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ビーバン・キドロン 映画の素晴らしさを共有する

「映画がもつ力とは、共有体験としての物語や記憶、世界観を生み出す力です」キドロンは語りかける。ここでは、55万ビューを超える Beeban Kidron のTED講演を訳し、映画の素晴らしさについて理解する。

要約

映画がもつ力とは、共有体験としての物語や記憶、世界観を生み出す力です。イギリスの映画監督ビーバン・キドロンは『ミラノの奇蹟』から『ボーイズン・ザ・フッド』まで、象徴的なシーンを取り上げます。そして彼女が設立したFILMCLUBで素晴らしい映画を、どのように子ども達の間で共有し、変化を起こしているのかを教えてくれます。

Beeban Kidron directed Bridget Jones: The Edge of Reason and Oranges Are Not the Only Fruit. She also cofounded FILMCLUB, a charity for students devoted to the art of storytelling through film.

 

1 私たちは生まれ持っての語り手

アイデンティティ、個々の特質は、どの年齢層や文化でも 物語のように受け継がれていくものです。 母から娘へ 説教師から信者へ 教師から生徒へ 話し手から聴き手へ 洞窟壁画でも インターネットでも 人間は、歴史や真実をたとえ話や伝説などに形を変えて、 語ってきました。 私たちは生まれ持っての語り手なはずなのです。

でも 宗教が力を失い世界が分裂を繰り返す今 ― 消費という行動以外で、地球にすむ私たちは共通の体験を することはできるのでしょうか。 どんな物語を 歴史をアイデンティティを ― そして どんな道徳観を 私たちは次の世代に受け継いでいっているでしょうか。

 

2 映画は20世紀に最も影響力があった芸術形式

映画は20世紀に最も影響力があった ― 芸術形式でしょう。映画の作り手は 国境を超え ― あらゆる言語やジャンル、 哲学を通して ストーリーを語ったのです。 実際 映画が手掛けていないテーマは ほとんどないでしょう。 この10年間で メディアは、地球規模で集約され、それぞれ個々で存在する性質を失い ハリウッド大作的な、文化に支配されてしまっています。 時を越えて、人々の心から心へと受け継がれてきたストーリーではなく、 私たちが今どう感じるか、が最も重要視される時代になってしまったのです。

世代間で物語を語ることは 40年前には普通でしたが 今では珍しくなりました。それは次の世代に受け継がれていくものが、ないのに等しいことなのです。 映画を作る側としては不安になります。人間として、私は恐れを感じます。物語が語られることのない現代社会において、 受け継がれるべきである道徳、哲学、アイデンティティーを知らないまま、 どうやって若い世代は、 未来を作ることができるでしょう。技術は歴史的にみて最も発達しているのです。異文化、他者と関わる事がここまで容易だった事はないのです。にも関わらずこのような現状である事は、皮肉なことであります。

 

3 学校で毎週映画を上映し、意見を交流する団体「FILMCLUB」

そのような理由によって、2006年にFILMCLUBを設立しました。この団体は 学校で毎週 映画を上映し その後 意見を交流します。映画100年の記録の中を必死になって探れば、 私達、大人が伝えるべきである物語を見つけだすことで、 新しい世代である若者の世界、ストーリーのない、つまりは一貫性のない世界に 意味を与えられるかもしれません。 技術は簡単に利用でき 小さな田舎の学校でも ホワイトボードにDVDを映せます。

最初の9か月で イギリス国内で 25のクラブを運営しました。5歳から18歳までの子どもが 映画を90分 通して見ます。ラインナップは 選別や関連付けをしましたが 見る映画は子ども達が選びました。彼らはすぐに 内容豊かで多様な作品を選ぶようになりました。歴然とした結果でした。 湧き水のような学び、新しいことに対する好奇心、子どもたちの中に大きな変化が起こったのを、私はこの目で見ました。 多い所では150人少ない所では3人のグループになり、 見たことも感じたこともない場所 ― これまで知っていた世界をはるかに広げるような発想、ものの見方に彼らは出会ったのです。 試行期間が終わる頃には 参加を希望する学校が 1,000校になっていました。

 

4 『ミラノの奇蹟』『スミス都へ行く』

私の人生を変えた映画は ヴィットリオ・デ・シーカの1951年の作品『ミラノの奇蹟』です。スラムと貧困と希望がテーマになっており、 それぞれのテーマは、私たちの心に強く訴えかけます。 父の50才の誕生日に見たのですが 当時 利用できた技術は映画一式を借りることと フィルムや映写技師を探し雇うことだけでした。でも父にとって 感じること、アーティスティックであることがどれ程重要なのか、デ・シーカはよく理解しています。 自分の半世紀に渡る人生を 3人の我が子や30人の友人と祝うことにしたのです。父はこう話しました 「次の世代に不安と希望、両方の バトンを渡すためだよ」

