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周波数オークション、中小企業金融円滑化法、財政政策 民主党の政策の問題点2

前回は、高速道路無料化、子ども手当、成長戦略 民主党の政策の問題点1についてまとめた。ここでは、周波数オークション、中小企業金融円滑化法、財政政策 民主党の政策の問題点2について解説する。

5 周波数オークションは儲かる?

産業活性化と財源確保の一挙両得

周波数オークションとは、周波数帯域の利用免許を競売で電気通信事業者に売却し、事業を行わせるものである。1990年代半ばにアメリカで始まり、その後ヨーロッパなどでも次々に導入された。

最初にこれを行ったのは、アメリカのFCC(Federal Radio Commission)という組織で、多くの先進国では電波に関する行政をこうした独立行政委員会が行っている。言論や報道にかかわる権限を時の権力からできるだけ切り離すための工夫である。

現在最も活力のある産業分野の1つが、携帯電話やモバイル・インターネットなどの移動体通信である。周波数オークションはこうした分野の競争を促進し、ビジネスを活性化する大きな武器になる

また、周波数オークションを行うことで財源を増やすこともできる。日本では、電波利用料収入は653.2億円(2007年度、12年度は約715億円見通し)で、周波数オークションの収入はゼロである。一方、アメリカでは、年平均の電波利用料収入が約240億円であるのに対し、周波数オークション収入は年平均4600億円にのぼるほか、放送局の免許もオークションの対象となっている。イギリスでも電波利用料収入は約213億円だが、周波数オークションの収入は年平均2250億円である。

さらに、周波数オークションを導入するとともに、電波割り当て政策も見直す必要がある。例えば、いまだに「イカ電波」といったイカ釣り漁船向けの電波の周波数帯が割り当てられている。電波という貴重な資源を、より成長分野で活用することが必要である。

 

既得権にしがみつく業界と官庁

総務省が周波数オークションに消極的なのは、長らく電波産業を独占してきた新聞社(テレビ局)を中心とするメディア業者と、NTTを中心とする既存の携帯電話キャリアが反対しているからである。オークションによって新規参入業者が現れて、競争するのを恐れているのである。

しかも、日本の電波利用料収入が653億円(2012年度は約715億円見通し)としたが、その大半は携帯電話キャリアが負担しており、テレビ局が負担しているのはわずかに38億円(2012年度は34億4700万円)である。テレビ局全体の営業収益は3兆円を超えるため、電波の仕入れコストは営業収益のわずか0.1%になる(テレビ局の電波利用料負担、携帯会社のわずか10分の1? テレビ局と総務省の利権か参照)。

また、デジタル放送については、日本独自のシステムであるBキャス(B-CAS)方式についても問題が指摘されている。これは、本来有料のBSデジタル放送のための限定受信システムだったが、著作権保護を目的に無料の地デジにも応用された。しかし、(株)ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズという一民間企業が独占的にこの事業を行っているため、公正取引委員会からも独禁法違反の疑いで事情聴取されたり、様々な利権の温床になっていると指摘されている。

さらに、現在行われている東京のキー局が全国のローカル放送を支配し、そのキー局をいずれも大手新聞社が支配する寡占体制にオークションで風穴が空けられることは、地方分権にも寄与するだろう。周波数オークションや電波割り当ての見直しというテーマには、そうした広がりがあるのである。

 

6 中小企業円滑化法は金融危機を招く?

現状の危機の見極めが重要

中小企業円滑化法とは、2009年11月30日に国会で可決・成立した法律である。これは亀井静香金融担当大臣(当時)が意欲を見せていたもので、亀井モラトリアム法(借金返済猶予制度)とも呼ばれている。

しかし、同法の内容を見ると、当初言われていたような強制的な返済猶予ではなく、条件変更への柔軟な対応を金融機関の「努力義務」としている。同時に、金融機関に対しては、定期的に体制整備状況と返済猶予の実施状況を開示・報告させるとしている。つまり、現状の危機の見極めは重要だが、世界標準から見ても十分に意味がある法案である。

 

40兆円超のGDPギャップ

2009年第3四半期(当時)、政府が発表していたGDPギャップは約40兆円だった。GDPギャップ(需給ギャップ)とは、総需要と総供給との差を表すもので、この場合総供給に対して総需要が40兆円不足しているということである。これがあるうちは、失業圧力と物価下落(デフレ)が続く目標設定は政府の責任、手段は日銀の責任 透明性を担保するインフレ目標参照)。

デフレも大変だが、失業率の面から見るとGDPギャップの拡大はさらに深刻である。先ほどの総需要とはGDPそのものだが、総供給はその国が完全雇用を達成した場合の生産量(潜在的GDP)をさす。つまり、GDPギャップが大きければ大きいほど失業している人が多いということになる。

