情報システムはすでに企業の土台を支えている。そのための方法論も研究されている。しかし、そもそも企業の目的や機能にはどんなものなのだろうか。ここでは、企業のしくみや守るべきルールなど企業活動と関連法規についてまとめる。
情報処理推進機構のシラバスにおいては「1.経営・組織論」「4.知的財産権」「5.セキュリティ関連法規」「6.労働関連・取引関連法規」「7.その他の法律・ガイドライン・技術者倫理」「9.経営戦略手法」「16.e-ビジネス」に対応している。
1 企業活動と組織のカタチ
近年では、人・モノ・金という3大資源に「情報」を加えて、経営の4大資源とみなしている(「時間」を加える場合もある)。
代表的な組織形態と特徴
企業内の組織形態としては、次のようなものが代表的である。
- 職能別組織:開発や営業といった仕事の種類・職能によって部門分けする組織構成
- 事業部制組織:取り扱う製品や市場ごとに、独立性を持った事業部を設ける組織構成
- プロジェクト組織:プロジェクトごとに、各部門から必要な技術や経験の保有者を選抜して、適宜チーム編成を行う組織構成
- マトリックス組織:事業部と職能別など、2系統の所属をマス目状に組み合わせた組織。命令系統が複数できるため、混乱を生じることがある
CEOとCIO
CEO(Chief Executive Officer)とは、最高経営責任者と訳される。株主の信任により、経営の責任者として決定権を委任された存在。企業戦略の策定や経営方針の決定など、企業経営における意思決定の責任を負う。
CIO(Chief Information Officer)とは、最高情報責任者と訳される。情報システム戦略を統括する最高責任者である。経営戦略に基づいた情報システム戦略の策定と、その実現に関する責任を負う。
2 電子商取引(Erectronic Commerce:EC)
ネットワークなどを用いた電子的な商取引のことをECと呼ぶ。
取引の形態
ECには、取引の相手によって様々な形態がある。
- BtoB(Business to Business):企業間の取引を示す(システム開発など)。商取引のために、組織間で標準的な規約を定めてネットワークでやりとりすることをEDI(Electronic Data Interchange)と呼ぶ
- BtoC(Business to Consumer):企業と個人の取引を示す(オンラインショッピングなど)
- CtoC(Consumer to Consumer):個人間の取引を示す(ネットオークションなど)
- BtoE(Business to Employee):企業と社員の取引を示す(福利厚生など)
- GtoC(Government to Consumer):政府や自治体と個人間の取引を示す(行政サービスの電子申請など)
※11/22追記
- BtoBtoC:企業に消費者向けの製品を売る(メーカーなど)
- BtoBtoC:消費者に仕入れた商品を売る(コンビニなど)
- メディア型BtoBtoC:企業にマーケティングを売る。消費者に情報を提供する(リクルートなど)
カードシステム
ECを利用するにあたり、次のようなカードが決済手段として活用されている。現在は、従来主流であった磁気カード方式から、より偽造に強く多くの情報を記録することができるICカード方式へと、順次切り替わりつつある。例えば、電車の定期券などに利用されている非接触型ICカードに用いられている技術は、RFID(Radio Frequency Identification)という。
- クレジットカード:買い物時点ではカードを提示するだけに留め、後日決済を行う後払い方式のもの
- デビットカード:買い物代金の支払いを、銀行のキャッシュカードで行えるようにしたもの
- プリペイドカード:あらかじめ金額分のカードを購入し、そこから購入額を差し引いていくもの
- ポイントカード:購入額に応じて決まった割合のポイントが加算されていくもの
3 経営戦略と自社のポジショニング
競争社会を生き抜くために、企業同士が提携して共同で事業を行うことがある。また素早く事業を立ち上げるために他社を買い取ることをM&A、限られた自社の経営資源を効率よく本業へ集中させるために、それ以外の部分を他社に業務委託することをアウトソーシングという。ここでは自社の立ち位置を確認するための手法を解説する。
SWOT分析
自社の強みと弱みを分析する手法。自社の現状を、「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」という4つに要素を分けて整理することで、自社を取り巻く環境を分析するものである。強みと弱みが内部要因であり、機会と脅威が外部要因である。その組み合わせによって、次の4つの関係にまとめられる。
- 積極的攻勢(強み・機会):自社の強みによって取り込める事業機会は?
- 差別化戦略(強み・脅威):自社の強みによって脅威を回避する方法は?
- 段階的施策(弱み・機会):自社の弱みによって事業機会を逃さない対策は?
- 専守防衛or撤退(弱み・脅威):自社の弱みと脅威によって、起こりうる最悪の事態とその回避方法は?
