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為替介入、郵政再国有化、プライマリー・バランス 民主党の政策の問題点3

前回は、周波数オークション、中小企業金融円滑化法、財政政策 民主党の政策の問題点2についてまとめた。ここでは、為替介入、郵政再国有化、プライマリー・バランス 民主党の政策の問題点3について解説する。

9 為替介入は円高阻止に効果あるの?

2003〜04年の為替介入は日銀に金融緩和を促すためだった

為替介入(外国為替平衡操作)とは、変動相場制において為替相場の過度な動きを緩和するために金融当局が市場取引に参加することである。この介入には、それ自体に効果があるという主張と、介入に効果はないが日本政府の意思を伝える効果(アナウンス効果)はあるという主張がある。 2003〜04年にかけて、財務省が大規模な円売りドル買いを行ったのは、日銀に金融緩和を促すためであった。アメリカ国債(ドル建て債)を買うために財務省は、外国為替資金証券(為券)という短期国債を発行する。その国債を日銀に買わせることで、市場にマネーを投入(金融緩和)したのである。

 

量的緩和の効果を認めたテイラー教授

2010年3月、ジョン・B・テイラー教授(スタンフォード大学)が、シンポジウムに出席するために来日した。前述の大規模為替介入のアメリカ側の担当者である。3月18日に行われた講演で、テイラー教授は「日銀の量的緩和に効果があった」と認めたのである。

 

為替の安定には金融政策が重要

為替の安定には、政府が借金をしてまで為替介入するよりも、金融政策によって安定した物価上昇へと導くほうが、はるかに安価で効果的である。これまで述べてきたように、金融政策が通貨の価値を決め、二国の通貨の価値の比率が為替だからである。

 

経常収支+資本収支+外貨準備の増減=0

国際金融では、統計上の誤差がなければ以下の命題が成り立つ。

経常収支+資本収支+外貨準備の増減=0

国際収支とは、ある国が外国と行う経済取引を体系的にまとめたもので、モノやサービスの取引の流れを表す経常収支と、外国への直接投資や証券投資などによる資産と負債の変化を表す資本収支に分けられる。資本収支は民間主体が持っている債権額で、外貨準備は公的機関が持っている債権額である。

 

中国を例に考える

資本収支と外貨準備のそれぞれの増減の割合は、自由な商取引を行っている国では資本収支がほとんどだが、外貨準備が大きい国もある。例えば中国のように社会主義と資本主義が混在している国では、外貨準備が多く占めることになる。 2008年度、中国の経常収支は4261億ドルの黒字、資本収支は流入超の190億ドル、外貨準備の増加は4100億ドルである。つまり、4261+190ー4100=351(ほぼゼロ)となる。中国当局が民間セクターの持つ対外債権をほとんど買い上げたので、外貨準備が増えたのである。 なお、日本は自由主義経済圏にありながら、欧米と中国の中間に位置している。

 

国際金融のトリレンマ

国際金融のトリレンマとは、国際金融政策において、①固定相場制、②独立した金融政策、③自由な資本移動という3つの政策は同時に2つしか実現できず、3つを同時には実現できないというものである(人口が減少しても経済成長は可能 物価、金融政策、経済成長への誤解参照)。多くの先進国では、②と③を守るために①を放棄し、変動相場制を採っている。

一方、中国は政府が資本収支を完全に管理し、かつ為替も完全に管理したいため、今のところ①のみを選択肢、②と③を放棄していると見ることができる。しかし、国際社会での取引に支障が出てくるため、③は確保したくなるだろう。そうすると②を放置することになり、国内のインフレなどの問題が出ても対処できなくなって国内から不満が出てくる。その結果、最終的には他の先進国のように変動相場制に移行するだろう。

 

過剰な外貨準備にまつわる不透明さ

変動相場制を採っている以上、過剰な外貨準備(外国為替資金特別会計)は必要ない。しかし、日本ではいまだに巨額の資金を保有しており、その理由も不透明である。財務省の国際局の利権と仮説づけられるのはそのためである。

 

金融政策で為替相場をある程度コントロールできる

金融政策によって物価水準の調整をすることで為替相場はある程度コントロールできる。金融緩和によってデフレから脱却し、インフレ目標によって物価水準を調整し、円高になりにくい経済環境をつくるべきである。また、民間企業も自己責任で為替変動のリスクヘッジをすべきなのは言うまでもない。

 

10 日本郵政社長に元大蔵事務次官の斎藤次郎氏が就任するのは問題?

過去の人?亡霊?

