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アン・カーザン 言葉が「本物」になる条件

「どの言葉を辞書に収録するか決めているのは誰なのでしょう?」カーザンは語りかける。ここでは、95万ビューを超える Anne Curzan のTED講演を訳し、言葉が本物になる条件について理解する。

要約

「hangry」「defriend」「adorkable」 などの俗語は、たとえ辞書に載っていなくても、英語という言語の意味における重大な不足を補っていると言えます。結局のところ、どの語を辞書に収録するか決めているのは誰なのでしょう?歴史言語学者のアン・カーザンは、辞書作りの舞台裏にいる人たちに目を向け、彼らが絶えず行っている選択を魅力的に紹介してくれます。

English professor Anne Curzan actually encourages her students to use slang in class. A language historian, she is fascinated by how people use words—and by how this changes.

 

1 英語学の教授で言語を専門にしていると言うと…

最初に私の社会生活について 少しお話しします。関係ないように見えますが 関係が あるのです。会合などで会った人に 私が英語学の教授で 言語を専門にしていると言うと その人たちの反応は2つに分かれます。1つ目のグループは恐れをなします (笑) こんなことを言われます 「言葉に気をつけなくちゃ」 「私の間違いに 逐一 気づかれるんでしょう」 そして彼らは話すのを止めてしまいます (笑) 彼らは私が立ち去り 他の人の所へ行くのを待ちます。もう1つのグループは 目を輝かせて こう言います 「あなたみたいな人と話してみたかった」 彼らは英語という言語が間違った方向へ 進んでいることについて持論を語ります (笑)

 

2 ある言葉が「まとも」になるための 条件

数週間前 ある夕食会で 私の右隣にいた男性が インターネットのせいで 英語の質が いかに下がっているか 語ってくれました。フェイスブックを例に こう言いました 「『defriend(友達から削除)』なんて まともな言葉かい?」

この質問 ちょっと考えてみましょう。ある言葉が「まとも」になるための 条件とは何でしょう。夕食会の彼も私も 「defriend」の意味は知っています。では「defriend」のような新語が まともになるのは いつでしょう。言語に関して こうした正式な決定権を 持っているのは誰なのでしょう。それが今日のテーマです。ほとんどの人が ある言葉に対して まともじゃないと言う時 それは つまり 標準的な辞書に 載っていないということでしょう このことは 誰が辞書を作っているのか など 様々な問題の引き金になります。

 

3 「hangry」「adorkable」という新しい俗語

しかし そこへ行く前に ここで私の立場を説明しておきます。私は辞書の製作には 携わっていませんが 新語を集めるという意味では 辞書編纂者と似たようなことを しています。英語の歴史学者ですので ありがたいことに それを「研究」と 呼ばせてもらっています。英語の歴史を教えるに当たり 私が学生に課題として出しているのは 授業の前に新しい俗語を2語 私に教えるということです。長年にわたり 私はこうして 新しい俗語を覚えてきました。例えば「hangry」 (拍手) 「hungry(お腹がすいて) angry(機嫌が悪い)」という意味です。「adorkable」は adorable(魅力的)だけど ちょっと dorky(抜けている) ということです。まさに 英語という言語の重大な穴を 埋めてくれる素晴らしい言葉です (笑) しかし私たちが 主に俗語として扱い まだ辞書にも載っていない場合 これらの言葉は どのくらい 「まとも」なのでしょうか?

 

4 自分の使っている辞書は誰が編纂したか?

これを踏まえ 話を辞書に移しましょう。挙手をお願いします。紙でもオンラインでも結構ですが 今も日常的に 辞書を引くという方は どのくらい いますか? ほとんど全員のようですね。では次の質問です。もう一度 挙手をお願いします。自分の使っている辞書を 誰が編纂したか 見たことのある人は? ぐっと減りましたね。頭のどこかでは 辞書には人の手が関わっていると わかっているのですが 誰の手なのかと言われると よく知りませんよね。そこに私は非常に興味があります。世間で口うるさいと されている人でも 辞書に対しては さほど うるさくなく 辞書の違いを吟味したり 編纂者について疑問を提示したり しない傾向があります。考えてみてください 「辞書を引け」という表現には 辞書なら どれでも同じという 意味が含まれています。この大学の図書館を考えてみましょう。閲覧室には 名誉と尊敬を一身に受けて鎮座する 大型の大辞典があって 誰でも手に取ることができますから その前に立てば 答えが見つかるというわけです。

 

5 私たちが生む言語の変化についていくこと

誤解しないでください。辞書は非常に優れた情報源です。ただし辞書は人が作っており 時の流れの影響を受けます。教師として衝撃的だと思うのは 私たちは学生に いつも 読む時も サイトを見る時も しっかり問題意識を持ちなさいと 言うくせに 辞書に対しては無防備で 著者の存在を忘れ 辞書は どこからともなく現れて 言葉の本当の意味を 教えてくれるように 考えてしまいがちだ ということです。実は 辞書の編纂者に尋ねると 彼らの仕事は 私たちが生む言語の変化に ついていくことだと言います。彼らは私たちの話し言葉や 書き言葉を観察し どれが定着し どれが定着しないか 見極めているのです。これは賭けです。最先端と思われたいし 「LOL(爆笑)」のように 後々定着する語を 漏らしたくない一方で 流行に左右され 定着しない語まで 収録していると 思われたくないですからね。彼らが今 注目している語は 「YOLO 人生は一度きり」 だと思います。

