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公的保険の特徴は強制加入、賦課方式、変額年金 年金と医療保険

前回は、DIYで保険ポートフォリオを作成しよう 生命保険と税金についてまとめた。ここでは、公的保険の特徴は強制加入、賦課方式、変額年金 年金と医療保険について解説する。

1 公的保険とは何か

国営保険は強制加入

公的保険(公的社会保障)は「公的年金」と「公的医療保険」の2つで、法律によって加入(購入)が強制されているものである。日本国籍を持ち日本国内に移住する以上、日本国が運営・販売する国営生命保険に加入しなければならない。

 

企業年金

公的保険と民間企業が販売する個人保険の中間に、国家の事務を一部代行する形で企業(法人)によって運営される保険がある。これが「企業年金(厚生年金基金・規約型企業年金)」や「組合健康保険」と呼ばれるもので、公的保険に準ずる扱いを受けることがある。

 

賦課方式と積立方式

賦課方式は必要な年金原資を同時期の現役世代の保険料で賄うもので、積立方式は将来の年金給付に必要な原資を保険料で積み立てていくものである。前者は人口変動の影響を受け、後者は金利変動の影響を受ける。日本の公的年金は、(積立方式を加味した)賦課方式で、民間生保は積立方式である。

 

誰でもわかる公的年金危機の理由

公的年金危機の理由は、少子高齢化である。賦課方式は加入者(人口)が増加しているときには有利だが、高齢者の数が増えると若者の負担が相対的に増えるからである。

 

定額年金と変額年金

民営年金の多くが保険料も給付額も一定の「定額年金」であるのに対し、公営年金は給付額ばかりか保険料まで変動する「変額年金」である。サラリーマンの場合、公営年金の保険料は収入に比例し、保険料率もしばしば上がる(自営業者の場合は定額だが、適宜変更される)。

 

公営年金はインフレに強く、デフレに弱い

公営年金は変額徴収なため、インフレに合わせて上がった保険料収入を原資にして、インフレ分を増額した年金を受給者に支払うことが可能である。反面、デフレであっても支給額を減額することは難しいため、公営年金はインフレに強く、デフレに弱いといえる。

 

2 腐りゆく国民年金

日本の年金の仕組み

日本の年金制度は3階建てといわれ、基礎年金に当たる部分を1階、厚生年金や共済年金の報酬比例部分を2階、厚生年金基金や規約型企業年金を3階にたとえられる。

1階部分の基礎年金(国民年金)は、自営業者などは「第1号被保険者」、サラリーマン・公務員(厚生年金・共済年金)は「第2号被保険者」、サラリーマン・公務員の妻(年収130万円以下の専業主婦)は「第3号被保険者」と区別される。理論的にはすべての国民が保険料を支払い、年金を受け取れる「国民皆保険制度」が完成している。

 

保険料を払わない人たち

しかし、国民年金の未納率が42.9%(2013年1月現在)に落ち込むなど、制度にほころびが出てきている。現状では、第2号被保険者の保険料から足りない分を補充することでその仕組みを維持している。

 

「サラリーマンの妻」という問題

また、「第3号被保険者問題」も問題である。サラリーマンの妻(専業主婦)は保険料を納めることなく、65歳になった時点で規定の基礎年金を満額受け取ることができるのである。これは、専業主婦のいるサラリーマンは一人分の保険料で2人分(夫婦)の基礎年金がもらえるが、独身や共働き夫婦、妻に先立たれたり離婚したサラリーマンは、他人の奥さんの保険料まで肩代わりしなければならないからである。

ただし、第3号被保険者制度自体は「サラリーマンの妻が離婚した場合、保険をもらう資格がなくなるのは国民皆保険の原則に照らしておかしい」というところから制定されたものであるため、それなりの意味を持っている。

 

3 世にも不思議な厚生年金

最悪のドンブリ勘定

厚生年金の最大の問題は、1階と2階が渾然一体になっていることである。1階に当たる定額部分は、国民年金などと同じ基礎年金に該当する。2階にあたる報酬比例部分は、「手に職がある自営業者と違って、サラリーマンは退職したら収入がなくなって大変だから」という理由で加算されたものである。

