「アルゴリズムこそ機械に命を吹き込む魔法なのです」ラファエロは語りかける。ここでは、400万ビューを超える Raffaello D’Andrea のTED講演を訳し、私たちが直面している選択について理解する。
要約
TEDGlobalのロボット・ラボで、ラファエロ・ダンドリーアがクアッドコプターのデモを披露します。運動選手のように考え、学習を助けるアルゴリズムで物理的な問題を解決します。一連の素晴らしいデモで、ダンドリーアはドローンがボールをキャッチし、棒のバランスを取り、協調して意志決定する様をご覧にいれます。きっとすぐにでも欲しくなる、キネクトでクアッドコプターを操るデモもお見逃しなく。
Roboticist Raffaello D’Andrea explores the possibilities of autonomous technology by collaborating with artists, architects and engineers.
1 運動抜群の機械というのはどういうものでしょう?
運動抜群の機械というのはどういうものでしょう? これから機械の運動能力の実演と それに必要な研究を クアッドコプターを使って ご覧に入れます。所謂クアッドは結構昔からあったのですが 最近流行りだした理由は 構造的にとてもシンプルだからです。4つのプロペラのスピードを – 制御することによってロール、ピッチ、ヨーの動作と プロペラの方向への加速が出来ます。またこれには電池コンピュータ 様々なセンサと無線がついています。
2 研究の大きな部分をアルゴリズムが占めている
クアッドはとても敏捷ですが その代わり不安定で ちゃんと飛ばすためにはフィードバック制御が必要になります。今のを どうやってやったのかですが 天井のカメラとノートPCが この室内の測位システムの役割をしていて 反射マーカーを付けた物の 位置を測定しています。推測と制御のアルゴリズムを実行する 別のPCにそのデータが送られそこから – クアッドに指令が送られます。クアッド自体も推測と制御のアルゴリズムを実行しています。私達の研究の大きな部分をアルゴリズムが占めています。それが この機械に命を吹き込む魔法なのです。
3 「モデルベース設計」と呼ばれる手法を使っている
では機械の運動選手のためのアルゴリズムは どう設計したらいいのでしょう? 私達は広く「モデルベース設計」と呼ばれる手法を使っています。まず機械の動き方を数学的モデルを使い 物理的に把握します。それから制御理論という 一種の数学を使ってそのモデルを分析し 制御のためのアルゴリズムを組み上げます。例えば どうすればホバリングさせられるのか? まず力学的性質を 一連の微分方程式で記述します。それから制御理論を使って方程式を操り クアッドコプターを安定させるアルゴリズムを作ります。
4 クアッドコプターに棒を立てさせてみる
このアプローチがいかに強力かお目にかけましょう。クアッドコプターにホバリングするだけでなく バランスを取ってこの棒を立てさせることにしましょう。少し練習すれば 人間には苦もなくできることです。両足を地面に付けて 器用な手を使って やるということであれば – でも片足で立って 手を使わずに足でやるとなると ちょっと難しくなります。棒の先端に反射マーカーがあって 部屋の中での位置が分かるようにしてあることに注意してください(拍手)
5 クアッドに棒の数学的モデルを追加した
棒のバランスを取るためにクアッドが細かく – 調整しているのが分かるかと思います。このアルゴリズムをどう設計したかですが クアッドに棒の数学的モデルを 追加したんです。クアッドと棒を組み合わせたモデルができれば 制御理論を使って その制御をするアルゴリズムが作れます。ご覧のように安定していて ちょっと押してやっても バランスの取れた状態に戻ります。
6 このモデルを拡張して行って欲しい場所も含めることができる