日本郵政社長に元大蔵事務次官の斎藤次郎氏が就任することが決まった。マスコミでは「大蔵省の亡霊」といった扱いを受けていたが、当時次官に近いといわれていた稲垣光隆主計局次長は、斎藤次郎氏の女婿なのである。こうした閨閥づくりは今なお連綿と続いていて、ある編集者が言うように「まるで戦国時代」である。

 

保守本流の人々

斎藤次郎氏は旧大蔵省の保守本流の人である。研究情報基金(foundation for Advanced information and Research:FAIR)という社団法人の理事長に納まるが、これは完璧な役所人事である。

また、斎藤氏就任の一週間後に発表された4人の副社長にも2人の官僚OBが入った。こうして郵政民営化どころか、天下り人事が復活していたのである。

 

「かんぽの宿問題」の茶番

郵政に限らず、官業の凄まじさは、その下に公益法人がたくさんつくことである。郵政ファミリーの場合、傘下に約200社の関連団体があり、取引量も膨大になる。そこがそれぞれ一社あたり10人、全部で約2000人の天下りを受け入れてきた。今回復活した官僚OBは、この巨大ファミリーの代表者である。

「かんぽの宿問題」は、この郵政ファミリーの西川義文日本郵政社長(当時)への攻撃である。その目的は民営化潰しである。かんぽの宿は黒字が11施設だけで、年間40億円にのぼる赤字を計上していた。そのため、2009年4月にオリックス不動産に一括で売却することを発表した。ところが、売却先であるオリックス不動産が、郵政民営化を検討した当時の総合規制改革会議議長だった宮内義彦氏が最高経営責任者を務めるグループの企業であったことから、鳩山邦夫総務大臣(当時)が慎重な姿勢を示したからである。2011年3月、最終的には不起訴となっている。

 

本来100億円のものに2400億円をかけたことがおかしい

かんぽの宿の価格は、デュープロセスという適正な手続きを踏み、収益還元法によって100億円と計算された。外部の専門機関や第三者委員会での検討でも、額については妥当という結論が出ている。つまり、本来100億円の施設に2400億円もかけていたのである。

かんぽの宿以外にもグリーンピア(年金受給者などのための保養施設。2005年12月までにすべての譲渡が完了)やスパウザ(勤労者福祉施設。2004年2月1日、ヒルトン小田原リゾート&スパとして再オープン)など、官業で造った施設はこうしたことが行われてきた。

また、バルクセール(一括売却)が批判されることもあったが、オリックスに売却される予定だった70施設のうち黒字は11施設、年間40億円の赤字である。個別に売却したのでは、赤字施設だけが売れ残ってしまうため、バルクで売るのは普通である。

 

「三位一体の復活」への道

「三位一体の復活」とは、天下り復活、郵貯ファミリー(特殊法人)復活、そして郵政事業への税金投入復活のことである。これは後で述べるように、論理的にそうならざるを得ないのである。

 

発端は財政投融資の見直し

郵政民営化など官僚システムにメスを入れる政策を立案したのは、財政投融資に生じた時代の変化だった。1997年12月、橋本龍太郎内閣は省庁再編とともに財政投融資(財投)改革を断行する。この改革が行われる以前の財投は、郵便貯金や年金積立金を大蔵省(当時)理財局が管理する資金運用部に全額預託させ、それを住宅金融公庫などの政策金融機関や特殊法人に貸し出すという仕組みだった(課税権、徴税権で資産と負債をバランスさせる 国のバランスシート参照)。

しかし、高度経済成長を経て、その役割を終えたのではないかという2つの論議が現れた。1つはムダな事業が多い、天下りの温床になっているという批判である。もう1つは、預託と運用の間に発生するリスク管理の問題である。金利が自由化されればそのリスクはさらに膨らむにもかかわらず、大蔵省はそれを認識せずドンブリ勘定に近かったのである。

具体的には、預託する期間については持ち込む側(郵便貯金なら郵政省)任せ、貸出期間も政策金融機関や特殊法人任せという状態だったのである。

 

ALMの運用でリスク回避

そんななか開発されたのが、ALM(asset Liability Management:資産・負債の総合管理)という手法である。これは、資産と負債の変化に対し、金利リスクを考慮した運用を数理的に決定するもので、1990年代初めには多くの金融機関で導入が進んだ。

当時の大蔵省では完全に黙殺されたが、94年に著者が理財局に呼び戻され、秘密裏にALMシステムの開発が始まった。ALMの運用によって財投の破綻危機は回避されたのである。

 