ところが現実は、基礎年金の欠損金の穴埋めに使われたりしているため、ごく普通のサラリーマンが基礎年金維持のために多額の保険料を納めているのである。

 

厚生年金の保険料

厚生年金の保険料は、年収の16.766%となっている(2013年8月末まで。毎年0.354%ずつ上がり、2017年9月以降は18.3%になる)。この保険料は労使折半とされているが、会社の経費として負担しているだけであるため、実質は人件費と同じである。つまり、年収500万円(税引き前)のサラリーマンは毎月69,858円(年間838,300円)もの保険料を支払っているのである。これは、国民年金(2013年現在、月額15,040円)の4倍以上もの保険料を払っていることになる。

 

4 絶対にうまくいかない厚生年金基金

企業年金なのに公的年金

厚生年金におけるドンブリ勘定問題は、この厚生年金の上に「厚生年金基金」というわけのわからない年金(3階部分)が乗ることで、さらに混迷の度合いを深めている。それは、厚生年金基金は「企業年金」であるにもかかわらず、企業が厚生年金基金を作ると、厚生年金の保険料を2.4%まけてもらうことができるのである(免除保険料)(2013年8月まで)。この2.4%を厚生年金基金で運用し、その分の年金も国に変わって基金から支払われることになっている。

 

代行部分とは天下り先がいっぱい

このような複雑な仕組みができた理由は、私的機関である厚生年金基金に公的な役割を担わせることで、旧・厚生省の役人の天下り先確保をするためである。その証拠に、全国各地の厚生年金基金の理事長は、ほとんどすべて旧・厚生省OBで占められている。表向きの理由は「企業(業界)ごとの基金では運用額が少なすぎて効率的な運用ができないから、公的年金の一部を移管して運用成績が上がるようにする」というものだが、そこまで面倒を見る正当性がない。

 

大赤字の基金

厚生年金基金は公的年金である厚生年金の一部を代行運用しているため、自由な商品設計ができず、厚生年金の仕組みをそのまま使わざるを得なかった。そこで生じた最大の問題は、予定利率である。

旧・厚生省は、1969年の「厚生年金規則」による制度発足以来、30年も厚生年金の予定利率を5.5%のまま据え置いていた。そのため、厚生年金基金の予定利率も5.5%にしていたが、バブル崩壊後の株価下落と低金利で5.5%という運用利回りを出すことができなかったのである。

なお、「代行部分」の積立不足額は1兆円を突破しており、厚生年金基金廃止妥当でほぼ一致と厚生専門委員会が意見書を提出している。このように、旧・厚生省の天下り先として登場した厚生年金基金は、高すぎる予定利率と加入者が永遠に続くことにした「開放型方式」という歪んだ商品設計のために、確実に消滅していく運命なのである。

 

5 年金をいくら受け取れるのか

国民年金の額

全国民に受給権がある基礎年金の給付額は、2012年現在、65歳から年額786,500円(40年間にわたって満額の保険料を納めた場合)となっている。夫婦で毎月約13万円の年金がもらえるということである。

 

年金額は1割減

年金問題の根本は、将来の給付額に対して保険料収入が少ないということである。そのため、給付額を下げて保険料収入を上げるということが考えられる。しかし、公的年金や恩給の総所得に占める割合が80〜100%未満という高齢者世帯が63.5%平成22年 国民生活基礎調査より)と、老後は年金を頼りにしているという高齢者が多いことがわかる。そのため、現実的な案としては年金給付額を1割削減し、保険料を2割増加させるというものが考えられる。

 

厚生年金の年金額

厚生年金の年金額は、報酬比例部分に限り60歳からの受給が認められており、標準モデルで毎月10万円くらいの金額であった。しかし、1953年4月2日生まれの男性から1年ずつ受給年齢を引き上げ、1961年4月2日生まれ以降は国民年金と同じ65歳受給にすることになった。

 

空白の5年間

2013年現在、52歳以下のサラリーマンにとっては、60歳から65歳までの「空白の5年間」をどのように過ごすのかが、人生における最重要問題となってきている。一般の日本企業は60歳が定年であるため、60歳から5年間無収入になるという大きなリスクを前提に、人生設計する必要が出てくるからである。最低限、住宅ローンは60歳までに完済しておくことは絶対条件であろう。

