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消費税は地方の重要な財源 日本の財政とプライマリーバランス

前回は、年金は決して破綻しない バランスシートで見る民営化と年金についてまとめた。ここでは、消費税は地方の重要な財源 日本の財政とプライマリーバランスについて解説する。

1 破綻したギリシャと日本の比較

ギリシャの年金は日本の3倍

ギリシャの年金のリプレースメント・レシオ(給付額の基準)は90と日本の3倍である。出生率はギリシャも日本もほぼ同じであるため、破綻は目に見えている。こうした事情を知らずに「日本もギリシャのようになってしまう」と騒ぐのはおかしい。

 

ギリシャと日本の比較

ギリシャと日本は似ている点と異なる点がある。似ている点は、政府の貸付金の多さである。貸付先も特殊法人(state-owned enterprise)が多く、社会主義的な傾向が強い。経済規模が日本の数十分の1程度にもかかわらず、日本と同じくらいの数がある。また、企業規制も多く、生産性の低い政府の活動が民間経済を押しのけている。

異なる点は、ギリシャの公務員数の割合が非常に高いことである。日本の公務員数は300万人強で、働く人の5%程度の割合だが、ギリシャは25%である。その給与も民間の150%と非常に高給である。

 

ユーロ加盟がそもそもの問題

ギリシャの破綻は、ユーロに加盟しているからこそ問題となる。その理由は、ギリシャの破綻によって通貨ユーロが下がってしまうからである。

ユーロ圏がどういう国で構成されるべきかという問題は、ロバート・マンデルという経済学者が「最適通貨圏」という理論で明示している。最適通貨圏には2つの条件があって、1つは通貨圏内の国の動きが似ていること(GDPの規模がほぼ同じ)、もう1つは問題が生じたときに市場の柔軟性があり、労働力の移動などがスムーズにできればいい(公的部門や規制が少ない)というものである。

この2つの条件を踏まえると、ギリシャはユーロ圏に入ってはいけない国だったということになる。さらに、ギリシャはユーロ加盟時に統計データを改ざんしていた事実も明らかになっている。ギリシャには、少なくとも一時的にユーロ圏から離れてもらうのがよいのである。

 

2 プライマリーバランスで財政再建を図る

プライマリーバランスと経済成長

プライマリーバランス(基礎的財政収支)とは、国債の発行や過去の債務の利払いを除いた財政収支のことである。前提として、財政は債務残高の対GDP比で考えるべきである。その理由は、この比率が上がっていなければ財政破綻を起こす可能性は低いからである。

プライマリーバランスが黒字になれば債務残高は減り、金利と成長率の関係がよければやはり減る。これは以下の式で表される。

債務残高/GDPの変化=プライマリーバランス/GDP—(成長率—金利)×債務残高/GDP

成長率は名目成長率、金利は名目の国債金利である。名目とは、物価の変動を含むという意味である。

 

経済成長すると金利が高くなって財政破綻する?

「経済成長すると金利が高くなって財政破綻する」と騒ぐ者もいる。そもそもこれが正しいとすると、世界中の国がみんな破綻してしまうことになる

経済成長して、金利が高くなった場合の税収と国債の利払い費の推移は、3年目くらいまでは利払い費の方が高くなる。しかし、5年以上先を計算すると、金利の上昇による国債費の増加分はほとんどなくなるのである。

 

小泉政権での社会保障費マイナス2000億円は1年だけ

小泉政権において社会保障費を減らしたのは1年だけである。社会保障費は非常に大きいため、2000億円程度は楽にカットができる。しかし、それに対する政権批判が大きかったため、すぐに戻した。

小泉政権時は、名目成長率が1.1%で、社会保障費が毎年1兆円増えていっても、プライマリーバランスが30兆円の赤字から5〜6兆円の赤字まで回復した。つまり、経済成長をしていれば、プライマリーバランスは黒字化できるのである。

 

消費税と年金は関係ない

年金のために消費税を上げるというのは非効率である。年金のために何かを上げるならば、年金保険料を上げればよい。また、財政再建を考えるならば、4%の経済成長を実現すれば増税する必要はなくなる。

なお、名目(GDP)成長率とプライマリーバランスと消費税の関係は以下の通りである。10年後のプライマリー収支ゼロを達成するための条件。

  • 2%成長なら消費税15%必要
  • 3%成長なら消費税10%必要
  • 4%成長なら消費税5%で十分

 

消費税は地方の重要な財源

消費税は所得税などと違って安定的な税収が期待できるため、地方税に向いている。地方はゴミの処理など住民の生活に直結した基礎的な行政サービスが多いので、安定した消費税を財源とすべきである。

そもそも社会保障政策は所得の再配分なので、徴収した所得税を基準にして個人の状態に応じて、統一的に再配分するのが世界の常識である。これは給付付税額控除によって、給付金を所得税からの控除という形で算出し、勤労所得と給付金の合計が徐々に増加するようにして、貧困の罠(給付金を得るために労働を抑える)を回避できる

ただし、国民総背番号制(社会保障サービスと保険料や年金、税金などを一体的に管理できる「社会保障個人勘定(口座)」を国民一人ひとりに発行し、番号で管理する制度)を導入してきちんと所得を把握しなければならない。

消費税は所得再分配には向かないが、効率よく徴収できる。フランスの役人が考えたインボイス制を使えば、徴税コストがかからない。これは、流通の各段階でそれぞれが払った消費税額を記載したインボイス(納品書)を添付する方法で、相互監視が働くので税務当局がマルサのようなことをしなくてすむ。

日本の消費税は「帳簿方式」であり、事業者の帳簿上の取引で消費税額を推定する。簡単にいうと、実際に消費税を受け取ったか関係ないため、ごまかそうと思えばごまかせる方式なのである。

 

財務省のトラウマ

かつて大蔵省が国民総背番号制などで完全な所得補足を目指したとき、非常に大きな抵抗があり、それがトラウマとなって消費税導入を強く推進した経緯がある。しかも消費税導入の際、政治家にかなり犠牲が出たので、これを絶対手放したくないと思っているのである。

本来の消費税は一般財源が普通で、社会保障などの特定財源にしている国はほとんどない。かつてドイツが税率アップの方便に使ったことがあるくらいである。今は年金保険料の管理も番号で行われるようになったので「年金保険料の徴収は大変だから消費税を使う」という論理は通用しないのである。

 

最後に

ギリシャの年金は日本の3倍、公務員数も5倍、公務員の給料も民間の150%。経済規模は日本の数十分の1にもかかわらず、特殊法人の数があまり変わらない。公務員大国ギリシャ

経済成長していればプライマリーバランスは改善できる。つまり、財政破綻しない。反対に、経済成長しなければ、いくら増税してもプライマリーバランスは改善できない。経済成長時は3年間は国債金利利払いが増える。しかし、5〜6年後には横ばいになる。国債の利払い費は5年後を見よう

次回は、普天間基地移設から尖閣諸島まで 国際政治のバランス感覚についてまとめる。

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