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ロブ・レガート 迫真の映像の作り方

「『アポロ13』『タイタニック』『ヒューゴの不思議な発明』などの映像は、なぜリアリティに満ちているでしょう?」ロブは語りかける。ここでは、170万ビューを超える Rob Legato のTED講演を訳し、迫真の映像の作り方を理解する。

要約

ロブ・レガートがエフェクトを駆使して作る映画のシーンは、時に本物さえ超えます。『アポロ13』『タイタニック』『ヒューゴの不思議な発明』等の映画を例に、映像のリアリティを高めることに対する自らの考えを、心温まる面白い語りで聞かせてくれます。

Rob Legato creates surprising and creative visual illusions for movies.

 

1 ものの受け止め方が変わってしまう経験

『アポロ13』って映画の仕事をしていて 気が付いたことがありました。脳の仕組みなんですが それが何かというと 感激や感動 または愛情で胸が一杯になると ものの受け止め方が変わってしまうということです。見るものが変わったり記憶さえも変わってしまいます。この映画のためにサターンVロケットの打ち上げシーンを 再現するなんて 難しいことをやることになって そんなことを提案したのは私だったので ちょっと心配になってこんな実験をすることにしました。ここにいるような大勢の方々に試写会場に来てもらって この記録映像を見てもらいました。鑑賞後 何が記憶に残ったか どんなものが心に残ったか 映画のために何を再現し どこをどれくらい似せてつくるべきか理解するためです。

 

2 皆の記憶に残ったことを再現すべき

これが皆に見てもらった映像です。実験の結果 解ったことは こういう特別な映像ですし このような話を映画化するということで そこには既にある種の想いだとか 我々にとって この打ち上げが持つ意味の 集団的な記憶なんかが あったということです。これを見てもらった直後に 訊いてみました。どう思ったか とか 記憶に残った場面を訊くと 実際見たものとは違っていました。カメラが頭上を動いていったとか いろいろです。別のシーンを組み合わせていたりとか。なぜでしょう。ほんの数分前にいったい何を見ていたのか なんでそんな でたらめな答えになるのでしょう? これで解ったのは 皆が実際に見たものではなく 皆の記憶に残ったことを再現すべきだという事です。

 

3 皆が見たと覚えている意識の合成

これが実験の結果をもとに我々が作った打ち上げの映像です。基本的に皆の感想をもとに いろいろなシーンを組み合わせ いろいろなものを集めて 実際に見たものではなく 皆が見たと覚えている意識の合成です。これが『アボロ13』用に作った映像です(ロケット噴射音)

つまりここでご覧になっているのはいろいろな人 私も含んだ いろんな人の記憶をまとめて 実物を必要に応じて ちょっと変えたものです。実物を必要に応じて ちょっと変えたものです。すべてを短焦点レンズで撮影したので ごく近くで見ていることになりますが 望遠レンズで撮ったような構図にして 距離を感じさせています。つまりこの場面では 誰も実際には見たはずがないものを 思い出させるようにしているわけです(音楽) そしてかつて感動したときに 感動したもの そのものを見せようとしています(音楽)ヒューストン こちらはオデッセイ また会えてよかった(歓声)(音楽)自分が拍手してもらっている気持ちになります(笑)

駐車場でこのシーンを撮っているんですがこんなブリキ缶で ロケット打ち上げを再現しようとしているわけです。消火器と炎を使いレンズの前にワックスを撒いて 氷のかけらに見せかけているのです。ですから さっきの映像が本物に見えたとしたら 皆さんを感動させたものは まったくのニセ物でそれを考えると凄いなと思うんです。

 

4 「こりゃ間違っとるよ」

このシーンは 映画のクライマックスですが こういうものを作るためには 模型をヘリコプターから放り出し撮影するだけでいいんです。実際そうしたんです。これが私 二流カメラマンです。私のカメラワークが真実味を引き出したともいえます。ロケットの落ちるのを追い なんとかフレームに収めようと必死になっているのが ここでは効果的だったのかもしれません。その後 こんなことがありました。NASAから元宇宙飛行士で アポロ15号の乗員でもあった方に 私のやっている事が科学的に正しいか確認するために来てもらいました。きっとチェックしなきゃまずいと思った人がいたんでしょうね(笑)私にはよく解りませんがそう思ったみたいです。