預託制度の廃止へ

財投のリスクの元凶は預託制度である。預託制度のリスクとは、大蔵省が郵便貯金などからカネを集める際の金利が、市場金利よりも割高なことである。集めたカネは特殊法人に貸し出されるが、その金利が高いため赤字になり、最終的には特殊法人に対する補助金(税金)によってカバーしていた。

具体的には、特殊法人への年間3兆円の補助金のうち、1兆円は貸出金利の赤字を補填するための支出だった。つまり、預託制度では1兆円の税金が郵貯に流れていたのである。こうして持続不可能な財投制度は廃止された。

しかし、必要な大型公共投資のためには、預託に代わる資金源をつくらなければならない。そこで著者が資金調達手段として考えたのが、財投債の発行だった。これによって国民の税負担もなく、リスク管理も可能になったのである。

 

自由は必ずリスクとセット

自由(自主運用)は、必ずリスクとセットである。市場から集めてきた資金(郵政の場合は郵便貯金や簡易保険)に金利を付けて貸し出すのだから、かつての財投がやってきたことは基本的に銀行と同じである。しかし、1980年代後半以降の世界的なカネあまり、その表裏一体の金融の自由化によって、銀行業務もハイリスク・ハイリターンになっていったのである。

 

自主運用となった郵貯には民営化の道しかない

郵貯資金は自主運用になったものの、国債、地方債などの公債しか扱うことができなかった。その理由は、郵貯は国有だからである。

民営化とは、株式の民間所有と民間による経営のことである。政府の出資がないからこそ、民間と同じ業務が可能になる。そもそも金融は、リスクを引き受けて収益をあげるビジネスである。郵貯のように、国有で政府からの出資があるうちは民間金融機関と対等でないため、業務に制限が必要である。一方、株主である国民側から見ると、業務の失敗によって国民負担が増えても困るので、制限を加えることになる。

このように、国営の場合はリスクがとれず、自由になれない。自由になれないにもかかわらず、金利は付けなければならない。このような制限から郵政を解き放つものが、郵政民営化である。

 

民営化か「三位一体の復活」か、選ぶのは国民

郵便事業の現業部門は赤字である。だからこそ金融のプロを迎えて、郵政事業が一体的に成り立つ経営をしてもらう体制をつくったのである。

しかし、残念ながら民主党政権においては「三位一体の復活」に向かった。4社分社化体制から郵便局会社と郵便事業会社を合併して3社分社化体制としたほか、金融のユニバーサル体制を課すとし、金融2社の株式処分について完全民営化方針を転換する、と方針が変更されたのである(民主党の郵政再国有化がTPP交渉の障害に 小泉時代の完全民営化復活を参照)。

郵便局会社と郵便事業会社は店舗展開が全く異なり、前者はセブンイレブンのような装置産業で、後者はヤマト運輸のような運輸産業である。また、金融のユニバーサル体制は、先進国でほとんど例がない。2015年秋までの株式上場に向けて、今後の動向が見逃せない。

 

11 借金が973兆円もあって日本は大丈夫なの?

債務残高の対GDP比

2013年現在の債務残高の対GDP比(債務残高/GDP)は、224.3%である。財務省が日本の財政を説明するのによく使われるが、世界の先進国では、企業と同様にバランスシート(貸借対照表)で判断する

 

日本の財政をバランスシートで見ると

日本の財政をバランスシートで見ると、たしかに負債は1000兆円あるが、資産も700兆円あるので、純負債は300兆円である。バランスシートの右に負債がおかれ、資金調達手段を表す。反対に左の資産はその運用手段(使い道)を表す。詳しくは日本の純債務は300兆円にすぎない 日本の資産と負債を読んでいただきたい。

 

課税権は簿外資産

先ほど述べたように、日本のバランスシートは300兆円の債務超過である。民間の基準だと明らかに破産状態だが、国の場合には課税権によってバランスすると考えられる。つまり、国の課税権は簿外資産と考えてよい。

国の課税権による国への将来キャッシュフローは、一定の経済成長率を仮定すれば、現在のGDPと比例関係にある。つまり、課税権と債務残高が見合っているかどうかは、債務残高の対GDP比が上昇傾向なのか、低下傾向なのかで判断できるのである(課税権、徴税権で資産と負債をバランスさせる 国のバランスシート参照)。

 

世界標準はプライマリー・バランス

プライマリー・バランスとは基礎的財政収支ともいい、国債の発行や過去の債務の利払いを除いた財政収支のことである。式でいうと「税収等—一般歳出等」もしくは「国債費—国債発行額」で表せる。通常の会計でいうと、本業以外の金融収支の部分を除いた「営業収支」に似ている。

