前回は、国家公務員の人事管理と国税庁の警察力 「官庁の中の官庁」財務省についてまとめた。ここでは、物事を進めるのは言葉の定義と数値目標 期限と数量のない官僚の作文について解説する。
「官僚のレトリック」
官僚たちは「作文能力」に長けている。その作文能力を「霞ヶ関修辞学」と名付けたのは、元通産官僚で『官僚のレトリック』を著した原英史氏である。例えば、「各省庁による再就職斡旋(を禁止)」と書かれていたのが「押し付け的な斡旋」に置き換えることで、押し付け的でない天下りならば許されるとしたのである。
官僚作文に仕掛けられた「罠」の実例
官僚作文に仕掛けられた「罠」の実例を、以下に3つ挙げる。
- 「完全民営化」と「完全に民営化」:前者は民有・民営だが、後者は民営化の3形態のどれを選択しても構わないというもの
- 首相答弁書き換え事件:「官製談合への厳しい対応」と「天下りへの対応」を一緒に答弁させるもの
- 独法改革にて:「運営を民間に委託」とすることで、最低2年間の猶予を持たせた
数学的能力がないからレトリックを使う
官僚がレトリックを使う理由は、数字を使って客観的かつ論理的に進める能力がないことの裏返しである。数学的には二律背反は二律背反である。しかし、レトリックを使うと両立してしまう。こうした言葉遊びは、言葉を数量的に定義することで防ぐことができる。
例えば、デフレーション(deflation)は「物価が継続して下落する状態」のことだが、不景気(depression;recession)は「実質経済成長率が下がること」である。前者は主語が物価なのに対し、後者は実質経済成長率という数字が主語となる。両者はまったく違う概念なのである(原油価格が上がったら通貨供給を増やせばいい 個別物価と一般物価参照)。
なぜ「数値目標」を避けたがるのか
物事を進めるためには、言葉の定義を明確にすると同時に「数値目標」が必要である。数値目標を設定すれば、結果として必ず責任の所在がはっきりするからである。数値目標として「期限」と「数量」を明示することで、物事が具体的に進んでいく。数値目標のない作文は単なる「願望」の羅列にすぎない。
例えば、デフレ脱却宣言だったら「消費者物価指数の対前年比を○年以内に○%にする」と、少なくとも期限を明確にした数値目標を示す必要がある。
財投改革で知った官僚の欠陥
著者は1994年から4年間、財政投融資の改革に取り組んだ(その経緯はALM、財投債、政策コスト分析が財投改革の三本柱 財務省が隠した爆弾を参照)。ここでは、その際に著者が感じた官僚の2つの欠陥を取り上げる。
1つは専門知識の欠如である。作文はできるが金融工学やコンピュータのプログラムなどの知識がなかったため、金利の動きや動きに応じて瞬時に対応するシステムも作れなかった。
もう1つは、知識がないにもかかわらず、外部の専門家を呼ぼうとしなかったことである。外部に専門知識を求めるのは自分たちの欠陥を認めることになるという抵抗感のほうが大きかったのである。
結局、リスク管理するためのALM(Asset Liability Management:資産と負債の総合管理)システムは、著者がほぼ1人で作り上げたのである。
最後に
物事を進めるためには言葉の定義と数値目標が必要。数値目標には最低限、期限と数量が求められる。言葉遊びや「願望」を書いた作文はいらない。
次回は、官房副長官、官房副長官補、広報官を政治任用せよ 霞ヶ関を統制する方法についてまとめる。
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