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シーラ・ニーレンバーグ 「失明した網膜への新たな補綴治療」

「失明を治すには、網膜の働きを一連の計算として抽出して再現すればいいのです」シーラは語りかける。ここでは、30万ビューを超える Sheila Nirenberg のTED講演を訳し、補綴装置を視神経に直接つないで、網膜から電気信号を脳に送信する方法について理解する。

要約

TEDMEDにて、特定の失明状態を抱える患者に対して視覚回復が望める大胆なアプローチを、シーラ・ニーレンバーグがご紹介します。補綴装置を視神経に直接つないで、網膜から電気信号を脳に送信するという方法です。

Sheila Nirenberg studies how the brain encodes information — possibly allowing us to decode it, and maybe develop prosthetic sensory devices.

 

1 失明に対して補綴装置を利用する試み

私は脳の情報処理系の 研究をしています。外界から受け取った情報を 電気活動の信号配列に変換することで 人は見たり 聞いたり ものに手を伸ばしたりと 行動を取っているのです。私は臨床医ではなく 基礎医学者なのですが この1年半で得た信号配列の 知識を応用して補綴(ほてつ)装置の 開発を始めました。信号配列解析の応用例を お見せします。これは失明に対して 補綴装置を利用する 私たちの初の試みです。

 

2 失明のリスクを抱える人は米国に1000万人いる

失明で苦しんでいる方と 黄斑変性などの網膜の 疾病により失明のリスクを 抱える人は米国に1000万人 世界中にも数多くいます。現在この症状への 対処法はほとんどありません。薬物療法もありますが 効力を発揮するのは 一握りの患者だけです。ですから大抵の場合は補綴装置による 視覚回復が頼みの綱となります。現在出回っている装置では 視覚は限定されてしまい 真の補綴とは言えません。例えば 明るい光や 高コントラストの部分なら 見えるようになりますが これが限界で 正常な視覚には ほど遠いというのが現状です。

 

3 健康な網膜の働きは、画像がコード化されることが大切

本日 紹介するのは 私たちが研究を続けてきた より効果的で 失明治療の 分岐点になりうる装置です。その仕組みをお見せします。少し詳しくなりますが まず私たちが解決を目指す課題を 理解頂くために健康な網膜の 働きを簡単に説明します。左側が画像で 次に網膜― 右側が脳です。目にこの赤ん坊のような 画像が飛び込んできた際に 網膜最前列の光受容器という 視細胞がこれを受け取ります。次に中心部の 網膜回路が作動します。受信した画像を計算処理し 光情報を抽出して これをコード(一連の信号)に書き換えます。この電気パルス信号が 脳に送られます。ここで画像が最終的には コード化されるという点が 大切になります。文字通りコード化されます。画面上のコードは”赤ん坊の顔”を表しており 脳がこの信号配列を受け取ると 脳は目に映ったものは 赤ん坊の顔だと認識して 異なる信号配列を受信すれば 犬や家といった 異なる像を認識します。大まかにはこんなところです。

 

4 黄斑変性のような網脈絡膜変性疾患を患った場合

実際には画像は 動的で常に変化しています。目に映る外界が常に変るように パルスの信号配列も常に 変化します。まぁ 少し複雑なものなんです パルスの信号配列はミリ秒単位で 目から送信され脳に 何を見ているのかを伝えます。さて黄斑変性のような 網脈絡膜変性疾患を患った場合には 網膜に何が起こるのでしょう? 最前列の細胞と 光受容器が死滅するだけでなく 繋がっている細胞や網膜回路も 全て死滅してしまいます。最終的に残るのは 脳に情報を送信する 出力細胞のみです しかし変性の後は シグナルを送ることもなくなります。インプットがなくなるので 脳に送信されるはずであった 視覚情報が失われます。これが失明という状態です。

 

5 補綴装置の構成と機能

さて対処法はというと 網膜の光受容器と網膜回路を 模倣する装置をつくり 網膜の出力細胞に信号を送り 脳への視覚情報の送信を 復旧するというものです。これが私たちの研究課題でした。そしてこれがその補綴装置です。エンコーダとトランスデューサ(変換器)で 構成されています。このエンコーダが網膜前部の 画像の受信と そのコード化の プロセスを代行します。次にトランスデューサが コードを出力細胞へ渡し 脳へコードが送られます。こうして この補綴装置は 通常の網膜出力を再現します。こうすることで 網膜回路や 光受容器を失った 失明状態であっても 脳が画像と解釈できるように 通常通り信号を送れるのです。これは今まで成し得なかった 初の快挙なんです。

 

6 網膜の働きを一連の計算として抽出し再現している

さてこの装置の 中核であるエンコーダについて もう少しお話しします。興味深く いかした部分でもあります。”いかした”というのは 適切な言葉かどうか分かりませんが 言いたいことは伝わるでしょう。ここでは網膜回路と その中核で行われている 複雑な計算を電子チップで 再現しているのです。単純な計算処理なんですよ。つまり網膜の代替物を埋め込んでいるのでもなく 異なる役割の全ての細胞に対応する マイクロデバイスを 作っているのでもありません。網膜の働きを一連の計算として 抽出し再現しているのです。ある意味この計算式が 電信暗号帳の役割を果たしています。通常の網膜が行うように 画像が受信され 一連の計算を通り抜け 電気信号に書き換えられるのです。

