「ストレスは健康の敵とされてきた一方、ストレスが体に悪影響を及ぼすのはそう信じるからだと示唆する研究があります」ケリーは語りかける。ここでは、490万ビューを超える Kelly McGonigal のTED講演を訳し、ストレスと友達になる方法について理解する。
要約
ストレス。そうストレスのせいで心拍数は増え、呼吸は速くなり、額にに汗が出て来たりします。しかし、ストレスが健康の敵とされてきた一方、ストレスが体に悪影響を及ぼすのはそう信じるからだ、と新しい研究が示唆しています。心理学者ケリー・マクゴニガルは、私達にストレスを肯定的に捉える様にと促し、これまで知られていなかったストレスを軽減する仕組として、手を差し伸べ合う事を紹介します。
Kelly McGonigal translates academic research into practical strategies for health, happiness and personal success.
1 私のストレスについての考えは変わった
告白しなくてはならない事があります。でも まず皆さんに 少し打ち明けて欲しいのです。去年 殆どこれといったストレスを感じなかった方はちょっと手を挙げてください。いませんか?いくらかストレスを感じた人は?ひどいストレスを感じた方は? ええ 私もです。でも これが私の告白ではありません。私の告白というのは私は健康心理学者なので 人を健康で幸せでいられる様にする事が私の仕事ですが 過去10年間私が指導し続けた事は 人の健康の改善どころか害を及ぼしてしまったのではという事です。それは ストレスに関することです。ストレスは病気の原因になると何年も言ってきました。ストレスは風邪から心血管疾患に至るまで あらゆる病気のリスクを高めると 基本的に 私はストレスを敵視してきたのですが 私のストレスについての考えは変わりました。そして今日はあなたの考えを変えたいのです。
2 アメリカでの3万人の成人の動向を8年間追跡調査した研究
私のストレスへのアプローチを根本から 考え直させた研究からお話しします。この研究はアメリカで3万人の成人の動向を 8年間 追跡調査したものです。この研究ではまず 「去年どれ位ストレスを感じましたか」 「ストレスは健康に害になると信じますか」 といった質問を参加者に答えてもらいます。そして後に 公開されてる死亡記録を使って 参加者の誰が亡くなったか調べました(笑)
3 ストレスが無害だと思う人たちの死亡リスクは最も低い
まずは悪いニュースから始めましょう。前年にひどいストレスを経験した人たちは 死亡するリスクが43%高かったのです。しかしこのことはストレスが健康に害を及ぼすと 信じていた人たちだけに言えることでした(笑) ひどいストレスを経験しても ストレスが無害だと思う人たちの 死亡リスクは上がるどころか ストレスが殆どなかったグループと比較しても 研究参加者の中で 最も低いものでした。
4 ストレスが体に悪いと信じることが死因の第15位
研究者は死亡者数を8年に渡り追跡し 18万2千人のアメリカ人が ストレスからでなくストレスが体に悪いと 信じていた事によって 死期を早めたと判断しました(笑) これは年に2万人以上に及ぶ死者数です。この推定が正しければ昨年アメリカでは ストレスが体に悪いと信じる事が 死因の第15位だったことになり それは皮膚がんや HIV/AIDSや 殺人よりも多くの人の命を奪っていることになります(笑)
5 ストレスに対する考えを変えたら体の反応も変えられる
なぜ私がこの研究結果にゾッとしたか分かりますよね。ストレスは健康に良くないと 私は一生懸命に人に教え続けてきたからです。この研究で考えさせられた事は ストレスに対する考え方を変える事で より健康になれるのかという疑問でしたが科学はイエスと答えています。ストレスに対する考えを変えたら ストレスに対する体の反応を変えることができるのです。
6 社会的ストレステストを受けてみよう
ではどういう仕組みなのか説明する為に みなさんは 今ストレスを感じさせる実験に 参加していると想像して下さい。これは社会的ストレステストと呼ばれるものです。実験が行われる部屋に入ると 自分の弱点についての 5分間の即興スピーチを 何人もの熟練した審査員の前で行うように指示されます。プレッシャーを確実にかける為に ギラギラしたライトやカメラが顔に向けられています。ちょうどこんな風にです。さらに審査員らは わざと 落ち込ませるような態度で反応します。こんな感じですは(笑)すっかり落ち込んだ所で 次のステップに移ります。数学のテストです。あなたには秘密ですが 試験管はあなたを困らせる様に訓練されています。では このテストを一緒にやってみましょう。面白いですよ 私にはね。
7 996から7刻みでマイナスしていった数を次々に言って下さい
