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ウィニー裁判が止める技術革新と市場原理による統制 日本の法律

前回は、西村博之は悲観的、2ちゃんねると公共性 佐々木俊尚×ひろゆきについてまとめた。ここでは、ウィニー裁判が止める技術革新と市場原理による統制 日本の法律について解説する。

2ちゃんねる裁判

2ちゃんねるに関連する裁判は数多くあり、著者がすべてに出席するのは無理だった。しかし、出席できなかった場合には自動的に敗訴となり、賠償金支払命令が出るのが現在の民事訴訟である。つまり、処理できない量の訴訟を起こしてしまえば、自動的に賠償金が認められてしまうというルールなのだ。

裁判は訴訟を起こす側は数千円で済むが、訴訟を受けた側は勝訴したとしても、弁護士費用で100万円近くを支払う必要がある。よく「勝訴した場合には、裁判費用を相手持ちにできることもある」と言われるが、相手持ちにできる費用は印紙代などだけで、弁護士費用まで判決に含まれるという例はほとんどない。一方、「賠償金に関しては支払われなくても刑事罰が発生することはない」というルールもあり、著者はあくまでもルールの上で認められた行為をしているのだ。

 

ウィニー裁判とスピード違反

無料ファイル共有ソフトのウィニーを開発した金子勇氏(2013年7月6日死去)が逮捕されたことも疑問である。裁判所は「ウィニーは違法行為を助長するために作ったものではない」と言っているし、金子氏が係争中である限りユーザーを逮捕できなくなり、無法状態となっているのだ。長期的な視野で見れば、金子氏を囲い込んで本当に危険なところだけを止められるウィニーを開発してもらった方が、世の中のためになるのではないだろうか。

また、日本では時速100キロ以上の速度を出せる公道は存在しないが、時速100キロ以上の速度を出せる自動車は売られている。こうした自動車の販売を禁止すれば、少なくともスピード違反の発生を抑えられるのだ。

 

宇宙旅行と刑務所

堀江貴文氏が逮捕された理由も不明確である。ライブドア粉飾疑惑の額は約53億円と言われているが、こうしたことは当局に指摘されて直すというレベルだろう。実際、日興コーディアルグループの粉飾疑惑額が約180億円にもかかわらず、訂正勧告と追徴金5億円と判断している。しかし、堀江氏は懲役2年6ヶ月の実刑判決となってしまったのだ(2013年3月27日仮出所)。

 

法律で止められる技術革新

2004年にOffice氏がACCS(コンピュータソフトウェア著作権協会)の個人情報を入手して不正アクセス禁止法違反で逮捕されて以来、インターネット上では表立ってコンピュータネットワークへの不正侵入や、データの破壊・改ざんなどの行為を行う人は少なくなった。同時に、ウィニーを始めとしたP2P技術の発展も止まってしまった。

P2Pとは、決まったクライアントやサーバーを持たず、ネットワーク上の全てのコンピュータがクライアントやサーバーとして働くネットワーク形態で、基本的に一対一の通信を何度も繰り返すものである。スカイプなどもP2Pといわれているが、厳密に言えば最初に中央サーバーに一度集められているので、本来のP2Pではない。幹事なしのP2Pで、ある程度の秩序を作り出すには複数のシステムを組み合わせて、1つのシステムとして扱うようにしたクラスタリングがかなり重要である。そのセンスに金子氏は長けていたのだ。

 

トンデモ法律

日本とオーストラリアには送信可能化権というものがあり、日本の条文では「送信可能にしたら逮捕される」ことになっている。これを厳密に読み解くと、インターネットにつながったパソコンに音楽ファイルが存在した時点で逮捕されてもおかしくないのである。

 

法律を逆手に取る

法律を逆手にとった例として、新聞社の見出しの例がある。新聞社は「著作物である記事の見出しは複製してはならない」と謳っているが、今まで見出しの複製で有罪判決が出たことはない。このように、実際の法はゆるいにもかかわらず、今までに誰も訴えていない事例を自分たちの都合のいいように解釈し、告知をしてしまうことがあるのだ。

 

日本の法律のいいところ、悪いところ

日本の法律はいい意味でも悪い意味でも遅れている。いい意味で遅れているところは、法律を参考程度にしか見ていないところである。一方、悪い意味で遅れているところは、都合の悪いところを直さず、法律は道具であるということが徹底していないところである。何かを「行わなかった」ことに対して責任を取らなくていい国が、日本なのである。

 

禁煙とインターネットの違い

著作権などの研究者であるスタンフォード大学のローレンス・レッシグは「世の中で人間が行動を決める要因は、道徳と法律と市場とアーキテクチャの4つである」としている。タバコでたとえると、タバコを吸うのは止めよというのが道徳、禁煙法などを作って処罰するのが法律、タバコの価格を1本2000円と高騰させて買う人を減らすのが市場、2本吸うと気持ち悪くなる薬をタバコに注入してしまうことがアーキテクチャである。

しかし、インターネットにより引き起こされる問題の対処は、市場が決めることだと著者は考える。道徳と法律は国家によって異なるし、アーキテクチャもRFC(技術仕様を公開し、意見を広く募集してよりよいものにしていく公開形式)で決めているため、最終的には市場原理でコントロールするしかないのだと思われるのだ。

 

チャイルドポルノはなくならない

これはチャイルドポルノについてもいえる。チャイルドポルノが道徳的・法律的に制限されていない国はおそらくないだろう。しかし、現実にチャイルドポルノは存在している。市場原理によってチャイルドポルノや麻薬を流通させないような構造が作られたとしても、「アニメは許されるのか、マンガは許されるのか」という問題が出てくる。こうした境目について、そもそも法律で規制することが無理なのだ。

 

最後に

2ちゃんねる裁判に出席しない理由は、すべての裁判に出席できないから。欠席すると自動的に敗訴になるが、それに伴う損害賠償は支払わなくてもいいのが日本の法律。ウィニー開発者の金子勇氏やライブドア元社長の堀江貴文氏が逮捕された理由は不明確。P2Pの技術革新はウィニーの今後の発展で十分起こり得た。インターネットに関する法律は「市場原理」に委ねるしか方法はない

次回は、新聞より2ちゃんねるを信用する人々 メディアと2ちゃんねるについてまとめる。

2ちゃんねるはなぜ潰れないのか? (扶桑社新書)


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