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長期試算、歳出増加、低成長率、高金利 増税の前提と埋蔵金の全貌

前回は、「どうすれば民ができるかを考えてほしい」 小泉政権の舞台裏についてまとめた。ここでは、長期試算、歳出増加、低成長率、高金利 増税の前提と埋蔵金の全貌について解説する。

上げ潮派と財政タカ派

上げ潮派とは増税よりも経済成長を優先するもので、財政タカ派とは経済成長よりも増税を優先するものである(「どうすれば民ができるかを考えてほしい」 小泉政権の舞台裏参照)。

2007年晩秋、上げ潮派である自民党の中川秀直元幹事長が、特別会計の積立・準備金をさして「国民に還元すべき埋蔵金がある」と発言、霞が関埋蔵金論争が勃発した。中川発言に対し、真っ向から反発したのが、財政タカ派の自民党財政改革研究会(財革研)会長の与謝野馨前官房長官や谷垣禎一政調会長だった。

 

キャッシュフロー分析というレーダー探査

キャッシュフロー分析とは、事業を当年度で終了し、継続中の事業を除き、新規事業を行わないと仮定した最終的な資産負債差額をみるものである。財投改革で導入された政策コスト分析と類似した手法である。

2004年秋頃から、この分析手法によって特別会計を調べると、大半の特別会計で剰余金が生じていることが判明した。特に、財務省の財政融資資金特別会計(財融特会)27.2兆円、外国為替資金特別会計17.1兆円と、この2つだけで約40兆円もの資産負債差額が存在していることがわかった(特別会計には資産負債差額がある 「埋蔵金」とは何か参照)。

財融特会とは財務省で到達した資金を政府系金融機関に融資するための資金で、外国為替資金(外為資金)とは政府短期証券(FB)で調達した資金を外貨建て債券で運用するための資金である。実際には円高を抑えるためにドル建て債を購入するという「円キャリーファンド」である。前者は金利変動リスク、後者は為替変動リスクにさらされるので、積立・準備金があり、それらが資産負債差額となる。

こうした過去の分析もあり、埋蔵金論争はあっけなくケリがついた。始まって早々、財務省は2008年度予算のなかで、財融特会の準備金約10兆円を取り崩すと発表したのだ。そもそも埋蔵金(特別会計の剰余金)については、2003年の塩川正十郎財務相の「母屋(一般会計)がお粥で辛抱しているのに、離れ(特別会計)ではすき焼きを食べている」といった、いわゆる「母屋でお粥、離れですき焼き」発言などによって注目されており、財務省も隠し切れないと判断したのだろう。

なお、他にも差額がプラスになった特会には、労働保険特別会計6.2兆円(現在価値5.1兆円)、国有林野事業特別会計4.5兆円(現在価値同)、空港整備特別会計2.3兆円(現在価値1.7兆円)、自動車損害賠償補償事業特別会計1.3兆円(現在価値0.7兆円)などが挙げられる。

 

年金は破綻寸前

しかし、年金は破綻寸前である。政府が約束している給付金は、今の保険料では将来的には賄えなくなることがわかる。ただし、年金破綻をバランスシートで考えると、保険料が予想以上に小さくなるか、責任準備金が予想以上に大きくなるかのどちらかであるため、保険料を上げるか年金支給額(責任準備金)を減らせば破綻は防ぐことはできる(年金は決して破綻しない バランスシートで見る民営化と年金参照)。

 

巨額を積み重ねた役人根性

ここまで巨額の埋蔵金が明るみに出てこなかったのは、役所の公会計が基本的に現金収支ベース・簿価で表示されるため、バランスシートを見ても本当の資産価格が把握できなかったからである。予算が足らなくなってはならない、という担当者の安全な運営を重ねた結果、剰余金が50兆円も蓄えられてきたと考えるのが自然である。

