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テイラー・ウィルソン 僕のラジカルな計画―小型核分裂炉で世界を変える

「個々の問題が行きつく先はエネルギーであり電気つまり電子の流れです」テイラーは語りかける。ここでは、100万ビューを超える Taylor Wilson のTED講演を訳し、世界のエネルギー問題を解決する大きな一歩について理解する。

要約

テイラー・ウィルソンが 自宅ガレージで核融合炉を作ったのは14歳のとき。19歳となった今、彼は再びTEDのステージに立ち、既存技術である「核分裂」の新たな活用法を提示します。ウィルソンは、支援を取り付けて起業し、彼のビジョン実現に向けて動いています。なぜ 小型のモジュール式核分裂炉を製作する革新的な計画に燃えているのか―そして、なぜ それが 世界のエネルギー危機を救う大きな一歩となりうるのか、語ります。

At 14, Taylor Wilson became the youngest person to achieve fusion — with a reactor born in his garage. Now he wants to save our seaports from nuclear terror.

 

1 個々の問題が行きつく先はエネルギーであり電気、電子の流れ

今日は 重大発表があるので すごくワクワクしています。僕の研究や これまでの成果を ご存知の方々には ちょっと驚きの内容かもしれません。僕は 今まで いくつかの大きな問題― テロ 核テロ対策や保健やガンの診断・治療といった 問題を解決すべく 取り組んできました。でも これらの問題を考え始めて 気づいたんです。今 我々が直面している最大の問題― こうした個々の問題が行きつく先は エネルギーであり 電気つまり電子の流れです。そこで 僕はこの問題を 解決しようと決めたのです。

 

2 古くからある技術を極めて21世紀に持ち込む

これは 皆さんが期待しているものとはおそらく違うでしょう。僕がここで 核融合について 話すと思っているでしょうから。核融合に人生を捧げてきましたからね。でも 今日の話はですね― (笑)― でも 今日の話は 核分裂についてです。古くからある技術を極めて 21世紀に持ち込むのです。

 

3 核分裂の仕組みについて

まず 核分裂の仕組みについて少し紹介します。原子力発電所には 水の入った大きな加圧容器と 燃料棒があり この燃料棒はジルコニウムで被覆された 小さな二酸化ウラン燃料ペレットからなります。核分裂反応は 適切なレベルで制御 維持されています。核分裂反応によって 水が熱され 水が蒸気に変わり蒸気がタービンを回すことで 電気を得られるのです。100年も前からこの方法―蒸気タービン発電で 電力を作ってきました。原子力は 水を熱する方法を 大きく進化させはしましたが 水を熱して 蒸気に変えそれでタービンを回すところは同じです。

 

4 小型モジュール式原子炉は工場で作れる

そこで思ったのですこれが一番いいやり方なのか? 核分裂は 枯れた技術になったのか? それとも まだ何か革新できることが残っているのか? そこで 僕は世界を変える― 大きな可能性があることを思いつきました。これです。小型モジュール式原子炉です。あちらの図に示したような原子炉ほど大きくありません。でも 50~100メガワットという 大きな電力を作れます。これは そう 平均的な家庭で 2万5千から10万世帯分の電力です。この原子炉が 魅力的なのは 工場で作れることです。これら モジュール式原子炉は 基本的に 組立ラインで作れ 世界中 どこへでも運べ 設置さえすれば 発電ができます。ちょうど この部分が原子炉で、ここが重要なのですが地下に埋められています。テロ対策に通じている人なら 地下に埋めることが どれだけ核拡散防止や警備の上で素晴らしいことか 言うまでもないでしょう。

 

5 原子炉に使える燃料は高濃度ウランと兵器級プルトニウムを希釈したもの

原子炉内には 融解塩があり トリウムの信奉者には 大変うれしいことですが この種の原子炉はトリウムの燃料サイクルによる 増殖と燃焼 つまりウラン233に 適しています。でも 燃料については あまり心配していません。この原子炉に使える燃料は―大好物の燃料は 核爆弾コアを希釈したものです。高濃度ウランと兵器級プルトニウムを 希釈したものです。こうすると核兵器には使えませんが この原子炉には最適です。古い核兵器は 大きな問題で こうしたものが溜まっています。冷戦時代 この核兵器を 大量に作りました。当時は大事なことでしたが もはや そんなものは要りません。そもそも こんな廃棄物をどうしろと言うのでしょう 核兵器が大量にあるのです。安全に保管するわけですが 燃やして使い切れたらよいですよね。この原子炉は それができます。

