前回は、携帯電話の本質である移動すること、電波を使うこと、そして電話とデータ通信の2つのサービスを提供していることの3点についてまとめた。ここでは、携帯電話端末と無線基地局を無線でつなぐ4つの工夫とCDMAについて解説する。
1 携帯電話端末の構造
携帯電話端末の重要な構成要素には、無線送受信機、音声コーデック、全体の動作を制御するデータ処理回路がある。以下にそれぞれ説明する。
まず無線送受信機は、携帯電話端末から電波を送信したり、無線基地局から来た電波を受信したりする部分である。音声を電波に乗せる変調や、電波から音声を取り出す復調も実行する。 W-CDMA方式では2GHz帯などの電波を利用している。
次に音声コーデックは、人間の声をデジタル信号に変換する機能である。音質を保ちつつデータ量を圧縮するという処理を施し、「0」「1」の組み合わせであるデジタル信号に変換する。
第三にデータ処理はいくつかの小さなコンピュータ(CPU)からなっていて、人間で言えば脳の役割を担っている。携帯電話端末内部のほとんどの回路はデータ処理回路につながっていて、データ処理回路にデータを送ったり、データ処理回路からデータを受け取ったりする。
このほかユーザインターフェースは、入力部(キーボード、マイク、カメラ)、出力部(ディスプレイ、スピーカー、バイブレーター)、各装置を駆動させる電池などで構成している。さらに日本では、UIM(User Identity Module)カードを第3世代のW-CDMA方式から搭載している。電話番号などの情報を格納したICチップを埋め込んだ1.5cm×2.5cmの薄いカードで、SIM(Subscriber Identity Module)カード、USIM(Universal Subscriber Identity Module)カードともいう。
一方、スマートフォンの場合は、W-CDMAの処理をする回路(ベースバンド・プロセッサ)に加えて、無線LAN、電子コンパスや加速度センサーなどのセンサー類や高速CPUなど、さらに多くの回路を装備している。
2 無線基地局の構造
無線基地局の構造は、大きくアンテナと装置部分に分かれる。アンテナはマンションの屋上や、電話局(ノードビル)などに設置された大型の鉄塔に設置されている。1つの無線基地局が同時に処理できるのは、最大で数泊チャネル程度の回線なため、都市部と郊外では設置の仕方が異なる。
無線基地局の装置は通常屋内に設置されており、屋外のアンテナと装置は同軸ケーブルで接続する。同軸ケーブルとは、筒状の外部導体と内側の内部導体が同心円状になっているケーブルである。
装置は送受信装置、信号多重分離装置、停電に備えたバックアップ電源などからなっている。送受信装置には、変復調部、増幅部などを組み込んでいる。変復調部は音声などの情報を電波に乗せられる形式に変換したり、逆に電波から情報を取り出したりするものである。増幅部では、電波の出力を大きくする。信号多重分離装置は、アンテナから受信した情報を無線ネットワーク制御装置(RNC)に向けて、伝送路用に信号のフォーマットに変換して、束ねて(多重化して)送る装置である。この方法には、時間をずらして複数のチャネルの情報を送り出す時分割多重方式を使う。
無線基地局と無線ネットワーク制御装置との通信には、光ファイバー、同軸ケーブル、無線という3つの方法がある。無線基地局の設置環境に応じて使い分けられている。ノードビルなど光ファイバーや同軸ケーブルがすでに敷設されている場所に無線基地局がある場合は、光ファイバーや同軸ケーブルを主に活用する。一方、郊外や山間部で光ファイバーや同軸ケーブルを使用できない場合や、安さを優先する際には無線方式を活用する。
無線基地局は身近な存在ではあるが、携帯電話端末との間の無線管理といった複雑な処理は無線ネットワーク制御装置が行っている。これらの処理は、レイヤ(プロトコルスタック)という考え方で分類できる。通信システムでは、複雑な回線制御を確実に実施するため、各種機能(通信プロトコル)を階層化して分担している。無線ネットワーク制御装置の「脳」と、携帯電話端末の「脳」がそれぞれの下位レイヤを通じて交信し、データは無線基地局をほとんど素通り(情報を電波へ変換する程度)するというものである。
3 無線基地局に電波が届くまでの4つの工夫
通話品質をよくしたり、周波数の利用効率を高めるために行っている工夫は以下の4つがある。第一に、アンテナと電波伝搬技術である。
