willful-blindness

マーガレット・ヘファーナン 「意図的な無視」の危険性

「職場に社員が指摘するのを恐れる様な問題がありますか?」国を問わず、85%の人が「はい」と答える。ここでは、50万ビューを超える Margaret Heffernan のTED講演を訳し、「意図的な無視」の危険性について理解する。

要約

ゲイラ・ベネフィールドは仕事中にある異変に気づき、やがて自分の住む町の恐ろしい秘密を暴いてしまいました。彼女の町はアメリカのどの場所よりも死亡率が高く、80倍にも上っていたのです。しかしそれ以上に彼女が衝撃を受けたのは、住民にそれを伝えようとした時でした。人々がその事実を知りたがらないのです。マーガレット・ヘファーナンは、歴史の教訓とも活動の呼び掛けとも呼べるこの話を通して、「意図的に無視すること」の危険性に警鐘を鳴らすとともに、自ら声をあげた普通の人々を讃えます。(TEDxDanubiaにて収録)

The former CEO of five businesses, Margaret Heffernan explores the all-too-human thought patterns — like conflict avoidance and selective blindness — that lead managers and organizations astray.

 

1 リビーにはゲイラ・ベネフィールドという個性的な女性がいる

アメリカ北西部 ― カナダ国境のすぐ近くに モンタナ州 リビーという小さな町があります。松林と湖 そして 美しい野生動物と ― 天まで届く様な巨大な木々に囲まれています。こんな環境に囲まれた小さな町 リビーを 訪れたのですがなんだか寂しい所で 孤島のようでした。リビーにはゲイラ・ベネフィールドという ― 個性的な女性がいます。ロシア系の彼女は 人生のほとんどをこの町で暮らして来ましたが 常に自分は どこか人と違うと感じていました。学生時代女子で機械製図を選択したのは 彼女だけだったと私に話してくれました。

 

2 昼間なのに男たちが家におり、酸素ボンベをつけていた

その後 ゲイラは就職し家を一軒ずつ回って ― ガスや電気の計量メーターを検針する仕事を始めました。昼の仕事でしたが 彼女が気になったのは 昼間なのに男達が家にいることでした。それも40~50歳代の中年の人たちで かなりの人々が酸素ボンベをつけていました。彼女は何か変だと思いました。数年後 ゲイラの父親が59才で亡くなりました。年金の受け取りが始まるわずか5日前のことでした。鉱夫だったので きつい仕事の結果だとゲイラは思いました。

 

3 数年後長生きの家系の母親が亡くなった

ところがその数年後今度は母親が亡くなります。母の死は一層奇妙に思えました。なぜなら母親の一族は 永久に生きると思うほど長生きの家系だったのです。実際 ゲイラの伯父さんは今も元気で ワルツを習っています。自分の母親が若くして亡くなる ― 理由が見つかりませんでした。その死は「異常」だったのでゲイラは悩んだのです。考えるうちにいろいろ思い出しました。例えば こんな事がありました。母が足を骨折して病院に行った時 ― レントゲン写真を何枚も撮られました。2枚の足の写真は当然としても 胸部の写真が6枚もあるのは不可解でした。彼女は自分と両親の人生のあらゆる瞬間を 思い出しながら考えて 自分が目にしたものを理解しようとしました。

 

4 バーミキュライトに非常に有害なアスベストが含まれていた

自分の町のことを考えました。町にはバーミキュライトの鉱山がありました。バーミキュライトを土壌改良土として使うと 植物は より早く大きく成長します。屋根裏の断熱にも使われました。大量に屋根裏に入れると 長いモンタナの冬でも暖かく過ごせるのです。バーミキュライトは公園にも フットボール場にも スケートリンクにも ありました。ゲイラは この問題に取り組んで初めてバーミキュライトに 非常に有害なアスベストが含まれていたことを知りました。

 

5 皆が事実を知れば何かが始まると思っていたが、誰も知りたがらなかった

謎を解いた彼女は 皆に伝えようとしました。何が起きていたのか そして ― 彼女の両親や酸素ボンベをつけて昼間も家にいる人々が どんな仕打ちにあってきたか。ところが彼女は驚愕します。皆が事実を知れば何かが始まると思っていたのに 誰も知りたがらなかったのです。この話を近所の人や友人や コミュニティーの皆に 伝えようとすればするほど嫌がられるようになり とうとう住民の一部が ステッカーを作って誇らしげに車に貼るほどでした。こんなステッカーです 「故郷はモンタナ州。リビーでもアスベスト症には かかってない」。

