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復興財源は国債の日銀引き受けと埋蔵金の活用 シンプルな復興政策

前回は、虜理論と天下り バランスシート思考で考える東電問題についてまとめた。ここでは、復興財源は国債の日銀引き受けと埋蔵金の活用 シンプルな復興政策について解説する。

1 復興のセオリー

経済政策はシンプルに

政府の経済政策としてやるべきことは資金を用意することに尽きる。震災や原発事故後に「想定外」という言葉が多く聞かれたが、これは「残余のリスク」としてあらかじめ事前に想定されていたことが明らかになっている。いずれにせよ、未曾有の大地震であったことは間違いないため、これからどう復興していくかが重要である。

 

復興院(ニア・イズ・ベター)

被災地復興の調整を行う復興院(東北州政府)構想がある。中央政府は資金と権限を復興院に委譲して、地元の人たちに必要なインフラ整備などをやってもらうものである。その際重要なのは、同じものを同じところに作らないことである。なぜなら、「公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(災害負担法)」という法律で、地震により被災した地方公共団体のインフラについて、原状に復旧する場合にのみ国が資金を出すと定められているからである。この法律があるため、再び津波の被害を受けるところに家を建て直すということになりかねないのだ。復興の流れは以下の通りである。

  • 三ゲン(人間、財源、権限)を移転して、現地対応とする
  • 道州制特区推進法の活用
  • 中央の地方支分局(地方整備局、地方農政局、経済産業局など)の人を、現地の復興院(東北州政府)の管理下に置く
  • 地方公共団体も現地の復興院の管理下に置く
  • 中央から20兆円以上の資金を現地の復興院に送る
  • 中央の権限を現地の復興院に与える

 

国会を福島に

首都機能を移転するだけならば、国会と霞ヶ関の5万人程度が移動すればよい。しかし、そうした話は出てこない。2002年頃に福島への首都移転がかなりの具体性を持ったが、政治的な事情から頓挫した経緯がある。

 

インフラ整備 – 予算査定は必要なし

ゼロからの復興であるインフラ整備においては、国債を発行して公共投資を行うというのが財政の基本である。通常、経済施策としては、公共投資の大原則であるコスト・ベネフィット分析(Benefit per cost:B/C)に則ることが重要である。しかし、今回のようにゼロからのスタートの場合、B/Cが圧倒的に高い数字が出るのである(『日本の大問題が面白いほど解ける本~シンプル・ロジカルに考える~』(光文社新書)参照)。

 

2 財源は国債

100年に1度の災害には100年国債で

税には課税標準化理論というものがあり、それによると100年に1度の災害には100年国債で行うべきである。税の公平を考えると時間を分散して対応する必要があり、それには国債を発行して負担を標準化するのがよい。増税と国債の違いは、負担を一時にするか分散するか、という点なのである。

 

失敗だったドイツの復興連帯税

ドイツの復興連帯税(連携付加税)とは、東西ドイツの統合に際して行われたもので、財務省OBなどが復興増税の理由付けとして挙げている。しかし、分断国家の再統一と巨大災害からの復興を同じに考えるのはおかしい。

ドイツの西側から東側には、税によって通算で200兆円を超える投資がなされたとされている。東側への大型公共投資が次々と行われた結果、民需が急激に冷え込み、それによって企業の競争力も落ち込んでしまったのである。増税をして財政再建という論理の中には、経済成長は入っていない。

 

財政再建は名目4%成長で

財政再建は債務残高対GDP比を発散(上昇)させないことと考える。また、プライマリーバランス(基礎的財政収支)とは、国債の発行や過去の債務の利払いを除いた財政収支のことである。名目成長率>名目国債金利、もしくはプライマリーバランスが黒字化すれば、債務残高対GDP比が減少する。

これまでの歴史や各国のデータ(名目成長率と長期金利の関係)から、名目成長率が4%を超えれば財政再建が容易になる。4%よりも低いと、プライマリーバランスをかなり黒字化しなければ財政再建が難しい。

 

3 毎年行われてきた日銀引き受け

増税は「禁じ手」

増税を復興財源にするのは、これまで海外を含めて行われたことのない「禁じ手」である。しかし、復興特別税として所得税(2.1%、25年間)、法人税(10%、3年間)、住民税(1000円、10年間)のそれぞれ増税されることが決まった。

 

日銀の直接引き受けのほうが経済効果は高い

国債の売り先は、市中消化(金融機関や個人が買う)と日銀直接引き受けの2つがある。財務省は国債を新規国債(新規財源債=建設国債と赤字国債)、国債の借換債(国債の満期が来ても償還せず、再び借り換えるために発行される国債)、財投債と3つに分けているが、市場関係者から見ればどれも同じ国債である。

日銀直接引き受けのほうが金利上昇を抑えられ、円安効果もあるので、国内の公共投資とともに民間設備投資増、輸出増となって経済効果が大きくなる。リーマンショック後、欧米諸国は揃って大幅な量的緩和を行って、国内の景気対策としたのがその効果の証明である。

 

日銀による国債の直接引き受けは毎年行われている

日銀による国債の直接引き受けは、毎年10〜12兆円程度行っている。それによって金利が上がったこともなければ、インフレになったこともない。少なくとも、2011年度の日銀保有国債の償還額は30兆円なので、この金額までの引き受けならば何の問題もない。

 

財務省の悲願

財務省の悲願は増税である。増税によって財務省が集めるおカネと配るおカネが大きくなること、これが彼らの関心事である。たしかに、財政法第五条において日銀の直接引き受けは禁止されているが、その後の但し書きにおいて「特別な事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない」としているのである。

 

