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エルネスト・シロッリ 「人を助けたいなら黙って聞こう!」

「会社を1人で立ち上げる人はいません。だからコミュニティーを作るのです」エルネストは語りかける。ここでは、130万ビューを超える Ernesto Sirolli のTED講演を訳し、支援と起業のコツを理解する。

要約

善意の活動家の多くは、自分達が解決できそうな問題を聞きつけては、すぐに出かけて活動を始めます。でもエルネスト・シロッリに言わせれば、それはいささか考えが甘いのです。可笑しくて熱意あふれる話を通して彼が提案するのは、まず支援する相手の話をよく聞くこと、そして起業する意欲を喚起することです。本当に役立つことに関する彼からのアドバイスは、すべての起業家の助けになるはずです。

Ernesto Sirolli got his start doing aid work in Africa in the 70’s — and quickly realised how ineffective it was.

 

1 私の人生の土台は若い頃に7年間アフリカで働いた経験

仕事も含めて私が今していること ― つまり私の人生の土台になっているのは 若い頃に7年間アフリカで働いた経験です。1971年から77年にかけて ― 実は 見かけほど若くないんです ―(笑)。ザンビア ケニア コートジボワールアルジェリア ソマリアといった アフリカ各国で技術支援の活動をしていました。

 

2 自分達イタリア人は善良だし、よくやっていると思っていた

私はイタリアのNGOで 活動していましたがアフリカで立ち上げたプロジェクトは ことごとく失敗しました。とても悩みました。当時21才だった私は自分達イタリア人は善良だし よくやっていると思っていたのです。ところが やることなすこと全てがダメでした。

 

3 地元の人に教えたのはイタリアン・トマトやズッキーニの育て方…当然誰も興味を持ちません

最初のプロジェクトは私の初めての著書 ― 『ザンベジ川のさざ波』で書いたように 私達イタリア人が ザンビアの人々に食糧生産の技術を指導するプロジェクトでした。イタリア産のタネを持ってザンビア南部に入りました。壮大な峡谷が ザンベジ川へと下っています。地元の人に教えたのはイタリアン・トマトや ズッキーニの育て方・・・ 当然 誰も興味をもちません。だから来てもらうためにお金を渡したら 時々 人が来るようになりました(笑)驚いたことに 彼らは 肥沃な大地があるのに農業をしません。でも私達は農業をしない理由も聞かず 「来てよかった」と素直に喜んだんです(笑)「国民が飢える前に助けに来られた」と。

 

4 少なくともカバには食料を与えた

アフリカでは何でも見事に育ちました。大きなトマトも実りました。イタリアでは せいぜいこの大きさですがザンビアではとても大きくなります。信じられなかったけれどザンビアの人には 「農業なんて簡単でしょう」と言いました。トマトが熟して真っ赤になった頃に 夜中 200頭のカバが河から現れて 全部 食べてしまいました (笑)「なんてことだ カバが!」と言っていたら、彼らは答えて「だから 農業はしないのさ」(笑)。なぜ教えてくれない と聞くと「聞かないからさ」という答え。最初 失敗しているのは私達だけかと思っていました。でもアメリカ人や イギリス人やフランス人が やっていることを見てからは 自分達のザンビアでの活動を自慢したくなりました。だって 少なくともカバには食料を与えたんですから。

 

5 『援助じゃアフリカは発展しない』

私達がこれまで ―(拍手) 私達がこれまで純真なアフリカの人々に 与えたガラクタを見てください。本を読むなら ザンビアの女性エコノミストダンビサ・モヨの 『援助じゃアフリカは発展しない』がお勧めです。出版は2009年です。西洋諸国は この50年間アフリカ大陸向けに 2兆ドルもの資金援助をしました。この資金が与えた損害は今はお話しません。彼女の本を読んでください。アフリカの女性から私達が与えた損害を学ぶのです。

 

6 西洋人は帝国主義者、植民地主義者、宣教師

西洋人は 帝国主義者で植民地主義者で 宣教師です。そんな我々が知る人との接し方は2種類です。庇護を与えるか父親のように振る舞うか です。どちらも ラテン語の”pater” 「父」という単語を 含む言葉で表されます。でも2つの言葉の意味はかなり違います。”paternalistic”が表すのは異なる文化圏の人々を まるで自分の子のように扱う態度です。子どもを愛する態度です。”patronizing”が表すのは異なる文化圏の人々を 自分の召使のように扱う態度です。白人がアフリカでは”bwana”「ボス」と呼ばれる理由が これです。

 

