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ローレンス・レッシグ 「皆で共和国本来の国民の力を取り戻そう」

「アメリカ政治の中心に存在する腐敗は、連邦議会議員の資金調達がごく一部の国民に依存していることに起因しています」ローレンスは語りかける。ここでは、90万ビューを超える Lawrence Lessig のTED講演を訳し、共和国本来の国民の力を取り戻す方法を理解する。

要約

アメリカ政治の中心に存在する腐敗は、連邦議会議員の資金調達がごく一部の国民に依存していることに起因している。これが法学者ローレンス・レッシグの見解です。この講演では、めまぐるしく変わるスライドを使って、アメリカの政治資金調達プロセスがいかに共和国を根底から弱体化させているか説明し、改革に向けた超党派的な連携の必要性をアメリカ国内外に訴えます。

Lawrence Lessig has already transformed intellectual-property law with his Creative Commons innovation. Now he’s focused on an even bigger problem: The US’ broken political system.

 

1 総選挙に出馬するにはレスター選挙で良い結果を出す必要がある

昔々― 「レスターランド」という国がありました。レスターランドはアメリカにそっくりです。人口もアメリカと同じ3億1100万人ほど その3億1100万人のうち 14万4000人が「レスター」という名前です。マット(グレイニング)さんこれをご覧になっていたら キャラクターをお借りしていますがすぐお返しします。14万4000人が「レスター」という名前で つまり 人口の0.05%がレスターというわけです。レスターランドのレスター達は特別な権力を持っています。レスターランドでは2つの大きな選挙があります 1つは「総選挙」 もう1つは「レスター選挙」と呼ばれています。総選挙では一般市民が投票できます。でも レスター選挙ではレスターしか投票できません。ここで ややこしいのは 総選挙に出馬するには レスター選挙で良い結果を出す必要があります。必ずしも勝つ必要はありませんが善戦しなければなりません。

 

2 レスターランドの民主主義は競合し、相反する依存関係

こんなレスターランドの民主主義について 何が言えるでしょうか? まず1点目は― シティズンズ・ユナイテッドに関する最高裁判例が示したとおり 総選挙がある以上選出議員の最終的な決定権は 一般市民が持っているということ。ただし 総選挙に出馬したい候補者は レスターの承認を受ける必要があります。2点目はこのレスターへの依存が 微妙で目立たないある意味で隠された レスターに有利な 歪みを生じさせる原因となっていることです。これが民主主義であることは間違いありません。ただし その民主主義はレスターに依存し 一般市民にも依存しています。つまり「競合する」依存関係であり レスターが誰かによっては「相反する」依存関係と言えるかもしれません。これがレスターランドの説明です。

 

3 アメリカは総選挙と「資金選挙」がある

この説明で気づいてほしいポイントが3つあります。まず1番目のポイント、アメリカはレスターランドです。アメリカがレスターランドなのです。アメリカも似たような形で2種類の選挙があります。1つは総選挙 もう1つは「資金選挙」とでも呼びましょうか。総選挙では18歳以上かIDを持っている市民であれば 投票できます。資金選挙で投票できるのは政治資金提供者だけです。そしてレスターランドと同様に 総選挙に出馬するためには 資金選挙で良い結果を出す必要があります。ジェリー・ブラウンの例もあり必ずしも勝つ必要はありませんが 善戦しなければなりません。この話のポイントというのはアメリカの政治資金提供者数は レスターランドのレスターくらいほんの一握りしかいないことです。

 

4 アメリカでの実質的な資金提供者は0.05%しかいない

「本当?」と皆さん疑うかもしれません。本当に0.05%? 2010年の統計を紹介します。連邦議会の議員候補者に 200ドル以上献金したのは アメリカの人口全体の0.26%。候補者ひとりの限度額まで献金したのは0.05%。0.01%は―これは1%の1%ですが 1万ドル以上の政治資金提供を行いました。また 直近の選挙期間の統計で忘れられない数字は 0.000042%。計算してみるとわかりますが132人のアメリカ人です―彼らが この期間中に(献金限度額のない)特別政治活動委員会資金として 使われた資金の6割を提供しました。私はただの弁護士ですがこの数字を基に アメリカでの実質的な資金提供者は 0.05%しかいない と言い切って差支えはないでしょう。この意味で 政治資金提供者は私たちの「レスター」といえます。

 

