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参政権、請求権、陳情、直接請求と住民投票の活用 ニッポンの変え方

前回は、委員会での逐条審査、両院協議会改革が重要 国会で法律ができるまでについてまとめた。ここでは、参政権、請求権、陳情、直接請求と住民投票の活用 ニッポンの変え方について解説する。

参政権

参政権とは、国民が政治に参加する権利である。代表的なものが「選挙権」で、国会議員を選ぶ重要なプロセスである選挙において、国民一人一票が平等に割り当てられている。一票の格差が広がると、国民の意思が正しく反映されないまま国会採決が行われていることになる。また、投票率が低いことも国会の議決構成にねじれを生む要因の1つである。さらに「被選挙権」もあり、満25歳以上であれば衆議院議員、市長・村長や地方議会議員の選挙に、満30歳以上であれば参議院議員と都道府県知事の選挙に、所定の手続に則って誰もが立候補することができる。このほか、国政では憲法改正の「国民投票権」や最高裁判所裁判官の「国民審査権」がある。

 

請求権(請願権)

請求権とは、憲法第16条で定められている「請願権」という、国に請求できる権利である。国民が国家の行為に対して請願、意見表明することが認められていて、国会を含む国家機関全てに対してできるのだ。ただし、国会議員の紹介が必要となり、十分に機能しているとはいえない。請願する内容は、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令または規則の制定、廃止または改正にかかわるものである。

 

陳情

陳情とは、国会、議員個人、政党、行政、あるいは地方公共団体や地方議員に対して働きかけることである。請願と違って国会議員の紹介は必要ないが、取り上げられないケースも多い。請願も陳情もそれ自体は批判されるべきでないが、やり方と特定の人たちに偏っていることが問題である。

 

直接請求と住民投票

国民生活に近い地方政治では「直接請求権」がある。これは、地方行政の首長など主要公務員や地方議員の解職、議会の解散といったリコールや事務監査などについて、住民たちが所定の手続に則って請求することができる権利である。直接請求は、有権者の50分の1以上の署名を集めて意見を提出する。

住民投票権」とは、直接請求権と並んで住民が意思表示できる権利のことである。住民投票を実施するには、政策・行政施策ごとに根拠となる条例を制定する必要がある。このため、市民団体などは、まず条例制定の直接請求を行う。ただし、条例制定の直接請求をしても、間接民主制が前提のため、地方議会が否決するケースも多い。

 

パブリックコメント

パブリックコメントとは、行政機関が政策形成・意思決定の過程で、国民に意見を求めることである。所管する行政機関が政策や法令といったものを作成するにあたって、その素案を示して広く一般から意見・情報を募集することが義務化されているのだ。

 

個人レベルの限界

個人ベースの政治参加として、政党が主催するタウンミーティングや、討論会などの各種イベントに参加して意見を言ったり、政党・議員のホームページやSNS、Twitterなどから意見・情報を提供したりすることもある。しかし、間接民主制をとっているため、個人レベルで政策形成のプロセスにかかわるのは難しい。

 

組織力を活かす

団体を組織してかかわった方が影響力は増す。そのため、NPO・NGOといった団体ベースで取り組んでいくことが効果的である。今後のNPOは、地域ベースでの具体的な事業・サービスを行うことにとどまらず、超党派的に政策形成に参加し、制度・規制改革を促していかなければならないだろう。

 

専門家集団を活用するーシンクタンクとコンサル

シンクタンクや政策コンサルタントとは、立法技術や法令解釈などのノウハウを持つプロフェッショナルである。シンクタンクは超党派的立場から、学問的で理論的・客観的考察に基づき、政策当事者に政策提言や助言、メディアへの発表、政策教育などを行っている。政策コンサルタントはそれぞれ組織の強みとする専門分野があるが、政策・立法面の助言や企画・立案、議員や政策スタッフなど政策当事者へ個別に働きかけるロビイング、あるいはマスメディアを通じた世論喚起といったパブリック・アフェアーズなど、業務対応も多岐にわたる。著者の組織では、例えば「国家公務員制度改革法案」や「日本銀行法の一部を改正する法律案」などの議員立法の骨格づくりや、条文案の検討やチェックなどをサポートしている。