現在の日本が、アメリカなどに比べて失業率が低いように見えるのは、雇用調整助成金の強化という緊急経済対策のおかげである。これは、景気が悪いなどの理由で雇用する労働者を一時的に休業や出向、教育訓練などをさせた場合に、その手当や賃金の一部を国が助成するものである。これがなくなれば、日本の失業率は2〜3%程度高くなるだろう。

ただし、GDPギャップは通常3年ほどかけて徐々に縮まるとされているため、その間の失業を雇用調整助成金などでカバーするのは問題ない。

 

日銀が企業の債権を買い取ればいい

最も簡単で効果が高い方法は、中小企業に対する銀行の貸付債権のうち、金利払いの部分を猶予することである。具体的には、日銀が銀行の貸出債権を買い取ればよい。そうすれば、企業は金利払いの猶予を受けるとともに、民間金融機関は積極的に企業に貸付を行うこともできる。

また、政府が金利部分について保証すると宣言するという案もある。しかし、これだけでは金融緩和にならないため、日銀が買い取るほうが経済活性化により役立つ。

金融危機に際しては、多くの国で中央銀行がCP(Commercial Paper:企業が短期金融市場から資金を調達する無担保の約束手形)を買う政策を行うが、日銀のCP買取は大企業のみが対象である。しかも、資産担保CPと呼ばれる売掛債権などの金融債権や、証券化商品などの資産を裏付けとして発行するCPに限られている。日銀においても他の国のように、中小企業の振出手形なども買い取るようにすればよいのである。

 

ちぐはぐな対策

危機における経済対策ならば、これくらいは当たり前である。しかし、当時の民主党政権ではちぐはぐな対策が続いた。それは、2009年10月30日の日銀政策決定会合で、12月末のCP買取終了、2010年3月末での企業金融支援特別オペ終了を決めながら、12月1日の日銀政策決定会合で「新型オペ」10兆円を言い出したのである。国会でも、11月19日にモラトリアム法案を強行採決したり、11月20日に政府が「デフレ宣言」したりと、全体の戦略がなかったのである。

戦略の例を挙げると、モラトリアム法案に日銀が企業貸出債権を買い取ることを加えて「デフレ宣言」をし、その後日銀の金融緩和措置を同時に決定すれば、経済状況は劇的に変化したであろう。

 

7 財政政策で景気は良くなる?

公共投資は金融政策と組み合わせなければ意味がない

公共投資は初期効果は見込めるが、長期的な経済効果はマイナスになる可能性もあるため、金融政策が必要となる。その理由は、マンデル・フレミング・モデルという理論によって説明できる。

公共投資を行う場合、国債を発行して市中から資金を集める。すると、市中のカネが減るので金利が高くなる。変動相場制の下では、例えば日本の金利が上がると円は高くなる。金利の高い国で運用しようと、円買いが進むからである。円が高くなると、日本の輸出は減って輸入が増える。これによって公共投資の効果は海外に流れてしまうのである。

一方、金融緩和を行って市中にカネを増やすと、金利が下がるので円安になる。円安になると、輸出が増えて輸入は減る。これによって国内の景気は回復し、国は豊かになる。

つまり、公共投資は金融緩和と組み合わせることで効果が高まるのである。費用対効果のよい公共投資は必要だが、同時に金融緩和を行わないと景気が悪化してしまうのである。

 

8 デフレと円高はなぜ良くないの?

明日の為替レート変動は予測できない

明日の為替レート変動は、経済理論上は予測できない。その理由は、もしわかる人がいれば、誰にも教えずに相場に投資すればいいからである。その意味で株式市場も同じである。

ただし、中長期の為替の動きについては、かなりの程度を説明することができる。中期的には「金利差」、長期的には「購買力平価」という物価が関係しているからである。

 

デフレが円高を招く

購買力平価説とは、為替レートは自国通貨と外国通貨の購買力の比率によって決定されるという考え方である。具体的には「マック指数」が有名で、これは自由な取引が行われている世界では一物一価、つまり同じ商品やサービスはどこでも同じ値段だということが前提になっている(物価上昇率を合わせておけば為替相場はあまり変わらない 金融政策と為替参照)。

こうした考え方を理解すると、現在の日本のように長くデフレ状態にある国は、自国の通貨を高めに誘導する原因を自らの内部に抱えているということがわかる。

 

「物価が下がって何が悪い」

「物価が下がって何が悪い」という議論がある。これはデフレと景気後退を区別していないことが多い。デフレとはデフレーション(deflation)のことで、一般的な物価水準が持続的に下落することである。一方、生産水準の低下や失業の増加が起こって不況(depression)に向かう状態は、景気後退(recession)と呼ぶ。デフレと景気後退は同時に起こる場合もあるが、起こらない場合もある。

