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脱藩官僚の活用と法案作成能力が鍵 「日の丸官僚」の育成手段

前回は、上級公務員の能力主義・業績給への移行は必然 先進国の公務員制度改革についてまとめた。ここでは、脱藩官僚の活用と法案作成能力が鍵 「日の丸官僚」の育成手段について解説する。

天下りのあっせんは縦割り社会維持の仕掛け

縦割りの省庁コミュニティを支えている、最も重要な仕掛けが天下りである。出世競争に敗れて辞めざるを得なくなった人に対しても、再就職先で幹部職と同じような処遇をしてあげる。これが天下りである。

 

天下りのために使われる多額の税金など

もう1つ縦割り社会を維持するための重要な仕組みが「キャリア制度」である。内閣一元管理、政官接触、キャリア制、労働基本権が争点 壮絶な国会論戦でも述べたように、キャリア制度は慣例にすぎない。国家公務員採用Ⅰ種試験に受かった人をキャリアと呼び、それ以外の公務員をノンキャリアと呼んでいるだけである。

天下りを維持するためには多額の税金が使われている。再就職先の企業に政府が補助金を出すとか、仕事を出すという形で税金を使っているのである。民主党の調査によると、2007年4月1日時点で、国からの天下りは2万6632人で、特殊法人、独立行政法人、公益法人など受け入れている機関は4696法人にのぼる。こうした法人に対して、国から12兆6047億円もの税金その他が支出されていたという。内訳は6兆8173億円が補助金等で、5兆7805億円が契約によるものである。

 

「省あって内閣なし」「局あって省なし」

各省の縦割り社会が生み出している弊害は、各省の利害が優先される結果、構造改革のような大きな政策を決定するときに機動性に欠けることである。特に、各省庁にまたがるような政策を決めるときには「省あって内閣なし」となって、内閣の指導力が発揮できない。また、それぞれの省の中にも同じような風土があり「局あって省なし」ということすら起こる。

そこで、安倍政権下の第一次公務員制度改革では、天下りという「出口(退職)」から攻めた。そして、福田政権下の第二次公務員制度改革では、内閣人事局の創設によって「入口(採用)」と「中間(育成と評価)」を攻めたのである(上級公務員の能力主義・業績給への移行は必然 先進国の公務員制度改革参照)。

 

公務員制度が変われば政治も変わる

公務員制度改革が実現すれば、政治と官僚のあり方が大きく変わる。官僚の位置づけを大臣の下と明確にし、直接、議員(政治家)と接触しにくい仕組みにすることで、「官僚による情報コントロール」を廃することができるのである。

また、公務員制度改革が実現すれば、党内のポストの政策に対する影響力が低下する。例えば、自民党の政務調査会の会長は副大臣を兼務するようになり、党内のポストが減る。この理由は、官僚と議員の接触が制限されるので、族議員が自分たちの意向を政策に反映したければ、政府に入る必要があるからだ。

 

大臣の人事権を確立する

内閣人事局ができると、各大臣は内閣人事局から人事リストがもらえるようになり、大臣の人事権を確立することができる。現状だと、事務次官からあげられた人事リストに頼らざるを得ないが、内閣人事局によって人事の選択肢が民間人にまで広がるのである。

 

辞めるキャリアが増えている

キャリア採用として公務員になっても、かなりの人が辞めている。江田憲司衆議院議員の国会質問によれば、この5年(2002〜06年)で実に292人の官僚が自発的に退職した。10年前(1992〜96年)は167人、20年前(1982〜86年)は80人だったので、「5年間で300人」は相当に大きな数である。最も多いのは、経産省と総務省で、それぞれ43人。特に経産省は10年前は8人だったので、その増え方は異常である。

辞める理由としては、同じ職場で一生保障される旧来の日本型システムに魅力を感じないからであろう。体制維持派の人たちに言わせれば「公務員バッシングがあるから」ということだが、それには疑問である。

 

若者を引きつけるためにもキャリア制度の廃止を

若者を引きつけるためにはキャリア制度の廃止を行う必要がある。改革の3本柱は省庁の垣根を超えた人事異動、抜擢と淘汰、そして中途採用である。

現行の国家公務員試験は廃止して、「一般職」「専門職」「総合職」の3種類とする。ただし、これはあくまでも採用する際の区分であって、将来の昇進や身分を保障するものではない。総合職については、内閣人事局が一括して採用し、各省庁に配属する。