第二に、変復調技術である。アンテナから音声などの情報を送信するには、情報を電波信号に変換する変調を実行する。反対に、アンテナから受信した電波を元の情報に戻すのが復調である。変復調技術によって、通信品質と周波数の利用効率が変わる。
第三に、ダイバーシティや誤り訂正技術である。わずかな時間の中でも電波の受信レベルが激しく変化するフェージングという現象などに対応する。
第四に、無線アクセス制御である。各携帯電話端末が送信する電波をコントロールする技術で、CDMAではこのアクセス方式に大きな特徴がある。以下ではこれらの工夫について詳しく説明する。
4 アンテナの工夫で電波を効率的に使う
アンテナの工夫について、携帯電話端末と無線基地局それぞれについて見ていく。
携帯電話端末はあらゆる方向からの電波を受けられるように、無指向性に近い比較的単純なアンテナを使う。代表的なアンテナはモノポール型という棒状のものである。アンテナの長さは、電波波長の4分の1のときに最も効率が良くなる。
最近では携帯電話端末の内部に搭載する内蔵型アンテナが主流で、代表的なものに逆F型アンテナがある。2枚の板が向かい合う構造で、面積が大きくなる代わりに寸法を小さくできる。板と板の間から電波を放射する。
5 無線基地局は扇形ビームで電波を送受信
無線基地局のアンテナの工夫は、水平方向には広い範囲で、垂直方向には狭い範囲に電波が飛ぶように指向性を設定している。
指向性とは、アンテナの電波放射パターンの性質を示す言葉である。無指向性とは、どの方向にも同じ強さで電波を放射するという意味である。利得とは、無指向性アンテナの放射電波に対して、あるアンテナがどのくらいの強さの放射電波を出しているかという相対的な強さを意味する。
6 電波に情報を乗せる「変調」とは
変調とは、正弦波(sin波:キャリア)の形をルールに沿って変えることである。受信側は波の形を見て、ルールに照らし合わせて情報を取り出す。このルールを変調方式という。
変調方式にはいろいろな種類があるが、ここではW-CDMA方式で使うPM(Phase Modulation、位相変調)を取り上げる。PMの中で最も単純なBPSK(Binary Phase Shift Keying、2相位相変調)とQPSK(Quadrature Phase Shift Keying、4相位相変調)を説明する。W-CDMAでは、BPSK方式を上りに、QPSK方式を下りで使用している。
変調の仕組みは、キャリアの位相(sin波の角度)を変えることで受信側に情報を伝えるものである。ここで、情報を送信する最小単位をシンボルとよぶ。BPSKとQPSKの違いは、BPSKは1シンボルで1ビットずつ、QPSKは1シンボルで2ビットずつ位相に変換するというものである。
7 電波から情報を取り出す「復調」のしくみ
復調の仕組みをBPSK方式で見ていく。受信波に以下の6つの処理を行い、送信側のデータを取り出す。
- 振り幅を一定化
- 全波整流:負の値を正に変換
- 1/2分周(キャリア再生):周波数を半分にすることで、送信側のキャリアを作る
- 1.の波と3.のキャリアとをかける
- 平滑化して元の波に戻す:低域通過フィルタに通す
- -1を0に変換
8 変調方式と周波数の利用効率との関係
QPSKはBPSKよりも周波数の利用効率が高いといえる。それは1シンボルあたりの情報数がQPSKの方が多いため、QPSKと同じ情報を同時に送るなら、BPSKは1秒間に送出するシンボル数(シンボル速度あるいはシンボル周波数)を2倍に増やさなくてはならないのである。
9 電波が反射・回折すると情報を取り出しにくくなる
電波をうまく使いこなす上での課題にフェージングがある。フェージングとは、建物表面からの反射や回折によって、あちこちから到来する電波(マルチパス)がお互いに干渉して生じる現象である。ここでいう干渉とは、送信された同一の希望波(目的とする受信波)間の相互作用のことである。到来する電波が重なると、干渉縞が生じる。また、反射波や回折波が後続のシンボルに重なって干渉になる符号(シンボル)間干渉という問題もある。
電波が届く間に生じた直接波と遅延波との時間差を表現する用語に遅延スプレッドがある。各遅延波の平均的な遅延時間といえる。
10 ダイバーシティで受信レベルを維持する
ダイバーシティとは、位置が異なる2つのアンテナで受信した電波の強度が独立して変化していることを利用し、強い方を選択することで受信レベルの低下を防ぐことである。
