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ガイ・ホフマン 「心」を宿したロボット

「ちょっとお茶目で、敏感で、好奇心旺盛なロボットについて紹介しましょう」ホフマンは語りかける。ここでは、240万ビューを超える Guy Hoffman のTED講演を訳し、心を宿したロボットについて理解する。

要約

アニメーター兼ジャズ・ミュージシャン兼 ロボット研究家が作るロボットは、どんなものでしょうか? ちょっとお茶目で、敏感で、好奇心旺盛なロボットです。ガイ・ホフマンは、彼が生んだ風変わりなロボットたちのデモ映像を紹介します。人間とジャム・セッションするのが好きな音楽ロボット2体も登場します。

Can robots and humans interact the way that human beings interact with each other? Guy Hoffman researches embodied cognition and intelligence in robots.

 

1 人間と意思疎通するロボットの設計、制作、研究

私の仕事は 人間と意思疎通するロボットの 設計、制作、研究です。きっかけは ロボット工学ではなく アニメーションでした。ピクサーの「ルクソーJr」を 初めて見たとき 私は感銘を受けました。電気スタンドのような 平凡なものを これほどまでに 感情豊かにできるのかと 映画が終わる頃には 電気スタンドに 本当に感情移入してしまいますよ (笑) それで このやり方を 学びたいと思い 最悪のキャリア選択を したわけです。私の決断を知ったとき 母は こんな感じでした (笑) 私は 慣れ親しんだソフトウェア会社の 技術職を辞め イスラエルからニューヨークに渡り アニメーションを学ぶことにしました。ニューヨークでは ハーレムの壊れかけのアパートに ルームメイトと住んでいました 「壊れかけ」は 比喩ではなく 本当にリビングルームの天井が 崩れ落ちるくらいです。ニューヨークの建築基準法違反の 報道では 決まって 私たちのアパートの 映像が流れたものです。どれだけ事態がひどいかを示す 格好の例だったんですね。

 

2 感情を表現するには物や身体の動きが重要

私は 昼間は 学校に通い 夜は 鉛筆でアニメーションを 1コマずつ描いていました。そこで 2つの意外な教訓を 学びました。1つは― 感情を表現するには 物の見た目は あまり重要ではなく 動きが大事だということです。どんなタイミングで 物がどう動くかで 決まるのです。2つ目は ある先生が教えてくれたことです。『アイス・エイジ』の イタチを担当されていた― その先生が仰ったのは 「アニメーターは監督ではなく 俳優である」ということです。あるキャラクターに ふさわしい動きをさせたいなら 頭で考えるのではなく 体を使って答えを探すのです。鏡の前に立ち カメラの前で 自ら演じて 求めているものを見つけ キャラクターにも そう演じさせます。

 

3 人間とロボットの関係を研究する

1年後 私は マサチューセッツ工科大(MIT)の ロボット・ライフ研究グループにいました。人間とロボットの関係を研究する 最初のグループです。当時 私はまだ 「ルクソーJr」の 電気スタンドを 本当に作ろうと思っていました。でも 当時のロボットは あんな魅力的な動きはせず アニメーションとは 違いました。それどころか ロボットは― 何と言うか ロボットっぽかったんです (笑) そこで アニメーション学校で 学んだことを生かして 自分でロボットの電気スタンドを 作ろうと思いました。1コマごとに デザインをして このロボットを出来るだけ 優雅で魅力的なものにしようとしました。こちらは そのロボットが 机上で私と戯れる様子です。実は ここで私は ロボットの再設計をしていて ロボットは 知らないうちに 私を助けて 自ら墓穴を掘ってるわけです (笑) 機械的な感じは 出したくなかったので 光を照らすのにも 静かで有能な助手のように 必要なときに側にいてくれて 出過ぎないようにしました。例えば 私が電池をなくして 見つけられないでいると 電池がどこにあるか さりげなく教えてくれるのです。私が困っているところです。演技がヘタですみません。注目いただきたいのは 同じ機械であっても その動きによって 優しく思いやりが あるように見えたり 暴力的 挑戦的に 見えたりすることです。ただ 動作が違うだけで 全く同じ物なのです。「知りたいか? 教えてやろうか? 彼はもう死んだんだ。ただ横たわるだけで 目にも生気がない」(笑)