とにかく私達の英雄である宇宙飛行士が来たというので みんな興奮して 私も 私の撮ったシーンは なかなか上手く出来てる なんて 自慢したりしてたんです。皆も出来栄えに なんとなく自信があり 彼を連れてきて やっているものを見せ 確認して 太鼓判を押してもらおうと思っていたわけです。そこで 我々の作っている映像を幾つかみせて 期待通りの反応を待って まあ そういう具合だったわけです(音楽)(ロケット発射音) それでこの二つのカットを見せたところ 彼の口から出た言葉は「こりゃ 間違っとるよ」(笑)そうなんだ(笑) そんな答えを夢見ていましたよ(笑)

 

5 彼の記憶が事実とは違っていた

私の方を向いて こう言うんです 「君 ロケットはそんな風に設計しないんだよ。発射台のアームが離れながらロケットが上がっていくなんて絶対いけない。ひどい事故になるだろうが ロケットはそんな風に設計しないんだよ」 そう言って私を見るんでこんな風に答えました。お気付きか知りませんが 駐車場を舞台に アメリカが誇るシーンを再現したのは この私なんです。消火器を使ってですが(笑)返す言葉もありません。あなたは皆のヒーロー 宇宙飛行士で かたや私はニュージャージの一般人です(笑)他の映像もお見せしますから 思ったことを聞かせてください。すると今度は私の期待通りに近い反応が返ってきました。

見せたのはこれ 実際の記録映画です。彼が乗ってた アポロ15号の彼のミッションの映像です。これを見せた時の彼の反応はおもしろいものでした「これも間違っとるよ」(笑)何が起こったのかというと私の予想では 彼の記憶が事実とは違ってたんです。彼の記憶にあるのは100%安全な発射台システムと 100%安全なロケットの打ち上げです。一番安い値段で入札した会社に作らせた推力10万ポンドの ロケットに乗っていたらそう思いたくもなります。うまくいく様 願っていたんでしょうね(笑)(拍手)だから都合のいいように記憶していた。

監督のロン・ハワードがバズ・オルドリンに偶然会ったんですが 、彼は映画とは無関係だったのでこれが作り物だとは知らず こう言ったそうです。ご覧ください。バズ・オルドリンがやってきてこう言うんだ 「あの発射のシーン 見せてもらったよ。見たことない映像もあったけどいったいどこに しまってあったんだ?」 だから「いや あれは 探してきたんじゃなくて 全てうちで作ったものなんだ」って言ったら彼は「ほんとに?なかなかいいね今度借りてもいいかな」だって。「もちろんです」(笑)彼は本当に偉大なアメリカ人だと思います (笑)

 

6 本物の映像と作った映像とを交互に組み合わせた『タイタニック』

次は『タイタニック』です皆さんご存知ないかもしれませんが この映画はハッピーエンドではありません (笑)実は監督のジェームズ・キャメロンは本物のタイタニック号を撮影したんです。作り物かなんて疑う余地をなくしたわけです。映像は本物なんですから ミール という深海探査艇でもぐって ミール2機で沈んでいる船まで行って この心に残る映像を撮影したわけです。美しいだけでなく いろいろな感情を呼び起こす映像ですが 何もかもレンズに収めることは不可能で 映画として仕上げるために そのギャップを埋めるのが私の役目でこれが結構大変なんです。本物の映像と 作った映像とを交互に組み合わせるので ひどいシーンになったら私の責任です。

これが本物の映像 これだけ見ても 迫力があって感動します。まずこれを見て何か感じ取って頂きたい。それから これを初めて見た時の私自身の反応をお話します。私が感じたのは この船のよみがえった姿を見たいという感情です。自然とこの船を見たくなる この豪華な船の輝かしい姿を見たいのです。同時に きらびやかさを失った あるがままを見たい気もします。そこで後でご覧にいれるような視覚効果が頭に浮かんだわけです。私にとっては これがこの映画の核心で それがこの映画の仕事をやりたかった理由であり これからお見せするこんなシーンを作った理由です。

