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グレゴリー・ストック 進化こそが人類

「生物学・バイオサイエンスの領域は人類に最も影響が大きく、その進化は止まることはありません」グレゴリーは語りかける。ここでは、40万ビューを超える Gregory Stock のTED講演を訳し、進化の未来を制御しようとしている人類の試みについて理解する。

要約

バイオテクノロジー倫理学者、グレゴリー・ストックによる予言めいたこの講演は2003年、クローン羊のドリーが剥製にされたほんの数日前のことでした。赤ん坊のカスタマイズなど、取り入れられたら人類の進化を加速するであろう新しく、問題視されている未来のテクノロジーについてお話しします。

Dr. Gregory Stock’s levelheaded look at the hotpoints where tech and ethics connect (or short circuit) have made him a popular guest on TV and radio. He directs the Program on Science, Technology, and Society at UCLA.

 

1 生物学・バイオサイエンスの領域は人類に最も影響が大きい

生命の未来 生物学は何を解明し 我々をどこへ導くのでしょうか。スライドはありませんので照明を上げてください。私は喋るだけです。これまでのセッションを 拝聴していました。未来を持ち上げるような話をするのは 少し気が引けました。間違っている気がしました。ただそれでも 考えてみると この時代について未来の人が思い出す時 本当に残るのはこの大きな軌跡です。バイオテクノロジーを排除したいという ジェレミー・リフキンや あるいは廃棄したいという ビル・ジョイらの語る未来が どれほどの悲劇か 少しお話ししたいと思います。生物学 そして バイオサイエンスに焦点を当ててお話しします。なぜならこれらの領域は 最も私たちに影響が大きいからです。その理由は明白です。私たちが血肉でできているからです。私たちが生物だからです。そして生物学が もたらすことは 私たち そして子孫の未来をも形づくるのです 老化を制御できるようになり アルツハイマー病を防げるようになり 心臓病やガンも克服するでしょう。

 

2 私たちは最終的に愛するものを全て失う

シェイクスピアは本当に見事に表現したと思います。言葉の並びは元のままでいきます (笑) 「かくして人は 成熟し続け 同時に刻々と腐り続ける。これには少し謂われがある」 人生は短いですよね。私たちは少し計画を立てねばなりません。これだけ発展した世界においても 私たちは最終的に愛するものを全て失うことになります。少し腐り始めると 頭に詰め込んだ映像や いろいろな権力の基になる特権全てが どうでもよくなります。私は白髪が生えてきました。レイ・カーツワイルもエリック・ドレクスラーも。

 

3 遺伝子や生体の変更・変容・調節といった話題は私たち自身を改変する話

私たちが最も気にするのはここです。生物学を制御する力学に関して 数多くの誇大広告が打たれてきたことは知っています。ヒトゲノム計画を見たら分かるでしょう。ほんの2年前のことです。人々は騒ぎ立てました。生物学の聖杯を見つけた 私たちは暗号の暗号を解いている 生命の書を読んでいるのだと。1969年 ニール・アームストロングの月面歩行を思い出させます。皆が宇宙に向けて進行する勢いでした。「2001年宇宙の旅」は皆が観たでしょう。2003年になりましたが ハル は存在しません。木星の月はおろか地球の月へすら行けません。未だに空中分解したチャレンジャーの破片を回収しているのです。今から 30年後 40年後に この時代を振り返り ヒトゲノム計画などの 時の話題にどれだけの意味があるか 回想したら とても些細なものだと 人々が考えるのも無理がないかもしれません。そんなことには決してならないと私は言いたい。私たちの遺伝子や生体の 変更 変容 調節といった話題は 私たち自身を改変する話なのです。極めて重要な話題です。

 

