素・公平・中立に加えて重要なことに、徴税コストの問題がある。給料天引きによる源泉徴収は、徴税コストをとても安くする。その反面、納税者の納税意識が高まらず、税金がどのように使われるかに興味を持たない人が多い。
さらに日本の場合、年末調整も企業が行ってくれるため、税務署がどこにあるかすら知らないまま一生を過ごすこともある。アメリカの映画には「私は税金を払っている」という台詞がよく出てくるが、日本のドラマではあまり聞かない。
サラリーマンは基礎控除などといったみなし経費が手厚く認められている。そのため課税最低所得の491万円がある。例えば一組の夫婦に子ども2人の家族(標準世帯)のサラリーマンの年収が491万円の場合、所得税はゼロになる(2013年現在は325万円)。さらに住宅減税なども加わると、年収700万円くらいの人も所得税がゼロになる。
税の歴史は初めは能力のある人から取る(応能負担)というのが原則だった。能力とは所得であり、所得の発生は農業だったため、土地に税をかけていた(石高)。
7 日本は世界で最も関税の低い国
関税とは輸出入品に対する税金で、特に発展途上国にとって重要である。輸入品が買える人はお金持ちが多いため、そこに税金をかけるのである。そのためアフリカの国では、関税が国全体の収入の50%を超えている国がたくさんある。
日本は世界で最も関税の安い国。ただしコメなど19品目程度高いものがある。江戸時代などの貿易は御朱印船によって国が直接行っていたため、国そのものが物を高く売って儲けていた。
8 人のあり方まで変えてしまう税の恐ろしさ
人頭税は歴史的には何度か行われているが、長続きはしていない。そこで能力に応じて取るようになるが、所得再分配の名の下に集団的なたかりが発生しがちである。
1980年代のルーマニアではたくさん子どもを生んだ人に奨励金を出していたが、共産党政権がなくなったとたん孤児が大量に増えて社会問題となった(「チャウシェスクの子どもたち」)。
反対に、中国は「一人っ子政策」によって2人以上子どもを持つとペナルティが課せられるため、人口構造に大きなゆがみが生じている。子どもを何人産むかという人間の根源的な点に国家が介入してはならない。
最後に
税金は正当化されたヤクザの「みかじめ料」のようなもの。だから誰にでもわかりやすく(簡素)、公平で中立であることが求められる。徴税コストは安いに越したことはないが、税金の使い道を気にしなければ、大いに無駄遣いがされてしまう。シンプルな人頭税が導入されるのはまだ先だろうが、納税意識は強く持っていきたい。
次回は、なにがアメリカをそうさせるといったアメリカ経済について解説する。
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