 

7 見ている側に移行のタイミングを決めてもらう

もうひとつ私が面白いと思ったのは 見たときに心を本当に動かすものは何か ということです。舞台裏をちょっとお見せしましょう。私の作った映像は 実は 大勢のスタッフが 船をひっくり返したりしているだけで探査艇のミールは 実は小さなフットボールくらいの大きさで 煙の中で撮ったものです。キャメロンは5 km の深海に潜って 私はスタジオから5 km 先のガレージで このシーンを撮りました。

でも 私の映像もキャメロンの映像と 同じような感情を引き起こし 同じような 忘れられない質を持っています。ここで非常に興味深いのは 人間というものは 一度目の前にあるものが本物だと信じると 何もかも その目で見てしまい 実は作り物で 見せかけているだけなのに そうとは感じなくなってしまうのです。これは とっても興味深いことです。それを利用して 次にお見せする 映像効果を作ったわけです。魔法のようなシーンの移行なんですが私が意図したのは 見ている側に 移行のタイミングを決めてもらうことだったのです。そうすれば見ている人にとって自然な形になり 私の解釈を押し付けているのではなく 皆さんの見たいものを見せることになります。ちょっとこの先のところなんですが— ご覧のように。

 

8 見ている人の目がそれた瞬間何かが変化する

潜水艇が画面に二つあったら 私の撮ったシーンです。カメラがどこにあるかによるわけです。キャメロンのには一隻しか映っていません。もう一隻から撮しているので このシーンは私のかキャメロンのか忘れましたが キャメロンのだということにしておきましょう。褒められると うれしいでしょうから(笑)

それではタイタニックの移行をお見せしましょう これが先程お話した私のやりたかったこと 魔法のように船の状態を変化させることです。このシーンをご覧ください(音楽) ここで意図したのは皆さんの目の前で溶けるように変わることです。タイタニックは二度と日の光を見ることはありませんでした。

ここでしたのは基本的に また試写会をして私自身どこを見ているか 皆がどこを見ているか記録したのです。もちろん船首にいる二人を見ていますが ある時点から 周りを少しづつ変化させて 少しづつ 錆びた難破船にしたわけです。毎日 繰り返しこのシーンを見て いつ 二人から目が離れ 周りのものに気が付き始めるかを見つけ 目が移った瞬間のコマを記録して 目が移った瞬間に二人を消し始めるのです。するといつ変わり始めたのかいつ終わったのかがわからない。もう一度お見せします (音楽) これは我々の頭が自然にする事を 利用したのです。見ている人の目がそれた瞬間 何かが変化するのです。スカーフを残したのは 二人の魂が 難破船に残っているような霊的なものを感じるようにしたかったからです。二人は今でもそこに埋もれているのです。なんてね今思いついた事ですが(笑) その後 私も日の光を見ることは ありませんでした。この映画にはひどく時間がかかったので (笑)

 

9 『ヒューゴの不思議な発明』

『ヒューゴの不思議な発明』これがまた面白い映画で 映画の魔法が題材になっています。残像という脳の錯覚を うまく利用したのが映画なんです。私の手がけたものの一例ですが_ サーシャ・バロン・コーエンはとても頭のいい役者でコメディアンです。バスター・キートンがやったようなドタバタ喜劇に敬意を払い 足の補助器具が動く列車に引っかかってしまう演技を計画したんです。とても危険で 普通でもやれるものではないのですが 特にこの映画では とても危険で 普通でもやれるものではないのですが 特にこの映画では 列車がセットの中しっかり納まっているのでとても動かす事なんてできないのです。

 

10 動いているのは列車ではなく床

ちょっとシーンを見てみましょう。セルゲイ・エイゼンシュテインの考えたトリックを使ったものです。カメラを動いているものと一緒に移動させれば 静止しているものが動いて見えます 反対に 動いているものは止まって見えます。この場面では列車は全く動いていません。動いているのは床なんです。