では 996から7刻みでマイナスしていった数を 次々に言って下さい。大きな声で 出来るだけ速くやってくださいね。996から 始めてください! 聴衆: (数えている) もっと速く速くしてもらえませんかね。遅すぎます。止めて 止めてだめ だめです そこの人が間違いましたから やり直さないとダメになりましたね(笑) みんな あまり上手じゃないですね。これで感じが解ってもらえましたね。これが実際の実験だったら 恐らく少しストレスを感じるでしょう。心臓は高鳴り 呼吸は速くなり汗が噴き出ているかもしれません。普通これらの肉体的変化はプレッシャーに うまく対応してない時の兆候か 不安感の表れだと思われています。
8 ストレスに対する身体的反応の仕方が変わった
そうではなくこの反応が体に活力を与え チャレンジに立ち向かえるように 準備をしているのだと考えたらどうでしょう。正に この考えがハーバード大学での研究で 参加者に教えられていた考えなのです。社会的ストレステストの前に自分たちのストレス反応を 有用なものとして考え直す様に教えられていたのです。例えば 高鳴る鼓動は行動に備えて準備をしていて 呼吸が速くなっても全く問題ではなく 脳により多くの酸素を送り込んでいると教えたのです。このようにストレス反応は能力を発揮できるように 助けていると捉える様になった参加者は ストレスや不安が少なく もっと自信を持てるようになりました。でも私が一番驚いた事は ストレスに対する身体的反応の仕方が変わった事です。普通 ストレス反応では 心拍数が増えて 血管はこのように収縮します。これが慢性のストレスが 心臓病と関連づけられる理由の1つです。常にこんな状態でいるのは本当に健康に良くありません。しかし研究では参加者がストレス反応を 有用なものと考えられるようになると 血管はこのようにリラックスしたままだったのです。心臓は高鳴ってましたが 心血管がこの状態ならずっと健康的な状態です。この状態は実は喜びや 勇気を感じる時の状態にかなり似ています。ストレスの多い人生で この生物学的な変化1つが 50歳でストレス性の 心臓発作を起こすか90代でも健康でいるという 違いを生むかもしれません。これはストレスへの考え方次第で健康が左右されるという ストレスに関する新しい科学的発見です。
9 ストレスと上手に付き合えることを目指す
そして健康心理学者としての私のゴールが変わりました。もはや ストレスを取り除くのではなく あなたがストレスと上手に付き合えるように目指します。今日ここでやったのもちょっとした予防策です。去年ストレスがひどかったと 手を挙げた人の命を救えることに なるのかもしれません。というのも 今後は – あなたの心臓がストレスで高鳴ったなら このトークを思い出し自分の体が このチャレンジに立ち向かおうとし 自分を助けていると 言い聞かせることが出来るかもしれませんからね。このような見方をすると あなたの体はあなたを信じ ストレス反応は健康的なものとなります。
10 ストレスはあなたを社交的にする
10年以上もストレスを悪者扱いしてきた失敗を 埋め合わせるために もう1つ予防策を講じましょう。ストレス反応の中でも もっとも評価されてない側面の1つを話したいと思います。それはこんなことです。ストレスはあなたを社交的にします。ストレスのこの面を理解するのには オキシトシンというホルモンについて話さなければなりません。オキシトシン程注目を浴びた ホルモンはありませんね。人を抱擁する時に分泌されるので「抱擁ホルモン」という 可愛いニックネームまで付けられています。これはオキシトシンが関与しているほんの一部にすぎません。オキシトシンは神経ホルモンで 脳の社会的本能を絶妙に調整しています。オキシトシンはほかの人々との 親密な関係を強めるような行動を促します。オキシトシンは友達や家族との身体的な接触を 強く望むようにさせたり 人との共感を高め さらには私たちが大切に思う人たちを 進んで助けたり支えたいと思わせたりもします。中には もっと強く同情心や思いやりを持つように オキシトシンを吸引すべきだと言う人もいます。でもこのホルモンについて あまり知られてない事があります。それはストレスホルモンだという事です。ストレス反応の一環として下垂体はこのホルモンを 分泌します。これはアドレナリンが 心臓を高鳴らせるのと正に同じ様にストレス反応の一環です。ストレス反応としてオキシトシンが 分泌されると誰かに支えてもらいたいと思わせるのです。ストレスから生じる生物学的反応は 感じている事を 中に閉じ込めてないで 誰かに話せと 促しているのです。ストレス反応は誰かが助けが必要な時に あなたが気づけるようにして お互い助け合う様にしているのです。人生で困難な時にはストレス反応によって 愛する人たちと一緒にいたいと思わせるのです。
11 オキシトシンは自然の心血管系の抗炎症薬