ダイバーシティ効果はSNR(Signal to Noise Ratio:信号対雑音電力比)と平均BER(Bit Error Rate:ビット誤り率)の関係で表される。デジタル方式での通信品質はBERで表され、受信機で正しく受信できなかった情報の数と受信した全情報の数の比である。同じ環境でもダイバーシティを使うとビット誤り率が改善される。
11 誤り訂正方式で電波の短所をカバーする
誤り訂正技術はアンテナで受信して復調した後に、通信品質を改善する技術である。ここでいう「誤り」とはビット誤りのことで、例えば送信側では「1」だった値を受信側で「0」と誤認してしまうことである。誤り訂正は誤った値を元に戻す技術である。ダイバーシティと併用でき、W-CDMA方式では両方を利用している。
誤り訂正には大きく分けて2通りの方法がある。FEC(Forward Error Correction)とARQ(Automatic Repeat and reQuest)である。ここでは音声通信とデータ通信用に使うFECについて説明する。
FECではあらかじめ送信時に誤り訂正・検出用のビット群(冗長ビット)を追加しておく。受信機はこの追加後のビットを解析して誤りを訂正したり、検出したりすることができる。FECの仕組みは、例えば2ビットのデータに3ビットを追加する場合、1ビットだけの誤りなら訂正でき、2ビット誤ると訂正はできずに誤ったことだけを検出できるというものである。
12 多くの携帯電話端末を無線基地局が交通整理
使用できる周波数資源をどのように分けて複数の通信チャネルを作り、各ユーザーからランダムに発生する呼(呼び出しに始まり終了で終わる通話の単位)に割り当てるか、また無線基地局で複数のユーザー向けの電波をどう「多重化」して(束ねて)、1本のアンテナで送信するか、自動車電話時代から様々な研究がされてきた。このように1つの無線基地局が同時に複数のユーザーと通信する方法を「アクセス方式」と呼ぶ。
アクセス方式の発展の過程の概要を以下に紹介する。音声通話が主体であった第1世代の携帯電話は、FDMA(Frequency Division Multiple Access、周波数分割多重)方式、携帯電話の急速な普及をもたらした第2世代はTDMA(Time Division Multiple Access、時分割多重)方式、そして音声や動画、データ通信などのマルチメディア通信を意識した第3世代ではCDMA(Code Division Multiple Access、符号分割多重)方式を使っている。これらの方式の違いは、使用する周波数帯域において混信せずに複数の通信チャネルを同時運用(多重化)する方法にある。具体的には、FDMAは電波の周波数、TDMAは時間をずらして多重する。CDMAはコードをかける処理で周波数や時間をずらさずに多重できる。
第1世代はアナログ通信方式で、原理はFMラジオ放送とよく似ている。各通話内容は別々の周波数で送信し、変調方式はFM(Frequency Modulation、周波数変調)である。受信は目的の通話チャネルに周波数を合わせて取り出す。
第2世代では、デジタル化によって品質や周波数の利用効率など総合性能を高めると同時に、データ通信も意識し始めた。また、複数の通信チャネルを1つの送受信装置で扱えるTDMA方式を採用した。TDMA方式は複数の通信チャネルを束ねるときに、少しずつ時間をずらす時分割多重という技術である。この方式を取り入れたことによって送受信装置の数を減らせ、無線基地局が劇的に小さくなった。その結果、セルラーコンセプトという携帯電話の重要な仕組みをさらにうまく活用できるようになった。
セルラーコンセプトは、どこでも誰でも通信できるという携帯電話の基本を、限られた周波数資源で実現するものである。セルラーコンセプトの特徴は、周波数の繰り返し利用と加入者数密度に応じたセル半径の縮小化である。これによって「セル」という単位で利用する周波数を変えて干渉を抑え、同時利用者を増やせる。さらに、セルの大きさを小さくすると利用者数をさらに増やせるのである。
13 聖徳太子のように聞き分けられるCDMA方式
第3世代携帯電話では、メールなどデータ通信の利用が増えたことを背景に、従来とは全く異なるアクセス方式CDMAを採用した。特徴は、高速データ通信が可能、いろいろな通信速度のチャネルを混在できる、周波数の利用効率が高いなどである。CDMAは元々軍事用のスペクトル拡散という技術を応用した方式である。デジタル情報に符号(以後コードという)をかけ合わせ(拡散)て送信し、受信側では同じコードをかけて(逆拡散)元の情報を復元する。拡散/逆拡散に使うコードがわからなければ内容を傍受できないため、軍事目的に適していたのである。