5 資金提供者に有利な歪みを生じさせている

さて アメリカの民主主義について何が言えるでしょうか? シティズンズ・ユナイテッドに関する最高裁判例が示したとおり 当然ながら総選挙がある以上は 選出議員の最終的な決定権は一般市民が持っています。ただし 総選挙に出馬したい候補者は 資金提供者の承認を受ける必要があります。2点目は 明らかに この資金提供者への依存は 微妙で目立たないある意味で隠された 資金提供者に有利な歪みを生じさせる原因となっていること。連邦議会の議員候補者と現職議員は 彼らの時間の30%から70%を 次の選挙で当選し政権を獲得するための 政治資金集めに費やします。考えてみて下さい 議員たちも人間です。彼らがそのように 一度も会ったことがない1%に満たない ごく少数の人々への 資金集めの電話に時間を費やすことで どんな影響があるでしょうか。誰もがそうなるように 議員たちも 彼らの行動が資金集めにどう影響するかを 敏感に察知する第六感を獲得するのです。『Xファイル』の登場人物が自由に顔を変えられるように 議員たちは常に自らの意見を調整して資金集めを優位に進めようとします。主要な政策以外の こまごました政策における調整です。バージニア州選出の民主党議員のレスリー・バーン議員は 議員になりたてのころ彼女の同僚議員から言われた 「常に環境保護寄りの立場を支持すること」という言葉を紹介します。そして 彼女はこう補足します― 「彼は特に環境問題に興味があったわけではなかった」(笑)

これだって民主主義です。ただし この民主主義は資金提供者に依存し 一般市民にも依存しています。誰が資金提供者かによってこの依存関係は 「競合する」依存関係から「相反する」依存関係になります。

 

6 圧倒的多数のレスターは利己的に行動する

アメリカはレスターランドです。これが1番目のポイントです。2番目のポイントにいきましょう。実はアメリカはレスターランドより酷いんです。レスターランドの次のような状況を想像してみてください。レスターの貴族としての特権か何かで 「総選挙に出馬する候補者を選ぶことができます」 と書かれた手紙が政府から届いたとしましょう。レスターは社会の様々な階層に属しています。金持ちのレスター 貧しいレスター 黒人も白人もいるはずです。女性のレスターは少ないでしょうがまあいいでしょう。 様々なバックグラウンドを持つレスターが 「レスターランドを良くするには」ときちんと考えて レスターランドの公益のために行動することも想定されます。一方 アメリカにも 今日ここに来ている皆さんの一部も含め 素晴らしいレスターがいることは確かです。しかし 圧倒的多数のレスターは利己的に行動します。人口の0.05%を占めるグループは流動的に結託しながら 社会の公益ではなく私利私欲を追求します。この点 アメリカはレスターランドより酷い状況にあると言えます。

 

7 議会制民主主義とは政府の権限が一般市民のみに依存するもの

最後に3番目のポイントです。レスターランドの歴史・伝統などについて誰が何と言おうと 私たちにとって アメリカにとってレスターランドは腐敗を意味します。「腐敗」です。ここで私が腐敗というのは茶色の紙袋に入った現金を 議員が着服することではなくて ロッド・ブラゴジェビッチのような汚職でもありません。犯罪行為でもありません。ここで私が言っている「腐敗」は完全に合法です。アメリカ建国の理念から見ると腐敗なのです。合衆国憲法起草者は「共和国」の理念を私たちに与えました。彼らが意図した共和国というのは議会制民主主義で 議会制民主主義というのは 『ザ・フェデラリスト』第52編でジェームズ・マディスンが示した様に 政府の権限が一般市民のみに依存するものです。

 

8 資金提供者への依存はアメリカ建国の理念からすると「腐敗」

この政府のモデルでは 市民と政府の間に 排他的な依存関係があります。ここでの問題は議会が依存する対象に 市民だけでなく 資金提供者が加わりその依存度が高まりつつあること。資金提供者への依存も依存の一種ですが 資金提供者と一般市民が同一でない限り 一般市民への依存とは異質で相反するものです。これが腐敗というものです。

 

9 腐敗の良いところは超党派的で機会均等なこと

さて この腐敗について良いところと悪いところがあります。良いところというのは これが超党派的で機会均等の腐敗ということです。私たちリベラルが重要視する課題の多くは議会を通りません。保守派側でも同じことが起こります。保守派の主張を通すことはますます困難になっています。保守派は小さな政府を目指します。アル・ゴアが副大統領だったときに彼のチームは 電気通信産業の大規模な規制緩和策を推進しようとしました。規制緩和策を議会に持っていき それに対する議会の反応はこうでした 「冗談じゃない! 電気通信業界の規制緩和を行えば 業界からの献金がなくなってしまう」