ただし、財務省の財政融資資金や外為資金がこれほど大きくなったのは、外的な要因が大きい。例えば、財政融資資金では、近年続いていた低金利が影響している。財政融資資金は財投債で調達されるが、低金利だと調達コストが下がっても運用利回りはさほど低下しないため、収益が上がるのである。

一方、外為資金では円安が影響している。FBの金利は2008年春の時点では0.5%で、外貨建て債券の金利はドル建て債で5%。すると、為替変動が少なければ、その金利差額分が黒字になっていく。大きく円高に転じない限り、4%くらいの収益が出ていたのである。

 

あまりにも稚拙な財務官僚の言い訳

そもそも財務省にもALMが導入されており、財投債によって金利リスクをゼロにできるようになっている。それにもかかわらず「モンテカルロ・シミュレーションをしたら、リスクを減らしても大丈夫なことがわかりました」といった言い訳をしている。財政融資資金や外為資金に金利リスクがある以上、すぐに剰余金を株主である国民に差配するのが道理である(ALM、財投債、政策コスト分析が財投改革の三本柱 財務省が隠した爆弾参照)。

 

探査すべき特別会計とは

著者が財務省の特会を指摘するのは、額が大きいからである。また、他省庁の特会を査定するのは、それこそ財務省主計局の仕事である。ただし、他省庁の例として、空港整備特別会計について取り上げる。

空港整備特別会計とは、発着料、施設利用料、航空機燃料税などで空港を造るものである。資産負債差額は1.7兆円で、道路特会と同じように、羽田空港を稼ぎ頭にしてその他の空港へ内部補助を行う構造になっている。

この特会が儲けている理由は、発着料が欧米より高いからである。その使い道として、茨城空港(自衛隊百里基地と併設)が批判されている。JALもANAも乗り入れ予定がないのに、空港建設が進められたからである。

改革案としては、空港整備特別会計を各空港に分解して(各空港の法人化)、地方に移譲して、民営化できるところは民営化すればいい。合わせてオープンスカイ(航空自由化)を行えば、首長の力次第で海外からチャーター・定期便をとれるため、地域振興になる。

 

独立行政法人に眠っているお宝

独立行政法人にも大量の資産がある。例えば、貿易保険、印刷、造幣は従来特別会計だったが、独法に組織替えしたときに、政府資産としていたものを独法に振り替えて持たせた。郵政も同じだが、完全民営化された後に上場すれば、出資証券の売却により資産の回収が可能である。

 

「日本は財政危機ではない」と知る財務省

財務省は、実は「日本は財政危機ではない」ということを知っている。それでも財政危機を煽り、埋蔵金の存在を認めてこなかったのは、増税(予算権の拡大)をしたいからである。その証拠に、2002年4月にアメリカの国債格付け会社によって日本国債の格付けが引き下げられた際に「純債務で見れば日本は財政危機などではない」と主張したのである(日本の純債務は300兆円にすぎない 日本の資産と負債参照)。

 

財政タカ派の「増税ありき」トリック

2007年10月17日に経済財政諮問会議が示した試算には、4つのトリックがある。この試算では最悪の場合、2025年度に消費税をおよそ17%に引き上げなければならないとしている。

まず第一に、計算期間が18年間と長過ぎる。18年間もの間には政権も替われば、今の制度にも検討が加えられる。経済学の観点からいっても「マクロ計量モデルの長期計算はできない」というのが常識である。せいぜい中短期、5年までだろう。

第二に、歳出の増え方がおかしい。社会保障以外の歳出までもが増加すると仮定されており、例えば、人件費は賃金上昇率で増加し、公共投資も名目成長率で増加させるという。歳出の削減をするという発想がない。

第三に、名目成長率の低さ。2006年は3〜4%を前提としていたが、このときは2〜3%と、いつの間にか設定が低くなっている。1%低いだけでも、2025年までの長期となると、20年間で2割減、GDPは100兆円ほど、税収も20兆円くらい少なくなる。つまり、かなり税収を低く見積もっていることになるのである。

 

