「インド警察に存在しなかったのは不正を予防する力。だから私は教育の力で刑務所を僧院に変えたのよ」ベディはここでは、34万ビューを超える Kiran Bedi のTED講演を訳し、予防と教育に力を入れる手法について学ぶ。
要約
キアン・ベディーは驚くべき経歴を持っている。インド警察庁の長官となる前、彼女はインド国内で最も厳しいとされる刑務所での任務に就いた。そこで彼女は「予防」と「教育」にフォーカスした新たな手法で、この刑務所を学びと瞑想のための研修センターへと転身させたのである。彼女がTEDWomanにおいてビジョンを持つリーダーシップについて彼女の考えをシェアする。
Kiran Bedi was one of India’s top cops — tough, innovative and committed to social change. Now retired from the national police force, Bedi runs two NGOs that benefit rural and urban poor.
1 「4人の娘すべてを世界の隅々に送り出す」
ある物語をお話ししたいと思います。ひとりのインド人女性の旅の物語です。まずは私の両親について 私は彼らの創造物です。ビジョンを持った両親です。私が生まれた1950年代、60年代 インドの女の子は無用の存在でした。男の子こそが時代を担う存在 男の子だけがビジネスの世界に入り 親の仕事を受け継ぐ権利を得るのです。女の子は着飾って嫁に行くもの。私の家族はその地域ではー いやインド全体で見てもユニークでした。私達は4人姉妹 幸運なことに兄弟はなし。4人姉妹で男の子は居なかったのです。私の両親は 大地主の家系の出身でした。私の父は祖父の意思に背いたため、 財産を取り上げられる危機もありました。なぜなら父が私たち4姉妹全員を 教育すると決めたからです。父は私たち姉妹を地域で一番の学校に通わせ、 最も優れた教育を与えてくれたのです。私達はこの世に生まれた時、両親を選べません。自分の行く学校も選べない。子どもたちは自ら学校を選ぶことはしません。親が選んだ学校に通うのです。これが私の人生の基盤となる時期です。私たち4姉妹はこのように育ちました。その頃、父がよく言っていました 「4人の娘すべてを世界の隅々に送り出す」と。父が何を意味していたか分かりませんが、それは実現しました。姉妹のうち私が唯一インドに残り 一人はイギリスへ、もう一人はアメリカへ そしてあとの一人はカナダへと渡りました。4姉妹は世界の隅々へと送られたわけです。
2 90対10の法則。人生は坂道
両親は私にとって模範でしたから、私は父母が与えてくれた2つの言葉に従いました。一つは「人生は坂道だ。お前はその坂を上るか 転がり落ちるかだ」という言葉。そして2つ目の言葉は、 私の人生哲学になり すべての変革の礎となりました。人生には善悪含め100の出来事が起こる。100のうち、90は自分自身で作ったもの。良い事は自分の創造物、楽しみなさい。悪い事も自分の創造物、そこから学びなさい。残りの10は自然現象や天災、どうしようもない 例えば、身内の死や サイクロン、ハリケーンや地震など 自分ではどうすることも出来ないこと。状況に反応するしか術はない。しかしその反応はその他90の過ごし方で決まるのだ。私はこの哲学を基盤として生きてきました。90対10の法則 そして、人生は坂道であるという言葉。このようにして私は育ち 与えられたものに価値を置くことを知りました。私は、あらゆる機会の創造物なのです。50年代、60年代としては稀な 他の女子は得られなかったチャンスを得ました。そして私は両親が与えてくれたこの環境は 極めて特別であることを知っていました。私の級友たちが全員 高額の持参金と共にお嫁に行く一方で 私はテニスラケットを持って学校に通い 多くの課外活動に取り組んでいたのです。皆さんに知って欲しかったのは これが私の育った環境ということです。
3 インド警察に存在しなかったのは「予防する力」
次に起こったのがこれです。私はインド警察にタフな女として入りました。決して衰えないスタミナを持った女 テニス競技で走り込んでいたからです。しかしインド警察に入ってみると 警察のやり方は私の想定外でした。私にとって警察とは不正を「正す力」「予防する力」「検出する力」を意味していました。しかしインド警察に存在しなかったのは 「予防する力」という概念でした。今まで警察とは「不正を見つける力」だけ あるいは「裁く力」 しかし私は「予防する力」こそ必要だと主張しました。それが私が学んできたことだったから、抗えない10の出来事をどうすれば最小限に食い止められるか これが私の警察官としての仕事に影響したのです。それは男性のやり方とは異なりました。わざと男性と違うやり方にした訳ではありません 「私のやり方」が違っていただけなのです。それがインドの警察のあり方を一新しました。