『ミラノの奇蹟』の最後の場面で スラムの住民が空飛ぶホウキで宙に浮きます。この映画が作られて60年 ― 私が見てから30年経ちますが 学校で上映した時に、子ども達のびっくりした様子を見ると 驚きが私にも伝わります。子どもは この映画をすぐに 『スラムドッグ$ミリオネア』や『シティ・オブ・ゴッド』に 結びつけます。

民主主義と政府を扱うシリーズで上映したのが 『スミス都へ行く』です。制作は1939年なので会員の祖父母より古い映画です。フランク・キャプラは この傑作で自立と礼儀の価値を強調します。いかに正しい事をし ― 不器用な英雄であるかー 同時に この映画は名誉の力 つまり ― 政治への信頼の表れでもあります。

 

5 映画を見た分だけ彼らの人生は豊かになる

『スミス』がFILMCLUBの定番になってすぐに 貴族院で一週間にわたる徹夜の議事妨害がありました。とてもうれしかったのは 国中の若者が議事妨害とは何か ― なぜ 貴族院の議員が 自分の信条について 徹夜を厭わないかを説得力をもって説明できたことです。ジェームズ・ステュアートはフィルム2巻分も議事妨害したのです。

『ホテル・ルワンダ』を選んだ子どもは 残虐な大量虐殺について知ることになります。この映画は 涙を誘う一方で鋭い疑問を引き出しました。なぜ平和維持軍が武装しないのか なぜ西側社会は裏切ったのか。この疑問は 良心の葛藤の現れです 『シンドラーのリスト』で虐殺を忘れてはいけないと聞いて ある子どもは心を痛めながら言いました 「みんな忘れたんだ。忘れてないなら どうして『ホテル・ルワンダ』が起きたの?」

映画を見た分だけ彼らの人生は豊かになります。『スリ』では犯罪者の公民権はく奪に関する話題になり 『いつも心に太陽を』は子どもの心を揺さぶりました。白人でない英国人への態度が 変わった一方で 集団としてのアイデンティティを尊重してない、 定まらない学校システムに、不満が募りました。 シドニー・ポワチエが丁寧に指導した 教育とはかけ離れていました。

 

6 あらゆる断裂を超えて映画が連帯感を生んでいる

今では、プロジェクトに参加する子ども達は、熱心で、自分の意見をきちんと発言し、 好奇心をもって どんな映画にも挑戦します。白黒映画 字幕付き ― 記録映画非物語映画 ファンタジー…そして事もなげに詳細なレビューを書き お気に入りの映画を競い合って薦めます。情熱的な文体は 洗練されつつあります。毎週6千件のレビューが 週間賞の栄誉を目指して競います。

25か所ではじまったクラブは何百 何千へと増え 今では クラブ数は全国に7,000 会員は25万人になろうとしています。凄い数ですし 今後も増えそうです。でも もっと凄いのは 好奇心をもって批判的に問うという体験が 生活にも反映していることです。両親や先生や友達と 議論を始めた子どももいます。友達のいない子は 作ろうとしています。

あらゆる断裂を超えて映画が連帯感を生んでいます。映画がもつ物語が共通の経験を作ります。ある女の子は『ペルセポリス』を見てイラン人の母に近づくことができました。ある子どもは『ジョーズ』を見て 自分の経験した恐怖を話せるようになりました。暴力の中で父と母を 次々に失った経験です。母は船旅の途中に船から捨てられたのです。

 

7 子ども達自身関心をもつとは思っていなかった

誰が正しく 誰が間違っているのか 同じ状況ならどうしていたか 物語は上手く語られているか 隠されたメッセージはあるか 世界はどう変わり今後どう変わりうるか…関心がないと思われていた子ども達の口から 疑問があふれました。子ども達自身 関心をもつとは思っていませんでした。映画を見ている時よりも それについて考え、書き 議論する過程で 自分に目を向け始めたのです。

私の叔母は素晴らしい語り手で 一瞬で テーブルマウンテンを 裸足で駆け巡り 鬼ごっこする光景を喚起できます。最近 話してくれたのは 1948年に2人の姉妹と私の父だけで イスラエルに船旅をした時のことです。船員が待遇改善を求めて海上で暴動を起こした時 乗組員の食事の世話をしたのは十代の彼らでした。父が亡くなった時 私は40歳くらいだったでしょうか。 でも父はその旅のことは一度も話しませんでした