 

7 3種類の発信信号記録の比較

それではこの装置を利用して 正常な出力ができることと この進歩が一体何を意味するのか お見せしようと思います。これは3種類の発信信号記録です。一番上は盲目でない動物の記録で 真ん中が私たちの 補綴装置で治療を受けた 盲目状態の信号記録です。下が従来の補綴装置を使用した 盲目状態の信号記録です。下の記録はエンコーダなしの 光検出器を利用した 現在利用されている中では 最先端機器を使用した信号記録です。それぞれに対して 人間・赤ん坊 公園のベンチなど日常生活で 目にする画像を見せた後の 先ほどの3種類の状態の 網膜の反応を記録しました。3つの図には 種類毎の 発信信号が示されており 先ほどのスライドと同様に 縦軸は 5~6個のそれぞれの細胞に対応しています。データ全体を見やすくする 便宜上 パルス信号を 縮小して表示してあります。

 

8 従来の方法は正常な発信信号とは異なる情報を送信してしまう

ご覧の通りエンコーダと トランスデューサを使用した 2番目の盲目グループの発信信号は 完璧ではないものの 正常なものと大差有りません。従来の補綴装置を 使用した3番目のグループは 信号がほとんど一致しません。つまり従来の方法は送信を可能にするものの 正しくコード化されていないために 正常な発信信号とは 異なる情報を送信してしまうのです。これはどういうことでしょうか? 利用者の視覚能力に どのような影響を及ぼすのでしょう? この質問にお答えするため ある重要な実験をお見せします。他にもデータはたくさんありますので 興味の有る方にはお見せいたします。これは再構築実験と 呼ばれています。動画の部分部分を抜き出し そこで網膜は何を見ていたのかを 確認するというものです。さて発信信号から 網膜が見ていた画像を 再現できるのでしょうか?

 

9 私たちの装置と従来の装置の両方で再現性を確認する実験

この実験では私たちの装置と 従来の装置の両方で 再現性を確認しました。それでは結果ですが 従来の装置ではこうなりました。限定的であることが伺えます。発信信号が正しく コード化されておらず 何かがあるのは分かりますが 像はとても不明瞭であり 情報量は貧弱です。先ほどお話しした通り 高コントラスト部や 明るい部分しか見えないために このような不明瞭な画像が 生成されてしまうのです。実際の画像はなんだったのでしょう? 赤ん坊の顔です。さて コードに変換する私たちの アプローチはどうでしょうか? かなりの改善が見られれますね。赤ん坊の顔だと分かるだけでなく 元画像と同じ赤ん坊だと認識できます。これは本当に大変な作業なんですよ。左側はエンコーダ単体を使用したもので 右側はエンコーダとトランスデューサを 両方を使用した場合の画像です。しかしここでの鍵はエンコーダです。というのもこれは色々な トランスデューサと組み合わせられます。

 

10 外界の情報を脳に伝え、それを脳が理解することが重要

実はこれが初めての試作品なんですよ。従来の方法にもコメントしておきましょう。盲目の網膜が画像を伝達できるなんて 発表された当時は 本当に心躍らされました。しかし コードもなく信号精度の 改善も必要で、健康な網膜と同じ様に 忠実に再現するという点では 制約を抱えていましたが 私たちがこれらを解決しました。まとめると 本日はコードを介して 脳に正しく伝達できることと その手段の一例として 私たちの装置を紹介しました。先ほど申し上げたとおり データは他にいくらでもありますので 興味のある方には お見せいたします。この補綴装置は運動系装置のように 脳からの信号を装置に伝えている わけではありません。外界の情報を脳に伝え それを脳が 理解することが重要なのです。

 

11 コードの理解こそが大きな意味を持つ

最後に強調してお伝えしたいのは この考え方は汎用的に 適用できるという点です。私たちが網膜のコードを解明した手順を 聴覚や運動系に対応する コード発見に活用することで 聴覚消失症や運動不全障害も 治療することが 十分可能です。網膜回路を飛び越えて その先の出力細胞に たどり着いたのと同じ方法で 蝸牛殻の先の 聴覚神経にたどり着いたり 脳卒中によって生じた 大脳皮質内と 運動皮質との間の溝を 埋めることもできます。最後にコードの理解こそが 大きな意味を持つということは 覚えておいて下さい。この脳の言語であるコードを 解明できれば以前は明らかに 不可能であったことが可能となるのです。ご静聴ありがとうございました(拍手)

 

最後に

失明を治すには、網膜の働きを一連の計算として抽出して再現すればいい。外界の情報を脳に伝え、それを脳が理解することが重要。コードの理解こそが大きな意味を持つ。脳をいい意味で騙そう

和訳してくださった Takahiro Shimpo 氏、レビューしてくださった Akinori Oyama 氏に感謝する(2011年10月)。

網膜診療クローズアップ


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