このモデルを拡張して 行って欲しい場所も含めることができます。この反射マーカーのついた指示棒を使って 私から一定の距離で クアッドに行って欲しい場所を指示します。このような曲芸飛行の鍵になるのが 数学的モデルと制御理論に基づいて設計された アルゴリズムです。クアッドに戻ってきて 棒を落とすように指示しましょう。次に物理的モデルや – 物理的世界の仕組みの理解が いかに重要かをお見せします。水入りのコップを載せたとき 高度が下がったのにお気づきでしょう。棒のバランスを取った時とは違い このコップは数学的モデルに組み入れていません。このシステムは 水の入ったコップがあることさえ知りません。前と同じようにポインタを使って 好きな場所にクアッドを行かせられます (拍手)
7 水の入ったコップを運ぶのは簡単で、棒のバランスを取るのは難しい
不思議にお思いかもしれませんが なぜコップの水がこぼれないのでしょう? 2つの要因があって1つは重力がすべての物に 同じように働くということ。もう1つは プロペラがみんなコップと同じ 真上を向いているということです。この2つの結果として コップに対して横にかかる力はわずかで 主に空力的な効果ですが 今のスピードでは無視できます。コップをモデルに含めなくてもいいのはそのためです。クアッドが どのように飛ぼうと水はこぼれません(拍手)。ここでの教訓はある種の動作は 他の動作よりも簡単で どのような動作が簡単かは その物理現象を理解することで分かるということです。今の場合 水の入ったコップを運ぶのは簡単であり 棒のバランスを取るのは難しいというわけです。
8 冗長性を持たせるかわりに人間の運動選手のように対応する
怪我をしていながらもすごいことを – やってのける運動選手の話をよく聞きます。機械の場合本体に大きなー 損傷があっても機能できるものでしょうか? 一般的にはこれを飛ばすためには 少なくとも4つのプロペラが必要とされています。ロール、ピッチ、ヨー、加速と 4つの自由度があるからです。ヘクサコプターやオクトコプターには6つか8つのプロペラがあり 冗長性があります。クアッドに人気があるのは 4つという最小限の モーターとプロペラしかないからです。それが欠けたらどうなるのでしょう? 2つのプロペラしか機能していない場合の 数学的モデルを分析したところ 異例な方法で 飛ばせられることが分かりました。新しい構成に基づいた アルゴリズムによってヨーの制御はあきらめつつ ロール ピッチ 加速は制御し続けることができます。数学的モデルはそれが正確にどんなとき なぜ可能なのかを教えてくれます。この知識によって機体の損傷に対して 柔軟に対応できる新しい構造や 優れたアルゴリズムを設計することができます。冗長性を持たせるかわりに 人間の運動選手のように対応するのです。
9 練習を繰り返し、動きを身に付けることによってのみこのような動きは実現できる
飛び込み選手が宙返りしながら 水に飛び込んだり跳馬選手が迫る地面を前に 空中で身を捻るのを見る時 思わず息を止めますよね。飛び込み選手はきれいに着水できるか? 跳馬選手は着地を決められるか? このクアッドに 3回転宙返りして 元の位置に戻らせたいとしましょう。非常に素早い動作が要求されるため やっている最中に位置を教えて動きを修正させることはできません。十分な時間がないのです。かわりにクアッドは目隠しでやって 動作をどう終えたかを観察し その情報によって動きを修正し 次回にもっとうまくできるようにします。飛び込みや跳馬の選手と 同じように練習を繰り返し 動きを身に付けることによってのみ このような動きは実現できるのです(拍手)
10 動くボールを打ち返すことをどうすれば機械にさせられるか
動くボールを打ち返すというのは様々なスポーツで要求されるスキルです。運動選手が苦もなく やっているように見えることをどうすれば機械に させられるでしょう?(拍手)。このクアッドはラケットが貼付けてありますが スイートスポットはリンゴの大きさほどしかありません。次に説明する計算を20ミリ秒ごと つまり1秒間に50回しています。最初にボールの飛ぶ先を求めます。それから投げられた場所に打ち返すには ボールをどう打つ必要があるか計算します。それから現在位置からボールを打つ位置まで 移動する軌道を計画します。そして その計画を20ミリ秒間だけ実行します。20ミリ秒後にまたこのプロセス全体を繰り返し ボールを打つ瞬間までそれを続けます(拍手)
