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マイケル・グリーン なぜ木材を使って高層ビルを建てるべきなのか

「骨や鉄筋コンクリートを構造物の中心として考えるのは止めて、木を使って高層ビルを建てましょう」マイケルは語りかける。ここでは、90万ビューを超える Michael Green のTED講演を訳し、木構造の安全性と「エッフェル塔的な体験」の重要性について理解する。

要約

高層ビルを建てようとしてますか?鉄骨や鉄筋コンクリートを構造物の中心として考えるのは止めて、木を使いましょうと建築家のマイケル・グリーンは言います。 興味をそそるトークで、木構造でも30階に及ぶ安全な建物を建てられることを細かく示すだけでなく、こうすることが必要だと語ります。

Michael Green wants to solve architecture’s biggest challenge — meeting worldwide housing demand without increasing carbon emissions — by building with carbon-sequestering wood instead of concrete and steel.

 

1 ただの小さな積み木でも高く積み上げると信じられないほどの想像力を沸かせるものになる

これは私の祖父です。そして こちらは私の息子です。私がまだ幼い頃祖父は木での工作の仕方を 教えてくれました。祖父にはこんな考えも仕込まれました。もし木を切って何かを作るときには 木の命を重んじてできる限り美しく 仕上げてあげるんだ。そして 息子といて再び気付かされたことがあります。こんなに素晴らしい技術やおもちゃがあるのに ただの小さな積み木でも 高く積み上げると 信じられないほどの想像力を沸かせるものになるということです。

 

2 木は母なる自然独特の印を建物に加えてくれる

これは私の設計した建物です。世界中の建物をバンクーバーと ニューヨークにある事務所で設計しています。建設地によって様々な大きさやデザイン様式 そして建材を使いますが その中でも木が最も好きな建材です。これから木の物語をお話します。木が大好きな理由は私の建物が木造だと 人々が建物に入って全く違った風に 反応することにいつも気付く為かもしれません。設計したビルの鉄骨や鉄筋コンクリートの柱に 抱きつくような人は見たことがありませんが 木造の建物だと実際に 抱きつく人を見かけます。どんな風に木に触るのかを実際に見てきましたが 触れようとするのには理由があると思います。雪の結晶と一緒で木は1本1本全てが 同じものになることは決してありません。これはとても素晴らしいことです。こんな風に考えたいのです。木は母なる自然独特の印を建物に加えます。この母なる自然の印があるからこそ 私の建物は 作られた環境でありながら自然を感じさせてくれるのです。

 

3 多くの地域では建築基準までもが4階建て以上の木造建築の建設を規制している

私はバンクーバーで森の近くに住んでいますが この森の木々は33階建に相当する高さにまで成長します。海岸線を下りここカリフォルニアの セコイアの森では木の高さは40階程まで成長します。しかし木造の建物と聞いて頭に浮かぶのは 地球上のほとんどの場所でたった4階建くらいの高さです。多くの地域では建築基準までもが4階建て以上の 木造建築の建設を規制していて これはここアメリカでも一緒です。

 

4 世界では10億人がスラムで暮らし、1億人がホームレス

例外もありますがもっと例外ができる 必要があります。様々な状況が変わるのを望んでます。変わって欲しいと考える理由は 現在 我々の半数が都市部に住んでいますが この割合が75% まで膨らもうとしているからです。都市や人口集中が意味するのは 今後も 大きい建物が必要であり続けるということです。このような都市部では木が果たすべき役割があるように考えます。こう考えるのは今後20年の内に今世界に暮らす 30億人が新しい家を必要とするように なっていくためです。世界の40%の人々が 20年以内に新しく家を建ててもらう必要が出てくるのです。現在 都市部に住む3人に1人は スラム街で暮らしています。つまり世界中では10億人がスラムで暮らし 1億人がホームレスということです。建築家と社会にとっての建築で取り組むべき 課題の規模感というのは これらの人々に住居を提供する解決策を見つけるという大きなものです。

 

5 現在の温室効果ガスの8%が鋼鉄とコンクリートから来ている

しかし 課題は都市化が進む一方 都市は2種類の建材で作られているということです。鋼鉄とコンクリートはもちろん素晴らしく これらは前世紀を代表する建材です。ただし 非常に多くのエネルギーを使う建材で 製造段階で非常に多くの温室効果ガスを発生させます。鋼鉄は人が発生させる温室効果ガスの 3%に貢献し コンクリートは5%以上です。この2つを考えると現在の温室効果ガスの 8%がこの2つの建材から 来ていることになります。このことは忘れられがちですし残念ながら 建物からの影響は全く思いついてもいません。十分ではないと思います。これはアメリカでの温室効果ガスの影響についての統計です。約半分の温室効果ガスが建設業界に関連するもので エネルギーに関しても同じような状況です。気付かれるように輸送は原因の2番目ですが こっちは よく話題に上ります。そして 主にエネルギーの話が出ますが これは同時にCO2 のことでもあるのです。私が思う限りではこの問題は結果的には 家が必要になる30億人に 住居を提供することと気候変動の緩和措置は 真っ向から対立するか すでに対立しているかもしれません。