でも 優雅な動きをすることは 人間・ロボット相互作用に必要な― 構成要素の一つに 過ぎません。当時 私は 博士課程で 人間とロボットの チームワークを研究していました。人間とロボットがチームで 共に働くときのチームワークを 工学的、心理学的、哲学的観点で 研究していたのです。同時に 私自身も チームワークをしていました。ここに来てくれている 親友とです。ですから 近い将来 一緒にいることになる― ロボットを容易に 想像することができました。ユダヤ教の「過越し祭」の後 私たちは 折畳み椅子の 片づけをしていて すぐに自分たちのリズムを 見つけられたことに 驚きました。誰もが それぞれの役割を果たし 担当分けも 必要ありませんでした。言葉に出して 意思疎通するまでもなく ただただ そうなったのです。そこで思いました。人間とロボットの 違いはここだと。人間とロボットとのやり取りは チェスのようなもので 人間が何かすると ロボットは それを分析し 次に何をするかを決めて 計画・実行します。人間は自分の番になるまで 待つだけです。だから チェスなのです。チェスは 数学者や コンピュータ科学者向きなので 確かに理にかなっています。チェスは 情報分析や 意思決定 計画がすべてですから。

 

4 どの筋肉を動かせば目的の感情を表現できるか

でも 私はロボットを チェス・プレーヤーではなく ウマが合い 共に作業できるような 同僚のように したかったのです。そこで 私は再び ひどいキャリア選択をしました。1学期 演技を 学ぶことにしたのです。博士課程を中断し 演技の授業を受けました。実際に演劇にも 出ましたよ。そのビデオが出まわっていないことを 祈っていますが 私は 演劇に関する本を 片っ端から読みました。19世紀に書かれた本も 図書館で借りました。ビックリしたのは 貸出名簿にある名前は私のほか 1人だけで それも 1889年のものでした(笑) つまり この本は 100年もの間 ロボット工学に 再発見されるのを待っていたんです。この本に書かれていたのは どの筋肉を動かせば 目的の感情を表現できるか といったものでした。

 

5 体を使ってふさわしい動きを見つける「メソッド演技法」

でも 大きな衝撃を 受けたのは 「メソッド演技法」でした。これは20世紀に入って 広まった演技法ですが メソッド演技法では 筋肉を操る必要はなく 体を使って ふさわしい動きを 見つけるべきだとします。感覚の記憶を使って 感情を再現して 体で考えて ふさわしい表現法を見つけます。共演者にあわせて アドリブで動くのです。これを知ったとき ちょうど認知心理学の有力説― 「身体化された認知」について 読んでいたのですが それもまた 同じ考え方だったのです。私たちは 体を使って考えます。脳は考えるため 体は動くためのもの ではなく 私たちの体は 脳に働きかけて どんな振る舞いをするか 決めるのです。雷に打たれたかのようでした。私はオフィスに戻り 論文を書き上げました 公表はしていませんが 「人工知能のための演技講座」 というものです。私はさらに 1ヶ月をかけて 人間とロボットが 共演する演劇を 当時 初めて 上演しました。さきほどご覧いただいた ロボットと俳優の映像がそうです。そこで思いました。どうすれば 人工知能のモデル― コンピュータを使った数値計算で アドリブという考え方を モデル化できるか? リスクを取り チャンスを生かし 間違いさえ起こす モデルです。これで ロボットは より良いチームメイトになるでしょう。私はかなりの時間をかけて このモデル作りに取組み たくさんのロボットに 組み込みました。こちらは かなり初期の例ですが ロボットが この身体化された人工知能を使い 私の動きをなぞらえようと しているところです。ゲームのようです。ちょっと見てみましょう。出し抜こうとすれば 簡単に騙せてしまいます。これは 俳優同士で 互いの動きを 真似ようとして 同調して行くのと ちょっと似ていますね。

