前回は、課税権、徴税権で資産と負債をバランスさせる 国のバランスシートについてまとめた。ここでは、特別会計には資産負債差額がある 「埋蔵金」とは何かについて解説する。
1 埋蔵金はバランスシートの資産負債差額
特別会計には自前の収入(特定財源)がある
政府のバランスシートには一般会計と特別会計の2つがある。一般会計は財務省が管理しているが、特別会計は各省庁が自前で管理しているためあまり表に出てこない。
特別会計にはそれぞれ自前の収入があり、これを特定財源という。例えば、道路関係の特別会計ならガソリン税がこれに当たる。空港整備特別会計は空港の管理をするものだが、これも着陸料や航空機燃料税という収入がある。また、空港の土地という帳簿上の資産が約2兆円ある。
労働保険特別会計には6兆円もの余剰金がある
雇用保険事業などが含まれる労働保険特別会計には、6兆円もの余剰金がある。雇用保険とは、勤め人と勤務先の会社が給与の一定割合を雇用保険料として毎月支払い、勤め人がケガや病気で休職したとき、あるいは失業したときなどに給付を受けることができるものである。
この雇用保険料が過剰に徴収されていることで、6兆円もの余剰金が生まれている。雇用保険で必要なお金は10兆円程度であるにもかかわらず16兆円も集められており、この余剰金が貸付金などで天下り先に使われているのである。
「資産負債差額」とは
「資産負債差額」とは資産と負債の差額のことである。いわゆる「埋蔵金」とはこの資産負債差額のことで、純粋に会計の用語にすぎない。30ほどある特別会計の資産負債差額を合計すると40兆円程度ある。
官僚が「ない」という理由
官僚が「ない」という理由は2つある。1つは「使わせない」ためである。資産負債差額が確かにあるが、天下り先に使うのであって国民のためには使わせないという意味である。「天下り」と「埋蔵金」の表裏一体のシステムによって、各省に対する官僚の忠誠心が支えられているのだろう。
もう1つは「法律で使えないことになっている」からである。しかし、その法律は役所の官僚がつくったものだから、国会で変えればいいだけのことである。
法律は普遍の自然法則ではない
法律はあくまで人間がつくったもので、普遍の自然法則ではない。制度が現状にそぐわなければそれを直せばいいのである。
準備金の名を借りた埋蔵金
金利の変動によって債務超過に陥らないようにする金利変動準備金という名目で、余分に持っている埋蔵金もある。金利変動準備金の上限は、2001年度の財投改革法施行時には資産残高の5%とされていたが、2003年度には突然10%に引き上げられる。その理由は、将来の借入や融資の額を2003年度計画と同じ程度と仮定する、非現実的な数字を用いた強引な引き上げだったのである。その後、この準備金の上限は2008年度には5%に戻り、その後も引き下げが検討されている。
2 特別会計の事業仕分けの惨状
貿易再保険特会「廃止」は改悪
経産省所管の「貿易再保険特会」は、商社などが保険料を払い、外国との貿易などで代金回収ができなくなったときに、独立行政法人「日本貿易保険」を通じて国が保険金を支払う仕組みである。
従来、貿易保険は国が行ってきたが、2001年の中央省庁再編のときに貿易再保険は国(特会)、貿易保険は独法(日本貿易保険)と分離した。その後、独法は民営化(特殊会社化)されるという方向になり、さらに保険分野では民間参入も行われてきた。
しかし、今回の事業仕分けで独法(日本貿易保険)が再保険を取り込んだことで、保険分野の民営化はできなくなった。経産省にとっては、再保険の生き残りと独法の民営化阻止の一石二鳥になったのである。
労働保険特別会計の保険料は高すぎる
ジョブカードなどがたたかれていたが、そもそもそうした事業ができるのはなぜか、まで踏み込んではいなかった。先に指摘したように、国民から雇用保険料を余分に集めてそれを雇用促進事業団などで無駄遣いし、それでもなお余った可能性が高いのである。
国債整理基金特別会計の繰上償還は円高対策になる
国債整理基金特別会計とは、国債の償還や利子の支払に備えたお金を管理する特別会計である。国債の繰上償還をすれば国債買切オペ(市場に流通する国債を日銀が買取、資金を供給するオペレーション)になるので円高対策になるが、全くしようとしなかった。
外国為替資金特別会計の含み損は事業中止のサイン
外国為替資金特別会計(外為特会)とは、為替介入によって為替の急激な変動を抑える役割を持つ。しかし、2010年の為替レートで30兆円以上の含み損があり、積立金は20兆円だから、10兆円もの借金があるのである。わざわざ国民から借金してまで続ける必要はなく、早くやめるべきである。
空港整備特別会計は分解して地方に譲渡すべき
空港整備特別会計は、着陸料や航空機燃料税を財源に、国や自治体が管理する空港の整備などを行うもので、正式には「社会資本整備事業特別会計の空港整備勘定」である。この空港整備勘定は廃止という結論になったが、着陸料や航空機燃料税の扱いは明らかになっていない。各空港の民営化を前提とするならば、空港整備勘定を分解して各地方自治体に譲渡し、着陸料込みで上下一体(ビルと滑走路)で地方公共団体に経営してもらうほうが、民営化や公社化につながりやすい現実的な対応策だろう。
特別会計の一般会計化は正論か
特別会計を一般会計化すればいい、という意見がある。しかし、そもそも特別会計には一般会計からの繰入があるため、それは一般会計における歳出である。こうしたことさえコントロールできていないのだから、一般会計化にするとより財務省の権限を大きくするだけである。
「埋蔵借金」報道のお笑い
「埋蔵借金」があるとの報道がされた。しかし、その資料を見ると、単に特別会計のバランスシートの負債そのものの数字が「埋蔵借金」として紹介されていた。埋蔵金はバランスシートの資産負債差額であるため、負債の数字は以前からわかっている。
このように、資産と負債というバランスシートの知識を持つことで、こうした誤った報道に流されずにすむだろう。
最後に
特別会計に資産負債差額があるのは明らかな事実であり、その意味で「埋蔵金」はある。しかし、官僚がその存在をひた隠しにする理由は、定年後の生活保障(天下り)がほしいからである。「天下り反対!」の意味は「歳をとった官僚は年金だけで暮らせ!」に等しい。天下りの是非はあるが、優秀な人にはいつまでも働いてもらえばよい。「安定」をより公平で効率的な形で提供できれば済むだけ。官僚も人。
次回は、日本の借金は300兆円にすぎない 日本政府の資産と負債についてまとめる。
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