「建築によって今よりも美しい未来はつくりだせるでしょうか?」ヘザウィックは語りかける。ここでは、120万ビューを超える Thomas Heatherwick のTED講演を訳し、成長と光がテーマのデザイン「種の聖殿」について理解する。
要約
今よりも美しい未来はつくりだせるでしょうか?建築家のトーマス・ヘザウィックが、生物からヒントを得たという5つの独創的なプロジェクトを紹介します。バスや橋や発電所など、普通に目にするものをつくり直したものもあれば、成長と光を題材とした並はずれたデザインの「種の聖殿」も出てきます。
Thomas Heatherwick is the founder of Heatherwick Studio, an architecture and design firm that, among other projects, designed the astonishing “Seed Cathedral” for the UK Pavilion at Shanghai Expo 2010.
1 建物を初めて建てたのは20年前
こんにちは。トーマス・ヘザウィックです。ロンドンにアトリエを構え 独自のやり方で 建物をデザインしています。子どもの頃 身近に感じていたのは小さなスケールの ものづくりや工芸や 道具や発明などでした。そんな私は 巨大ビルを見たり 周囲にある建物や 本などで紹介されている 建物を目にすると その建物には 魂が入っていないような 冷たい印象を受けていました。一方で イヤリングや 陶器や 楽器のような 小さなものには 大切で 温かいものを感じていました。そこから私は影響を受けました。建物を初めて建てたのは20年前です。それ以来 20年にわたって ロンドンに設計工房をもっています。ロンドンでビーズ屋を 営んでいた母の写真です。私は よくビーズを数えたものでした。
2 病院、店舗、寺院など携わったプロジェクト
私の仕事を紹介するために 携わったプロジェクトをお見せします。病院の建物 バッグ会社の店舗 アーティストのアトリエ これは立体芸術作品で 何百万メートルもの針金と ゴルフボールの大きさの ビーズが15万個使われています。ウィンドーディスプレー 変電所の冷却機 これはロンドンの セントポール大聖堂の横にあります。日本にある 僧侶のための寺院です。これはイギリスの海辺にある カフェです。
3 ロンドン交通局とバスの共同開発をしている
最近のプロジェクトを 簡単に紹介します。ロンドン市長から依頼を受け 乗客が 自由に 乗り降りできるような新しいバスを デザインすることになりました。もともと ルートマスターのバスは 後部にある乗降口に ドアはありませんでした。今や ルートマスターのバスは すべてカリフォルニアにあるため ロンドンにはありません。バスに乗ったまま 足止めを喰らってしまうと 停留所が ほんの3メートル先にあっても 身動きが取れないのです。でも ロンドン市長の希望で ドアなしの乗降口を再び採用する案が上がったので ロンドン交通局と共に開発しているところです。ロンドン交通局は 50年間も 新しいバスの生産を 請け負ってなかったので こんな機会に恵まれて 幸せです。エネルギー使用料は4割削減という指示だったので ハイブリッド駆動にしました。すべての面で 向上させようと 骨組みから 全体の形 構造や 見た目の美しさなど 全面に力を尽くしています。
4 橋づくりに関する4つのプロジェクト
主なプロジェクトも4つ紹介します 橋づくりに関するものですが 可動橋のデザインを依頼されました。開く橋は 人気がありますが いたって基本的なデザインです。橋が開閉するときは 足を止めて 眺める人が多いと思います。以前 ある写真を見て 気分が悪くなったことがありました。あるサッカー選手が ボールをめがけて飛び込んだとき 別の選手に膝を強く踏まれてしまって このように骨折していました。そこで このような橋を目にしたときにも 素晴らしい形だったものが 壊されたように感じて仕方がありませんでした。これはロンドンのパディントンにある橋ですが ご覧のとおり デザインは平凡で スチールと材木だけで つくられています。でも 平凡な橋では終わらせずに 作動の仕方を工夫しました (拍手) 両端が最後にはキスをする というアイデアが気に入りました (拍手) 最初 皆が心配していたので スピードを半減させたのですが これが短縮版です。
5 有機廃棄物を燃料とするバイオマス発電所のデザイン