また、60歳時点で5年間無収入でも生活できるだけの貯蓄を持っておくことである。夫婦2人の1ヶ月の最低生活費を20万円としても、年間240万円、5年間で1200万円が生活費として消えていくことを前提にしておかなくてはならない。なお、60歳からの繰上げ請求も可能だが、受給額は生涯にわたって30%減額される

 

報酬比例部分も減額対象

厚生年金の場合、報酬比例部分の年金も削減の対象になっている。2000年の年金改革で公営年金の給付額は、国民年金に先んじて報酬比例部分が約23%減額された。定額部分と合わせても約13%のカットである。

 

公的年金の収支

このように、将来の給付額が保険会社(日本国)の都合によって変わる変額年金の場合、経営が急速に悪化すれば保険料値上げと給付削減によって、いずれ返戻率が100%を割ってしまう。

厚労省は2015年生まれでも負担給付比率は2.1倍で、公的年金への加入はどの世代にとっても有利な取引だと強調しているが、事業者負担分を除いて計算している。事業者負担分の保険料も人件費の一部と考えると、負担給付比率は1975年生まれで1.2倍、2015年生まれでは1.05倍と、支払った保険料しか戻ってこない計算になる。公的年金には税額控除などの優遇措置があるが、通常の複利計算から考えると、若い人ほど他の金融商品で運用したほうが有利なのは間違いないだろう。

これに対して、国民年金は保険料が定額(2013年現在、月額15,040円)で給付水準もほぼ据え置かれている(2013年現在、月額65,541円)ので、将来の給付額は保険料負担額を上回ると考えられる。

 

6 公的年金を立て直すには

保険料の行き先

厚労省が発表した2011年度の厚生年金と国民年金の決算概要によると、「年金特別会計」の積立金残高は、時価ベースで119兆4016億円と前年から2兆4910億円減少した。運用先は、以前は大蔵省資金運用部(現・財務省財政融資資金)に預託されて、公団や政府系金融機関などに融資されてきた。現在では、年金積立金管理運用独立行政法人が運用しており、国内債券63.3%(市場51.4%、財投債11.8%)、国内株式12.5%、外国債券8.7%、外国株式11.4%、短期資産4.0%というポートフォリオを組んでいる(2011年現在)。

 

年福事業団とは

年金福祉事業団(年金資金運用基金→現・年金積立金管理運用独立行政法人)は、1996年から年金特別会計の積立金の一部を運用する、旧・厚生省の外郭団体である。2002年度末で6兆円以上の累積赤字を出していたが、その責任を追及されたことはない。

また、年福事業団の住宅融資では、年金財政から各地の「住宅福祉協会」に利益を横流しするという詐欺的行為を行っていた。その仕組みは、各地域に「年金住宅福祉協会」という名前の法人を設立し、そこにほぼ無利息で融資し、年金住宅福祉協会は住宅金融公庫並みの利息で貸し出すというものである。年福事業団は、1997年に橋本政権の閣議決定により廃止することが決まったが、既得権益からの反撃は凄まじく、2001年4月になってようやく事業が解散された。

 

基礎年金の税方式化で一挙解決

こうした公的年金の問題を解決するには、基礎年金の税方式化を行うことが考えられる。つまり、基礎年金の財源を消費税にすることで、保険料を公正に集めるのである。しかし、元内閣参事官・嘉悦大教授の高橋洋一氏は「消費税は安定財源であるので、分権が進んだ国では地方の税源だ。社会保険方式から税方式へ移行した先進国はない。給付と負担に関係が明確な社会保険方式で運営されている国が多い」とし、各人の保険料納付記録をもつ社会保険方式を改善して運用することを提言している。

 

省庁の利権の壁

いずれにせよ、こうした解決策が実行できない理由は、厚労省と財務省の利権を直撃するからである。厚労省としては、「もし基礎年金が消費税(福祉目的税)で徴収されると、社会保険庁の仕事がなくなってしまう」という危機感であり、財務省としては、「年金が福祉目的税になってしまうと、消費税が自由に使えなくなってしまうから反対」というものである。しかし、「歳入庁は世界の流れ」であり、国民総背番号制の導入によって、より簡素・公正な制度を作るのが今後の流れであろう。

 

保険料は引き下げるべき

また、一橋大学の高山憲之氏は「保険料は今よりも引き下げるべき」と主張している。引き下げの原資は、年金特別会計の積立金の取り崩しか、毎年の運用益をあてればよい。119兆円という大きな積立金を持っている国は日本以外になく、年金システムを健全化すれば、20〜30兆円の資金があれば十分なのである。

 

企業年金大混乱!

