rely-on-robots

ロドニー・ブルックス なぜ私たちはロボットに頼ることになるのか

「我々は短期的には技術を過大評価し、長期的には技術を過小評価する」ロドニーはアーサー・C・クラークの言葉を引用して語りかける。ここでは、110万ビューを超える Rodney Brooks のTED講演を訳し、ロボットが人間の重要な協力者となる未来について理解する。

要約

ロボットに仕事を奪われ人は要らなくなると、まことしやかに ささやかれています。でもロボットは私たちの重要な協力者となり、私たちは単純で機械的な作業から解き放たれ、他のことに時間を割けるようになります。ロドニー・ブルックスは、労働人口が減少し老齢人口が増える中、これがどれだけ価値のあることか指摘します。彼がここで紹介するロボットのバクスターは、目を動かし、腕に触れば反応します。バクスターは、高齢化する労働者のそばで働くことができ、さらに家庭でも高齢者を支援できるかもしれません。

Rodney Brooks builds robots based on biological principles of movement and reasoning. The goal: a robot who can figure things out.

 

1 「我々は短期的には技術を過大評価し、長期的には技術を過小評価する」

アーサー・C・クラーク 1950年代の著名なSF作家は言いました。「我々は 短期的には技術を過大評価し 長期的には技術を過小評価する」 このことが よく表れているのが 人工知能やロボットで 仕事がなくなると私たちが心配していることです。つまり 短期的な視点で技術を過大評価しているのです。でも 私が心配なのは長期的に必要になる技術を得られるか 人口構成の変化により 労働力が不足し 私たちの社会は 将来 ロボットの鉄の肩にすがらざるを得なくなります。だから 私はロボット不足になることが怖いのです。

 

2 長い間技術の進歩で仕事がなくなると心配されてきた

長い間 技術の進歩で仕事がなくなると心配されてきました。1957年 スペンサー・トレイシーとキャサリン・ヘプバーンの映画の― 結末をご存知でしょう。スペンサー・トレイシーは資料調査業務にコンピュータを導入します。1957年当時の大型コンピューターです。その会社では 司書は会社の幹部の知りたいことを調べていました 「サンタクロースのトナカイの名前は?」と聞かれれば その答えを調べます。このコンピュータはその仕事を助けるはずでした。

 

3 司書の賃金はアメリカのどの仕事よりも早く上がった

もちろん 1957年当時のコンピュータはさほど役に立ちません。司書は 自分たちの仕事がなくなると心配しましたが でも 現実は違いました。この種の職の雇用は1957年以降 ずっと増え続けました。インターネットが普及し ウェブサイトや検索エンジンが普及して初めて 資料調査という業務が減りました。また 1957年当時には 誰もが現在の技術を過小評価していたと思います。現実には 今は皆がこうしてポケットに入れて技術を持ち運べ 「サンタクロースのトナカイの名前は?」と言えば すぐに答えが返ってきて 何でも知ることができるのにです。ちなみに その間 司書の賃金はアメリカのどの仕事よりも 早く上がりました。司書が コンピュータのパートナーになったからです。コンピュータがツールとなったことで使えるツールが増えて 当時の司書の仕事はより効果的になりました。

 

4 事務員はプログラムができる人として尊重された

同じことが オフィスでも起こります。かつては 表計算がされていました。つまり 紙の表計算用紙を使って 手で計算をしていました。でも ここで面白いことが起こります。1980年頃のパソコン革命で 表計算ソフトは事務員のために改良されました。事務員に取って代わるのではなく 事務員は プログラムができる人として尊重されたのです。つまり 事務員は 表計算のプログラマーになり その能力は向上しました。つまらない計算作業をしなくてもよくなり それ以上のことができるようになったのです。

 