一番最近のプロジェクトは 有機廃棄物を燃料とする バイオマス発電所のデザインです。ニュースでは 将来の水資源や 電力の供給先が 常に話題となっています 発電の仕方に胸を張っていたのは もう過去の話で 今となっては 電力会社の年報に 発電所の写真が載ることはなく 野原を駆ける子どもが出ていたりします(笑)エンジニアの人たちから発電所づくりの話を 持ちかけられたとき 私たちが提示した条件は どんなことであっても 普通の発電所を ただ装飾するような真似はしないこと。その代わりに 情報を取り込むために エンジニアといろいろな場所へ行き 様々な要素について学び 非効率で不要なものが 沢山あることを突き止めました。ある土地にどんどん建設することが 必ずしも最も効果的なのではありません。
6 どうやって人を引き寄せる場所にできるか検討した
そこで 雑然とした配置にするのではなく すべての要素を取り入れる方法を検討しました。この地域はイギリスの 最も貧しい地区の一つで 住みたくない場所の1位でした。この発電所の脇に 2千軒の 新築物件が建てられているので この場所の社会的側面を感じました。象徴的な重要性があるわけです。自分たちの電力の供給先は 必ずしも恥ずべき場所ではなく 誇らしい場所であるべきです。そこで フェンスで囲まれた 人を寄せつけない場所にするのではなく どうやって人を引き寄せる 場所にできるか検討しました。発電所の高さは えーと 60メートルもあるので できることと言えば パワーパークをつくりだして 全体に統合性をもたせることでした。その場所にある余分な土を使って 静かな発電所にすることもできました。土だけでも 防音効果があるからです。また このような構造にするには 構造面とコスト面で より効率的にできることがわかりました。完成図は ただの発電所以上のもので てっぺんには バルミツバを行う余裕もあります(笑) パワーパークになっているので 体験型に設計していて もともとの機能のためにある高さを利用して 展望台から周囲を見渡すこともできます。
7 上海万博のイギリス館を建てる権利を獲得した
上海万博では 建築のために招待されました。間違いました。招待ではなく 大会で優勝したのです。上海に行くのは大変でした(笑) イギリス館を建てる権利を獲得しました。万博は本当に 頭が変になりそうでした。パビリオンの数は250もあり 世界史上最大の万博だったのです。入場者数は毎日100万人ほどいたそうです。250ヶ国が競い合っていたので 英国政府からは トップ5に入るように言われ トップ5入りが 政府から課せられた目標になりました。これだけ混乱した中で 人目を引くためにはどうしたらいいか悩みました。すべてを組み入れようとはせずに 1つのものに集中した方が 賢明だと感じました。また 避けようと思ったのは いかにもイギリスを強調したものでした(笑)
8 種子をテーマとしたプロジェクト
でも 万博というのは 都市の未来がテーマです。ビクトリア朝時代の人たちは特に 都市に自然を取り込む草分け的存在でした。また 現代における世界初の 公共の公園はロンドンにできました。世界初の本格的な植物園も ロンドンにあります。そこでは世界の植物の 25%を集めるプロジェクトが 進められています。英国がもつ この要素に突然気づきました。しかも どんな人にも木は美しく映ります。木を嫌う人に会ったこともありません。花に関しても同じで 花を嫌う人にも会ったことはありません。植物をテーマにした 本格的なプロジェクトは 大きな植物園で行なわれていても 種子というのは 展示されていません。園芸用品店で袋に入れられて 販売されている程度です。でも この驚くべきプロジェクトが進行中だったので 種子をテーマとした プロジェクトがいいと気づきました。
9 建物全体から光を放射するにはどうしたらいいか
でも あれだけ小さいので展示の仕方で悩みました。その時 ジュラシックパークが参考になりました。恐竜のDNAが琥珀に閉じ込められていることから ヒントを得たのです。種を閉じ込めた状態にして より大切なもののように 見せられることに気づきました。どうやって光をもたらして 種に光を当てるかが課題でした。いくつも建物を建てるのは避けたかったので 建物全体から光を放射するには どうしたらいいのか考えました。予算が他の西洋諸国に比べ 半分しかなかったのは 会場の大きさと同様に 悩みの種でもありました。そんな時 ある玩具からヒントを得ました(ビデオ) プレイドーの床屋さんが新発売 ♪ ねんどの床屋さん 椅子をくるりと回して ♪ ♪ ねんどの髪の毛を伸ばそう ♪ ♪ ねんどの床屋さん ♪
10 シンプルな箱型で風になびくようなデザインの建物