 

6 ある研究者が鉱山史の調査で町を訪れることを知った

それでもゲイラはあきらめず調査を続けました。インターネットの普及が調査を後押ししました。できるだけ誰とでも話し ― 論争を重ねるうちにとうとう幸運をつかみます。ある研究者が鉱山史の調査で町を訪れることを知ったのです。彼女はその人に話をしました。最初は信じてもらえませんでしたが その研究者がシアトルに戻って 調査する過程で話が本当だとわかったのです。

 

7 「そんなに危険だったら…誰かが教えてくれるはずだ」

こうして仲間ができました。それでも住民は知ろうとしません。彼らの言い分はこうです「そんなに危険だったら ― 誰かが教えてくれるはずだ」 「それが皆が死んでいく本当の理由だとしたら ― 医者が警告したはずだ」 過酷な労働に慣れた男達はこう言いました 「犠牲者になんて 絶対になりたくない ― でも どんな産業にも事故はつきものさ」

 

8 この町の死亡率がアメリカ全体の死亡率の80倍であることがわかった

それでもゲイラはあきらめずとうとう ― 町に連邦政府機関を呼んで 住民1万5千人の健康診断に こぎつけたのです。それでわかったことは この町の死亡率が アメリカ全体の死亡率の80倍にも上ることでした。2002年のことでした。でもその時でさえ 進んで警告を発する人は誰一人いませんでした 「あなたの孫が遊んでいる公園を調べてごらん ― バーミキュライトだらけだよ」などと言う人はいませんでした。

 

9 これは無知のせいではなく「意図的な無視」によるもの

これは無知のせいではありません 「意図的な無視」によるものです。意図的な無視とは法律用語で 知り得るだけでなく知るべき情報なのに 知らずに済まそうとする場合 ― 法律上は意図的な無視と見なされます。知らずにいることを自分から選択したのです。最近 意図的な無視の例が身の回りにたくさん見られます。お金のない人々に 住宅ローンを売りつける人が何千人もいるのは 銀行による意図的な無視です。金利が操作されていると 誰もが知りながらわざと放置していたのも 銀行の意図的な無視です。カトリック教会内の児童虐待が何十年にも渡り 放置されていたのも意図的な無視です。意図的な無視は イラク戦争の準備段階でも見られました。

 

10 「職場に社員が指摘するのを恐れる様な問題がありますか」

このように意図的な無視は大規模に存在する一方 ― ごく小規模のものが 家族や家庭やコミュニティー または 組織や団体にも見られます。企業の意図的な無視を調査する時には こんな質問をします。「職場に社員が指摘するのを 恐れる様な問題がありますか」研究者がアメリカの企業を対象に調査したところ ― こうした質問に85%の人が「はい」と答えました。85%もの人が問題の存在を知りながら 何も言わないのです。私がヨーロッパで同じ質問項目を使って 同じ調査をしたところ ― まったく同じ割合になりました。85%です。とても多くの沈黙 ― とても多くの無視です。面白いと思ったのはスイスの企業に行くと 「これはスイス特有の問題です」と言われ ドイツに行けば「これはドイツ病です」と言われ イギリスの企業では 「イギリス人が苦手とするところです」と言われます。でも本当は人間固有の問題なのです。環境がそろうと私達は誰でも意図的に無視します。

 

11 意図的な無視の原因は恐怖や諦め

調査で明らかになったのは 恐怖や報復への恐れから無視する人もいれば、目を向ける事は無駄で どうせ何も変わらないから 無視する人もいることです。例えばイラク戦争に抗議しても 何も変わらないやるだけ無駄 見ない方がいいと思うのです。

 

12 内部告発者はとても誠実で保守的な人も多い

私が繰り返し耳にするのは 人々のこんな言葉です「目を向ける人々はタレ込み屋で 奴らがどうなるか誰だって知っている」 内部告発する人については根深い誤解があります。まず彼らは「頭がおかしい」という誤解です。私が世界中を巡って ― 内部告発者と話して気づいたのは 彼らが とても誠実で保守的な人も多いことです。自分が所属する団体への深い忠誠心を持っています。彼らが声をあげる理由 ― 目を逸らすまいとする理由は その団体を心から大切に思い 健全であってほしいと願っているからです。

 

13 告発者たちの口調には常にプライドがある

内部告発者について こんなことも言われます「奴らの活動は無意味だ。奴らの身に何が起こったか見るがいい。潰されてしまうんだ。誰だってそんな経験はしたくないだろう」 一方 告発者達に話を聞くと 彼らの口調には常にプライドがあります