これがそのシーン そこに小さく見えるのは テストの映像。これが映画に使われるものです。面白いのは 映画自体へのオマージュが こういう巧妙なトリックから出ていることです。私が考えたとは言えないのが残念です。言いたくても 言えません。1910年頃に発明されたものですから。監督のスコセッシに言ったのですが こういうトリックは 本当に上手くいったものを見て初めて解るんです。この計画をスコセッシに説明するとこんな質問が返ってきました 「ちょっと待って 車輪のついているもの これが動かないんだって?」(笑)(拍手)「車輪のないのが 動くのかね」そのとおり(笑)

 

11 ワンカットで見せるテクニック

次に最後になりますが–ところで スコセッシは この講演 見ないですよね? ここにいない人でも 見れるんでしょうか–(笑)次にお見せしたいのはワンカットで見せるテクニックです。これはストーリーを伝えるエレガントな方法です。特に誰かの移動を追っているとき その移動がその人物の性格を 簡潔に表現しているときなどに有効です 『グッドフェローズ』のシーンの様なものを作りたかったんです。あれは非常に上手くできたシーンです。マーティン・スコセッシの映画で主人公のヘンリー・ヒルが ギャングの一員として感じるものを クラブ・コパカバーナ内を歩き特別扱いを受ける様子で表しています。彼は彼の世界の支配者でヒューゴにもそれを感じてもらうため このシーンを撮りました。

(音楽) これが ヒューゴです (音楽) カメラを彼と一緒に動かせば この少年の感じ取るものを感じることが出来ると考えたのです。彼は彼の世界の支配者なのです。彼の世界は 実は舞台裏 この駅構内の隠れた迷路の様な場所で 彼しか行き来することができません。これが彼にとっては 日常のことなのだと 伝わるように ワンカットで撮ることが大切なのです。この映画は3Dで撮っているということは 大きなクレーンにぶら下がった巨大なカメラを使うことになります。そこで いかにもステディカムで撮ったような映像を再現することになりました。『グッドフェローズ』の あれと似た感覚を思い起こさせるシーンを作るんです。

 

12 「君がやったなんて誰も知らない」

これを実際に撮った時の様子をごらん頂きます。5つのセットに分かれていて5回に分けて撮影しました。役者も二人います。左のシーンが終わり 右のシーンが続きます。少年も 映画の主役のエイサ・バターフィールドから代役に切り替わっています。少年も 映画の主役のエイサ・バターフィールドから代役に切り替わっています。いわゆるスタントとは違います。この凄い装備は このために作られました。これは3番目のセット この中に入るのですが このシーンの最後のところは ステディカムを使っていますがその他は全てクレーンなどに 乗せたカメラで撮っています。先ほど言ったとおり 5つのセット、二人の子役バラバラな時に撮ったものを 一回で撮ったようにつなげたわけです。良かったかなと思うのは このシーンが今までやった仕事の中で 一番高い評価を受けているという点です。撮り終えたときには誇りのようなものも感じました。そんな誇りなんて 本当は感じるべきではないと思うのですが。

ちょっと自慢げに友達に 「ねえ これが一番評価されてるやつなんだよ 「ねえ これが一番評価されてるやつなんだよ どうしてだと思う?」って訊いたんです。「君がやったなんて誰も知らないからさ」そんな答えが返ってきました(笑)では ここまでです。ご清聴 ありがとうございました (拍手)

 

最後に

感激や感動または愛情で胸が一杯になると、ものの受け止め方は変わってしまう。皆の記憶に残ったことを再現すべき。皆が見たと覚えている意識の合成。本物の映像と作った映像とを交互に組み合わせた『タイタニック』。見ている側に移行のタイミングを決めてもらう。見ている人の目がそれた瞬間何かが変化する。動いているのは列車ではなく床。ワンカットで見せるテクニック。脳の錯覚をうまく利用しよう

和訳してくださったAkiko Hicks 氏、レビューしてくださった Yasushi Aoki 氏に感謝する(2012年6月)。

新版 映像制作ハンドブック (玄光社MOOK)


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