4 人間であるとは何かを真剣に問われることになる

テクノロジーが生活に与える影響に疑問があるならば 世界の主だった都市を見れば分かります。更新世時代の先祖の 縄張りではありません。私たちが何をしているかというと より正確で効力があるテクノロジーに 背を向けているのです。ですがそうするより前に 周りの世界を変えてきたように 私たち自身も変わるでしょう。人々が想像する以上に 早く起こるでしょう。その過程で確実に 医学や医療の革命が起こるでしょう。新たな命の誕生も変わります。私たちの感情の抑制や 転換の仕方も変わります。寿命もおそらく変わるでしょう。人間であるとは何かを 真剣に問われることになります

5 シリコン革命と進化の未来を制御しようとしているゲノム革命

現在このことに関連した 前例の無い革命が2つ起こっています。1つは明らかです。シリコン革命です。十分馴染みがあるでしょう。数々の方法で私たちの生活を変え 今後もそれは続いて行くでしょう。ここで重要なのは 私たちの足元にある砂―何の変哲もないシリコンを拾い上げ そこに生命に匹敵するほどの あるいはそれ以上の複雑さを 吹き込んでいることです。となるとその革命の当然の帰結として 生物学でも革命が起きます。ゲノム革命を始め プロテオミクス メタボロミクス「ミクス」は 研究助成金や事業企画書向きの言葉です。何をしているかというと 進化の未来を制御しようとしているのです。つまりテクノロジーを使い 進化を早送りさせようとしています。結果どうなるかは未だ不透明です。ですが五年から十年の間に 重大な変化が見え始めるでしょう。直近では医学に変化が 見られるようになるでしょう。個人個人が持つリスク因子が 同定できるようになるにつれ 予防薬の開発で大きな変化が見られるでしょう。しかし誰がお金を出すのでしょう?どのようにして複雑な情報を把握しましょう?こういった情報のやりとりは 次世代における IT の課題です。

 

6 薬理学と遺伝子学を扱う薬理ゲノミクス

薬理学と遺伝子学を扱う 薬理ゲノミクスという分野があります。先ほどファンが触れていた 各個人向けに薬を調整する分野です。凄まじい影響を与えるでしょう。また食事療法やサプリメントといった 用途にも利用されるでしょう。ただし 影響が大きいのは ニッチな薬が得られることです。今日 画期的な新薬を創るために組んでいる 予算では賄うことができなくなるでしょう。実際のところ認可プロセスは崩壊するでしょう。遅すぎます。リスク回避し過ぎるのです。私たちが向かっている未来には 適していません。

 

7 私たちは常に競い合っている

もう1つは この知識に向き合う必要があることです。例えばこんな素晴らしい発言があるでしょう 「遺伝子コードの 99.9% が一致しています。私たちは一緒なのですね。これって凄くありませんか?」 一方で周りを見渡して分かるのは 私たちが本当に気にしているのは そのわずかな違いということです。宇宙人から見ると私たちは同じに見えるでしょうが 私たち同士では違って見えます。それは私たちが常に競い合っているからです。事実を受け止めねばなりません。今後明らかにされていく各個人の違いや 人類の派生種ごとの違いをです。それを否定しては良いスタートは切れません。一世代かそこらで 更に深刻な変化が訪れることになるでしょう。それは知識を用いて私たち自身を改変させ始めることです。エラを生やすとか言う話ではありません。老化などもっと私たちに関係あることです。老化の解明と理解ができたとしたら?老化プロセスを遅らせたり逆行させられたら? 根本的に全てが変わるでしょう。誰の目にも明らかです。それが可能なら確実に実行します。その結果がどうなろうともです。

 

8 感情を変化させるリタリンやバイアグラ、プロザック

2つ目は感情を変化させることについてです。リタリンやバイアグラ プロザックのことです こんなのは児戯に等しいです。もし少量の調合剤を摂取して 唯々自分でいられれば良いという 満足感が得られたとしたら どうでしょう?顕性の副作用がないとしたら誘惑に勝てるでしょうか?おそらく勝てないでしょう。勝てないとしたら あなたはいったい誰なのでしょう?なぜ自分は自分がしてる事をするのか?自分たちの行動を先導する進化プログラムを避けるようなものです。対処するのはとても難しいでしょう。