つまり このシステムは現状維持を目的としてデザインされています。出しゃばりで大きな政府の現状維持も含まれます。右派・左派双方の動きを阻止するという意味で 良いところと言えるかもしれません。

 

10 腐敗の悪いところは病的に民主主義を破壊すること

一方 悪いところというのは 腐敗が 病的に民主主義を破壊してしまうということです。つまりどのようなシステムであっても その構成員がごく少数の構成員によって選ばれる場合には それは ごく少数の構成員が ごくごく少数の構成員が 改革を阻止できることを意味します。このスライドは石とかの方がよかったんですが チーズしかなかったのでこれで失礼します。改革を阻止してしまうんです。ここには影響力に依拠した経済システムが存在しており それは ロビイストを中心とした経済システムです。二極化を加速させシステムは機能不全に陥ります。状況が悪ければ悪いほど 資金集めにとっては好都合なのです。ヘンリー・デイビッド・ソローは「悪の枝葉に打ちかかる人は千人いても 根元に斧を打ちつける人は1人しかいない」と言いました。これがまさに「根元」なのです。

 

11 皆さんは腐敗の問題を無視する

ここにいる皆さんも全員このことを知っています。知らなければここに来ないはずです。知ったうえで 無視しています。この解決不可能な難題について知らんぷりをしています。皆さんは解決可能な問題に注目します。例えば―世界からポリオを撲滅したり 世界中の道路の写真を撮ったり 世界初の万能翻訳機を開発したり ガレージで核融合炉を作ったり これらは扱いやすい問題です。そして 皆さんは― (笑)(拍手) 皆さんは腐敗の問題を無視します

 

12 左派と右派の双方の政治家と市民にとって機能する政府が必要

しかし 私たちは腐敗の問題をこれ以上無視することはできません (拍手)。きちんと機能する政府が必要です。左派と右派の一方ではなく 左派と右派の双方の政治家と市民にとって 機能する政府が必要なのです。なぜならばこの腐敗の問題に終止符を打たない限り まともな改革は不可能だからです。ここで 皆さんが最も大切だと思う問題を考えてください。私の場合は気候変動ですが皆さんは金融改革かもしれません。税制の簡素化とか 社会の不平等でもいいです。その問題を選んで考えてみてください。その問題を直視して 今年のクリスマスは来ないと言ってください。クリスマスは永遠に来ないんです。今日お話した問題を解決しない限り 皆さんの問題は永遠に解決しません。私の問題が一番重要なのではありません。皆さんの問題はそれぞれが重要な問題ですが まず第一に腐敗の問題を解決しない限り 皆さんの問題の解決はありません。まともな改革なくして世界や未来に希望はありません。

 

13 必要なのは小口に分散された市民からの資金による政治活動を規定する法律だけ

ではどうしたらいいか? 分析自体は簡単でシンプルです。議員がアメリカのごくわずかな一部から資金を集めるために 莫大な時間を費やしていることが問題であれば 議員の資金集めの時間を削減させて より多くの市民から資金を集めるようにすればいいのです。資金集めの対象を広げることで資金提供者の影響力を低下させ 一般市民のみに依存する政治の姿を取り戻すことができます。このために憲法を改正する必要もありません。必要となるのは 小口に分散された市民からの資金による政治活動を規定する 一つの法律だけです。いくつもの提案が出てきています。例えば― 公正選挙法や 米国反腐敗法のほかにも 私の著書で「グラント・フランクリン・プロジェクト」として紹介した 市民が政治献金に使えるバウチャー制度の導入や ジョン・サーベンスが提唱した草の根民主主義法など― これらの施策はどれも資金提供者の影響力を 一般市民に分散させ腐敗の問題を解決するでしょう。

 