そこで ある実験をしました。街行く人々に このロボットの 電気スタンドを使ってもらい 身体化された人工知能の 検証を行いました。私は 同じロボットに 2種類の脳を載せました。つまり 同じ電気スタンドに 2つの脳を入れたのです。被験者の半分には いわば伝統的な プログラムされたロボット脳を 使いました。ロボットは自分の番を待ち 分析し 計画をします 「計算脳」とでも 呼びましょう。残り半分には 舞台俳優のように リスクテイクする脳を準備しました 「冒険する脳」と 呼びましょう。こちらの脳は 時に すべて計算せずに動きますし 間違いをして それを直すこともあります。これらのロボットと 退屈な作業をしてもらいました。20分もかかる作業で 一緒にやらないといけません。工場の仕事のように 同じことを何度も繰り返す シミュレーションです。その結果 皆が好きだったロボットは 冒険する脳の方でした。こちらの方が より賢くて 熱心に取組み 良きチームメンバーとして チームの成功に より貢献したというのです。「彼」「彼女」と呼ばれさえしました 一方で 計算脳の方は 「それ」と呼ばれ 誰も人間扱いは しませんでした。冒険するロボットと一緒に 仕事した人たちは こう言っています。「最後には友だちになって 心の中でハイタッチしてたよ」 まあ いいですけど (笑) 痛々しいでしょう。一方で 計算脳と 仕事をした人たちは 怠け者の助手だと 言っていました。ロボットは 決められたことしかしません。これこそ ロボットに 期待されていることのはずですが 皆 もっと高い期待を持っていたようで 驚きました。ロボット工学の専門家より 期待が高いです。そういう時期に 来ているのかもしれません。ちょうど メソッド演技法が 19世紀の演技を変えたように 計算し尽くされ 決められたことをすることから より本能的に リスクも取り 感情が身体化されるようになるのです。ロボットも同じような変革を 遂げる時期にあるのでしょう。

 

6 音楽はチームワークや連携、タイミングやアドリブを確かめる最高の場所

数年後 私は― アトランタのジョージア工科大で 次の研究をしていました。グループで ロボット音楽家に 取り組んでいました。音楽は チームワークや連携 タイミングやアドリブを 確かめる最高の場所なのです。このロボットは マリンバを演奏しています。マリンバは いちおう言っておくと 大きな木琴のようなものです。これに取り組んでいたとき 人間・ロボットが即興演奏した 他の作品を見ました。他にも 人間・ロボットの 即興演奏はあるのですが やはり どうも チェスの動きのようでした 人間が演奏して ロボットがそれを分析し 自分のパートを その場で考えるのです。これこそ音楽家が言う 「コールアンドレスポンス」で ロボットと人工知能に ふさわしいものです。でも 演劇やチームワーク研究で 使った考え方を応用したら バンドのようにロボットと ジャム・セッションが できるかもしれない と思いました。その場で 互いがリフを重ね 一瞬たりとも止まらないのです。ですから 演技でやったことを 今度は音楽でしようとしたのです。ロボットはこれから何を 演奏するか知らぬまま ただ体を動かして 機会をとらえて 演奏をするのです。私が17歳のとき ジャズの先生が教えてくれました。即興演奏をするときは 自分が何をするのか分からないまま ただ 演奏するのです。ロボットには 何を演奏するか 認識しないまま ただ演奏するようにしました。こちらの演奏を ちょっとご覧ください。ロボットが 人間の演奏を聞き 即興演奏をしています。ここで 人間の音楽家もまた ロボットの動きを見て それに合わせて 動いています。ロボットが思いついた演奏は 素晴らしいですよ (音楽) (拍手)

 

7 音楽家は自分の体と他のメンバーと聴衆と心を交わし、自らの体を使って音楽を表現する

音楽家は ただ音を出すだけではありません。音だけなら 誰もライブ・ショーに行かないでしょう。音楽家は 自分の体と 他のメンバーと 聴衆と 心を交わし 自らの体を使って 音楽を表現するのです。すでに舞台には ロボット音楽家がいるのだから それを一人前の音楽家にしてやろう と思いました。私は 社会的な表現ができる脳を ロボットのために設計し始めました。この頭は マリンバには触らず 音楽というものを 表現するだけです。これらは アトランタのバーの ナプキンに描いたスケッチです。このバーは 危険なことに 私の研究室と自宅の ちょうど間にあるんです (笑) ですから 平均して 毎日3、4時間は過ごしていましたね たぶん(笑) 私は アニメーションに立ち返り ロボット音楽家の見た目だけでなく どんな風に動くかを 考え出そうとしました。他の人の演奏が 気に入らない様子だったり たった今 感じているビートを 表現していたりします。

 