企業年金(3階部分)には厚生年金基金(基金)のほかに、中小企業向けの「税制適格年金(適年)」というものもある。適年は2012年3月末で制度の廃止が決まり、現在は確定給付企業年金、確定拠出年金、中小企業退職金共済制度などに移管されている。基金と適年の違いは以下の7つが挙げられる。

  1. 基金は厚労省所管、適年は財務省所管
  2. 基金には代行部分があるが、適年には代行部分はない
  3. どちらも企業拠出分は損金の、従業員拠出分は税引き前控除の対象になるが、適年は積立金に特別法人税が課税される
  4. 基金は厚労省の認可が必要でハードルが高いが、適年は税務署に届ければ誰でも始められる
  5. 基金は厚労省の許可がなければやめられないが、適年は企業の判断でやめることができる
  6. 基金の予定利率は厚労省によって決められるが、適年は企業が設定
  7. 基金は大企業を中心に577基金(411万人(2011年))、適年は廃止

 

退職給付債務とは

退職給付債務とは、企業の退職金支払い義務をバランスシートに計上するというもので、1985年にアメリカで本格的な導入が始められ、現在では国際会計基準として広く認められている。しかし、厚労省が決めた5.5%という法外な予定利率で、日本のほとんどの企業年金が大幅な積立金不足に陥っている。一部の専門家の試算によると、日本企業の退職金債務の総額は80兆円にものぼるとされている。

 

劇的な解決策

企業年金の退職給付債務問題の劇的な解決策は、厚生年金基金を解散して代行部分を国に返上し、残ったお金を加入者の間で分配してしまうことである。それは、日本紡績業厚生年金基金の悲惨な最後が物語っている。この基金が実際に解散したところ、代行部分まで赤字になっていたという事実がわかり、最終的に積立金の不足額を企業側が全額負担することになった。

この理不尽さに対し、一部の企業が基金の運営責任者である元理事長と常務理事を訴えたが、「代行部分は基金が運営しているが、実体は公的な年金である以上、公務員と同様に個人に賠償責任を問うことはできない」とする判決が出ている。厚生年金基金は、何をやっても責任を取らなくていい最高の天下り先だったのである。

 

日本版401k

退職給付債務問題の究極の解決策として登場したのが、日本版401k(確定拠出型年金)である。個人年金との一番の違いは、企業年金であるため税制面での特典があることである。拠出額・運用益が非課税で、受給の際にも優遇措置が適用されるので、民間生保の商品よりも有利である。

日本版401kは、企業にとっても従業員にとってもメリットがある。企業にとっては、変額保険なので運用結果に責任を負わなくてよく、債務としてバランスシートに計上する必要もない。従業員にとっては、資産運用をある程度の候補から自由に選択でき、持ち運びをすることもできるのである。

なお、日本版401kの運用益を老齢給付年金として受け取った場合は公的年金控除が適用され、一時払いの老齢給付金は退職所得と同じ扱いになる。

 

最後に

公的保険の特徴は、①強制加入、②賦課方式、③変額年金の3つ。強制加入な分、様々な税制上の優遇措置が適用される。確定拠出型年金(日本版401k)でも、こうした優遇措置に加え、本人が運用先を選択できるように改善されてきている。

厚生年金のずさんな管理には驚くばかりである。利回りの減少や少子高齢化の進行という外部要因もあるが、それに対する対応が保険料値上げと給付削減に終始しているのは、あまりにひどすぎる。実質本人負担を事業者負担(人件費≒福利厚生費)と称して、負担給付比率を2倍以上と試算しているのも正直さに欠ける。まずは自分が払ったお金の使い道に興味を持つこと。可能な限り自己運用してみること。いい意味で国をあてにしないこと

次回は、健康保険制度が生んだ貧しい医療 国民健康保険についてまとめる。

世界にひとつしかない「黄金の人生設計」


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