なお、ロビイング(Lobbying)とは、各種団体や個人などが公共的利益または特殊利益などの擁護・増進を目的に、政策決定に影響力を及ぼそうと働きかける活動のことである。具体的には、憲法の「政府に対する国民の請願する権利」行使をはじめとして、組織化、政策当事者への情報提供、国民各層に向けた広報・PR、世論喚起といった諸活動を行うことをいう。

また、近年ではパブリック・アフェアーズ(Public Affairs:PA)にも注目が集まっている。PAとは、公開の場での意見交換、ステークホルダーとの連携関係の構築、マスメディアを通じた世論喚起・PR活動などにより、合意形成プロセスの透明性を確保しつつ規制改革や新ルールづくりに向けて働きかける活動である。ロビイングが政策決定者との交渉・説得を重視するのに対し、PAはコミュニケーション戦略を重視し、世論を背景に政策決定者を動かしていくことに重きを置いている。

 

日本ではなぜ根付かないか

こうした専門家が日本で根付かなかった理由は、以下の2つである。①収益性を確保することが難しい、②政策を具体化させるための立法作業ノウハウの不足。①は霞ヶ関に依存していたため、生産コストや多種多様な政策研究活動の重要性についての理解が乏しいからである。②は日本では公共政策系シンクタンクなどの政策人材が政府内に入って政策実施過程に関与できないため、政策を法律案に落とし込むまでのサポートができなかったのだ。

 

政策形成の未来

政策形成の未来は「政策人材」資本を増やし、それらを事業化できる「政策プロデューサー」をいかに生み出すかが鍵となる。政策人材は、立法技術や官僚のレトリックを読み解くことのできる脱藩官僚、理論と実際の調和を政策で証明できる学者、さらには世論喚起に長けたマスメディアや広告代理店の人材などが挙げられる。こうした人材を調達・組み合わせて、事業化できる政策プロデューサーがいれば、政治主導も促進されるだろう。

 

多様な選択肢を持つこと

内閣の外にも官僚組織の代わりができるような専門家集団がいるような、多様な選択肢を持つことが重要である。政策形成のプレイヤーが一部の利益団体やマスメディアに限られている以上、硬直的になるし既得権益化されやすい。だから、NPOやNGO、シンクタンクや政策コンサルティング、ロビイストなど多種多様なプレイヤーが政策形成に関与し、それぞれが連携あるいは競争しながら変革を起こしていけばいいのだ。

 

地域で活動する

地方議会には条例制定権があるが、実際は地方公共団体の職員たちが作った首長提出の条例案がほとんどで、議員提出条例の数は極めて少ない。しかし、近年は地方から改革的な取り組みをしようと、独自の条例を作る動きが出てきている。例えば、著者らは大阪維新の会から、公務員改革および教育改革に関する調査・検討作業の委託を請け負ったケースがある。大阪維新の会は、その調査結果を踏まえて条例化し、国政に先んじて公務員改革に着手しようという試みを行っているのだ(国政進出、復興、法案作成、教育、公務員制度改革 維新八策の真相参照)。

 

社会を変えるために

社会を変えるために必要な能力は、一般的にはメディアリテラシーとリサーチリテラシーは重要である。前者は情報をどう判断・理解・活用するのかというもので、後者は統計データを読み解くといった分析力である。また、NPOなどを立ち上げたいならば、マネジメントやマーケティング、資金調達力など経営学全般を学んだり、プレゼンテーションやプロモーションといったコミュニケーション能力なども備える必要がある。幅広い知識が必要ではあるが、任せられるものは他の人に任せていったり、必要に応じて習得すればいい。肝心なのは実際に行動することである。

 

最後に

立法プロセスにかかわるには、参政権、請求権、陳情、直接請求と住民投票の4つを活用すればいい。ただし、個人レベルでは限界があるため、NPOなどで組織化して行う方が効果的である。シンクタンクや政策コンサルタントの事業を拡大することで、多様な選択肢を持つことができる。

立法はすべて個別具体的な話である。政策が悪いと嘆いても何も変わらないが、法律を直せば世の中はどんどん動く。「地方自治は民主主義の学校」。身近なところから実際に行動すればいい

ニッポンの変え方おしえます: はじめての立法レッスン


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