5 爆弾処理など危険な仕事はロボットがしてくれる

今日では 様々な場面でロボットを見かける様になりました。左の写真はiRobot社のパックボットです。イラクやアフガニスタンで走行中に爆弾に遭遇しても 兵士は 防御スーツを着て外に出て 棒でつついて処理しなくてよい 2002年頃まではそうしていたけれど 今は ロボットを送り込みます。つまり 危険な仕事はロボットがしてくれます

 

6 TUGがいれば看護師たちは患者との時間を多くとれる

右の写真は タグ(TUG)と言いピッツバーグのAethon社のものです。タグは アメリカ中の何百もの病院に導入され 汚れたシーツを洗濯場まで 食べ終わった食器をキッチンまで運び そして 薬局から薬を持ってきます。タグがいれば看護師や看護助手たちは 機械的に物を運搬するような単純労働から解放され 患者さんとの時間を多くとれるようになります

 

7 私たちが目を向けるべきなのは普通の労働者が一緒に作業できる技術

事実 ロボットは いろんな形で私たちの生活に浸透しています。でも それが工場用ロボットとなるとまだ怖がられていると思います。そばに置くには危険な存在ですから。プログラムするにも4次元や6次元で考える必要があり 普通の人が 一緒に作業することはできません。この技術は 間違った方向に進んでいると思います。技術から 労働者を締め出しています。だから 私たちが本当に目を向けなければいけないのは 普通の労働者が一緒に作業できる技術です。

 

8 Baxterは工業環境において普通の人たちが共に作業できる第一世代のロボット

そうした例として今日は バクスター(Baxter)を紹介します。このバクスターは工業環境において― 普通の人たちが共に作業できるロボットの第一世代と考えています。さぁ バクスターの登場です。Rethink Robotics社のクリス・ハーバートも一緒です。そこに コンベヤーがあります。照明がきつすぎなければいいのですが― ほら 見てくださいコンベヤーから物を持ち上げました。こちらに運んで来て 置きます。そして 元の位置に戻って次の物に手を伸ばします。

 

9 バクスターは基礎的な常識も身に付けている

面白いのは バクスターは基礎的な常識も身に付けていること。さて バクスターの目を見てください。スクリーン上に目があって ロボットが動こうとする方向を見ています。だから ロボットを使っている人は ロボットが次にどう動くのか把握でき驚かされることもありません。今 クリスは ロボットの手から物を取り上げました。バクスターは物を置く動作をすることなく 戻りました。また物を取る必要があると分かっている。バクスターは ちょっとした常識を使い物を取りに行くわけです。バクスターとは触れ合っても安全です。今の産業用ロボットとこんなこと できませんよね。でも バクスターなら大丈夫。バクスターは力を感じてクリスがそこにいると理解し 彼を押しのけて傷つけるようなことはしないのです。

 

10 腕をつかむと表示されるユーザー・インターフェース

バクスターで 一番面白いと思うのは ユーザー・インターフェース。クリスが バクスターの反対側の手をつかみます。腕をつかまれるとバクスターは 無力・重力補償モードになり スクリーンにグラフィックスが表示されます。スクリーンの左側にあるアイコンが右腕の状態を示しています。クリスは バクスターの手に何か握らせこちらに持って来て ボタンを押して手から物を離させます。ロボットはこう理解するわけです「ここで物を下させたいんだな」 そして小さなアイコンが表示されます。クリスが移動してロボットの指で握らせると ロボットはこう理解します「僕に物を拾い上げてほしいんだな」 すると 緑色のアイコンが現れます。今度は どこから物を拾い上げるべきか範囲の設定をします。こうして動かすことでロボットは そこが探す領域だと認識します。画面で操作をする必要ありません。そして クリスは一旦離れてその動作を訓練します。話を続けましょう。

 

11 ロボットは単純な反復作業を肩代わりしてくれる

こうして訓練を続ける間 工場では これがどうなるのかお話しましょう。このロボットは 毎日出荷され 全国の工場に納められています。こちらは ミルドレッド コネチカットの工場で働いています。20年以上 生産ラインで働いてきました。初めて産業ロボットを見てものの一時間で 彼女は工場での作業をいくつかプログラムしました。彼女は ロボットが好きだと確信しました。ロボットは単純な反復作業をしています。以前は彼女がしないといけなかったことを 今は ロボットにさせています。