7 支援の第一原則は「尊重」

私は『スモール イズビューティフル』を読んで 平手打ちされたような気がしました。著者のシューマッハーは 経済発展の過程では 人々が支援を必要としないなら放っておくべきだと言います。これが支援の第一原則です。支援の第一原則は「尊重」なのです。今朝のスピーチで男性が 私達に 挑むように言っていたではありませんか 「ネオコロニアル様式ではない街を 築けないものか」と。

 

8 大事なのは黙っていること

27才の時に 自分から行動せず 要請に応じるだけにしようと心に決めて 「事業促進」という仕組みを作りました。この仕組みでは自分から行動を起こしません。人に何かをやらせる代わりに地元の有志や よりよい人間になりたいと考える ― 人々のための奉仕者として働きます。だから大事なのは黙っていることです。アイデアを与えるために出かけて行くのではなく 地元の人と話をしに行くのです。オフィスで作業はしません カフェやパブで話をします。インフラは持ちません。人と仲良くなって その人が何をしたいのかを探ります。

 

9 大切なのは成長への情熱

大切なのは情熱です。アイデアを与えるのは簡単ですが やりたくないと言われたら どうしようもありません。成長への情熱が 女性にとって 一番 大事です。成長への情熱は 男性にも 一番 大事です。その後 必要な知識を得る手助けをします。誰しも1人では成功できないからです。アイデアのある人が必要な知識を持つわけではなく 知識は手に入れるものです。

 

10 コミュニティーの集会の欠点は起業家が来ないこと

だから こう考えるようになりました 「コミュニティーに入ってみんなに指示する代わりに みんなの話を聞こう」 でも公の集まりでは だめです。秘訣を教えましょう。コミュニティーの集会には欠点があります。起業家が来ないのです。それに みんなが集まる集会では 自分のお金を使ってやろうとしていることや 自分が見つけたチャンスを教えてくれるわけがない。つまり発想自体に欠陥があります。その土地の優れた人材を見つけられないのです。公の場に現れないのですから。

 

11 仕事は企業やビジネス向けのファミリー・ドクターのようなもの

そこで1人ずつあたっていくことにしました。1人ひとりと話すには 社会的インフラを一から作る必要があります。新しい職業が必要なのです。その仕事は 企業やビジネス向けのファミリー・ドクターのようなもので 自宅のキッチンや カフェで話を聞き 情熱を 生活の糧へと替えるための 経営資源を探す 手伝いをします。

 

12 「とても難しいことですが黙って話を聞くんです」

西オーストラリア州エスぺランスで試しました。その頃 私は博士号に取り組みながら 地元の人を守るために指示してやろうという態度を 捨てようとしていました。エスぺランスでの1年目は 街を歩き回りました。3日目に最初の依頼がありました。その人はガレージで魚の燻製を作っている マオリの男性でした。パースのレストランへの販売と組織作りを手伝いました。すると今度は漁師が来て言うのです 「マオリを手伝った人かい?俺達も助けてくれないか」 だから 私は5人の漁師と協力して 見事なマグロを1キロ わずか60セントで アルバニーの缶詰工場に売るのではなく 1キロ15ドルで 寿司ネタ用に日本に売る方法を見つけました。すると今度は農家が 助けを求めてやってくるのです。1年で27件のプロジェクトを立ち上げました。すると政府の役人が来ました ノウハウを教えてほしいというのです。だから 私は答えました「とても難しいことですが 黙って話を聞くんです」(笑)(拍手)。そうしたら役人はまたやれと言うんです (笑)

 

13 計画は起業家にとって致命的

私達は世界中 300か所で実践し 4万件の起業支援をしてきました。新世代の起業家たちは 孤立が原因で挫折していきます。史上最高の経営コンサルタントの1人 ピーター・ドラッカーが 96才で亡くなったのは数年前です。彼はビジネスに関わる以前は哲学の教授でした。ドラッカーはこう言っています 「計画というものは 起業社会や起業経済とは相容れない」計画は 起業家にとって致命的です。

 

14 秘密とプライバシーを守ると約束し、手助けの名人にならなければいけません

クライストチャーチは現在 復興中ですが 才能あふれる人たちが自分の金と精力を注いで やろうとしていることがわかっていません。そういう人達がやって来て 自分から話しだす方法を学ぶ必要があります。秘密とプライバシーを守ると約束し 手助けの名人にならなければいけません。そうすればみんな列をなしてやって来ます。人口1万人なら依頼者は200人です。人口40万人のクライストチャーチなら 相当の知性と情熱を秘めているはず。午前のプレゼンではどこで一番 拍手をしましたか? 地元の情熱的な人のプレゼンですね。