 

プライマリー・バランスと債務残高の対GDP比の関係

プライマリー・バランスGDP比の黒字と債務残高の対GDP比の関係は、「公債残高GDP比の改善=プライマリー・バランスGDP比の黒字+(成長率—金利)×1.5」で表すことができる(歳出歳入一体改革について)。

 

国債発行残高、国債依存度は無意味

日本では、財政当局が国債依存度などという世界ではほとんど用いられない数字をマスコミに垂れ流し、それによって国民を一時ショック状態に陥らせるようなことが行われている

国債依存度とは、新規国債発行額が予算歳入の何%を占めているかという数字である。新規国債発行額は、通常、国債残高の一年分の増加額に等しい額だが、日本では国債残高の一年分の増加額に、政府内に貯める資金(2010年度予算の数字は10兆円)を加えた額になっている。

プライマリー・バランスという考え方には、国債発行残高も国債依存度も関係ない。重要なのは、毎年の政策的な経費が税収などの収入で賄われていることである。

 

わけのわからない10兆円

先程述べた、政府内に貯める10兆円とは、10兆円の予算を使って国債を10兆円償還(返済)するのではなく、債務償還費という名目で、ただ借り換えている(一般会計に繰り込まれている)のである。借金がありながら再び借金を繰り返し、それでいて国民には国の借金が1000兆円と煽る報道を繰り返しているのである。

 

消えたプライマリー・バランス

プライマリー・バランスは世界標準の言葉である。国債依存度や新規国債発行額といった特殊な用語にまどわされてはならない。

 

12 国が破綻するってどういうこと?

まず「破綻」を定義すべき

「日本は財政破綻する」このように話す識者がいる。しかし、そもそも「破綻」の定義が明らかでないことが多いため、議論自体が無意味である。

 

国債の金利が5%でも破綻しなかった事実

財政破綻を、1〜2年の間に国債価格が25%低下することとしている人もいる。しかし、国債価格の25%の低下は、日本の名目経済成長率が4〜5%になれば、国債金利も4〜5%になるので当然のことである。この場合、GDPも増えていくため、税収も上がり、問題にならない。

 

名目経済成長率が4%以上なら財政再建は可能

国が破綻するとは、債務残高/名目GDP(債務残高の対GDP比)の発散(無限大に大きくなること)という定義がある。この「発散」は、プライマリー・バランスが改善していけば発生しない。

債務残高/名目GDPの動きを決めるのは、プライマリー・バランス/名目GDPの動きと、名目GDP成長率と国債金利の大小関係である。最近では、名目GDP成長率が4%を超えると国債金利を上回る傾向があるため、4%の名目GDP成長率は黄金率である。

税金には所得税のような累進構造があるので、名目成長率が高まると税収はそれ以上に増える。これを税収の弾性値といい、成長率が1%増えたとき、税収は何%増えるかという指標である。財務省はこれを1.1と低く見積もっている(過去15年の平均は4)が、少なくとも成長率以上に税収は増えるのである。

 

名目4%成長は難しくない

名目GDP成長率は、各党の経済政策、特に増税と大いに関係する。財政状況を好転させるために「増収」で対応するのか「増税」で対応するのか、名目GDP成長率の数字によって違いが出てくるのである。

なお、名目4%成長は、世界から見れば決して高くない。OECD(経済協力開発機構)の最近10年間の平均名目成長率は5.6%である。

 

プライマリー収支の改善は経済成長の後からついてくる

財政改善が経済成長の後からついてくるのは、小泉政権の後半からプライマリー収支が急速に改善したことからもわかる。2003年度に28.4兆円の赤字だった日本のプライマリー収支は、歳出カットもあり、2007年度には6.4兆円まで回復した。2004年度から2007年度にかけて、名目成長率は平均で1.1%にすぎないが、22兆円もプライマリー収支は改善したのである。

 

最後に

為替介入よりも金融政策のほうが安価で効果的。郵政再国有化は、三位一体(天下り、郵貯特殊法人、郵政事業への税金投入)の復活。プライマリー・バランス(基礎的財政収支)GDP比の黒字と債務残高の対GDP比の関係は「公債残高GDP比の改善=プライマリー・バランスGDP比の黒字+(成長率—金利)×1.5」で表すことができる。名目GDP成長率4%は黄金率

次回は、年金の積立方式、負の所得税、消費税の年金財源化 社会保障制度の問題点についてまとめる。

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