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クレイグ・ベンター 「人工生命」について発表する

「これはこの惑星上で初めてのコンピュータを親にもつ自己複製できる種です」ベンターは語りかける。ここでは、90万ビューを超える Craig Venter のTED講演を訳し、「人工生命」の発明の経緯とその意義について理解する。

要約

クレイグ・ベンターのチームが歴史的な発表を行いました。完全に機能する、人工のDNAによってコントロールされた自己増殖する細胞を初めて作り出したのです。どのようにしてこれを達成したのか、この成果が科学の新しい時代の幕開けとなる理由を語ります。

In 2001, Craig Venter made headlines for sequencing the human genome. In 2003, he started mapping the ocean’s biodiversity. And now he’s created the first synthetic lifeforms — microorganisms that can produce alternative fuels.

 

1 地球上で初めてコンピュータを親に持つ自己複製できる種

本日 発表致しますのは 初の人工細胞です。細胞は コンピュータのデジタルコードとして誕生し 4本の化学物質のボトルから 染色体が作られ その染色体はイースト菌内で組み立てられ レシピエントとなる細菌の細胞に 移植され その細胞が 別の種の細菌へと変化したのです。つまり これはこの惑星上で初めての コンピュータを親にもつ 自己複製できる種なのです。また 自分のWebサイトに エンコードした遺伝情報を公開した 初めての種でもあります。それでは少し ウオーターマーク(目印)についてお話ししましょう。

 

2 プロジェクトの発端は15年前の2つのゲノム配列を決める仕事

このプロジェクトの発端は 15年前に遡ります。我々のチームは その頃はTIGRと呼んでいましたが 歴史上初めて 二つのゲノムの 配列を決める仕事に取り組んでいました。インフルエンザ菌 そして自己複製する生命体として最小である マイコプラズマ=ジェニタリウムです。これらのゲノム配列を 決定し終えた後で考えたことは これが自己複製する種で最小の ゲノムであるとすれば さらに小さなゲノムは存在するのだろうか。そして ゲノムのレベルで細胞の活動に関する基礎を 理解できないかということです。15年間の探究を経て この問いに答えるための スタートに やっとたどり着くことができました。細胞から複数の遺伝子を 除去することは非常に困難だからです。一度に一つずつ除去するしかないのです。そこで早い段階で 人工的な手段を採ることにしました。誰も試していない方法ではありましたが 細菌の染色体を 合成できるのか確かめ どの遺伝子が必須であるかを理解するため 遺伝子の内容を様々に変えてみました。それが15年の探究の 始まりだったのです。

 

3 研究室で新しい種を作ることに対してのリスク検討

最初の実験を始める前に 我々は 当時ペンシルバニア大学にあったアート=カプランのチームに 検討を依頼しました。研究室で新しい種を作ることに対して どのようなリスクや課題 倫理問題が 存在するかという検討です。初めての試みだったからです。アート=カプランは2年を費やして 独自に検討を行い 1999年にサイエンス誌に結果を発表しました。ハムと私は2年間 この研究から離れ ヒトゲノムを解析する別のプロジェクトに参加していました。しかし 結果が発表されるや否や 直ちに この仕事に戻りました。

 

4 生物代替エネルギー研究所の2つの目標

2002年に 新たな機関を設立しました それが生物代替エネルギー研究所です。目標は二つありました。一つ目は 我々の技術が 環境に与える影響を把握し 環境をより深く理解する手法を見つけること。二つ目は 人工生命を作る過程を経て 生命の基礎についての理解を 深めることです。2003年に 最初の成果を公開しました。ハム=スミスとクライド=ハッチンソンが 小さなレベルで エラーのないDNAを作る 新しい手法を開発したのです。最初の仕事の対象は バクテリオファージの5000文字のコードでした。これは大腸菌のみを攻撃するウイルスです。ファージ ファイ X 174 を使用しましたが その選択には歴史的経緯があります。事実上 初めて解読された DNAファージであり DNAウイルス DNAゲノムだったのです。5000の塩基対でできている ウイルスサイズのピースを作成することが 可能であると判明したので これで道は開けたと考え このピースを大量に連続して作成することを試みました。最終目標は ピースを纏めて作成し このメガ塩基対の染色体を作成することでした。これは当初想定していたより かなり大きなサイズでした。

 