 

6 原子力発電の熱効率が30%程度と悪いのは、炉を低温で稼働しているから

これは融解塩炉で炉心があり 熱交換器でホットな つまり放射性の塩から コールドな つまり放射能のない塩に熱を移します。温度は高いけれど放射能のない塩です。この設計を 本当に面白くするのは 熱交換器で 気体への熱交換を行います。さて さきほど 電力は全て まあ 太陽光発電を除けば 蒸気を熱してタービンを回すことで作られると言いました。実は これはそれほど効率はよくないんです。図のような原子力発電でも 大体 30~35%の効率なんです。この数字は 炉が出力する熱エネルギーと 実際に発電できる電力の割合で 熱効率が悪いのはこれらの炉が 低温で稼働しているからです。炉の温度は せいぜい 摂氏200~300度くらいなんです。でも 新しい炉は 摂氏600~700度で稼働します。温度を高くすれば より高い熱効率を得られます。そして この炉は水を使わず 超臨界のCO2やヘリウムといった気体を使い それでタービンを回すのです。これは ブレイトンサイクルと言います。電気を作る熱力学のサイクルで 熱効率は ほぼ50% 45%~50%の効率になります。素晴らしいと思うのは 炉心がかなりコンパクトなことです。融解塩炉は もともと小さなものですが さらに すごいのは核分裂させたウランから より多くの電気を生み出せることです。おまけに 燃焼してなくなる。この燃焼度は かなり高いです。同じ量の燃料でも この炉なら より多くの割合が使えるのです。

 

7 新しい原子炉は燃料補給なしで30年稼働できる

こうした 今までの原子力発電の問題点は ジルコニウムで被覆された燃料棒があり 中に 二酸化ウランの燃料ペレットがあることです。二酸化ウランはセラミックで セラミックの中のものは放出されにくいのです。するとキセノンピットという現象が起きます。核分裂生成物の中には中性子を好むものもあります。飛び回って― この反応を起こしている中性子を捉えてしまうのです。中性子が食われてしまうことや 被覆材も それほど長持ちしないことからも 燃料補給なしに稼働できるのは せいぜい 18ヶ月といったところです。新しい原子炉は 燃料補給なしで30年も稼働できる。これは 僕は本当に素晴らしいことだと思うんです。密封されたシステムということですから 燃料を補給しなくて良いので 密封できます。核拡散の危険もなく 炉心から 核物質や放射性物質が 外に漏れることもないのです。

 

8 高圧下で稼働せず、メルト・ダウンも起こらない

安全の問題に戻りましょう。フクシマ事故のあと 誰もが原子力の安全性見直しを迫られました。僕が 原子炉を設計するときに考えたことの一つは そのままでも 本質的に安全であることでしたから 僕が この原子炉に大いに期待しているのは 主に 二つの理由からです。まず 高圧下で稼働しないこと。加圧水型炉 沸騰水型原子炉といった これまでの原子炉は非常に高温の水を 高圧下で使います。すなわち 事故が起こったとき もし ステンレス鋼圧力容器が破損したら 冷却剤が 炉心から流れ出すのです。新しい原子炉はほぼ大気圧で稼働しますから 事故のときにも核分裂の生成物が 炉の外に出ることはありません。さらに 高温で稼働し 燃料も融解されているのでメルト・ダウンも起こりません。原子炉が許容範囲を超えたり フクシマのように電力供給が断たれたりしたときは 排出タンクがあります。燃料は液体で冷却剤と一緒になっているので 炉心を流し出して 臨界以下の条件に落とせます。基本的には反応炉の下にある 中性子吸収剤の入ったタンクに落とすのです。これは本当に重要なことです。核反応を止められるのですから。古いタイプの原子炉ではそれができないのです。さっき言った通り燃料はジルコニウム燃料棒内のセラミックで この原子炉で事故が起こったとき フクシマや―その前のスリー・マイル島の事故では 解明するまでに時間がかかりましたが― 燃料棒のジルコニウム被覆は 高圧の水や蒸気に 酸化環境でさらされたとき 水素を発生します。水素は爆発する可能性があり 核分裂の生成物を放出することになります。新しい原子炉の炉心には圧力は加わっていないので 化学的な反応は起こらず 中の核分裂の生成物が 炉の外に出ることもないのです。事故が起こったとしても まあ 原子炉はダメになるかもしれない。それは電力会社には気の毒だけど でも 多くの土地を汚染することはないんです。僕は思うんです。核融合が実用化されるには あと20年ぐらいかかるでしょう。新しい原子炉がその間のエネルギー源として カーボンフリーの電気を提供するでしょう。カーボンフリーの電気です。素晴らしい技術ですよ。何と言っても気候変動を阻止するだけでなく イノベーションなんですから。これは 発展途上国に電力を提供する方法でもあります。工場で作れる上に 安いですから 世界中の 好きなところに設置できます。