プロダクトポートフォリオマネジメント(Product Portfolio Management:PPM)
経営資源の配分バランスを分析する手法。縦軸に市場成長率、横軸に市場占有率(シェア)をとり、自社の製品やサービスを「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」の4つに分類し、資源配分の検討に使う。
- 花形:現在は大きな資金流入だが、将来の資金投下も必要
- 金のなる木:現在は大きな資金流入だが、新たに資金投下すべきでない
- 問題児:資金投下を必要とするが、将来の資金供給者となる可能性がある
- 負け犬:資金投下の必要性が低く、将来的には撤退をせざるを得ない
コアコンピタンスとベンチマーキング
企業活動を改善する指標となるものには、次の2つがある。
- コアコンピタンス:他社には真似のできない、独自のノウハウや技術などの強みのこと
- ベンチマーキング:経営目標設定の際のベストな手法を得るために、最強の競合相手または先進企業と比較することで、製品、サービスおよび実践方法を定性的・定量的に測定すること
4 外部企業による労働力の提供
外部企業による労働力の提供形態には「請負」と「派遣」がある。
請負と派遣で違う、指揮命令系統
- 請負:指揮命令系統も雇用(給料)も請負会社から行われる
- 派遣:指揮命令系統は派遣先から、雇用(給料)は派遣会社から行われる
5 関連法規
法律や各種ルールやモラルを守って企業活動を行うことを「コンプライアンス」という。また、企業の経営管理が適切になされて、透明性や正当性が確保されているかを監視するしくみをコーポレートガバナンス(企業統治)という。
著作権
作り手の権利を守る法律(知的財産権)の1つで、文学、美術、音楽、プログラムなどの著作物の権利を守るための法律のこと。個人だと著作者の死後50年にわたって保護される。創作された時点で自動的に権利が発生することも特徴。次のように細分化される。
- 著作人格権:著作物の「生みの親」の付与される権利で、公表権(いつどのように公表するか決定する権利)、氏名表示権(公表時に名前を表示する権利)、同一性保持権(著作物の改変を禁止する権利)を保護する。他人に譲渡したり相続できない
- 著作財産権:著作物から発生する財産的権利で、複製権(出版などの著作物をコピーする権利)や公衆送信権(不特定多数に向けて著作物を発信する権利)などを保護する。他人に譲渡したり相続できる
産業財産権
知的財産権の1つ。「先願主義」のため発明しただけでは権利は発生せず、特許庁に登録することで保護対象となる。次のようなものがある。
- 特許権:高度な発明やアイデアなどを保護する
- 実用新案権:改良や創意工夫など、特許ほど高度ではない考案を保護する
- 意匠権:製品のデザインを保護する
- 商標権:商品名やマーク(トレードマークなど)などの商標を保護する
労働基準法と労働者派遣法
働く人たちを保護するための法律が、労働基準法と労働者派遣法である。
- 労働基準法:最低賃金、残業賃金、労働時間、休憩、休暇といった労働条件の最低ラインを定めている法律
- 労働者派遣法:必要な技術を持った労働者を企業に派遣する事業に関する法律(派遣期間は最長で3年、2重派遣は禁止など)
不正アクセス禁止法
不正なアクセスを禁止するための法律。次のようなものがある。
- 他人のIDやパスワードを盗用して、システムを利用可能とする行為
- セキュリティホールをつくなどして、システムを不正に利用可能とする行為
- 不正な手段によりネットワークのアクセス認証を突破して、内部システムを利用可能とするなどの目的に達する行為
最後に
企業活動と関連法規として、企業活動と組織のカタチ、電子商取引、経営戦略と自社のポジショニング、外部企業による労働力の提供、関連法規についてまとめた。どれも基本的なことである。
自分の役割がどこに求められているかを整理する意味で、BtoBやBtoCという言葉は便利である。これは通常の商売のみならず、スクールカウンセラーといった職業でも対応できる。例えば上司など関係職員とのかかわりはBtoBであるし、児童生徒や保護者とのかかわりはBtoCにあたる。同業者とのかかわりはCtoCであるし、開業をした場合BtoEの側面が表れる。そして児童相談所や教育相談所など行政機関とのかかわりはGtoCとなる。自分の役割が特にどこに求められているかを初期の段階から把握することで、より役立つ仕事ができるだろう。
また、現代ではプロジェクト組織の作成が容易になってきている。KickstarterやCAMPFIREなど、プロジェクトを広く公開して資金を募るサイトが出てきており、いわゆる「傭兵」的な働き方が可能になってきている。ネット上のクレジットカード決済のなじみのなさなどが課題として挙げられているが、自分の活動を広く発信しようとする者が増えることで、自然と広がっていくであろう。もちろん筆者も挑戦するつもりだ。
次回は経営戦略のための業務改善と分析手法についてまとめる。
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