11 機械はダイナミックな行動を集団で行うこともできる
機械はダイナミックな行動を単独で行うだけでなく 集団で行うこともできます。この3台のクアッドは協働で網を持っています(拍手)。ボールを私に投げ返すために とてもダイナミックで集団的な 行動を取っています。引っ張りきった時クアッドが直立しているでしょう? (拍手) 実際この時にかかる力は バンジージャンプした人が綱の先で受ける力の 5倍ほどにもなります。このためのアルゴリズムは 単独でボールを打ち返す場合とよく似たものです。数学的モデルを使って 絶えず – 協調的行動を再計画するというのを毎秒50回繰り返しています。
12 機械の動作を仕草によって自然に操ることもできる
ここまでは 機械の能力を見て頂きました。この機械の運動能力と人間を組み合わせると どうなるでしょう? 私の前にあるのは主にゲームで使われる 市販の – ジェスチャーセンサーです。私の体の動きを リアルタイムで把握できます。先ほど使ったポインタと同様に これも入力システムとして使うことができます。これにより機械の動作を 仕草によって自然に操ることができます(拍手)
13 クアッドにかけられる力を推定する数学的モデルを使えば、振る舞いを変えることもできる
インタラクションは仮想的なものだけでなく物理的なものでもあり得ます。たとえば このクアッドは 一定の場所にいようとします。他の場所に移そうとしても 抵抗して元の場所に戻ります。でもこの振る舞いを変えることもできます。クアッドに かけられる力を推定する数学的モデルを使います。力が分かれば物理法則を変えることもできます。あくまでクアッドに関する限りですが このクアッドは 粘性の液体中にいるかのように振る舞います。
14 デモの撮影に適した位置に移動させてみる
機械に対し仄めかすように 指示できるようになりました。この新しい能力を使って このカメラ付きのクアッドを デモの撮影に適した位置に移動させることにしましょう。クアッドと体を使ってやり取りし 物理法則を変えることができました。これを使って少し遊んでみましょう。次にご覧頂くのは クアッドが最初は冥王星にいるかのようですが 時間が進むにつれ重力が強くなっていき 地球の重力に戻るというものです。そこまでは続かないでしょうが ひとつ やってみましょう(笑)(拍手)
15 私達が直面しているのは技術的ではなく社会的な選択
フーッ! 「こいつら遊びすぎだろ」と 思われるかもしれませんね。それに機械の運動選手なんか作って どうするのかと疑問をお持ちかも。動物の世界では遊びは スキルや能力を磨く役割があるという説があります。集団を結び付ける社会的役割がある という説もあります。私達は同様に スポーツや競技のアナロジーを使って 機械のための新しいアルゴリズムを作り 限界を押し広げようとしているんです。機械のスピードが 私達の生活にもたらす影響は何でしょう? 過去のあらゆる発明や創作と同様 それは人々の生活の改善にも使えるだろうし 誤った使い方もできるでしょう。私達が直面しているのは 技術的ではなく社会的な選択です。正しい選択をして 未来の機械から最善のものを引き出すようにしましょう。ちょうどスポーツ競技が 私達の最善の部分を引き出すように。
16 緑色の幕の裏にいる魔術師達
緑色の幕の裏にいる魔術師達を紹介させてください。「飛行機械の競技場」研究チームの現在のメンバーです (拍手)。フェデリコ・アウグリアーロ ダリオ・ブレシアニーニ マーカス・ハーン セルゲイ・ルーパーシン マーク・ミュラー ロビン・リッツ。偉大なものを作るべく生まれてきた人たちです。どうもありがとう(拍手)
最後に
アルゴリズムこそ機械に命を吹き込む魔法。その技術をどう使うかは人間の選択にかかっている。私たちが直面しているのは技術的でなく社会的な選択。
和訳してくださった Yasushi Aoki 氏、レビューしてくださった Reiko Bovee 氏に感謝する(2013年6月)。