 

14 ジョー・ダービーが公開したアブグレイブ刑務所の写真

例えば ジョー・ダービーです。誰もがアブグレイブ刑務所の写真を覚えているでしょう。世界を震撼させイラクで行われた戦争が どんなものだったかを示したのです。でもジョー・ダービーは記憶にあるでしょうか。従順で優秀な兵士だった彼が 例の写真を発見して告発したのです。彼の言葉です「私は他人を売るような人間ではありません。でも もう最後の一線を超えていました。知らない方が身のためだと 言われましたがそんな事には耐えられません」

 

15 スティーブ・ボルシンは赤ちゃんを殺していた外科医を告発した

イギリスの医師スティーブ・ボルシンとも話しました。彼が5年に渡って人々に知らせようとしたのは 赤ちゃんを殺していた危険な外科医のことでした。彼にきっかけを尋ねると こう答えてくれました「私の背中を押したのは娘なんです。ある晩 娘が来て言ったんです 『パパ 子ども達を死なせないで』って」

 

16 シンシア・トーマスはイラク戦争から帰還した人を支援した

シンシア・トーマスは ― とても誠実な軍人の娘であり妻です。彼女は イラク戦争から帰還した ― 友人や親せきに会って 彼らの精神状態のひどさと 心的外傷後ストレス症候群を軍が認めようとしないことに 衝撃を受けました。そこで軍人ばかりの町の真ん中にカフェをオープンして 法律面 精神面 医療面での支援を始めました。彼女はこんなことを言っていました 「私はいつも将来 何になりたいか ― わからないと言ってきました。でも この仕事を始めて ― 自分が変わったことに気づきました」

 

17 内部告発者たちの行いは自分達の持つ自由を行使すること

今 私達は様々な自由を享受しています。苦労の末 手にした自由です。例えば検閲を恐れず書いたものを出版する自由 ― 以前 ここハンガリーに来た時には存在しなかった自由です。そして投票の自由 ―特に女性にとっては 闘わなければ得られませんでした。いろいろな人種や文化背景 ― 性的志向をもつ人々が望み通りに生きる自由…。でも自由は行使しなければ存在しません。ゲイラ・ベネフィールドのような 内部告発者達の行いは 自分達の持つ自由を行使することに他なりません。彼らは起こりうる事態への覚悟を決めています 「これから議論が起こり 隣人や同僚や友人達と 言い争うことになるだろうが こんな争いにも強くなろう」「否定的な人々の相手もしよう。彼らが 私の主張をもっと優れた強固なものにするのだから」「よりよい活動にするために 反対の立場の人とも協力しよう」 彼らはとても粘り強く 強い忍耐力をもち 無視も沈黙もしないと決意しています。

 

18 アスベスト症診療所はゲイラ・ベネフィールドのおかげで生まれた

私はモンタナ州 リビーに行った時 ― アスベスト症診療所を訪れました。ゲイラ・ベネフィールドのおかげで生まれたものです。最初は治療を必要として 助けを求めに来た人でさえ 裏口から入ることがありました。彼女が正しいと認めたくなかったのです。私が食堂の席から外を眺めていると 幹線道路をトラックが行き来するのが見えました。家々の庭から土を運び出し 汚染のない新しい土と入れ替えていたのです。

 

19 彼女は私達と同じ普通の人

私は12才の娘を連れて行きました ゲイラに会わせようと思ったのです。「なんで?」と娘が聞くので、私はこう言いました 「ゲイラは映画スターでもセレブでも専門家でもないし ゲイラ自身が言うとおり ― 聖人なんかじゃない。でも彼女が普通の人だということが とっても大事なの。彼女は私達と同じ 普通の人 ― 自由を持っていてそれを行使しようとした」ありがとうございました(拍手)

 

最後に

意図的な無視の原因は恐怖や諦め。「職場に社員が指摘するのを恐れる様な問題がありますか」85%の人が「はい」と答える(みずほ暴力団融資事件参照)。内部告発者は誠実で保守的な人も多い。内部告発者達の行いは自分達の持つ自由を行使すること。もちろん「意図的な無視」をする自由もある。あなたはどちらの「自由」を行使しますか?

TED公式和訳をしてくださった Kazunori Akashi 氏、レビューしてくださった Emi Kamiya 氏に感謝する(2013年8月)。

見て見ぬふりをする社会


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