前回は、為替介入、郵政再国有化、財政破綻 民主党の政策の問題点3についてまとめた。ここでは、年金制度、負の所得税、消費税の年金財源化 社会保障制度の問題点について解説する。
13 年金は積立方式にすればいいのでは?
ゼロから議論はできない年金制度
年金は大きく2つの制度に分けられる。1つは現在働いている現役世代が払い込んだお金を現在の高齢者世代に回す賦課方式で、もう1つは個人が口座を設定して現役時代に積み立てたお金とその運用益を老後に受け取る積立方式である。さらに後者には、運用成績次第で給付額が変わる確定拠出建てと、予定利回りを設定して給付額を先に決める確定給付建てがある(公的保険の特徴は強制加入、賦課方式、変額年金 年金と医療保険参照)。
日本の公的年金は、修正積立方式といわれるが、実態はほぼ賦課方式である。賦課方式から積立方式へ移行するという意見も出ているが、前提として、年金問題はゼロから議論することはできないということである。既に数十年にわたって賦課方式で運営してきたという歴史があっての、現在の年金問題である。
なお、積立方式ならば国が関与する部分はごくわずかになる。それぞれが自分で選んだ金融機関に自分の口座を持つという法律を作るもので、これをチリ方式という。国がやるのは、積み立てなかったら処罰するという法律を作るくらいである。
2つの年金を払い続けますか?
もし新たに積立方式を選択するならば、賦課方式と積立方式の2つの年金を支払わなければならない。その理由は、すでに私たちが支払った年金の9割以上は親の世代に支払われているため、自分が高齢世代になる日のために積立すると同時に、現在の高齢世代を扶養するために賦課方式の年金も支払わねばならないのである。
年金は、国民全体で長い目で見れば払ったお金ともらうお金は同じになるので、どちらの方式でも国民にとって大差はない。ほかの国々の歴史を見ても、途中から年金の方式を変えた国はほとんどない。方式を変えるより、その方式の中で修繕を加えていくという方法が多いのである。
14 負の所得税って何?
必要不可欠な年金、医療、介護、生活扶助を含んだ社会保障システム
年金の記録漏れや未納、そしてその背景にある高齢人口の増加と若年低所得層の存在から、社会保障個人勘定の構築が指向された。2001年の骨太方針では、次のように書かれている。
ITの活用により、社会保障番号制導入と合わせ、個人レベルで社会保障の給付と負担がわかるように情報提供を行う仕組みとして「社会保障個人会計(仮称)」の構築に向けて検討を進める
そもそも、それまでの年金記録は通し番号で管理されておらず、その基本的な情報も氏名、性別、生年月日の3つだけだった。日本の年金は国民が申請するという申請主義と、それを役所が裁定する裁定主義が建前になっていたため、ずさんな管理だったのである。
負の所得税とは
負の所得税とは、ミルトン・フリードマンが提唱した、実際の所得と課税最低ラインとの差額を一定割合で給付するというものである。税金も給付金も本質は同じもので、政府にカネを出すか政府からカネをもらうかの違いである。低所得層にも所得税率の減税の恩恵を受けることができるが、当時は所得ゼロの人が有利すぎるということで、採用されなかった。
給付付き税額控除制度
アメリカでこの考え方が活用されるようになったのは、1975年の「勤労所得税額控除」という制度の施行からである。これは勤労者の意欲と動機を損なわずに、低所得者層の社会保障税の負担を軽減することを目的としたものである。また、1997年に子どもの人数に応じて税額控除(税額から直接一定の金額を差し引くこと)するChild Tax Creditという制度も実施されている。
これらはいずれも給付付き税額控除制度と呼ばれ、税額控除という方法で算出した非納税者に対する給付を所得税制に組み込んだ制度であり、まさに社会保障と税の統合そのものである。給付を所得税からの控除という形にして勤労所得と給付金の合計を徐々に増加させることで、給付を得るために労働を抑えるという「貧困の罠」を回避しているのである。
社会保障番号制の導入がすべての前提
給付付き税額控除制度の前提が、社会保障番号制(社会保障個人勘定)の導入である。これがあれば、社会保障サービスと保険料や年金、そして税金を一体的に管理できる。また、国民一人ひとりが常に自分の状態をチェックできる。さらに、行政の事務作業が大幅に軽減され、日本の生活保護のように役人の裁量が入る余地がなくなる。
なお、給付付き税額控除制度を導入している国には、カナダ、イギリス、フランス、アイルランド、ベルギー、ニュージーランド、韓国などがあり、特にブレア政権下のイギリスは成功例として高く評価されている。
15 再配分政策がうまくいけば経済成長しなくてもいいのでは?
経済のパイが縮小すれば何も実現できない
再配分政策を実現するためには、経済成長によって日本経済のパイを大きくしていくことが大前提である。経済の主体はあくまで民間企業であり、国が行うのは障害の除去や支援だけである。
最大の障害はGDPギャップ
現在の日本経済の最大の障害は、GDPギャップの縮小である。GDPギャップを効果的に埋める方法は、財政政策と金融政策の合わせ技である。金融緩和を行うとともに、財政政策では大幅な減税や給付金によって、消費を刺激することが重要である(変動相場制では財政政策は効果なし 物価の安定が目的の金融政策参照)。決して特定の産業を支援する成長戦略は必要ないのである。
16 スウェーデンみたいに消費税を年金の財源にすれば?
思想や仕組みの違う税を組み合わせることはできない
所得税と消費税は思想も仕組みも異なるため、組み合わせることはできない。そもそも社会保障個人勘定は、多額の所得税を払っている人から、所得税を払えず給付を受ける人まで、すべての国民を対象になだらかな曲線で再配分しようというものである。反対に、消費税は個人ベースの金額が特定できないため、再配分のしようがない。
所得税は、個人や法人が一定期間内に労働や事業で得た収入から経費を引いた額に課税されるもので、その対象は一個人あるいは一法人である。この税には、もともと累進税率や控除を組み合わせることで税の公平性を指向する性格がある。
これに対し、消費税は高額所得者も低所得者も同じ金額の税を負担し、しかも食料品などの基本的な生活財にまで課税するので逆進性が高い。つまり、消費税による社会保障政策では、負担と給付の公平性が実現できない。
さらに、日本ではEUで採用されているインボイス方式が採られていないため、不明瞭な部分が残っている。インボイスとは、取引ごとに支払った税額を記した書類のことで、フランス大蔵省の役人が考えた税金システムである。これがないと購入した人は正しい控除を受けられないため、相互に脱税を監視するという優れた仕組みなのである。
このように、負担と給付の公平性を実現させるためには、社会保険料と所得税を財源にした社会保障政策をとるのが重要なのである。
なお、地方分権の観点からよくスウェーデンの例が引き合いに出されるが、この国は人口1000万弱の規模である。この規模ならば、地方分権の必要はあまりなく、5000万以上になったときにやらざるを得なくなる。消費税の地方税化は、人口や経済規模も考慮する必要があるのである。
最後に
年金制度には賦課方式と積立方式がある。日本は賦課方式であり、積立方式に移行するには2つの年金を支払う必要がある。負の所得税とは、実際の所得と課税最低ラインとの差額を一定割合で給付するというもの。社会保障番号制(社会保障個人勘定)の導入が前提となる。消費税の年金財源化は、負担と給付の公平性の実現の観点から、社会保険料と所得税を財源にした社会保障政策をとるほうがよい。歴史と公平性。
次回は、法人税ゼロ、寄付控除、地方分権の財源 税と地方分権の問題点についてまとめる。
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