14 議員と議会職員と官僚の頭の中には共通のビジネスモデルがある

解決策の分析は簡単です。厄介なのは政治の部分です。どうしようもないほど困難なのです。改革はKストリート(ロビイスト街)を弱体化させます。テネシー州選出の民主党議員の ジム・クーパー議員が言ったように 米国議会はKストリートの「二軍」に成り下がってしまいました。議員と議会職員と官僚の頭の中には 共通のビジネスモデルがあります政府から引退した後のロビイストとしての第二の人生です。1998年から2004年の間に上院議員の50% 下院議員の42%が 引退後ロビイストになっています。この割合は増えるばかりです。昨年4月のユナイテッド・リパブリックの調査では 追跡した調査対象者の年収の伸び率の平均は― 1452%でした。この状況を変えることなどできないという見方も仕方ありません。懐疑的に見る人もいます。

 

15 腐敗の問題は単なるインセンティブの問題

冷笑され あきらめさえも感じます。しかし私はそうは思いません。これは解決可能な問題なのです。私たちの親の世代が20世紀に取り組んだ問題を考えてみると 例えば人種差別や性差別などの問題 あるいは今世紀に私たちが取り組んでいる同性愛嫌悪など― これらの問題は確かに難しい問題です。ある朝 起きて人種差別主義者でなくなることはありません。人の心に深く根付いた差別意識を除去するには長い年月を要します。一方 腐敗の問題は単なるインセンティブの問題です。インセンティブを変えれば 行動も変わります。小額選挙のシステムを取り入れた州では それまでのやり方が短期間で大きく変わりました。コネチカット州では小額選挙のシステム導入後 1年目から当選議員の78%が高額の献金を断り 小額な献金のみを受け取るようになりました。だから 解決可能なんです。民主党だからでもなく 共和党だからでもありません。一般市民(Citizens)だからこそ解決できるんです。TEDの仲間(TEDizens)だからできるんです。この改革を推し進めて― 「共和国」を取り戻すために必要なコストは エネルギー政策改革のコストの半分もかからないはずです。

 

16 何でもやってみることこそが愛の証

まだ 私の話を信じられず 解決不可能だと思っている方がいるかもしれません。私が5年前にTEDで講演してから この問題について話し続けていて分かったことは― 不可能だという思いは重要ではないんです。何の意味もないんです。ダートマス大学で講演した時に1人の女性が私に言いました。本にも書きましたが彼女は立ち上ってこう言いました。「先生のお話でわかりました。解決の望みはありません。打つ手はありません」 そう言われた時私はびっくりして 彼女の失望感にどう答えるべきか その失望感はいったい何なのか考えました。そこで頭に浮かんだのが 私の6歳になる息子の事です。もし 医者が私のところに来てこう告げられたら どう感じるか 「息子さんは 脳腫瘍の末期で打つ手がありません。打つ手がありません」 もし このように言われたら何もしないでしょうか? 座ったまま 何もせず宣告を受け入れるでしょうか? 仕方がないので グーグル・グラスの開発でもするでしょうか? もちろん違います。できることは何でもするでしょう。何でもやってみるそれこそが愛の証です。確率など気にせずできることを がむしゃらにやるんです。確率なんて関係ありません。これと一緒なんですなぜなら 私たちリベラルでさえ この国を愛しています(笑)

 

17 皆さんにその愛はありますか?

いくら政府評論家や政治家が 改革なんて無理だと言おうとも この国に対する愛国心から言い返すのです。「そういう問題ではないのだ」 共和国を失うことは この会場にいる皆さんが愛し大切にしてきたものを 失うことを意味します。ですから できる事はなんでもやって評論家の誤りを証明するのです。ここで皆さんにお聞きしたい。皆さんに その愛はありますか? もしあるのなら― 皆さん・・・いや私たちは一体何をしているのでしょうか?

 

18 共和国議会制民主主義国家を取り戻そう

年老いたベンジャミン・フランクリンが1787年9月に憲法制定会議の議場から 担がれて出てきたときに道端の女性がこう尋ねました。「フランクリンさん何を作ったのですか?」 フランクリン氏は答えました。「共和国です。皆で維持できれば」 共和国議会制民主主義国家 一般市民のみに依存する政府 私たちはその共和国を失いました。私たちは皆で力を合わせて共和国を取り戻す必要があります。どうもありがとうございました(拍手) ありがとう(拍手)

 

最後に

共和国本来の国民の力を取り戻すために必要なのは、インセンティブを変えるだけ。小口に分散された市民からの資金による政治活動を規定する法律が1つあればいい。クラウド・ファンディングは政治も変えるREADYFORCAMPFIREなどで多くの活動を応援しよう。

TED公式和訳をしてくださった Akiko Hicks 氏、レビューしてくださった Tadashi Koyama 氏に感謝する(2013年4月)。

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