ではストレスのこの面を知るとどうして より健康的になれるのでしょうか? 実は オキシトシンは脳だけに働くのでなく 体の他の部分にも働きかけます。その主な役割の1つは 心血管系をストレスの 悪影響から守る事です。自然の抗炎症薬です。ストレスを感じても血管を弛緩状態に保ちます。特に歓迎すべきと考える体への好影響は心臓に起こります。このホルモンの受容体が心臓にあり オキシトシンが心臓の細胞を再生し ストレスで起きるダメージを治します。このストレスホルモンは心臓を強くするのです。すごい事に オキシトシンがもたらす体への利点はその全てが 社会的繋がりやサポートで 強められるのです。ストレス下の人に手を差し伸べ 助けたり助けられたりすると このホルモンがもっと分泌され ストレス反応は健康なものとなり 実は ストレスからもっと早く回復するのです。ストレス反応には ストレスからの回復の為の機能が 内蔵されていて その機能が人との繋がりだなんて素晴らしいことだと思います。
12 アメリカでの約千人の34歳から93歳までの成人の追跡調査
もう一つの研究結果をお話しして終わりにします。よく聞いて下さい。これでも寿命が延びるかもしれません。アメリカで約千人の 34歳から93歳までの成人を追跡調査したものです。まず 参加者にこのような質問をしました。「去年どれ位のストレスを感じましたか」 また「コミュニティーや近所の人 友達を助ける為に どれ位時間を費やしましたか」 といった質問もしました。その後5年間 その中の誰が亡くなったかを 見るため公の死亡記録を使いました。
13 ストレスは私達を思いやりの心と心臓へと繋げてくれる
まずは 悪い報告から始めましょう。経済的惨事や家庭危機などの 重大なストレスを経験すると 死のリスクが30%増加します。しかし ― ここでも私が「しかし」と言うだろうと勘付いてもらえると嬉しいです― しかし 皆が皆増加してはいませんでした。他の人への思いやりに時間を費やした人々には ストレスから来る死亡の増加は全くなかったのです。ゼロです。思いやることが回復力を作り上げます。ストレスからの悪影響は 避けられないものではない事が ここでも解りました。どのように考えどう対応するかで ストレスの経験が変えられるのです。ストレス反応が自分を助けてくれていると 考えるようにすれば 勇気が出るような生物学的反応が起きるのです。そして ストレス下にいる人に手を差し伸べるようにすれば 自分の中に回復力を作り上げるのです。とはいえ私自身わざわざこれ以上の ストレスが欲しくなったというわけではありませんが この科学的発見でストレスに関して 新たに全く違った評価をするようになりました。ストレスは私達を心と心臓へと繋げてくれます。人との繋がりの中に喜びと意味を見い出そうとする― 思いやりの心と そうです そしてあなたのその鼓動している心臓の両方にです。あなたに力とエネルギーを与える為に一生懸命働いているその心臓です。あなたがストレスをこのように見ようとする時 ストレスに上手く対処できるようになるだけでなく あなたは本当はかなり重大な宣言をしているのです。あなたは自分を信じて人生のチャレンジに 立ち向かえると言っているということで 一人きりで立ち向かわなくても良い事を 忘れないでいるという事です。ありがとうございました(拍手)
14 ストレスが多い仕事かストレスがない仕事を選ぶ上での違い
クリス・アンダーソン:この話には 驚かされました。ストレスに対する見方が 寿命の長さに ごれ程までに関わっているとは 驚きました。こんな場合には どうアドバイスされますか? もし誰かが 生き方の選択をするとして そうですね、ストレスの多い仕事と ストレスのない仕事と どちらを選ぶかで 何か違いがあるでしょうか? ある意味では 自分でやれると信じてる限り ストレスのある仕事を 選ぶのも賢明な事でしょうか。
はっきり言える事は 意義ある事を求める方が ただ不快感をを避けようとするより 健康には良いということです。これが一番いい決め方です。そして 人生の意味が 見い出せるものを追求して そこで経験するストレスに 対応できると自分を信じる事です。CA:本当に有り難うございました。素晴らしかったです。KM:ありがとうございました (拍手)
最後に
ストレスが無害だと考える人の死亡リスクは最も低い。ストレスに対する考えを変えると体の反応も変えることができる。心臓は高まりながらも心血管が収縮しない状態は、喜びや勇気を感じるときの状態に似ている。ストレスはあなたを社交的にする。他の人への思いやりに時間を費やした人々には、ストレスから来る死亡の増加はゼロ。ストレスは挑戦する勇気をもたらし、他人を思いやる心に気づかせてくれる。
和訳してくださった Reiko Bovee 氏、レビューしてくださった Akinori Oyama 氏に感謝する(2013年6月)。
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