5 メガ塩基対の染色体を作成する上での2つの課題

幾つかの段階がありました。これには二つの課題がありました。大きなサイズのDNA分子を作るには 化学的な問題を解決すると共に 生物学的な問題も解決する必要がありました。つまり この新たな化学物質を作り出せたとして それをレシピエントの細胞内で どのように起動し 活性化するかということです。そこで 二つのチームが平行して作業を行いました。一つは化学チーム もう一つのチームは 染色体全体を 新しい細胞に移植するための 研究をしていました。研究を始めた当初は 合成が最大の課題になると考え 最小のゲノムを選択することにしました。

 

6 最少のゲノムでなく、より大きなゲノムを対象に変えた理由

お気づきのように 我々は最小のゲノムではなく より大きなゲノムを対象に変えました。その理由をいくつかご紹介することは出来ますが 基本的に 小さな細胞では 結果が判明するまでに 1~2ヶ月の単位で時間がかかる一方 大きな細胞の場合は 成長が早く 二日ほどで結果が得られるからです。その結果 1サイクル6週間で1年間に 何サイクルも結果を検討することができたのです。我々の行った実験の99パーセント 恐らく99パーセント以上が 失敗したことをご理解いただけるでしょう。これは所謂デバッグ作業です。つまり当初から 問題解決型のシナリオであったのです。なぜなら 成功への道筋は 存在しなかったからです。

 

7 染色体をある細菌から別の細菌に移植することに成功した

最も重大は発表は2007年に 行ったものです。キャラル=ラルティグのチームが 染色体を ある細菌から 別の細菌に移植することに成功したのです。振り返って考えると これは我々が発表した成果の中で 最も重要なものだったと思います。生命がいかにダイナミックなものかを示していたからです。そして これが上手くゆけば 本当にチャンスがあるのだと考えていました。染色体を合成できれば あとは同じことをすれば良かったのです。あと数年で達成できるのか それとも さらに年月を要するのかは分かっていませんでした。

 

8 染色体を起動させることができなかった2つの理由

2008年に マイコプラズマ=ジェニタリウムのゲノム 50万文字を上回るゲノムコードを 完全に合成できたと発表しました。しかし 染色体を起動することには成功していませんでした。理由として 一点目は成長の遅さ もう一点は 細胞がこのような事態を防ぐための様々な防衛システムを 持っているためだと考えました。我々が移植対象としていた細胞には 表面に ヌクレアーゼというDNA分解酵素があることが分かったのです。我々が与えた合成DNAを 好んで消化してしまっており 移植の障害となっていたのです。しかし当時は それが過去に作成された 定義済みの構造体のうち 最大の分子でした。

 

9 移植を行う方法を明確にする必要があった

どちらの面でも進歩が見られました。しかし一部の合成はイースト菌を使用し この物質をイースト菌に入れることで 我々に変わって合成を行ってくれるはずであり また それは達成せねばなりませんでした。前に進めることは喜びでしたが 問題もありました。細菌の染色体をイースト菌の中で育てていましたので 移植をおこなうためには 細菌の染色体を真核性のイースト菌から レシピエントに移植可能な形で取り出すには どうすれば良いのか明確にする 必要があったのです。

 

10 移植した細胞の中で起動させるために2年費やした

そこで我々のチームは 完全な細菌の染色体を イースト菌の中で成長させ クローンを作成する 新技術を開発しました。そこでキャロルが最初に移植に成功したのと同じ ミコイデスのゲノムを 人工染色体として イースト菌の中で成長させることを試みました。イースト菌から染色体を取り出し 移植する方法を学ぶ上で 有効な試験台となると考えたのです。そして実験を行いましたが イースト菌から染色体を取り出すことはできても それを移植し 細胞の中で起動させることはできませんでした。この小さな問題の解決に2年費やしました。

 

11 メチル化することができれば移植が可能になる

細菌の細胞に存在するDNAは メチル基と結合しており メチル化することによって 制限酵素による DNAの分解から守られていることが分かりました。つまり イースト菌から染色体を取り出し メチル化することができれば 移植が可能になるということが分かったのです。レシピエントであるマイコプラズマの細胞から 制限酵素の遺伝子を取り除くことに成功し 研究はさらに進歩しました。いったん これに成功して以降 DNAをそのまま移植することが可能となりました。

 