 

15 今はまさしく起業家の時代

今はまさしく 起業家の時代なのです。今 産業革命の第一波が終わろうとしています。再生不能な化石燃料や製造により システムは持続不能になっています。内燃エンジンは続けられないし フロンの使用も続けられません。考えなければならないことは 食料 医療 教育 交通コミュニケーション手段を 持続可能な形で地球上の70億人にどう与えるかです。これを実現するテクノロジーはまだ存在しません。では 誰が「グリーン革命」に向けた 技術を開発するのでしょう?大学?あてになりません 政府?それも無理でしょう。答えは起業家です。しかも 彼らはもう始めています。

 

16 100年後ニューヨークは存在しない?

以前 未来がテーマの雑誌で 面白い記事を読みました。1860年に ニューヨークの 未来について議論するため専門家が招集されました。大勢で集まって 100年後のニューヨークが どうなるかを予測したのです。全員一致の結論は 100年後ニューヨークは存在しないというものでした。彼らはグラフを見てこう結論づけたのです。もし今の割合で人口が増加したら 住人が市内を移動するために 600万頭の馬が必要になるだろう。ただ600万頭分のフンは 処理しきれないだろう。街は すでに馬のフンだらけだったのです (笑) 1860年に専門家が注目したのは移動のための汚れた技術でした。ニューヨークはそのせいで窒息寸前だったのです。

 

17 40年後の1900年にはアメリカに1001か所の自動車製造会社ができていた

その後どうなったか?40年後の1900年には アメリカに 1,001か所の 自動車製造会社が出来ていました。1,001か所です。別の移動の技術を探るというアイデアが すっかり優勢になっていました。だから辺鄙な場所に小さな工場がたくさんあったのです。例えばミシガン州ディアボーンにはヘンリー・フォードがいました。

 

18 起業家と仕事をする秘訣は、秘密を守る、献身と情熱、起業実態の教育

さて 起業家と仕事をするには秘訣があります。まず秘密を守ることを約束する必要があります。そうしないと話しに来てくれません。次に100%の献身と情熱を 約束しなければなりません。さらに起業の実態を教える必要があります。小さな会社も大きい会社も 次の3つを完璧にできなければなりません。素晴らしい商品を作れること、素晴らしい営業ができること、優れた財務管理ができること。ただ そうは言っても 製造と販売とお金の管理を 同時にこなせる人など見たことがありません。そんな人はいないのです。この世にはいません。

19 「私」はゼロで「私たち」が32回

私達は世界100の大企業 ― カーネギーやウェスティングハウスエジソンやフォード ― GoogleやYahooといった新興企業も含めて 調査をしました。世界の成功した企業に共通する点は たった ひとつでした。どの企業も1人では始めていなかったのです。ノーサンバーランドの高校生に向けた起業の授業では 1時間目にリチャード・ブランソンの 自伝の最初2ページを渡しています。生徒は その2ページを読んで ブランソンが「私」と書いているのが何回で 「私たち」と書いているのが何回かを 下線をひいて調べます。「私」はゼロで「私たち」が32回です。ブランソンは独りで起業したわけではないのです。

20 会社を1人で立ち上げる人はいない。だからコミュニティーを作るのだ

会社を1人で立ち上げる人はいません。だからコミュニティーを作るのです。小規模ビジネスの経験をもつ世話役が カフェやバーで待っていて仲間が手を貸してくれます。自伝の著者ブランソンのために 仲間がしたのと同じように 声をかけてくれます「必要なものは? できることは?これを作れる? じゃあ 販売は?財務管理は?」と訊ね できないと言えば「誰か紹介しようか」と言ってくれます。私達はコミュニティーを活性化します。多くのボランティアが支える「事業促進」は 経営資源や人材を探す手伝いをします。私達が知ったことは 地元の人の知性が奇跡を起こし そのコミュニティーの文化と経済が変わることです。身近な人の情熱とエネルギーと想像力を きちんと捉えれば可能になるのです。どうもありがとう(拍手)

 

最後に

起業家と仕事をする秘訣は、秘密を守る、献身と情熱、起業実態(製・販・管)の教育の3つ。ネットはコミュニティづくりの助けになる。支援の第一原則は「尊重」。援助じゃ人は救えない

TED公式和訳をしてくださった Kazunori Akashi 氏、レビューしてくださった Yoshino Ueda 氏に感謝する(2012年11月)。

起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと


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