幹部候補育成課程も新設し、採用後2年程度の働きぶりを評価して行う。採用時点で将来が決まっているわけではなく、やる気と能力のある公務員なら幹部になれるし、そうでない人にも別の選択肢を用意するというものである。

 

「脱藩官僚」の能力を活用できる

著者が中途採用で期待しているのが「脱藩官僚」である。脱藩官僚とは、公務員を続けたかったにもかかわらず、様々な事情で公務員を辞めた人たちだ。民間人や学者を公務員の幹部にするという案も出ているが、人材の流動化がそれほど多くない現時点では非常に難しい。それは、公務員に関する基礎知識が不足しており、ほとんど仕事ができないからである。

例えば、埋蔵金(資産負債差額)については、もともと経済諮問会議で議論されているものだが、2007年11月の諮問会議ではまったく議論されていない。また、公務員制度改革についても、第二次改革についてはまったく言及されていない。さらに、公的年金運用の強化についても、官製金融の復権・拡充につながる方向に動くなど、官僚の思うように動いてしまった(2013年7月、アベノミクスによって改革が進み始めている)。

 

法案を作れれば官僚と五角以上に戦える

政策を実現しようとすれば、実際はそれを法律に落とし込む必要がある。政策を企画立案する側に法案作成能力があれば、その政策が実現しやすくなるのである。

政策の実現段階ではすべて法案レベルの話になる。政策立案側が法案レベルで話ができれば、官僚と五角以上に戦えるのである。竹中平蔵氏が理想的な郵政民営化を実現できたのも、民営化法案を少人数のチームによって自前で作れたからである。法案だけでなく、何かのシミュレーションをやる場合でも、自前で作ることで役所に対抗することができるのだ。

 

一元管理の意義

内閣人事局によって人事情報が一元管理されることで、現職の官僚、脱藩官僚、民間人や大学の先生といった人たちを有効に組み合わせて活用することができる。例えば、現職の公務員なら、他の省庁に移っても共通した仕事のノウハウはある。脱藩官僚はすでに経験があるので即戦力になる。民間人や大学の先生は、公務員とは違う視点を持っている。同時に、政治任用と職業公務員のバランスを試行錯誤しながら、それぞれにふさわしい評価体制を構築すればよい。

また、税金等のムダ遣いが減ることが国民の目にはっきり現れるだろう。著者も証券の振替決済の法律や国民年金基金法などによって、結果として天下り先を確保していた。公務員制度改革がうまくいけば、こうした無駄な天下りはなくなるだろう。

 

公務員制度改革は与野党対立ではない

2008年7月11日に、国家公務員制度改革推進本部(事務局長:立花宏日本経団連参与)がスタートした。そもそも公務員制度改革は与野党の対立課題ではない。どの党でも政治主導で政策決定ができる制度づくりを考えている。

まず、国家公務員制度改革基本法により法施行1年以内に法的措置を講ずることが決められている内閣人事局の所掌事務の確定のために、内閣法第12条(内閣官房の所掌事務)の改正を2009年の通常国会で行う必要がある。そのためには、内閣法、国家行政組織法、国会法などの改正も必要になってくる。定数の設定・改定プロセスの検討も必要で、給与法などの改正が必要である。

さらに、ねじれ国会によっても公務員制度改革に影響を及ぼしている。第一次公務員制度改革で、再就職監視委員会が設置され、各省による再就職あっせんの禁止が守られているかを監視することになった。しかし、民主党の同意が得られずに監視委はスタートしなかった。

この状態ではあっせんは行えないと解釈するのが自然だが、「監視委の権限はもともと内閣総理大臣にあるから、監視委がなくても首相が承認すればあっせんはできる」と官僚は解釈し、あっせんを行ったのである。まさに「戦略は細部に宿る」のである。

 

最後に

政治は法案作成能力を磨き、官僚は縦割り主義の殻を破ることで、本当の意味で国民全体の視点に立つ「日の丸官僚」に脱皮することができる。公務員制度改革は与野党の対立課題ではない

霞が関をぶっ壊せ!


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