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無税償却と有税償却を使い分けよ 不良債権の税法上の取扱と償却証明

前回は、直接資産から引き落とすか間接的に負債へ繰り入れるか 不良債権償却について解説した。ここでは、無税償却と有税償却を使い分けよ 不良債権の税法上の取扱と償却証明についてまとめる。

1 不良債権の税法上の取扱

税法における金銭債権の評価

税法における金銭債権は、直接評価されることが禁じられており、その評価損は税務計算上は損金に算入されないこととなっている(法人税法25条1項、33条1項2項)。税法のこの態度は、金銭債権の評価は原則として債権金額(名目額)によるべしとする商法の考え方にも基本的に合致している。

なお、商法ではこの原則に対する例外として、相当の理由がある場合の金銭債権の実質評価を認めるとともに、取立不能見込額を債権金額から控除するよう義務づけている。税法ではこうした定めはないが、商法での取扱を否定するものではない。

 

無税償却制度の沿革

無税償却制度の沿革は、以下の4つの段階を経ている。

  1. 実質基準による直接償却:1950(昭和25)年、法人税基本通達116(賃金が回収不能と認められる場合)において具体的な事例を列挙することによる貸倒のみ
  2. 形式基準による直接償却:1954(昭和29)年、和議の成立等一定の事実が生じた場合において債権の一部切り捨て等が行われたときには貸倒とできる
  3. 形式基準による間接償却:手形取引停止処分等一定の事実が生じた場合に、債権金額(担保部分は除く)の50%相当額を債権償却引当勘定として負債の部に計上できる
  4. 実質基準による間接償却:1967(昭和42)年、債務超過先等にかかる貸金等についても債権償却特別勘定を設定できる

 

無税償却制度の概要

無税償却については、現在、国税庁法人税基本通達(以下、基本通達)9-6「貸倒損失」において、以下のように定められている。3.4.は2013年現在「個別評価債権に係る貸倒引当金への繰入れ」(法人税法施行令96条1項)に対応している。

  1. 形式基準による直接償却(基本通達9-6-1):貸金等が、切り捨てられたり債務免除されたりすることによって法律上消滅した
  2. 実質基準による直接償却(基本通達9-6-2):債務者の支払能力等からみて、貸金等の回収が事実上不可能であることが明らかとなった場合
  3. 形式基準による間接償却(旧・基本通達9-6-5):債務者について会社更生法による更生手続開始の申立てや手形交換所における取引停止処分など一定の事実が生じた場合
  4. 実質基準による間接償却(旧・基本通達9-6-4):債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、事業好転の見通しがないこと等により、貸金等の相当部分について回収の見込みがないと認められるに至った場合など。所轄税務署長(所轄国税局長)が当該事業年度の確定申告書の提出後に、その申請金額と異なる金額を認定したときは、速やかに修正申告書を提出することが条件。なお、焦げ付き未収利息は、未収利息の資産計上後2年を経過した時点において貸倒処理することが認められている

 

2 債権償却証明制度

不良債権償却証明制度とは、金融機関の不良債権の償却について、1950(昭和25)年以来、大蔵省と国税庁との取決めにより、金融証券検査官が「回収不可能または無価値と判定した債権、もしくはこれに準ずる債権」として証明した金額は、原則として税務当局の認定によらず税務上も損金として容認されるものである。1997年6月にこの制度は廃止され、不良債権の処理が急速に進んだ。

 

3 有税償却制度

沿革

決算経理基準では、金融機関は無税償却のほかに有税償却を行うことも認められている。有税償却とは、企業会計上は損失として経理することが認められるが、税務上は損金としては認められない債権の償却をいう。有税償却にも直接償却と間接償却とがある。その意義は金融機関の資産内容の健全性確保であり、その役割は依然大きい。

 

概要

有税償却の実際は、各金融機関の経営判断により異なっている。つまり、有税償却は、決算経理基準等に基づき金融機関の自己認定により行われるものであるから、原則として否認することはしないものとされている(実施要領9(1))。また、担保評価も金融機関自ら行う評価でよく、保証人についても回収が明らかに認められる場合を除き、考慮しなくても差し支えないものとされている。

具体的な有税償却は、以下の5つに大別できる。

  1. 貸倒引当金勘定の繰入対象となった貸金等のうち、無税の取扱となった部分以外の部分を有税償却するもの
  2. 債務者は債務超過の状態が相当期間継続しているが、貸金等の額の回収不能見込額が当該貸金等の額の相当部分に達していないなどの理由から、無税償却適状にならないが、有税償却するもの
  3. 担保物の処分以外に貸金等の回収の方法がないが、担保物の価値が確定しにくいとか、社会通念上担保処分が極めて困難であるとの理由から、損失額の確定ができず、経過的に有税償却するもの
  4. 金融機関側の事務処理状の不始末に起因して支払われた損害賠償金の求償権を形式上貸付金として処理している場合や、悪質な債務者に対する貸付で現実問題として回収不能と見られるものがある場合に、これらを有税償却するもの
  5. 貸倒引当金勘定を無税で繰り入れることができるにもかかわらず、償却制度に対する理解の不足などの理由により有税償却するもの

 

最後に

不良債権の税法上の取扱は、直接評価されることが禁じられており、その評価損は税務計算上は損金に算入されないこととなっている。しかし、商法においては相当の理由がある場合には認められており、その間を埋めるためのしくみが無税償却と有税償却である。なお、不良債権償却証明制度は1997年6月に廃止されている。無税償却の目的は金融機関の融資対応力の安定化、有税償却の目的は資産内容の健全性確保

次回は、債権債務関係が明確で債権金額が確定しているもの 償却証明の対象債権についてまとめる。


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