14 スペクトル拡散で混信がなくなる
CDMA(Code Division Multiple Access)の「Code」は、スペクトル拡散に使うコードをさす。スペクトル拡散の原理は、送りたいデータ(バイナリ・データ)に拡散コードをかけ合わせるため、元のデータに比べて送るパルスの数が増えるというものである。拡散前と拡散後のスペクトルを比較すると、拡散の倍数分だけ利用する周波数帯域が広がるのである。
15 混信しない秘密は「直交コード」
CDMA多重・伝送のイメージは、送信側ではチャネルごとに拡散コードをかけ合わせて送信。受信側では、複数チャネルの情報が混じり合った合成波に対して拡散コードをかけ合わせることで、元のデータを取り出すというものである。
ここで重要となるのが直交コードである。直交コードは、同じコード同士の積和(チップごとにかけ合わせた結果の合計)がチップ数に等しく、異なるコード同士の積和が0になるコードのことである。携帯電話端末では、電波を受信した後でそれぞれに固有の直交コードを用いてスペクトル逆拡散することができる。異なったコードでスペクトル拡散された情報が混在した場合でも、スペクトル逆拡散を行うと、同じコードの情報だけを復元でき、かつ他のコード情報との相互干渉はないのである。
16 直交コードを補完するスクランブリング・コード
スクランブリング・コードとは、直交コード同士ほど完璧ではないが、たくさん数があるので便利で実用的なコードである。スクランブリング・コードのおかげで、各無線基地局への繰り返しコード割当の問題を解決できるようになった。
スクランブリング・コードは長く、1と-1をランダムに近い形で並べてある。同じコード同士の積和は大きく、違うコードの積和は小さいという性質を持つ。W-CDMAではどのようなコード同士でも相関を確実に低く抑えられるというGold符号の一部をスクランブリング・コードとして採用している。
直交(チャネライゼーション)コードとスクランブリング・コードの両方を使うと、ユーザー間や無線基地局間での干渉を抑えられる。情報ビットと各コードの関係は、情報ビットにチャネライゼーション・コードとスクランブリング・コードをかけ合わせるのである。
17 2つのコードをうまく組み合わせて使う
CDMAは同じ周波数を使いながら、チャネライゼーション・コードとスクランブリング・コードの2つをうまく使って、すべての干渉を抑えている。チャネライゼーション・コードは上り/下りともにセルやセクタ内のチャネルごとに割り当てるのに対し、スクランブリング・コードは上りと下りで使い方を変えているのだ。
18 拡散利得
拡散利得とは、直交性が保たれていない信号同士での干渉低減量を表す値のこと。逆拡散したときに取り出したいコードの情報は大きくなり、別のコードは小さくなるという両者の比である。CDMAの最も重要な特徴の1つで、これがあるからこそすべての人が同じ周波数を使っても他の人の通信が邪魔にならずにうまく通信することができる。
19 遅く届いた電波を熊手でかき集める「Rake受信」
Rake受信とは、多重波が重ならないで到達することを利用して、受信したそれぞれのパルスを分離して合成していく受信方法である。各パルスを熊手(Rake)で落ち葉をかき集めるように合成することからこう呼ばれる。W-CDMA方式ではパルスの幅が狭く、届く間隔が大きいのでPDC方式と違ってうまく合成でき、受信レベルの変動を抑えやすい。その結果、レベル変動を抑えられるため、通信品質が向上したり、送信機の出力を低く抑えることができるのである。
20 CDMAなら複数の無線基地局と通信できる
CDMAは複数の無線基地局が同じ周波数の電波を使っているため、複局同時通信ができる。複局同時通信とは、携帯電話端末が同時に複数の無線基地局と通信できるということである。CDMA方式は複局同時通信ができることで、ダイバーシティ効果を使って受信品質を向上できる。
21 送信電力を1秒間に1500回も制御する
CDMAを利用する上での注意点の1つに、精密な送信電力コントロールが必要なことがある。干渉問題があるため、携帯電話端末の送信電力をコントロールして、すべての携帯電話端末からの受信波の強さを無線基地局で常に同じにしようとする方法である。
この電力制御は、無線基地局の受信機が測定した受信レベルの情報を下り回線で携帯電話端末の送信機に通知して実施する。1秒間に1500回も制御するため、フェージングによる急速なレベル変化にも追随できる。この技術によってCDMAは、品質や周波数の利用効率で従来方式よりも優位に立てるようになった。