 

6 木材だけが建築に使えるほど大きく、太陽の力で成長する素材

この課題を乗り越えるには新しい考え方をする必要があり 木も解決策の一つになるだろうと考えます。なぜそうなるかお話します。建築士が使える素材では木材だけが 建築に使えるほど大きく 太陽の力で成長する素材なのです。森の中で木が成長する時には酸素を発しながら CO2 を吸収します。さらに木がその命を終えて森の地面に朽ちていくと 大気か地中に吸収したCO2 を戻します。山火事で燃えれば吸収した CO2 を 大気に還すことになります。ですが この木を伐採して建物の一部に使ったり 家具を作ったりさっきの木のおもちゃにすれば 実は木は驚くほどの量の CO2 を閉じ込めることができて隔離システムを提供してくれます。1立方メートルの木はおよそ1トンのCO2 を 閉じ込めることができます。気候変動に必要な2つの解決策は 排出を減らすことと閉じ込め先を探すことです。この2つを可能にする唯一の建築素材が 木材なのです 「地球の食糧は地球が育てる」という倫理観があるように 「地球の家は地球が育てる物で作る」 という新しい倫理観を 今世紀は持つようにしなければなりません。

 

7 30階建の木造ビルに取り組んでいる

都市化がこのペースで進むのに 木造は4階建までと 決め込んでいたら私たちはどう対処するのでしょうか? 鉄とコンクリートを減らす一方 建物を大きくする必要があります。そこで私たちは30階建の木造ビルに取り組んでいます。エンジニアのエリック・カーシュさんと共同で 設計を進めています。この新しい構想に取り組んでいるのは 新しく使える木質構造物が登場したからです。マス木質パネルと呼んでいます。このパネルは若い樹齢の木や 早く成長する木小さな木片を集め接着して作る 非常に大きなパネルです。幅2.4 長さ19.2メートルという巨大なもので厚みも様々なものがあります。

 

8 マス木質パネルはレゴの24ポッチブロック

わかりやすく説明するのにこんな風にお話ししています。木造と言えば自然と2x4の工法と 考えるものでした。ふつう そう結論づけてしまいます 2x4での建築は子どもの頃遊んだ 小さな8ポッチのレゴブロックを使うようなもので ある程度の大きさのものならレゴで かっこいい物が何でも作れます。2x4でも同様です。でもこんな経験もあるでしょう? 家でガラクタの山をあさっていて 巨大な24ポッチのレゴを見つけたらこんな風に叫びます 「すごい!これはイイ!超大きいのが作れる これはいいぞぉ!」 こんな違いが生まれます。マス木質パネルはこの24ポッチブロックなのです。建設可能な規模を変えるものです。そこで 私たちはFFTTと呼ぶものを 開発しました。この巨大なパネルを 使って建築するという非常に柔軟な建築工法で クリエイティブ・コモンズのライセンス形態にしています。この工法では望むなら6階分を1度に組み上げることができます。このアニメ動画はビルがとてもシンプルな方法で組み上がるのを 表しています。その一方でこのビルは建築士やエンジニアが 世界の各々の文化に合わせて さらに作り込んだり 異なる建築様式や建築的な特徴にも合わせられます。建物の安全性が保てるように 私のグループではこのビルが バンクーバーという 地震リスクの高い地域でも 30階建という高さにも耐えられるように設計してきました。

 

9 「本気?30階?どう実現するつもり?」

もちろんですがこう話すといつも このカンファレンスに来るような人でさえ 「本気?30階?どう実現するつもり?」と反応します。他にもいろんな的確な質問や大切な質問を投げかけられますが これに答えるために 多くの時間を掛けてこれらの質問に取り組んで 報告書とピアレビューされた報告書を作りました。

 

10 火を付けるのは難しくて、火が付いても驚くほど正確に燃え方を予測できる

そこから何個かお話します。まずは火事からおそらく 皆さんが最初に考えるのが火事でしょうから もっともなご指摘です。こんな風にお答えしています。マッチを擦って火をつけて それで太い薪を燃やそうと思っても火は付かないですよね? だれでも知っていますよね。そう 火を起こすには小さな木片などから始めて どんどん強くしていって 最終的に 激しくなった火に太い薪を入れるものです。入れた薪は もちろん燃え始めますがゆっくり燃えます。使っているこの新しい製品の マス木質パネルはこの薪にかなり似ています。火を付けるのは難しくて、火が付いても 驚くほど正確に燃え方を予測できるのです。私たちは 火災科学を使って燃え方を予測し コンクリートや鉄を使うのと同じくらい 安全な建物とすることができます。