 

9 子どもの遺伝子を選ぶといった生殖

3つ目は生殖です。遺伝子が解明されるにつれて 子どもの 遺伝子を選ぶといったアイデアが出てきます。私の著書「それでもヒトは人体を改変する」で 私たちはどのような選択をしていくか 社会にどんな問題を提示するかに触れています。生殖に関して 3つ方法があります。1つはクローンです。実現しませんでした。メディアが騒ぎ立てただけです。五年から十年で実現するでしょうが もはやビッグニュースにはならないでしょう。時間差一卵性双生児が 西洋文明に衝撃を与えることはないでしょう。

 

10 人工染色体の追加を想定

既に実施されていて もっと重要なものがあります。胚スクリーニングです。6から 8個ほどの胚細胞を取って 1つを遺伝子テストにかけ その結果次第で 胚を移植あるいは破棄します。希少疾病を防ぐために既に実施されています。近い内 この方法で実質的に 全ての遺伝病を防げるようになるでしょう。そうなるにつれ 不妊問題を抱えている人 体外受精をしている人 子どもを守りたい裕福層だけが利用していた技術を 誰もが利用するようになるでしょう。その過程で技術は 病気の治療だけでなく より軽度の問題 躁うつ病や 攻撃的な人格 気性 特性などにも利用されるでしょう。遺伝子工学も当然利用されます。実現はそう遠くないでしょう。肺細胞の遺伝子を調べ調節するようになります。私が想定している方法は 人工染色体の追加です。私たちは 46の染色体を持っていますが それを 47, 48にします。しかも遺伝されないものです。親が利用した 25年前の技術で作られた 古い機能拡張版を 子どもに継がせたいわけないでしょう。とんだ冗談です。みんな最新リリースを欲しがります。

 

11 療法と能力増強、治療と予防、必要と欲望の境界があいまいになりつつある

コンピュータやプログラムでも見られる (笑) この関係は 実際にはより深刻なものです。本当に現実の物となります。しかしできる物はなんでもするべきでも あるいはされるわけでもありません。ただし世界中の何千もの研究室で 先ほど触れたテクノロジー等が 実現可能になり 大勢の人が既に思っているとおり 有益だとみなし さらに使用を制限するのが困難であれば 問題はもはや使うかどうかではなく いつ どこで いかにしてなのです。人類はこの道を進んでいきます。その理由は2つです。第一には これらの技術は全て 皆が望んでいる医学研究の主流から 派生したものです。多額の資金が 投入されています。第二に 私たちは人間だからです。こういうことをするのが人間なのです。テクノロジーを試し 利用し 何とかして生活を改善していこうとします。せっかく利用できるようになったものを 利用しないということは 人間の自己否定や テクノロジーの 恩恵や問題を 考えないことに等しいです。様々な境界線が曖昧になります。既になりつつあるのは 療法と能力増強の間 治療と予防の間 必要と欲望の間です。特に最後は問題の核だと私は考えます。

 

12 テクノロジーを否定しても、別の分野の発展を促すだけ

人々はテクノロジーを盲目的に 否定できますし 事実そうしてきました。しかし結局そうしても単に 別の分野の発展を促すだけです。目を逸らしただけに過ぎません。それはテクノロジーを裕福層に 占有させることになります。彼らは抜け道を探すのが得意だからです。またテクノロジーの使い方を 判断するために必要な情報を 入手できなくなる恐れがあります。ですから 私たちは議論する必要があります。また議論することは素晴らしいですが ただしコンセンサスに至れると 甘く考えてはなりません。至ることはありません。テクノロジーは密接過ぎます。また 歴史 哲学 宗教 文化そして政治に強く左右されます。こういったことを 最低だ ひどいことだと 忌み嫌う人もいるでしょう。一方で 素晴らしい 人類の努力の成果だと喜ぶ人もいるでしょう。

 

