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輸出企業は通貨オプションで金利コストを削減できる 実践的金融講座

前回は、外貨預金、住宅ローン、不公平の拡大要因 個人のための金融講座についてまとめた。ここでは、輸出企業は通貨オプションで金利コストを削減できる 実践的金融講座について解説する。

1 ヘッジ・ファンドのハイ・リターンの秘密

ヘッジ・ファンドの収益率は驚異的か

ヘッジ・ファンドの投資スタイルは、①グローバル型、②マクロ型、③マーケット・ニュートラル型の3つが代表的である。①は株式を中心に世界各国で資産を運用する。②は世界各国のマクロ経済状況に注目して株式・通貨・金利を中心に運用する。③は類似性の強い資産の買いと売りを組み合わせてリスクを減らすものである。

ヘッジ・ファンドの収益率とリスクを評価すると、収益率とリスクの大きい順に、マクロ型、グローバル型、マーケット・ニュートラル型となっている。アメリカの代表的な株価指数のS&P500指数と比較すると、グローバル型は収益率を高め、リスクを小さくしたため優れているといえる。ただし、これは世界中の株式に分散して運用した効果が出ていると見ることもできる。マクロ型とマーケット・ニュートラル型は、いわば順当な実績である。つまり、ヘッジ・ファンドといえども、平均するとそれほど驚異的な実績を挙げているわけではないことがわかる。

 

マーチンゲールと呼ばれる掛け方

マーチンゲールと呼ばれる賭け方は、資金の制約さえなければ賭けの必勝法と言える。その方法は以下の4段階である。

  1. 最初は基本の掛金(例えば1万円)を賭け、負けた後の回は掛金を2倍にする
  2. 買った後は掛金を基本の掛金に戻す
  3. 負けが連続すると掛金は倍々に増えていき、次に勝ったときにはそれまでの負けを取り返すことができる
  4. 勝ちゲームのところで賭けを止めれば、最終的にそれまでのゲーム数のうち、勝った回数に基本の掛金を賭けた金額だけ儲けがある

 

徹底した損切り

マーチンゲールと対極をなす賭け方である徹底した損切りも有力である。損切りとは、買った資産が値下がりして損が出たときに、その資産を売って損を確定させてしまうことである。損切りを徹底する運用では、いくつもの資産を買って、一定幅値下がりした資産があれば売る(損切り)。一方、値上がりした資産はしばらく持っておき、ある程度大きく上がるのを待って売れば大きな利益が狙えるのだ。

ただし、資産価格が確率半々で変動するランダム・ウォークの性質を持つ場合には、損切り戦略では儲けることはできない(マーチンゲールが有利)。一方、値上がりや値下がりが続きやすいというクセがある場合には、損切り戦略は有効である(マーチンゲールは不利)。

 

国債の価格と利回り

国債の価格と利回りは反比例の関係にある。利回り(金利)が下落すると国債価格が上昇して利益が発生し、金利が上昇すると国債価格が下落して損失が発生する。具体的には、以下の4つで表すことができる。

  • 満期10年で額面価格100ドルの長期国債が、金利10%で発行された
  • 毎年の金利分のクーポン券がついているので、1年ごとにそれを切り離して金利をもらう
  • この国債は満期日前に売買されるが、その際は1年に10ドルという固定金額の収益(利息)が得られることが注目され、額面価格とは違う価格で売買される
  • 金利が10%より低くなると、毎年10ドルもらえる国債は100ドルより価値が高くなる(キャピタル・ゲイン)

 

ポートフォリオ理論とサヤ取り

サヤ取りとは、類似性の高い資産の少しの収益率の差を利用して儲けようとする戦略である。例えば、イタリア国債の方がドイツ国債のほうが金利(収益率)が高いことを利用して、イタリア国債を先物で買い、ドイツ国債を先物で売るという方法がある。ただし、金融不安が発生すると、ドイツ国債の価格は上昇するが、イタリア国債の価格は下落して、キャピタル・ロスが発生するだろう(場所、構成、受渡日、受渡確率の違いの利用 サヤ取りのタイプと条件参照)。

サヤ取りはレバレッジの大きさに応じて収益率も変化するため、多くのヘッジ・ファンドはリスクをとって収益率を上げようとする。1998年9月に巨額損失を出して破綻したLTCMは、破綻前にイタリアやスペインなどの国債を買い、ドイツやアメリカなどの国債を売っていたところ、ロシアの金融危機の影響を受けて、両方で損を出して失敗したと言われている。

 

補講:ポートフォリオ理論と外貨運用

外貨預金、住宅ローン、不公平の拡大要因 個人のための金融講座において、ドル預金をする代わりにアメリカ国債を買うという外貨運用があることを示唆した。ここでは、ドル預金とアメリカ国債の2つを比較する。ドル預金とアメリカ国債の違いは、前者は為替リスクしか負わないのに対し、後者は為替リスクと金利リスク(国債価格の変動リスク)の2つを負っていることである。重要なのは、為替リスクと金利リスクの相関関係である。

結論から言うと、為替リスクと金利リスクはお互いに相殺し合う部分があるために、かえって全体のリスクは小さくなる可能性が強い。しかも、ドル預金よりも長期のアメリカ国債の方が金利が高いため、平均的な収益率も高くすることができる。また、円をドルに両替する際の手数料は、ドル預金の場合は1ドルにつき1円が一般的なのに対し、アメリカ国債の場合は1ドルにつき0.5円が一般的なので、この点でもアメリカ国債が有利である。さらに、たとえ円高によって為替差損を被っているとはいえ、日米の金利差は大きいため、それを複利計算すれば長期的には十分に利益を出していると言える。