12 より大きなミコイデの染色体を合成することにしたが…

昨秋 我々は 成果をサイエンス誌に公表しました。我々は自信過剰となり イースト菌から取り出した染色体を あと数週間で 細胞内で起動させることが 実現可能であると考えていました。1年半前のマイコプラズマ=ジェニタリウムと その成長の遅さに関する問題が 1年半前に解決していたため さらに大きな染色体である ミコイデの染色体を 合成することにしました。移植に当たって 我々は生物学的にうまくいくと 考えていました。ダンのチームが この百万の塩基対からなる染色体の 合成に挑みました。しかしそれは後に それほど単純ではないことが分かったのです。そして3ヶ月分 後戻りすることになりました。合成した配列において 百万の塩基対のうち 1塩基分間違いがあることが分かったのです。

 

13 ゲノムにはエラーが許される部分と許されない部分がある

そこでダンのチームは新たなデバッグ用ソフトウエアを開発し 合成断片が野生型DNAの環境において 増えることができるかどうか テストを実施することにしました。合成した10万の塩基対のうち 割合にして 11セット中10セットは 生命を形成する配列と 完全に正確で 一致していました。1つの断片に焦点を絞り その配列を調べたところ 必須遺伝子の たった1つの塩基対が 欠落していることが分かりました。このように 正確さが不可欠なのです。ゲノムには たった1つのエラーも許されない部分がある一方 我々が目印として 長い配列のDNAを組み込んだように どんなエラーがあったとしても 問題がない部分が存在するのです。このため エラーを発見して修正するのに 三ヶ月かかりました。そしてある朝の6時にダンから 初めて青色のコロニーが見つかったと メッセージを受け取ったのです。

 

14 単なる混入を細胞を合成することができたと誤信する可能性

大変長い道のりでした。15年を費やしました。この分野の研究において 守るべき基本原則の一つは 人工合成したDNAと天然のDNAを 明確に見分けることができるようにすることだと 考えていました。科学の新しい分野に取り組む時 早い段階では あらゆる落とし穴について考慮する必要があります。あるいは 達成していないことを 達成できたと思わせるようなものについて注意を払うべきです。最悪の場合 他人にもそれを信じさせてしまうことになります。最も考慮すべき問題は 自然に存在する染色体の たった1つの分子の混入によって 単なる混入に過ぎないというのに 細胞を合成することができたと 誤信してしまうことだと考えていました。

 

15 DNAが合成のものであるかを見分けるための手続き

そこで早い段階から DNAに目印を付けて そのDNAが合成のものであることが 明確になるようにしました。2008年に最初の染色体を 作った時は 50万塩基対の染色体に 染色体作成者の名前を 遺伝子コードとして 組み込みました。しかし それはアミノ酸配列の 一文字表記を利用したものであり アルファベットの特定の文字が除外されたものでした。このようにして 遺伝子コードの中に 別の遺伝子コードを埋め込みました。DNAに新しいコードを 変換して書き込んだことになります。長い間 遺伝子コードにメッセージを書き込む仕事は 数学者が行ってきました。数学者は生物学者ではありません。数学者が作成したコードを使って 長いメッセージを書いたとすると 未知の機能を持った 新しいタンパク質の 合成につながることでしょう。

 

16 膨大な遺伝子コードの中で主に使用している4つの目印

そこで マイク=モンタギューのチームが開発したコードでは 度々 終始コドンを加えています。異なった体系のアルファベッドですが これによって すべての英文字と 句読点 数字を使用できるようになりました。膨大な遺伝子コードの中で 主に使用している目印は4つあります。一つ目は遺伝子コードの残りの部分を 解読するためのコードを 含んだものです。目印の中には その他の情報として 作者や このプロジェクトを 成功に導いた主立った貢献者の 名前が含まれています。確か46人だったと思います。名前だけではなく Webサイトのアドレスも記してあります。もしコードに含まれるコードを利用して 誰かがコードを解読したとしたら このアドレスにメールを送ることができます。つまり 他の種とは明確に 区別できるということです。46名の名前を持ち ウエブのアドレスが記されているのですから 引用句も3つ記してあります。なぜなら 最初のゲノムの時には 意味深げなことを言わずに 作品にサインをしただけだと 批判されたからです。

 