13 豊かな生物相から私たちが得ているものは大きい

この類いのテクノロジーで 1つ 非常に危険なことは 誘惑されやすいということです。高度なテクノロジーがもたらすであろう 可能性ばかりに目を向けてもいけません。通常の人体の性質や自身の健康を 忘れてはいけません。高度なテクノロジーに裏打ちされた医学が 過食 ファストフードの取り過ぎ 運動不足などの問題を 解消してくれると 考える人が多すぎます。そういうものではありません。多くの驚くべきテクノロジーの最中 ある種の反革命が起こっていることは 非常に面白いです。機能性食品の分野で 過去の治療法が再び脚光を浴び 特に製薬業界の人々はこの動きを 非科学的だと断定しています。しかしこのような成果も IT が一役買っているのです。私たちは IT を利用して 情報収集 関連づけや統合を行っています。豊かな生物相から私たちが得ているものは大きいです。薬の半分はそこから来ています。無視してはいけません。なぜなら今こそ 過去一千年 私たちの健康に影響を 与え続けてきた様々なものを活用する 絶好の機会なのです。進歩したテクノロジーで 雑多な情報の海から 有益なものを洗い出しましょう。

 

14 到達するための困難は忘れ去られる

ただの抽象論ではありません。私はバイオテクノロジー会社を設立し IT で昔の情報を整理し アルツハイマー病や老化による病気の 治療法を開発しており 確かな成果が上がってきています。ここが私たちの今いる場所です。新たな千年紀の始まりです。この先の人々は つまり未来の人間は この千年紀が終わるずっと前 今から数百年もすれば この時代を振り返るでしょう。本日これまでの講演を総合すると 未来の人は 今日を なんて困難で辛い時代だったのだろうと 振り返るかも知れません。でも私はそうは思いません。時代が変わっても人は変わりません。辛いことは忘れ この時を美化するでしょう。彼らの生命 社会 そして未来の 土台を築き上げた 栄光の時代だと 未来の人は考えるでしょう。生命の誕生に似たものです。血にまみれた様々なことが起きるのです。そこからできるのは新たな生命です。前に指摘されていましたが 到達するための困難は忘れ去られるのです。

 

15 未来の土台の1つが生物学の再構築であることは明白

私にしてみれば 未来の土台の1つが 生物学の再構築であることは明白です。初めは遅く 次第にスピードは上がっていくでしょう。間違いをたくさん犯すでしょう。そういうものです。私にとってこの時代に生きて 進歩を目の当たりにできることは とてつもなく光栄なことです。全生命の歴史にとって 特別な時代なのです。ずっと歴史に残るでしょう。何が凄いかと言えば 私たちはただ観察するだけでなく それを創造しているのです。誇りに思うべきです。ここで難しく辛いのは 私たち自身が改変の対象でもあるということです。私たちの健康 生活 未来 子どもの未来が変わるのです。だからこそ多くの人が 恐れ 一歩下がってしまうのでしょう。この生命の選択において 私たちの選択肢は この道を進むかどうかではありません。間違いなく進んでいるのです。私たちがこれをどのように 受け止めていくかなのです。紀元前 430年に トゥキディディスは 上手いことを言いました。彼の言葉そのままに引用します 「勇敢な者とは 目の前の栄誉も危険も等しく 明瞭に見渡すことができ その上で それらに立ち向かうことのできる者である」ありがとうございました (拍手)

最後に

生物学・バイオサイエンスの領域は人類に最も影響が大きい。遺伝子や生体の変更・変容・調節といった話題は私たち自身を改変する話。シリコン革命とゲノム革命が起こっている。人工染色体の追加が想定されている。療法と能力増強、治療と予防、必要と欲望の境界があいまいになりつつある。テクノロジーを否定しても、別の分野の発展を促すだけ。生物学の再構築は未来の土台の1つ

和訳してくださった Keiichi Kudo 氏、レビューしてくださった Akira Kan 氏に感謝する(2003年2月)。

分子からみた生物進化 DNAが明かす生物の歴史 (ブルーバックス)


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