22 CDMAのパイロット信号
パイロット信号とは、ある決まったビット(CDMAではチップ)パターンの信号で、周期的に送信するものである。CDMAのコードをきちんとかけ合わせて高品質に通信するための工夫の1つである。パイロット信号はデジタル通信において、①チップの同期をとる、②フレームなどで区切られた情報の先頭を示す、③「遅延パルス分布」の情報を得る、④受信レベルを測定するという4つに使う。
受信機で各チップの値(受信レベル)を判定するには、チップの中央の時間のタイミングを知る必要がある。①のチップの同期はこのためである。②は各情報ビットやスクランブリング・コードの先頭がどこかを検出するのに使う。これらがわかって初めて受信機では、スペクトル逆拡散ができるようになる。
23 自分がどこにいるかを発見する「セルサーチ」
セルサーチとは、携帯電話端末自身がどのセル/セクタにいるかを判別するための動作である。下り回線のスクランブリング・コードはセル/セクタごとに割り当てられており、スクランブリング・コード番号がわかると携帯電話端末自身がどのセル/セクタに属しているかわかることになる。
スクランブリング・コードの判定作業には、共通パイロットチャネル(CPICH:Common PIlot CHannel)と同期チャネル(SCH:Synchronization CHannel)の2つを使う。まずP-SCH(Primary-SCH)で同期を確立してS-SCH(Secondary-SCH)を受信し、スクランブリング・コードの先頭位置とグループ番号を把握する。そしてCPICHでスクランブリング・コードがわかると、携帯電話端末自身がどのセルにいるかを判別できる。具体的には以下の3ステップを踏む。
- P-SCHでS-SCHの受信タイミングを見出す
- S-SCHのコードからスクランブリング・コードの先頭を見出す。同時に、64種類のスクランブリング・コードのグループのうち、どれなのかを見出す
- CPICHを用いて無線基地局のスクランブリング・コードを判定する。その後、P-CCPCHにより報知情報を受信する
24 間欠受信で電池を長持ちさせる
間欠受信とは、無線基地局が間をおいて情報を送信し、携帯電話の受信機はそのときだけ通電して電池の消耗を抑える技術である。着信があったことを携帯電話端末に知らせる際は、2つのチャネルを使ってグループごとに着信があるか、IDごとに着信があるか2段階で通知する。
25 CDMAの工夫を駆使してキャパシティを増やす
個々まで紹介してきたCDMAの工夫を駆使すると、同時に利用できる携帯電話のユーザー数を増やすことができる。携帯電話に割り当てられた周波数帯域幅で、どれくらい多くのユーザーを収容できるか(キャパシティ)は、携帯電話の最も重要な課題である。
キャパシティを高めるには干渉を減らすか、干渉に強くするかという2つの方法がある。干渉を減らす手段としては、①直交コードを使う、②送信電力制御を行う、③セクタ数を増やす、④通話しないときは送信しない、⑤無線基地局アンテナの放射ビームを下に向けて他のセルへの放射を減らすなどがある。干渉に強くする手段としては、①Rake受信、②複局同時通信、③誤り訂正などがある。
26 携帯電話を陰で支える制御チャネル
携帯電話を陰で支える無線制御チャネルには、各携帯電話端末と1対1で通信する個別チャネルと無線基地局内の全携帯電話端末が共用して使う共通チャネルの2種類がある。また、通信の向きで上りチャネルと下りチャネルにも分けられる。回線制御は主に共通チャネルで実施する。待ち受け、位置登録、セルサーチ、通話/データ通信、ハンドオーバーなど用途に応じて異なるチャネルを活用するのである。
最後に
携帯電話端末と無線基地局を無線でつなぐ4つの工夫とCDMAについてまとめた。
アンテナと電波伝搬技術、変復調技術、ダイバーシティや誤り訂正技術、無線アクセス制御技術という4つの工夫で無線区間を最大限に活用している。CDMAはコードをかける処理で、周波数や時間をずらさずに多重できる仕組みである。高速データ通信が可能、いろいろな通信速度のチャネルを混在できる、周波数の利用効率が高いといった特徴を持っている。
次回は、音声通信における無線基地局を結ぶコア・ネットワークのしくみについて解説する。
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