物価の下落自体は、給料が変わらなければ誰にとっても歓迎すべきことである。しかし、そうした状況にある人は年金生活者などに限られる。年金制度には物価スライドが組み込まれており、デフレ下では支給額は下方修正されるべきだが、政治的配慮でされていない。デフレ下では年金保険料収入も少なくなるため、デフレが続けば年金財政は確実に破綻する

 

下方硬直性

下方硬直性とは、賃金水準が上昇はしやすいが下落はしにくい性質をもつことである。デフレでモノの値段が下がると、販売数量が多少伸びても、単価の低下がそれを上回り、売上が減っていく。そのしわ寄せは、まず非正規職員にいく。さらに、新卒採用予定者は直撃を受ける。一方で、既存の正規職員の賃金は下げにくいため、結果として正規と非正規の間で格差が広がったり、失業が増えたりする。

一方、企業が儲かったときにはボーナスなどで払えばいいため、賃金を上げる方向で調整することは下げるよりも簡単である。

 

流動性の罠

賃金(労働)のほかにも下方硬直性を持つものがある。それは金利である。金利はゼロより下のマイナスにはならない。金利がマイナスとは「利息を取られる」ことなので、おカネをそのまま持っていたほうがいいからである(貸出抑制)。こうした、名目金利がこれ以上下がらない下限に到達してしまった状態のことを流動性の罠という

下方硬直性を持つ賃金や金利は、デフレになると機能しにくくなる。その結果、失業が増え、相対的に金利高になって設備投資が抑制される。これが「デフレは悪」という理由である。

 

デフレが円高を呼ぶ理由

デフレが円高を呼ぶ理由は、デフレはおカネよりもモノが多い状態なので、通貨価値が高いからである。為替は、二国の通貨の相対的な価値を表すものなので、日本がデフレでアメリカがインフレなら、円の通貨価値が高いと「円高」になる。

2012年度の日本の貿易収支は、過去最大の8兆円の赤字だった。2010年度までは黒字だったが、円高による輸出の減少や原発事故による代替エネルギー輸入の増加などが原因で、赤字となった。金融緩和によって円安にして輸出を増やすことで、再び黒字にすることができるだろう。

 

日本の金利は低くない

常に変動している国際金融の世界では、その時々の状況における相対的な金利(金利差)が重要である。そもそも金利には、名目金利と実質金利がある。実質金利は、名目金利から物価上昇率を引いたものである。物価上昇率を引かなければ実質金利はわからない。

例えば、1%の金利で100円を借りて100円の商品を買った場合、返済金額は101円になる。このとき物価が1%上がった場合、その商品の価格も101円になっているので、貸した人は1%の金利をもらっても儲からないのである。

ここから、物価上昇率がマイナスになるデフレの場合、実質金利はむしろ高くなることがわかる。例えば2008年10月、日本は欧米の中央銀行による0.25%の協調利下げに参加しなかった。これによって日本の金利は相対的に高くなったと市場に判断され、結局、円高・株安になったのである。

 

藤井発言は膨れ切った風船に針を刺した

2009年9月16日、藤井裕久氏(その後財務大臣)が以下のような発言をした。まず「緩やかな動きならば為替介入には反対」とし、足下の為替相場は乱高下していないという認識を示した。また、諸外国との協調介入でなければ今の為替市場は動かない、円が少し高くなったからといって、他の国が協調介入するとは限らないという考えを示した。

発言内容の適否はともかく、デフレや金利差で円高圧力が目一杯かかっている状況のときには、為替については何も言わないことが財務当局者として通例の行動である。不用意に発言すると市場が過剰に反応してしまうからである。

なお、著者は円安か円高のどちらがよいかといった価値判断は持っていない。しかし、輸出産業のウェイトが高く、それに携わる人が多い日本の場合には、ある程度円安に動いたほうがメリットは大きい。反対に輸入産業のほうが多ければ円高がよいだろう。

 

最後に

周波数オークションを行えば、産業活性化と財源確保の一挙両得をすることができる。しかし、既存の新聞社(テレビ局)や携帯電話キャリアが反対しており、現在も行われていない。中小企業円滑化法は経済危機の際には役立つものだが、日銀の企業貸出債権の買い取りや金融緩和も同時に行わなければ意味がない。財政政策も金融緩和を行った後ならば有効である。既得権益との闘いと戦略的な政策進行が必要

次回は、為替介入、郵政再国有化、財政破綻 民主党の政策の問題点3についてまとめる。

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