8 社会的表現力を持つロボット

幸いにも 資金を得て このロボットを作れることになりました。また同じような演奏を お見せしますが 今度は 社会的表現力を 持つロボットです。ご覧いただきたいのは ロボットが 人間の演奏にあわせた ビートを見せているところです。人間の方も ロボットが 意思を持っているように感じています。ロボットもソロパートになるなり 動き方を変えます (音楽) ロボットは私を見て ちゃんと聞いているか確かめています (音楽) この演奏の 最後に注目してください。今度は ロボットは 色々なことをしながらも 自らの体と語り合います。準備ができると 私にあわせて 最後の音を 共に奏でます (音楽) (拍手)

 

9 私たちは自分の周りにある動く物は無視できない

ありがとう。これがどれだけ― 楽器に触れない体の部分が どれだけ 演奏表現に役立っているか ご覧いただけたでしょうか。私たちはアトランタにいたので あるとき いかにもラッパー風な人が 研究室にやってきました。私たちは このラッパーを 招き入れて ロボットとジャム・セッションを してもらいました。ここではロボットは ビートに乗っていて 2つのことに気付くと思います。1つは― ロボットが頭を動かしているとき どんなに魅力的かで ロボットに合わせて 自分の頭も動かしたくなります。2つ目は ラッパーは iPhoneに夢中になっても ロボットが自分の方に向くと すぐに演奏に戻ります。ロボットは 彼の周辺視野に― 視野の隅にあるだけなのに すごい力を持っています。これは 私たちは 自分の周りにある― 動く物は 無視できないからです。神経過敏なんです。ですから もし 仲間が気もそぞろに iPhoneやスマートフォンに 夢中になっていたりしたら そこにロボットを置いて 注意を引きつけましょう(笑) (音楽) (拍手)

 

10 自ら音楽を楽しむドックスピーカー

私たちが取り組んでいる 最新のロボットをご紹介しましょう。ちょっと驚くようなことがわかりました。人々はもはや ロボットが賢かろうが 即興演奏もし 聞くことができようが 何年も開発してきた知能で何ができようが どうでもいいんです。ただロボットが音楽を楽しんでいるのが 大好きでした(笑) 「ロボットが音楽に反応している」 とは言わず 「音楽を楽しんでいる」 と言うのです。このアイデアを 使わない手はないと 私は新しいインテリアを デザインしました。今回は電気スタンドではなく ドックスピーカーです。スマートフォンを直接つなげる スピーカーです。もし ドックスピーカーが 音楽をかけてくれるだけでなく 自ら楽しんでいたら どうでしょうか?(笑) こちらは アニメーション・テストで 初期のものです(笑) 完成形は こちらです (音楽「Drop It Like It’s Hot」) ノリノリで頭を振ってますね (拍手) 聴衆の皆さんも 頭を振っていましたよ。ロボットの影響力は 大きいでしょう。それも 単なる遊びや ゲームではありません。

 

11 将来あなたの人生にはきっとロボットがいる

体を使って意思疎通し 体で動くロボットについて これほどまでに関心を 持つ理由の一つは― ロボット工学者の 秘密を少しばらすことになりますが― いつかは 誰しも ロボットと 一緒に暮らすことに なるからです。将来 あなたの人生には きっとロボットがいます。あなたの人生でないとしても 子どもの人生に 私はこのロボットたちに 今よりももっと 雄弁になり 人と交わり 優雅になってほしいのです。そのためには ロボットは チェス・プレーヤーよりは むしろ― 舞台俳優や音楽家のようになる 必要があると思います。ロボットは チャンスを生かし アドリブできるべきでしょう。あなたがすることを 察することができ また 間違いを犯し それを正すこともできるべき― なのかもしれません。結局 私たちは 人間ですから ロボットも 人間と同じように ちょっと完ぺきではない方が 私たちには 完ぺきなのかもしれません。ありがとうございました (拍手)

 

最後に

人間と意思疎通するロボットの設計、制作、研究。感情を表現するには物や身体の動きが重要。体を使ってふさわしい動きを見つける「メソッド演技法」。皆が好きだったロボットは冒険する脳。音楽はチームワークや連携、タイミングやアドリブを確かめる最高の場所。将来あなたの人生にはきっとロボットがいる

和訳してくださった Yuko Yoshida 氏、レビューしてくださった Takafusa Kitazume 氏に感謝する(2013年10月)。

Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2014年 5/6号 [ロボットと人間の未来]


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