博士の愛した数式

第四に、金利を成長率よりも高く設定している(1.3〜1.5%)。日本の場合、金利のほうが成長率より高いといっても、ほぼ同じである。そのため、2025年までに期間を広げて、金利の設定を成長率よりも高くしなければ、「増税して財政再建」という結論が導けないのである。

そもそも、国家にとって財政再建とは、借金を全額返すことではない。公債残高のGDP比を減らすことである。そのためには「基礎的財政収支を黒字にする」以外にも「できるだけ、成長率が金利より高くなるようにする」という2つの条件が必要である。

成長率よりも金利が高くなると、公債残高の利払いも大きくなるので、名目成長率が伸びていても借金は増えてしまう。反対に、成長はしていて金利が低いという状態になれば、財政再建は加速度的に進む。これを明確に示す式は以下であり、竹中平蔵氏が好んだ「博士の愛した数式」である。

(公債残高/GDP)の改善=(基礎的財政収支黒字/GDP)+(名目成長率ー金利)×(公債残高/GDP)

 

改革と増収で財政再建は可能

改革と増収で財政再建は可能である。税収は「率×量」で決まる。税率を上げるのが増税だが、率は同じでも日本経済が拡大し、量のボリュームが大きくなれば、税率は据え置きでも増収になるからである。

そのためには名目成長率の上昇が重要である。名目成長率が上がれば景気も良くなり、最低賃金もアップする。みなの収入が増え、その範囲で税金を払う。これが経済主義の王道である。それゆえ、「増税なき成長路線」を掲げる上げ潮派は、財政再建の順番は「デフレ脱却」、「政府資産の圧縮」、「歳出削減」、「制度改革」、「増税」としている。

 

成長率が上がれば財政再建できない?

「成長率が上がると財政再建ができない」という論理が財務省にはある。成長率が上がると、それに伴い金利も上昇すると考えるからである。たしかに2、3年のスパンで見れば、そうした現象は起こりうるが、やがて金利の上昇は頭打ちになり、税収の自然増が始まるのである。また、金融緩和によってインフレ予想が醸成されれば、実質金利は低下するため問題ないのである。

 

金融資産が飛び抜けて多い日本

「政府資産の圧縮」も財政再建につながる。郵政を始めとする特殊法人、独立行政法人の民営化や埋蔵金の拠出を行えばよい。

日本の政府資産の特徴は、金融資産が先進国の中で先進国のなかで飛び抜けて多いことである。金融資産は300兆円以上あり、4割を占める財投による特殊法人などへの貸付金は250兆円にのぼる。そのうちかなりの部分は、証券化という手法によって時間をかければ売却できる。政府がスリム化すれば、民間経済の範囲が大きくなって、日本経済が活性化するというメリットも期待できる。

郵政民営化では、郵貯の資産200兆円が国の資産から外れたものの、同時に郵貯の抱える国債が減った。しかし、出資金が残っているため、上場によって国に売却収入が入ってくる。さらに税収も入るため、長期的にはプライマリー収支の改善につながる。

日本は大きな政府ではないという説がある。確かに公務員や特殊法人の人員が先進国では少ないのは事実である。しかし、政府資産という規模で見れば、官僚一人あたりが抱える金融資産は大きい。つまり、官僚一人あたりの権限が大きいことに他ならない。埋蔵金の問題は「大きな政府vs.小さな政府」という面があり、国民がそのどちらを求めるかにかかっているのである。

 

最後に

消費税増税には不可解な前提がある。18年間という長期試算、歳出増加、年2〜3%という低成長率、そして成長率よりも金利を高く設定していることである。日本政府の金融資産は300兆円あり、埋蔵金の多さからも大きな政府である。「大きな政府+増税」と「小さな政府+成長」のどちらを選びますか?

次回は、年功序列制の廃止と各省庁による再就職の斡旋禁止 公務員制度改革の肝についてまとめる。

さらば財務省! 政権交代を嗤う官僚たちとの訣別 (講談社プラスアルファ文庫)


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