 

2 貿易と通貨オプション

貿易企業の通貨オプション利用

貿易企業が為替リスクにさらされるのは、3ヶ月後に代金をドルで受け取る輸出や、半年後に代金をユーロで支払う輸入など、代金分の外貨が将来に受渡される貿易契約を現時点で結ぶことが多いためである。

輸出企業による為替リスクのヘッジには、以下の4つのパターンがある。第一に、ヘッジしない場合には、円安になれば為替差益が生じるが、円高になれば為替差損が生じる。第二に、為替予約をすれば為替差益も差損も生じない。第三に、ドルプット・オプションを買う(ドルを円に替える)と円高になったとしてもプレミアム分の為替差損で済む。第四に、ドルコールを売る(ドルを売る義務)と円安になれば権利は行使されるが、そのときは輸出代金として受け取ったドルを1ドル=100円で売ればいいと考える。円高になれば権利は放棄されるが、プレミアムは受け取れる。

 

金利と為替予約と通貨オプションの関係

金利と為替予約については、将来ドルを円に替える為替予約をする際には、ドルの方が円より金利が高い分だけ直物の円相場よりも円高の円相場で予約をすることになると説明した(原資産、取引手法、取引方式で分けられる包括的な概念 デリバティブ参照)。ここでは、金利と通貨オプションの関係について考える。

結論から言えば、輸出企業や外貨資産保有者は、通貨オプションを利用することで金利差によるコストを為替予約よりも小さくすることができる(ドルプット・オプション)。一方、輸入企業にとっては通貨オプションよりも為替予約の方が金利差による利益を多く得られる(ドルコール・オプション)。これは、為替予約の場合は全額分を為替取引するのに対し、オプション取引では半額分だけ為替予約を行うからである。

 

ゼロコスト・オプション

ゼロコスト・オプションとは、オプションの売りと買いを組み合わせて、プレミアムの受払を相殺するような複合タイプのオプションのことである。日本企業によく利用されるのは、同じ権利行使価格で違う金額のオプションの売りと買いを組み合わせるタイプで、レシオ型(レバレッジ型)と呼ばれる。例えば、現在の円相場を1ドル=100円として、以下の2つの取引を組み合わせるものである。

  1. ドルプット買い1万ドル 権利行使価格1ドル=105円 満期日3ヶ月後 プレミアム7.5円/ドル
  2. ドルコール売り3万ドル 権利行使価格1ドル=105円 満期日3ヶ月後 プレミアム2.5円/ドル

ゼロコスト・オプションの損益図を見ると、1.はドルコール・オプションを単独で売った場合と同じ形状をしており、2.はドルプット・オプションを単独で売ったのと同じ形状をしている。つまり、ゼロコスト・オプションは本質的にはオプションを売る取引であり、リスクの高い取引なのである。プレミアムではなく原資産の金額で見て、どれだけのオプションを売買しているのかに注目すべきである。

 

ノックアウト・オプション

ノックアウト・オプションとは、満期日までに一度でも円相場がノックアウト・プライスと呼ばれるレートに達すると、オプションが消滅してしまうという条件がつくオプション(経路依存型オプション)である。不利な条件の分だけプレミアムが安くなる。日本では、以下のようなノックアウト・オプションが流行した(円相場1ドル=100円と仮定)。

  • ノックアウト・オプションによる1万ドルのドルプットの買い 権利行使価格1ドル=100円 満期日1ヶ月後 プレミアム0.7円/ドル(通常2.1円/ドル) ノックアウト・プライス1ドル=95円

通常のオプションよりもプレミアムが安い分、1度でも円相場が1ドル=95円よりも円高が進むとオプションが消えてしまう。つまり、ノックアウト・オプションを買うことによるヘッジは中途半端なのである。

 

3 セット商品のワナ

オプションを利用した外貨預金

オプションを利用した外貨預金には、2つのタイプがある。①オプションの買いを組み合わせたタイプと、②オプションの売りを組み合わせたタイプである。①は通常得られる金利分を使ってドルコール・オプションを買うもので「たとえ円高になっても収益率がゼロになるだけで、円安になれば為替差益を受け取ることができる」というセールストークで販売されることが多い。

②は円高になったときのリスクは残る上に、円安になっても為替差益は得られない代わりにプレミアムを受け取れるものである。ただし、通常の外貨預金よりも表面上の金利が低くなっている商品もあり、そのメリットはほとんどない商品が多い。

 

セット商品に注意

過去に日本で流行したセット商品に、通貨オプション付きローンがある。これも通貨オプションを売ることでプレミアムを受け取るのが基本である。ただし、プレミアムの分だけローンに金利を安くすることで、表面上は非常に低金利のローンに見せたのである。しかし、通貨オプションを売っているため、為替リスクが大きい危険性の高い商品である。

 

最後に

ヘッジ・ファンドの投資スタイルは、グローバル型、マクロ型、マーケット・ニュートラル型の3つが代表的。国債の価格と利回りは反比例の関係。為替リスクと金利リスクはお互いに相殺し合う部分がある。貿易企業が為替リスクを負う理由は、代金分の外貨が将来に受渡される貿易契約を現時点で結ぶことが多いため。輸出企業や外貨資産保有者は、通貨オプションを利用することで金利差によるコストを為替予約よりも小さくすることができる。一方、輸入企業は通貨オプションよりも為替予約の方が金利差による利益を多く得られる。

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