アイデアはわかったでしょうか。アイデアは 提供してもらった 6万6千個の種を この細長いアクリルポールに それぞれ閉じ込めて 箱から飛び出るようなデザインです。とてもシンプルな箱型で 風になびくようなデザインの 建物を建てるのです。風が吹くと 全体がゆっくりと動きます。内部は 日中だと 1本1本から中心に向かって 光が入ります。夜になると それぞれの筒に入る人工光が 外側に照らし出されます。また 費用の面から考えて サッカー場の大きさの建物を 作るのではなく この一つの要素にこだわりました。政府は この考えに対して これだけに集中することに 賛成してくれました。建物以外の場所は 公共のスペースにしました。一日の来場者が100万人だったので 公共のスペースにするのがいいと思ったのです。
11 目が不自由な方でもザクザクした感覚や柔らかい感覚が味わえる
人工芝の製造会社と協力して 種の聖殿の ミニチュア模型をつくりました。目が不自由な方でも この場所に足を踏み入れると ザクザクした感覚や 柔らかい感覚が味わえます。ペットの手術には 毛を取り除くために 一部分だけ 毛を剃りますね。同様に 種の聖殿に入れるように 一部分を剃りました。内部は がらんとしています。有名人によるナレーションも 映写もテレビも 色が変わる仕掛けもありません。静かな空間があるだけで ひんやりとしています。雲が通り過ぎると 光を通すようになっている先端に 雲が見えます。これが手掛けたプロジェクトで唯一 実際の完成品が 予想以上に完成予想図のようになってしまったものです(笑)
12 どのように相互交流がはかれるのかが鍵
どのように相互交流がはかれるのかが鍵でした。それが万博において もっとも重要なことでした。お見せしたいものがあります。英国政府であっても どこの国の政府であっても 政府がクライアントになる以上に 厄介なものはありません。恐怖心も大きかったのですが 支援もいただきました。映像には英国貿易投資総省の トップが映っていますが 彼らは私たちのクライアントでした。スロープになっている場所で 中国の子どもたちと遊んでいるところです。1 2 3 ゴー!(笑)私のマヌケな声が余計ですね(笑)
13 質感も重要
最後になりますが 質感も重要です。進行中のプロジェクトでは しゃれた形をしているのに 実体は同じという洗練された建物に 取り組んでいます。私たちは従来の建物に代わるものの研究を 重ねているところです。マレーシアで進行中のプロジェクトですが 不動産開発業者の依頼で 住宅用建物を建築中です。この敷地に 建てているところです。クアラルンプールの市長は 開発業者が 市に何かを還元するならば それは建築可能な延面積だろう と言ったのです。開発業者にとって 市により良いことは何かを考える 動機づけとなったわけです。
14 大事なのは見事な景色を取り戻すこと
この地域の住居用ビルに 見られる特徴は 高層ビルの場合 隅に数本の木があって 車が駐車している感じです。たいていの人たちが実際に足を運ぶのは2階か3階までで それ以上の階は鑑賞向きです。このようなビルの低層階は もっとも価値が低いので その部分を切り取り 下の部分を小さくして その分を 上へ移動させれば 開発業者も 利益を拡大できます。この場所をつなげると 1割の場所にみすぼらしい木と 建物の周りに 道路がある状況から 全体の9割を熱帯雨林に 変えることができます(拍手)このような建物を建築中です。どれも同じ建物なので 費用効率が高いです。異なる高さで切られていますが 大事なのは 景観を飲み込むようなことはせず 見事な景色を取り戻すことです。 このスライドで おしまいです。ありがとう(拍手)ありがとう(拍手)
ありがとうございました 時間に余裕があるので この種に関して 少し話してもらえませんか。あの建物から 取り外されたものなのでしょうか。 これは あの建物の建築中に 試験的に使用したものです。同じ形のものが6万6千本使われていて このアクリルポールの長さは 6.7メートルです。日中に太陽光が入ると 外側から光が入って それぞれの種を照らし出します。建物を防水加工するのは一苦労でした。ただでさえ建物を防水処理するのは大変なのに 6万6千ヶ所に穴をあけるわけですから かなりの時間を要しました。ある施工業者が ちょうどいい体格をしてまして 防水加工する最終段階で すき間に入って活躍してくれました。ありがとう(拍手)
最後に
上海万博のイギリス館が「種の聖殿」。デザインはシンプルな箱型で、風になびくような建物。目が不自由な人でもザクザクした感覚や柔らかい感覚が味わえる。相互交流や質感も重要。大事なのは見事な景色を取り戻すこと。
和訳してくださった Takako Sato 氏、レビューしてくださった Yuki Okada 氏に感謝する(2011年3月)。
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