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アンドレア・ゲッズ 超大質量ブラックホールを探す

「最高水準の補償光学は宇宙最大の謎であるブラックホールの理解を助けています」ゲッズは語りかける。ここでは、60万ビューを超える Andrea Ghez のTED講演を訳し、超大質量ブラックホールが存在する証拠について解説する。

要約

ケック望遠校の最新データを元に、アンドレア・ゲッズは、宇宙最大の謎であるブラックホールの理解を、最高水準の補償光学がいかに助けているかを示します。彼女は、天の川銀河の中心に超大質量ブラックホールが存在する証拠について話します。

Andrea Ghez is a stargazing detective, tracking the visible and invisible forces lurking in the vastness of interstellar space.

 

1 銀河の中心に「超大質量」のブラックホールはあるか

見えないものはどうやって観察できるでしょうか?ブラックホールを発見し、研究しようとする者にとって これは基本的な問いです。なぜならブラックホールは その重力があまりに強力で 光でさえもそこから出てこられず つまり直接、目に見えないからです。今日私がお話するのは 特別なブラックホールについてです。私が興味を持っているのは 銀河の中心に、非常に大きい 「超大質量」のブラックホールがあるかどうかです。なぜそれに興味があるかというと このような奇妙な物体が本当に 存在するかどうかを証明できる機会があるのと、 二つ目の理由は、それによって 超大質量ブラックホールが、どうやって 周辺環境と相互作用するか、また その周りにある銀河の形成と進化にどう影響するかを 理解する機会があるからです。

 

2 ブラックホールの物理特性は質量とスピンと電荷

まずはじめに ブラックホールの存在を信じられるよう ブラックホールについて理解しましょう。ブラックホールとは何か?ある意味でそれは非常に単純な物体です。なぜなら物理特性が3つしかないからです。質量と、 スピン(回転)と、電荷です。今日は質量についてだけお話します。つまりある意味では非常に単純な物体ですが 別の意味では非常に複雑な物体で 奇妙な物理法則で記述しなくてはならず また、それが我々の宇宙に関す物理学的解釈の 崩壊を意味するからです。でも今日はブラックホールを理解し それが実在することを理解していただくために その質量が体積ゼロの空間に 押し込められた物体を考えてみてください。つまり超大質量を持つ 物体なのに 有限の大きさを持たないような物体がとはどんなものかを ご説明します。ちょっとムズカシイわよね。

 

3 どんな物体でもブラックホールになり得る

でも、理解可能な有限の大きさがあり それは「シュヴァルツシルト半径」として知られています。その大きさがいかに重要かを発見した 人の名前にちなみます。これは仮想的な半径で、実在のものではありません。ブラックホールには大きさがありませんから なぜ重要なのか?なぜならそれは、どんな物体でも ブラックホールになり得ることを示すからです。つまりあなたや、隣人や、あなたの携帯電話や、 このホールなども、それを シュヴァルツシルト半径以下に押し縮めれば ブラックホールになるのです。そこまで行くとどうなるか?そこで重力が打ち勝ちます。他のすべての力に重力が打ち勝ち 物体は収縮を続け 無限に小さい物体になるのです。それがブラックホールです。地球を角砂糖の大きさにまで押し縮めれば ブラックホールになります。この場合、角砂糖の大きさがシュヴァルツシルト半径だからです。

 

4 シュヴァルツシルト半径は物体の質量のみに依存する

ここでの鍵は、シュヴァルツシルト半径は幾つか、ということです。それを知るのはとても簡単だと分かりました。それは物体の質量のみに依存します。大きい物体のシュヴァルツシルト半径は大きい 小さい物体では、小さい。もし太陽を オックスフォード大学の大きさに押し縮めれば ブラックホールになるでしょう。シュヴァルツシルト半径はわかりましたね。これはとても役に立つ概念で ブラックホールがいつできるかを 示すだけでなく ブラックホールの証明の鍵となる要素も与えてくれます。必要なのは2つだけ: ブラックホールだと証明したい 物体の質量と、 そのシュヴァルツシルト半径です。そしてシュヴァルツシルト半径は質量で決まるので 実際知る必要があるのは質量だけです。つまり皆さんに、ブラックホールが 実在すると納得させるために そのシュヴァルツシルト半径内に収まる 物体が存在することを示すのが私の役割で 皆さんの役割は、疑い深くなることです。それで、私は普通のブラックホールについては話しません。超大質量ブラックホールの話をします。

