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「政府や役人も間違える」必要なのは確認態勢 消えた年金と改革路線

前回は、年功序列制の廃止と各省庁による再就職の斡旋禁止 公務員制度改革の肝についてまとめた。ここでは、「政府や役人も間違える」必要なのは確認態勢 消えた年金と改革路線について解説する。

消えた年金の真実

はるか昔からわかっていたずさんなデータ

2007年2月、社会保険庁に約5000万件にも及ぶ宙に浮いた不明な年金記録がある疑いを民主党などが指摘した。しかし、著者は1990年頃から年金記録システムに重大な欠陥があることを指摘していた。それは、支払った人に年金を給付する時期まで全く通知しないことで、仕組み自体に不備がある厚生年金基金などで顕著だった。

厚生年金基金とは、公的な厚生年金の一部を「代行」して、私的年金とつなぎ合わせるという得体の知れない仕組みなため、厚生年金基金から脱退する企業が出てきた。結果として2013年6月19日、代行部分での天下り先確保と予定利率の高さによって、9割の基金に解散を迫る厚生基金改革法が成立した(公的保険の特徴は強制加入、賦課方式、変額年金 年金と医療保険参照)。

公的年金では、年金は自動的に受けられない。受給前に、社保庁に要求(裁定請求)して、社保庁が受け入れること(裁定)で年金がもらえる。この裁定手続きでは、社保庁が優位である。誰しも、年金をもらいたいときには、多少の記録の不備(1%程度は間違いが出る)があっても争わない。社保庁はこうした「裁定手続き」で年金記録問題を解決しようと思っていたのである。

そこで、毎年、保険料の納付状況についての通知が必要だった(2013年現在、日本年金機構のねんきん特別便)。毎年届く通知に間違いがあれば多くの人が気づいて文句を言えるし、通知書が届かずに戻ってくれば、住所が違っているとわかる。引っ越した人や結婚をして名字が変わった人などのデータ確認もできる。

さらに、給料から天引きされているが、会社が保険料を納めていないといった問題も防止することができる。こうして、本人に確認した後に問題が起きたときには、第三者機関で判定するという方法で客観性を保つことができる。

 

社保庁を信頼する民主党案の是非

しかし、民主党は、まず約8億件の加入者のデータをすべて精査し、受給漏れが一切ないようにせよと迫っている。この案は2つの点で問題がある。

1つは、時間がかかりすぎて不利益が大きいことである。8億件を処理するとなると、2〜3年では済まない。その間に受給漏れがありながら亡くなってしまう人もいるだろう。自民党のように、段階的に処理をしていくといった優先順位をつけるほうが合理性がある。

もう1つは、社保庁の職員を信頼しながら攻撃するという矛盾を抱えていることである。8億件を処理するには膨大な数の職員が必要になる。8億件のデータを突き合わせても、最終的に訂正するには本人に確認するしかないため、結果として救済が遅くなってしまうのである。

 

アメリカの前提は「政府は間違える」

宙に浮いた年金問題が生じた最大の原因は、過度の役所への信頼にある。人間は必ず間違う。だからこそ、間違ったときにどのように対処するかのシステムを確立すれば、取り返しのつかない事態まで進むことはない。これはリスク管理の基本的な考え方である。

アメリカでは「政府は間違える」という前提に立って、三権分立を考え出し、政府の暴走を抑止している。しかし、こうした性悪説は日本人には馴染まないのか、多くの人は信じようとする。信じることはすばらしいことだが、妄信・依存であってはならない。

 

火中の栗を拾った総理と幹事長

著者らの案に賛同した安倍総理と中川幹事長は、間を置かずして「ねんきん特別便」の発送と年金記録確認第三者委員会の設置を決めた。情報を公開すれば、文句が山ほど来る。少なくとも500万人から1000万人の怒りを買う。しかも、騒ぎは1〜2年は続く。それでも、安倍総理と中川幹事長は国民のために火中の栗を拾ったのだ。

 

政権の命を奪った役人への過信

安倍政権らの手法に問題があったとすれば、役所の「システム業者もできるといっています。大丈夫です」という言葉をチェックする態勢がなかったことに尽きる

社保庁の年金記録に記載されている個人情報は、基本的には氏名、性別、生年月日のたった3つである。この程度の項目で、日本国民全員の名寄せなどはできない。住所、職歴などを加えて、最低5、6つは項目がいるのだ。業者(日立とNTTデータ)の「できる」は、おそらく「データの分類はできる」ぐらいのつもりだったのだろう。

 

改革をやめた日本はどうなる

法案成立に重要な役割を果たすようになった人々

衆参のねじれ現象が起きた場合、法案が国会で通る保証はない。官僚主導も官邸主導も成立しない環境になる。代わって鍵を握っているのは国会プロセスである。野党の協力を得るために、党の政調、国対、国会の委員会筆頭理事あたりが重要な役割を果たすことになるだろう。

 

政府や自民党内の論議に決定権なし

不安定な政治情勢では、地方分権も、特別会計改革、独立行政法人改革なども、完全な断行は至難の業だろう。しかし、見方を変えれば、若手の政治家でも議論に参加できる時代の到来でもある。国会の場で論戦し、国民の納得を得られれば、政策として取り入れられる。一議員でも堂々と政策を問うチャンスが生まれているのである。

 

切れた古巣との絆

著者は1998年、アメリカに留学するため当時の大蔵省から離れて以来、財務官僚でありながら古巣の財務省本省には一度も戻ることはなかった。しかし、財務省には感謝している。ALMに取り組んだときには全面的に協力してくれたし、アメリカ留学のときにもわがままを認めてくれた。組織の枠組みを超えず、組織のために働いている限り、実に居心地がよかった。それに尽きる。

 

時とともに証明されるもの

改革路線は一時頓挫したとしても、時の流れが再びそれを求める。小泉氏、竹中氏、安倍氏、中川氏らと一緒に残した改革路線という成果は、時がそれを正しかったことを証明してくれるはずである。

 

最後に

「郵政人事、政策金融機関の復活、鳩山総理の贈与税・相続税問題。この3つが民主党政権に対する財務省の影響の大きさを表している」著者はまえがきで語っている。税務当局を握る財務省の影響は、それほどまでに大きい。

2013年7月現在、自民党の安倍総理が復活し、衆参両院で過半数をとっている。麻生副総理・財務相、甘利経産大臣を筆頭とした抵抗勢力も存在する。しかし、改革路線は続いている

さらば財務省! 政権交代を嗤う官僚たちとの訣別 (講談社プラスアルファ文庫)


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