 

12 「自分の子どもにも工場で働かせたい?」

私たちが初めて工場で働いている人たちに どうすれば ロボットとより良く働けるか聞きに行ったとき こんな質問もしました 「自分の子どもにも工場で働かせたいか?」 皆の答えはこうでした「いや 子どもにはもっとよい仕事をしてほしい」

 

13 ミルドレッドは典型的な今日のアメリカの工場労働者

とどのつまり ミルドレッドは典型的な― 今日のアメリカの工場労働者なのです。工場労働者の高齢化はどんどん進み 若い人たちが工場労働に就くこともあまりありません。だから 工場での作業はそこで働く人にとって重荷になっていく一方で 彼らに 協力するツールを与える必要があります。彼ら自身が解決策の一部となり 彼らが継続して働けアメリカでモノ作りが続けられるように。

 

14 私たちが提供したいのは数分で操作方法を学べるツール

私たちは ミルドレッドのような労働者を「ライン作業者」から 「ロボット訓練者」にしたいのです。労働者は技量を上げます。ちょうど 1980年代に事務員たちができる仕事の技量を上げたように。私たちが提供したいのは何年も勉強しなければ使えないツールではなく 数分もあれば どうやって操作するか学べるようなツールです。

 

15 意志に左右されるが避けられないのは気候変動と人口動態

今 意志に左右されるが避けられない二つの大きな力があります。気候変動と人口動態です。人口動態は 本当に私たちの世界を変えます。これは 労働人口の割合です。過去40年で 少し下がってきていますが これからの40年では 劇的に変わります。中国でさえです。労働人口の割合は劇的に下がり 定年した人たちの割合は本当に急速に上がります。ベビーブーム世代が定年を迎えるからです。つまり 社会保障にあてるお金が減る一方 より多くの人が社会保障を必要とするわけです。

 

16 定年退職を迎えた人たちが増えていく一方、世話をする人たちは減っていく

でも それ以上に年を取れば 力も弱くなって かつては できていた作業もできなくなります。介護士の年齢についての統計を見ると 介護士たちの年齢層もどんどん上がって行くのが分かります。今まさに 統計的に起こっていることです。定年退職を迎えた人たちがさらに年を取り 増えていく一方で 世話をする人たちは減っていきます

 

17 私たちはロボットの助けが本当に必要になる

私たちは ロボットの助けが本当に必要になります。ロボットを 付き添ってくれる仲間とは考えていません。ロボットは私たちが年を取ってするのが 難しくなったことをしてくれるもの 車から食料品を出して階段を上り 台所へ運ぶようなことです。もっと年を取れば 人に会いに 車を運転することもです。ロボット工学があれば年を取っても 尊厳を維持できるかもしれない。ロボットによる解決策をコントロールしさえすれば良いのです。頼れる人は減る一方ですが人に頼る必要はありません

 

18 今後40年の間に私たちはロボットに頼るようになるでしょう

私はこう信じています。私たちは 日々の生活でバクスターのようなロボットと より多くの時間を過ごし 行動を共にするようになる。そして― ほら バクスターよくやったね。そして今後40年の間に私たちは ロボットに頼るようになるでしょう。毎日の生活の一部として。ありがとうございました(拍手)

 

最後に

「我々は短期的には技術を過大評価し、長期的には技術を過小評価する」アーサー・C・クラークの至言。今後40年の間に、ロボットに頼るのが生活の一部になる。気候変動と人口動態の変化に対応するためにも、ロボットと共生しよう

和訳してくださった Yuko Yoshida 氏、レビューしてくださった Yuriko Hida 氏に感謝する(2013年6月)。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>