母方の祖母はヨーロッパを脱出しました。夫を残し 3歳の娘を連れて 娘のスカートの縁にはダイヤを縫い込みました。身を隠してから2年後に 祖父がロンドンにやってきました。元の祖父に戻ることはありませんでした。英国人として暮らすようになると彼の物語は隠されました。

 

8 なぜ映画を同じように称えないのでしょう

私の物語はイングランドで始まります。何も知らず移民の両親は、何も語りません。でも『アンネの日記』 『大脱走』 『ショア』 『意志の勝利』がありました。レニ・リーフェンシュタールが 美しいナチの宣伝映画を通して 家族が耐えた経験に背景を与えてくれました。これらの映画は 辛くて言葉にできないものを表現します。だから生存者のつぶやきや 未婚の叔母の手首に 時折 見える刺青よりも 私には役立ったのです。

純粋主義者なら フィクションは 人間性の無駄な探求だとか 映画はまだ未熟で ― 歴史を詳しく語れないとか 制作者は真実より安易なドラマティックなストーリーを選ぶと思うかもしれません。でもフィルムの中には目的も意味も あります。12歳の子どもが『オズの魔法使い』を見て言いました 「みんな見なきゃだめだよ。だって見なかったら 自分にも心があるって気づかないかも知れない」

読書は称えるのに なぜ映画を同じように称えないのでしょう。『市民ケーン』にはジェーン・オースティンと同じ価値があり 『ボーイズン・ザ・フッド』では テニスンのように感情の起伏と理解の高まりが 作用し合っています。どれも記憶に残る作品で どれもが人間を形作る一部です。アポロ13号の船長ジム・ラベルより先に トム・ハンクスを思い出してもいいし ガンジーの顔にベン・キングスレーの面影が重なってもかまいません。イヴ・ハリントン ハワード・ビールミルドレッド・ピアースは 実在しませんが 人間とは何かを 知る機会を与えてくれます。人生や時代の理解に役立つ点でシェイクスピアが エリザベス朝イングランドを明らかにするのと同じです。

 

9 映画は物語と演劇、音楽、文学、経験の合流地点

私達はこう考えます。物語と演劇 音楽 文学 経験の 合流地点である映画だからこそ FILMCLUBに参加する若者は夢中になり 感動するのです。予想外だったのは それを通して、明らかな成長が彼らにみられたことです。 行動、自信、成績に良い影響を与えたのです。 以前 登校をしぶった生徒が学校へ行き 教師と話し 校庭で争うのではなく 次に見る映画で争います。子ども達は 映画で見た物語の中に 自己規定や野心教育や社会参加への関心を 見出します。

メディアが若者のことを極端に描写しますが、 私たちは決して、それはしません。 彼らは凶暴でもなければ殻に閉じこもっているわけでもなく 他の若い人たちと同じ ― 無限の可能性がある世界で生き抜こうとしています。ただ 意味ある経験を見つける方法を知らないだけです。私達はシューズについたチェック印の サイズで自分にラベルをつける人の 行動を見て驚きました。でも私達が差し出した物語を理解し、かみしめることができるのです。

 

10 一人ひとり固有の物語を語るべき

自分なりの価値観を求めるなら 他のだれとも似つかない人生のストーリーを語るべきなのです。一人ひとり、固有のストーリーを持つことは、 自己を認識することには、間違いなく必要であり、 文化的アイデンティティには 集団共通のストーリー、理解が不可欠で それがなくては自分が集団の一員とは 思うことはできないのです。 『裏窓』の上映が終わって 家に帰るときに 隣のビルを見上げた瞬間 ― 「他者、他人」について考え、 想像する手段を持っているのです。自分以外の誰かが、どんな物語があるのかを想像する手段を持っているのです。ありがとうございます(拍手)

 

最後に

私たちは生まれ持っての語り手。映画は20世紀に最も影響力があった芸術形式。学校で毎週映画を上映し、意見を交流する団体「FILMCLUB」。映画を見た分だけ彼らの人生は豊かになる。あらゆる断裂を超えて映画が連帯感を生んでいる。映画は物語と演劇、音楽、文学、経験の合流地点。一人ひとり固有の物語を語ろう

和訳してくださった Kazunori Akashi 氏、レビューしてくださった Kaori Rodman 氏に感謝する(2012年5月)。

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