これからご案内するのは2つの旅 私の警察官としての旅と、看守としての旅です。この見出しを読んで下さい。”大統領の車両が捕まる” 大統領の乗った車が歴史上初めて 駐車禁止チケットを切られた瞬間です(笑)。インドでは前代未聞の出来事 その後「お蔵入り」となった事件です。今後も起こることは無い。一度でもうこりごりだったでしょう。私はただ自分自身のルールに従いました。私は思慮深く不正は決して許しませんでした。正義感が強かったのです。それが、私が女性としてインド警察に入った理由です。他のやり方もありましたが、私は選びませんでした。
4 「お祈りはする?祈りを捧げたい?」
では2つ目の旅はというと 厳しく平等な警察活動についてです。その後、私は頑固な女性警官として有名になり 左遷されました。他の警官は行きたがらない任務に送られたのです。刑務所の看守の仕事でした。皆、看守の仕事は嫌がります。私を刑務所に閉じ込めれば 車もないので お偉いさんに駐禁チケットを切らないと思ったのでしょう。彼女を閉じ込めよう!ってね 私は看守となり、大勢の犯罪者たち相手の任務に就きました。予想どうりです。1万人いる受刑者のうち、女性受刑者はたった400名です 約9600名が 男性受刑者、テロリスト、レイプ犯 強盗犯やギャング達 その中には私が以前 逮捕した者もいました。さあ、彼らとどう向き合うか。任務の初日 彼らをどのように見ればいいのかわからなかった。私はまず尋ねました「お祈りはする?」 小柄な若い制服姿の女性が尋ねるのです 「お祈りは?」 彼等は黙っていました。私は続けました「お祈りはする?祈りを捧げたい?」と 「イエス」と答えた彼等に「では一緒に祈ろう」と、 私は彼等の為に祈った。そこからすべてが変わり始めたのです。これは実際の刑務所の中の映像。
5 教育の力で刑務所を僧院に変えた
前代未聞だったんですよ。受刑者全員が勉強をするということです。初めは周辺地域の協力を得ました。政府からの予算は無かった。世界でも稀に見る質と規模の 刑務所内でのボランティア活動と言えます。始まりはデリーの刑務所から。この映像はあるクラスで 受刑者の一人が先生をしている姿です。数百という授業が開講し 朝9時〜11時、受刑者は授業に参加します。邪魔者である私を閉じ込めた檻の中 その場所で起こったのです。私達は環境自体を変えました。教育の力で刑務所を僧院に変えたのです。これは大きな変革だったと思います。そして更なる変化の始まりでした。先生は受刑者やボランティア 本は学校からの寄付 文房具も寄付品でした。すべて寄付で賄われていました。刑務所内の教育への予算は無かったのです。もしこのプログラムが無ければ この場所は地獄と化していたでしょう。
6 瞑想プログラムとご意見箱を取り入れた
これが二つ目の金字塔です。私の旅の中の歴史的な瞬間をお見せしたい。世界でもここでしか見られない光景です。まずその人数 そしてユニークな概念 これは刑務所での瞑想プログラムの様子です。千人以上の受刑者が参加し、共に座り瞑想をしています。刑務所所長としてこの決断は、とても勇気の要るものでした。その結果がこの変容です。もっとお知りになりたい方は 映画「Doing Time Doing Vipassana」をご覧ください。ご覧になればより感銘を受けるでしょう。KiranBedi.comまでメールでご感想を 返事を書きます。次のスライドをお見せしましょう。私はマインドフルという概念を取り入れました。そもそもなぜ瞑想をインドの刑務所に導入したのか?それは犯罪は歪んだ心(マインド)が引き起こすものだから。歪んだ心に向き合い制御する必要があります。説教をされても、命令をされても 本をよんでも効果はなく、心としっかり向き合う必要があるのです。同じことを警官達にも求めました。警官達も同じく「心という檻」に囚われています。警官達は自分たちと受刑者の間に壁を感じ なぜ反抗するのかと嘆きます。効果テキメンでした。
これはご意見箱です。私が導入したアイデアで 不平不満を聞き入れるためでした。これは魔法の箱でした。思いやりの箱です。これはある受刑者が描いた刑務所の様子です。青い服を着ているこの男性 そう、この人 彼は受刑者であり、教師でもありました 見ての通り、周りは忙しくしています。無駄な時間はありません。
7 恵まれない境遇の子どものための教育運動が人生の情熱
最後に一言 私は現在ある活動をしています。恵まれない境遇の子ども達のための 教育に関わる運動です。その数は数千人。インドは何でも数千単位ね インド社会の腐敗を阻止する活動も これは大きな問題です。私達は少人数の活動家のグループとして インド政府にオンブズマン法案をまとめました。皆さん、乞うご期待ください。これが私が現在取り組んでいる活動で そしてわが人生の情熱です。ありがとうございました (拍手)
最後に
教える立場になって初めて教育の大切さを実感できる。みなで教え合おう。
和訳してくださった Yuka Yano 氏、レビューしてくださった Maki Omori 氏に感謝する(2010年12月)。
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