円高への抑えにもなる日銀引き受け

日銀引き受けを行うことで円高への抑えにもなる。これは、阪神・淡路大震災での経験でも明らかである。まず、震災復興のために大量の国債発行を行い、市中から資金を集めた。すると、市中のカネが減少し、金利が高くなり、円高圧力がかかったのである。

変動相場制の下では、国債の大量発行→金利の上昇→円高ということが起こる。公共事業によって一時的に景気が上向いたとしても、通貨の上昇による輸出減少・輸入増加によって相殺されてしまうのである(マンデル・フレミング理論)。

 

このままでは18兆円の金融引き締めに

30兆円の国債を日銀が償還し、12兆円の新規国債を引き受けるということは、差し引き18兆円分は金融引き締めするのと同じである。そうなれば、円高に振れることはまず間違いない。

復興財源は「増税で国民全体で負担する」のではなく、「時間を超えて負担する」のがフェアである。その理由は、数世代に渡って便益を受けるインフラを現世代だけで負担するなら、それはむしろ世代間格差を招くからである。

 

「不作為」がいっぱい

「日本は1000兆円もの借金がある。このままでは国家が破綻してしまう」こうした財政当局の発表には大きな不作為(言わないこと)がある。それは、1000兆円の借金がある一方で、700兆円もの資産があることである(日本の純債務は300兆円にすぎない 日本の資産と負債参照)。

 

債務が貯蓄を上回るというウソ

また、元・財務副大臣の五十嵐文彦氏が「国と地方の借金総額が、国内の家計金融資産額を初めて上回る可能性がある」との見通しを示した。しかし、これはグロス(総額)とネット(資産負債差額)の数字の入れ替えがされており、ネット同士の比較だと2010年現在でも552兆円の資産超過と余裕があるのである。

 

なぜか目の敵にされる金融政策

これまで述べてきたように、変動相場制の下では、財政政策よりも金融政策のほうが有効である。固定相場制の下では、公共事業などの財政政策が効果を上げていたが、変動相場によって世界の経済が直接つながっている現在ではあまり意味がないのである。

大災害といった非常時には、金融政策(金融緩和)によって為替の安定化(円安誘導)を行いつつ、最低限必要な財政政策を行うのが現在のマクロ経済対策なのである。

 

4 財源は他にもある – 埋蔵金の活用

国債整理基金10兆円

埋蔵金とは、特別会計における資産と負債の差額である(詳しくは特別会計には資産負債差額がある 「埋蔵金」とは何か参照)。埋蔵金の中でもすぐに使えるのが、国債整理基金10兆円である。

国債整理基金とは、国債を返すために積み立てている基金のことである。これは「借金を返すために、さらに借金をして、それを懐に持っている」というもので、全く意味がない。財務省は「基金を取り崩すと国債の信認にかかわる」としているが、過去に11回も取り崩しており、一度として国債が暴落したことはない。

具体的には、2011年度は44兆円の新規国債を発行する。その内訳は、本当に必要な借金34兆円と、国債整理基金の10兆円である。ただし、ただで貯めておけるわけではなく、国債(多くは10年ものの長期国債)の金利分(2013年6月現在0.89%)の利払いをする必要がある。手元に残った10兆円は短期運用に回すが、その金利はほぼゼロである。つまり、毎年890億円のコストをかけて、ただ財務省が手元においているのと同じことなのである。

学者によっては「60年償還ルール(建設国債や赤字国債など普通国債は60年で償還すればいいというもの)と国債整理基金があるから国債は大丈夫」というが、そもそも国債の信認はマクロ経済政策などで決まるのである。

 

まだまだある埋蔵金

埋蔵金は、どんぶり勘定で集めすぎたおカネを貯め込んだり、天下り団体に貸し込んだりという形で埋蔵されている。その典型が厚労省の労働保険(労働保険特別会計)である。ここから「私の仕事館」のような、何の役にも立たない天下り団体が作られた。

労働保険は保険だが、厚労省の労働保険局にはアクチュアリー(保険数理士)がいない。厚労省は厚生省と労働省が統合してできた役所だが、厚生省側には存在するアクチュアリーを労働省側に充てることはないのである。

さらに、郵政民営化を行ったのだから政府の持っている株を売るということも考えられるが、現状では実質国営のまま売却するということで高くは売れないだろう。

 

誰にでもできるふるさと納税

ふるさと納税とは、2008年4月に公布された「地方交付税の一部を改正する法律」である。これは、住民税を納める自治体を納税者が選べる制度で、日本初の「税額控除」を実現した

税額控除とは、寄付した金額の全額が支払うべき税金から控除することができるものである。例えば、1000万円の所得のある人がどこかの自治体に100万円寄付するとする。所得控除の場合、所得から100万円が引かれるため、もし税率が20%なら、本来納めるべき200万円の税金から20万円が控除されるだけである。一方、税額控除の場合、支払うべき税金200万円から100万円が控除されるのである。

「ふるさと納税」は、年末までの行えば、翌年の納税時に控除してもらえる。こうして、税金を自分が納得できない自治体に納めるのではなく、自分にとって何らかの形で納得性のある自治体に納められるのである。

今後は、所得税においてNPO法人や独立行政法人への寄付を税額控除できる仕組みが求められている。

 

最後に

「100年に1度の災害には100年国債で対応せよ」理にかなっている。増税では負担が一時的になり、国債ならば分散できる。ゼロからの復興ならば、国債の費用対効果は高い

ふるさと納税は自治体間にも競争原理が働く。積極的にサービスを行うところに住民税が集まるからだ。自治体によっては実質2000円の負担で、1万6000円相当の商品がもらえるケースもある。ふるさと納税で自治体も競争しよう

次回は、人口が減少しても経済成長は可能 物価、金融緩和への誤解についてまとめる。

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