 

5 超新星爆発の残骸の中に小さなブラックホールができる

そこでまず普通のブラックホールについて少し触れます。「普通の」ブラックホールがあるみたいにね。普通のブラックホールは、超巨星の生涯の 終末と考えられています。つまり、太陽より遥かに巨大な質量をもって生まれた 恒星は、その生涯を終える時 爆発を起こし、 ご覧のような美しい超新星爆発の残骸を残します。そしてその超新星爆発の残骸の中に 小さなブラックホールができます。おおよそ太陽の質量の3倍くらいです。天文学的規模で言えば とても小さいブラックホールです。

 

6 超大質量ブラックホールは銀河の中心にある

これからは超大質量ブラックホールについてお話します。超大質量ブラックホールは銀河の中心にあると考えられています。ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したこの美しい写真で 銀河があらゆる形をとることがわかります。大きいのもあるし、小さいのもあります。この写真に見えるほとんど全てが銀河です。その左上にとてもいい感じの渦巻状銀河があります。その銀河には1千億個の恒星があります。大きさの感覚がわかりますか。そしてちょうどご覧のこの銀河のような 銀河からやってくる全ての光は 恒星からやって来ます。つまり恒星の光があるから銀河が見えます

 

7 中央部が非常に活動的な銀河「活動銀河中心核」

中には非常に変わった銀河があります。「目立ちたがり」なので、私はそれを銀河世界の プリマンドンナと呼びます。それは「活動銀河中心核」と呼ばれます。なぜならその銀河中心核、あるいは 中央部は非常に活動的だからです。つまりあの中心部分から ほとんどの星の光がやって来ます。しかも恒星の光だけでは 説明できない光が見えているのです。予想よりずっとエネルギーが高い ちょうど私たちが見ているこういう銀河がです。また、中央部からジェットが吹き出しています。銀河が恒星だけで出来ていると考えると このエネルギー源も説明がつきません。

 

8 活動銀河中心核でみられるエネルギー現象を抑制している

そこで超大質量ブラックホールがあり 物質がそこに落ち込んでいるのだろうと 推定されています。つまりブラックホールを見ることはできないが そこの重力エネルギーが光に変換されて 見えているということです。それが超大質量ブラックホールが銀河中央にあるかもしれないという 考え方が成立する理由です。しかしそれは間接的な議論です。にもかかわらず、そこから 超大質量ブラックホールは プリマドンナ銀河だけでなく むしろ全ての銀河の中央に 存在するのではないかと考えられています。もしそうなら―これは普通の銀河です。見えているのは恒星の光です。もしここに超大質量ブラックホールがあるとするならば それはダイエット中だ、ということになります。なぜならそれが、活動銀河中心核でみられるエネルギー現象を 抑制しているからです。

 

9 私たちに一番近い銀河中心「天の川」

もしこのような目に見えないブラックホールを 銀河中心に探すとしたら 一番適切なのは我々の銀河「天の川」でです。これは天の川銀河の中心部を 広角撮影した写真です。星の帯が見えています。私たちが、平たく、円盤のような形の銀河に 住んでいるからです。私たちはその中間地帯に住んでいて、そこから中心方向を見ると 銀河面を形成する面、あるいは その線が見えるわけです。自分たちの銀河を研究する利点は 単にそれが自分たちに一番近い 銀河中心だからです。その次に近い銀河でも 100倍遠くにありますから 他のどこよりも自分たちの銀河のほうが 細部を見られるのです。そしてこれからお見せしますが、どれくらい細部が見えるかが 研究の鍵なのです。

 

10 恒星がブラックホールの周りを回るのを観察すること

さて、天文学者はどうやって小さな空間に大質量があると 証明するのでしょうか?それをこれからご覧に入れます。その方法は、恒星がブラックホールの周りを回るのを 観察することです。恒星は、惑星が太陽の周りを回るのと同じように ブラックホールの周りを回ります。重力による引力で 物体の周回軌道が決まります。もしそこに大質量がないとすれば、星は飛び去ってしまうか、 もっとゆっくり周回するでしょう。なぜならどう周回するかを決めるのは 軌道内にある質量だからです。ちょうどいいですよね なぜなら私の仕事は 小さな空間に大質量があると証明することですから。つまり星が周回する速度がわかれば、質量がわかります。そして軌道の大きさがわかれば半径がわかる。だから私は、銀河中心に できる限り近い恒星を見たいのです。なるだけ小さい領域に、質量があることを示したいのですから つまり、なるべく詳細な姿を見たいということです。だからこの研究のために世界最大の望遠鏡を 使っています。