17 技術的側面に加えて哲学的側面にも対応

そこで 残りのコードの場所はお伝えしませんが 代わりに3つの引用句をご紹介します。一つ目は “To live, to err, to fall, to triumph, and to recreate life out of life.” ジェームス=ジョイスの言葉です。二つ目は ”See things, not as they are, but as they might be.” ロバート=オッペンハイマーの著書 「アメリカのプロメテウス」からの引用です。最後はリチャード=ファイマンの言葉で ‘What I cannot build, I cannot understand.” 今回の成果は科学における技術的進歩であるとともに 哲学的な進歩でもあるという観点から 技術的側面に加えて 哲学的側面にも 対応しようと試みたというわけです。

 

18 政治的な問題についても解決しようと努めてきた

質疑に入る前に 一言付け加えたいと思います。我々は多岐にわたる活動を 行ってきました。これに関して倫理的な検討を求め 技術的な面と同様に その面においても限界を広げようと試みました。科学界および政界においても 広く議論がなされました。連邦政府でも高レベルでの検討がなされています。今回の発表についても 2003年の発表と同様でした。エネルギー省から資金を得ていましたので ホワイトハウスのレベルにおいて 極秘にしておくか 公開するかの決定について ホワイトハウスのレベルでの検討が行われたのです。そして公開という正しい形で 実を結んだのです。ホワイトハウスを説得し 何人もの議員も説得しました。科学的な進歩を続けるとともに 政治的な問題についても 解決しようと努めてきたのです。

 

19 我々の生命に対するとらえ方が哲学的に大きく変わる

それでは ここで 皆様からの質問を受けたいと思います。では 後ろの方。記者:今回の発表がどのくらい革命的であるか 素人にも分かるように説明していただけるでしょうか。 クレイグ:重要性についての質問ですね。重要性について私が説明すべき立場にあるかどうかは分かりません。これは全員にとって重要なことです。我々の生命に対するとらえ方が 哲学的に大きく変わるでしょう。基本的なレベルで生命を理解すべく 15年前に研究を開始しました。15年間かけて 到達した現在の段階は まだ ほんの手始めでしかないと思います。しかし この成果は今後 非常に有効なツールとなると確信しています。すでに このツールを使った 研究をいくつか 開始しています。

我々の研究機関において 現在 国立衛生研究所から資金提供を受け ノバルティス社と共同で これらの合成DNAのツールを使用した プロジェクトを行っています。おそらく来年には インフルエンザの ワクチンを提供できると思います。以前であれば数週間から数ヶ月を要していたことを ダンのチームは24時間以内で完了できる ようになったのです。H1N1ワクチンができるまでどのくらい必要かと考えると 大幅に必要な時間を短縮できると 考えられるのです。ワクチンの分野では シンセティック=ゲノミクス社と共同で 会社を設立しようとしてるところです。その理由は このツールによって 今までは対応ができないと思われていた病気のワクチン 進化が非常に早いライノウイルスなどのワクチンを 開発できると考えているためです。普通の風邪を防ぐ方法が見つかったら素晴らしいでしょう。HIVだと もっと素晴らしいはずです。こういった病気では ウイルスが急速に進化するために 現在の方法ではワクチンが ウイルスの進化による変化に 追いついていないのです。

 

20 石油の代替となるものが必要

また シンセティック=ゲノミクス社では 重要な環境問題についても 取り組んでいます。メキシコ湾での石油流出は 我々への警告です。CO2は目に見えず 計測には科学的手法が必要です。そして CO2の排出量が増えすぎている 状況を目の当たりにしています。しかし現在 CO2の前段階である 石油が海上や 湾岸地域の海岸を汚染しているのです。石油の代替となるものが 必要です。エクソン=モービル社と共同で 大気中や 濃縮された物質から 効果的に二酸化炭素を吸収する 新種の藻を開発しようとしています。エクソンの精油所で その藻が発生した炭化水素から CO2を含まないガソリンや ディーゼル燃料が生成されるのです。これらは我々が現在行っている 研究アプローチの例に過ぎません(拍手)

最後に

地球上で初めてコンピュータを親に持つ自己複製できる種。人工生命を作るためには化学的な問題と生物学的な問題を解決する必要があった。2007年、染色体をある細菌から別の細菌に移植することに成功。ゲノムにはエラーが許される部分と許されない部分がある。ワクチン生成や石油の代替研究にも応用可能。「人工生命」研究は緻密な作業の積み重ね

和訳してくださった Kazuyuki Shimatani 氏、レビューしてくださった Yuki Okada 氏に感謝する(2010年5月)。

人工知能と人工生命の基礎


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