 

11 20階建のビルなら北アメリカで13分毎に十分な木を育てることができる

次の大きな問題は森林伐採です。世界中で排出される温暖化ガスの 18%が森林伐採の 結果による影響です。絶対に避けたいのは森林を伐採することです。もしくは 絶対に避けたいのは切ってはいけない木を切ることです。このサステナブルな森林業を作るモデルがあります。これに従うと適切に伐採できます。この工法のような物で使う しかるべき木だけを切れます。実は これらのアイデアによって 森林伐採の経済的背景を変えられると考えています。森林伐採の問題を抱えた国に対して 森林がより価値を生む方法を見つけ 人々がより早い木々の成長速度を活かして 儲けられるようにしてこの林業を奨励する方法を 探す必要があります。10年12年15年の樹齢の木々でこの製品を作れるので この規模の建築で使えるようになります。私たちの計算では20階建のビルなら 北アメリカで13分毎に十分な木を育てることができます。必要となってくる時間はこれだけです。

 

12 もし木を使えば3,100トンのCO2を封じ込める

CO2に関しても良い話です。もし20階建のビルをセメントとコンクリートで建てるとすると 必要になるセメントの製造過程で 1,200トンのCO2が排出されます。もし木を使えばパネルの方法なら 3,100トンを封じ込めて 4,300トンの差分を生むことになります。この量は900台の車が 1年間道路から消えた量に相当します。家が必要になる先ほどの30億人を 思い出してください。これがCO2の軽減に貢献出来るでしょう。

 

13 真の手ごわい課題は可能性に対する社会の認識を変えること

今私たちはどう建設するのかという面での革命の 始まりとなるのを望んでます。なぜなら これは100年来変わってこなかった高層ビルを建てる新しい方法なのです。でも真の手ごわい課題は可能性に対する社会の認識を 変えることです。非常に大きなものです。設計や施工自体はどちらかというとやさしい問題です。これを説明するのにこんな話をしています。最初の高層ビル -厳密には高層ビルの定義は 信じられないかもしれませんが10階建ですが - 最初の高層ビルはシカゴのこのビルで 人々はこのビルを通り抜けるのにも恐怖を感じていました。しかし、このビルの完成のわずか4年後に ギュスターヴ・エッフェルはエッフェル塔を建て始めました。彼がエッフェル塔を建てることで 世界中の都市のスカイラインを変えてしまい 競争の軸を変え新しい競争を作り出しました。ニューヨークやシカゴのような都市間の競争で 地域の開発業者はどんどん高いビルを建て始めて ますます高度な設計と共に心理的な限界を どんどんと上げていきました。

 

14 木は私たちが建築に利用できる最も技術的に進んだ素材

私たちはニューヨークの工科大学の 未来の工科大学のキャンパスに理論上の 仮想モデルを建てました。この場所を選んだ理由は 木造高層ビルがどの様なものか見てもらうためで 外装はどんな風にもなるので ここで大切なのは構造の部分だけですが この場所を選んだ理由はこれは工科大学で 木は私たちが建築に利用できる もっとも技術的に進んだ素材だと思うからです。特許を持っているのが母なる自然なので 心地良くは感じていないのです。でも こうあるべきです。自然独特の印を建築物に取り入れるべきです。

 

15 「エッフェル塔的な体験」を作リ出したい

いわば「エッフェル塔的な体験」を 作リ出したいのです。木造建築は世界中で高層化されています。ロンドンには9階建のビルがあり オーストラリアでつい最近完成したビルは 10階か11階だと思います。どんどん高いものが建てられています。ですから私たちの夢は特に私の場合 私の暮らすバンクーバーで近い将来 20階建程の建物が建ち世界で一番高い 木造建造物だと発表できたら良いと思います 「エッフェル塔的な体験」が人為的な高さの壁を 心の壁を打ち破り この競争に木造の建築物が参加できるようになるでしょう。このレースはもう始まっていると信じています。どうもありがとう(拍手)

 

最後に

木材だけが建築に使えるほど大きく、太陽の力で成長する素材。気候変動に必要な2つの解決策は、排出を減らすことと閉じ込め先を探すこと。この2つを可能にする唯一の建築素材が木材。30階建の木造ビルが普通の時代へ

和訳してくださった Akinori Oyama 氏、レビューしてくださった Sofia P 氏に感謝する(2013年7月)。


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