 

11 大気を通して天文光源を観測するのは非常に困難

これはケック天文台です。10メートルの主鏡の 望遠鏡が2つあり、だいたいテニスコートくらいの 半径があります。これは素晴らしいモノです。なぜなら、巨大望遠鏡の公約は 「大きければ大きいほど 細部が見える」だからです。しかし、こういう地上にある全ての望遠鏡は 公約を果たすには少しばかり問題があります。それは大気のせいです。大気のおかげで私たちが地球に生存でき すばらしいものです。しかし大気を通して天文光源をみる天文学者には かなりの問題をもたらします。ちょうど小川の水を通して 底にある小石を 見るようなものです。水底の小石を見ていると 水の流れがずっと乱れを起こし続けていて 流れの底にある小石を見るのはとても困難です。同じような理屈で、絶え間なく動いている 大気を通して天文光源を観測するのは 非常に困難なのです。

12 補償光学技術を使うと、とたんに星が見え始める

そこで私はキャリアの多くの時間を 大気のゆらぎを補正し、明瞭な画像を得ることに費やしています。大体20倍ほど結果が向上します。もし生活を20倍改善できる方法がわかれば ライフスタイルも全然ちがうものになりますよね。給料にしてもそうでしょう。子どものことにしてもそうでしょう。お見せしている動画が、私たちが使っている 補償光学系とよばれる技術の例です。ご覧の映像で その技術を使わなかった場合に見える映像、つまり 普通に見える星の映像が見えます。囲みの部分は銀河の中心にセットされていて そこにブラックホールがあるはずです。補正なしには星が見えません。補償光学技術を使うと、とたんに星が見え始めます。この技術で、望遠鏡の光学システムに 大気のゆらぎに対抗して持続的に 変形する鏡を導入してあります。望遠鏡に、とっても素敵なメガネがついているわけね。

 

13 15年で一周してくれる恒星「SO-2」

ここから何枚かのスライドでは、あの小さな四角の部分に 注目します。他の部分も見えていますが小さな四角の中にある星にだけ 注目して見てみます。私は恒星がどう動いたかを知りたいのですが この研究では、恒星が非常に大きく 動いています。この研究を15年間やっていますが 恒星が周回運動しているのを観察してきました。大抵の天文学者にはお気に入りの恒星があり、 今日の私のお気に入りはこれです。SO-2 世界で一番好きな恒星です。たった15年で一周してくれたから それがどれくらい短いかというと 太陽だと銀河中心を一周するには2億年かかります。これまで知られていた星で、銀河中心に一番近い星で 500年かかります。この星は人の一生以内の時間で一周する。これは有り難いことです。

 

14 太陽の400万倍の質量が太陽系と同じ大きさに詰まっている

これがこの研究の鍵で、恒星の軌道から この非常に小さい半径に、どれだけの質量があるかがわかります。次の図では、この研究以前に 銀河中心の質量を閉じ込めることができると考えていた 大きさを示しています。以前から、この円の中に太陽の400万倍の 質量があることがわかっていました。ご覧のように、円の中には様々なものが存在しました。恒星がたくさんあります。つまり、様々なものを大量に詰め込むことができるので 銀河中心に超大質量ブラックホールがあるという説意外にも 多くの他の選択肢がありました。しかし我々の研究により 同じ質量が、これまでの1千万分の1という 遥かに小さい空間にあることがわかりました。だからそこに超大質量 ブラックホールが存在すると証明できたのです。どれくらい小さいかというと だいたい太陽系全体くらいの大きさです。つまり太陽の400万倍の質量が、太陽系と 同じ大きさに詰まっているのです。

 

15 ブラックホールの近くに古い恒星がたくさんある?