 

9 ロケット設計者の夢、異星への移住も夢じゃない

もしかすると 他のことにも使えます。子どもの頃 僕は宇宙に夢中でした。原子核科学にも夢中でしたよそれなりに。でも その前は 宇宙だったんです。本当に大好きで 宇宙飛行士になりロケットを設計する。それで ずっと胸を躍らせていました。僕は ここに戻ってきたんだなと思います。小型原子炉をロケットに積めば 50~100メガワットの電力を供給できるわけですから。これは ロケット設計者の夢 異星への移住も夢じゃない。50~100メガワットの電力で 行きたいところに行けるだけでなく 着いてからも 電力があるのです。ロケット設計にソーラーパネルや 燃料電池を使えば数ワット 数キロワットが出せます。それは たくさんの電力です。でも ここで話しているのは 100メガワット すごい電力ですよ。火星の街に電力供給できるし そこのロケットにも供給できます。だから― 僕は 原子力に情熱を捧げると同時に ロケットへの情熱も燃やせればと思っています。

 

10 炉を稼働させるのは宇宙に出てからで、発射時には核分裂反応は起きていない

みんな 言うでしょう「この放射性物質を 宇宙に飛ばして事故があったらどうするの?」 でも もう 我々はずっとプルトニウム電池を使っています。火星探査機キュリオシティは皆さん 大好きですけど そこには プルトニウム電池が搭載されていて プルトニウム-238が使われています。でも そのプルトニウムよりも 融解塩炉の低濃度ウラン燃料の方が被放射能は低く その影響は無視できる程度です。この炉を稼働させるのは 宇宙に出てからで発射時には核分裂反応は起きていないからです。

 

11 発展途上国にとって大きなメリットになる

僕は 本当に張り切っています。僕が設計した この原子炉は エネルギーの革新的な供給源となり 様々な 素晴らしい科学活動に使えると思うからです。僕は もう準備万端です。僕は 5月に高校を卒業して― (笑)(拍手)- 僕は 5月に高校を卒業して 起業をすると決めました。僕が開発した これらの技術 貨物コンテナの革新的な検知器そして― 医療用アイソトープの生産システムを商業化するのです。でも コイツもやりたくて今まで一緒に仕事をする機会のあった 大変素晴らしい人たちを集めて 徐々にチームを作ってきました。本当に実現できると思っています。僕は思うのですが技術を見て これは 天然ガスと同じかそれよりも安く 30年もの間 燃料補給は不要です。これは 発展途上国にとって大きなメリットになります

 

12 宇宙の星は空に浮かぶ巨大な原子炉

科学者としては おかしいですが一つ 哲学的なことを言って 終わりにしたいと思います。でも 原子力を使って他の星に飛んでいくのは これは とても詩的なところがあると思うんです。宇宙の星は巨大な融合炉ですから 空に浮かぶ巨大な原子炉です。今日お話ししている僕のエネルギー源も 元々は核反応から由来して 食物の化学エネルギーに変換されたもの。ですから 核分裂の技術を極め 将来の革新的エネルギー源とすることは やっぱり 詩的なんだと思います。ありがとうございました(拍手)

 

最後に

個々の問題が行き着く先はエネルギー。小型核分裂炉があれば、異星への移住も夢ではない。宇宙の星は空に浮かぶ巨大な原子炉

和訳してくださった Yuko Yoshida 氏、レビューしてくださった Natsuhiko Mizutani 氏に感謝する(2013年4月)。


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