つまり広告どおりよね、でしょ?私の仕事はそれをシュヴァルツシルト半径まで縮めることだと言いましたが 実際はまだそこまではいっていません。しかしこの質量の集中を 説明する方法はこれ以外にないのです。そして、これは私たちの銀河中心に超大質量 ブラックホールがあるという証拠であるだけでなく 全ての銀河にもあるという証拠でもあります。では次はどうなるか?実際のところ これが現在の技術でできる最大限だと思います。そこで問題に取り組んでみましょう。

つまり、今日ここで簡単にお話したのは 銀河中心に関して 現在ご紹介できるものでもっともエキサイティングなことですが つまり銀河中心には 超大質量ブラックホールがある、あるいは そう信じているのです。この研究で面白いのは もし銀河中心に超大質量ブラックホールが あった場合の結果に関する仮説を いくつか検討した結果 それらのどれ一つとして 実際に観察できるものと合致しないということです。面白いですよね。例を2つお示しします。質問:「銀河中心に 長期間存在する古い星は、ブラックホールとの 長期間の相互作用で、どうなっているだろうか?」 予想するのは、古い恒星が ブラックホールの周りに集まっている状態でしょう。ブラックホールの近くに古い恒星がたくさんあるに違いない。

 

16 古い恒星はわずかしかなく、若い恒星がたくさんある

同様に、あるいは対照的に、若い恒星は そこには存在するはずがない。ブラックホールは、星の揺籃に関しては、親切な隣人ではありません。恒星ができるには、塊になるための非常に大きなガスと塵のボールが必要です。それは非常に壊れやすい。ブラックホールは何をすると思います?ガスを奪い去ってしまいます。一方の端を他方よりずっと強い力で引き寄せ 雲がちぎれてしまいます。実は、星の誕生はこういう場所では起きないだろうと予測していました。若い恒星はそこにあるはずがない。実際はどうだったか?今日はお見せしなかった観測結果によって どの恒星が古く、どの恒星が若いかを知ることができます。赤いのが古い恒星で 青いのは若いやつです。黄色は、まだよくわかっていません。もう、びっくりな状態がわかりますよね。古い恒星はわずかしかなく 若い恒星がたくさんあります。予想と全く逆だったのです。

 

17 天文学では「大きいことはいいこと」

面白いですよね。現在、このことを私たちは解明しようとしています。この結果のミステリー この矛盾をどう解決するのか。実際、私の院生が 今日この瞬間も、ハワイの あの望遠鏡で観測していて 次の段階の なぜ若い恒星が多く 古い恒星は少ないのかを調べる 段階に行こうとしています。さらに進歩するには、もっとずっと遠い恒星の軌道を 調べる必要があります。そのためには、おそらく現在よりもっともっと 高度な技術が必要です。なぜなら、実は私は大気のゆらぎの補正を していますが、実際はエラーの 半分くらいしか補正できていないのです。このために大気へ向けてレーザーを投射していますが さらにレーザーを増やせば 残りを補正できるでしょう。これから数年間の内に、それができれば良いと思います。さらいもっと長いタイムスパンでは さらに大きな望遠鏡を建設したいのです。なぜなら天文学では「大きいことはいいこと」なのです。だから30メートルの望遠鏡を建設したい。それを使えば、さらにもっと銀河中心に近い 恒星を観測することができるでしょう。そしてアインシュタインの 一般相対性理論の一部を検証し 銀河の形成に関する宇宙論を検証したいのです。この研究の未来は とても刺激的です。

 

18 これらの軌道が三次元空間でどう動いているか

まとめますが、ご覧に入れる動画は これらの軌道が三次元空間で どう動いているかを示したものです。そして、他のことはともかく ご理解いただきたいのは:(1)銀河中心に 超大質量ブラックホールが存在すること。それは宇宙全体に存在し 私たちはそれに取り組んで、それらが我々の物理学世界に どう組み込めるかを説明しなくてはならないこと。(2)超大質量ブラックホールが どう相互作用するかを観測し あるいは、銀河の形成に果たす役割と その方法を理解するかもしれないこと。そして最後になりましたが これらの結果のどれ一つとして 技術の最前線で果たされた 莫大な進歩なしには起こり得なかったこと。そしてその分野は非常に早く進歩していて もっと将来性があることです。どうもありがとうございました (拍手)

最後に

銀河の中心に「超大質量」のブラックホールはある。ブラックホールの物理特性は質量とスピンと電荷。シュヴァルツシルト半径以下になれば、どんな物体でもブラックホールになり得る。シュヴァルツシルト半径は物体の質量のみに依存する。恒星がブラックホールの周りを回るのを観察することで質量があるかが証明できる。補償光学技術を使うと星が見えやすい。太陽の400万倍の質量が太陽系と同じ大きさに詰まっている。天文学では「大きいことはいいこと」

和訳してくださった Masahiro Kyushima 氏、レビューしてくださった Kazuyuki Shimatani 氏に感謝する(2009年7月)。

ブラックホールに近づいたらどうなるか?


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