 

6 一度しか挙手できない「今年の単語」投票

私は辞書編纂者たちと 付き合いがありますが 私たちが どこで会うか 聞いたら 皆さんは驚かれるでしょう。毎年1月に 私たちは 米国方言学会の年次総会に行き その中で 「今年の単語」の投票を行います。200から 300ほどの人が集まり 中には国内の著名な言語学者もいます。その場の雰囲気をお伝えすると 投票は歓談の直前に組まれており 誰でも参加できます。最も重要なルールは 一度しか挙手できないということです。過去に選ばれた語には 例えば 2009年の「tweet(ツイート)」 2012年の「hashtag(ハッシュタグ)」 があります 2000年は「chad(投票用紙から出る パンチ穴の紙くず)」でした。2000年までは 皆そんな語を 知りませんでしたからね。2002年は「WMD(大量破壊兵器)」 でした。

 

7 「recombobulation area」「multislacking」など

投票には他のカテゴリーもあって 私のお気に入りは その年の最もクリエイティブな語を 選ぶものです。過去に選ばれた語は 例えば 「recombobulation area (混乱回復エリア)」 ミルウォーキー空港にある 保安検査の後 混乱を回復させる場所のことです (笑) ベルトを締めなおし パソコンをカバンに戻す場所です。この投票で私の歴代 一番のお気に入りは 「multislacking」です (笑) パソコン画面に いくつかのウィンドウを開き 仕事をしていると見せかけて 実はウェブ上で 遊んでいる行為のことです (笑)(拍手)

勿論 これらの語が すべて 定着するわけでは ありません。選ばれたこと自体が おかしいものもあります。例えば2006年 その年の単語は 「Plutoed(冥王星にされる)」 降格の意味です (笑) しかし選ばれた語の中には 今や まったく当たり前に 感じられるものもあります。例えば「app(アプリ)」 接頭辞の「e(電子~)」 動詞の「google(ググる)」です。

 

8 「追放すべき語」一覧の発表

方言学会の投票の数週間前に レイク・スペリオル州立大学が その年の「追放すべき語」の 一覧を発表します。特筆すべきは その一覧と 私たちが検討している― 「今年の単語」の候補一覧とが かなりの確率で 重なっているという点です。見ているところが同じだと いうことなのでしょう。どちらも目立ってきた語に 着目しているのですが 見解が違うというわけです。言語的な流行や変化を 疎ましく思うか おもしろく 興味深く 現用言語の特徴として 研究に値すると思うかです。

レイク・スペリオル州立大学の一覧は 新語への不満という 極めて長い伝統の 流れを汲んでいます。こちらはヘンリー・アルフォード大主教の 1875年の言葉です 「desirability(望ましさ)」という語は 実に不快だと 強く懸念しています。1760年にはベンジャミン・フランクリンが デイヴィッド・ヒュームに宛てた手紙で 「colonize(植民地化する)」は 悪い語だから使わないと書いています。

 

9 新しい発音についての憂慮も長年見受けられる

新しい発音についての憂慮も 長年 見受けられます。こちらはサミュエル・ロジャーズの 1855年の言葉で 彼が侮辱的と感じる 頭にアクセントを置く 流行の発音を懸念しています 「『contemplate』も不愉快だが 『balcony』には吐き気がする」 (笑) 「balcony」はイタリア語からの借用で 元の発音では「co」に アクセントがありました。

こうした不満は現代の私たちには 古臭く感じられます。「adorkable」とまでは言いませんが (笑) 大事なのは 私たちは言語の変化に対し やはり結構気にするということです。私のオフィスには 正統でない語について 辞書に載せるべきでないと 懸念を表明する 新聞記事がファイル1冊分あります。例えば「LOL」が オックスフォード英語辞典に載った時 そして「defriend」が オックスフォード米語辞典に載った時の 記事です。名詞の「invite(招待)」や 動詞の「impact(影響する)」に 対する 懸念を表明した記事もあります。「impacted(埋伏)」は 歯の話に限られるし 「incentivize(やる気を起こさせる)」は 「粗暴で官僚的な失言である」と 言うのです。

 

10 注意書きが添えられる理由

辞書の編纂者たちは 言語に対する こうした見解を 無視しているわけではありません。彼らは大抵は注釈という形で 俗語や略式の語 侮辱的と考えられる語について 私たちに指針を提供しようと しているのですが 編纂者として苦しいのは 人々の言動を説明するのが 仕事でありながら 人々が辞書を引くのは だいたい 正しい語法や 適切な表現を調べるのが 目的だと知っているからです。これに応え アメリカン・ヘリテージ辞典は 使い方の注意を加えています。注意書きが添えられるのは ある意味 厄介な語で 厄介になる理由の一つが 意味の変化です。使い方の注意には非常に人間的な 判断が絡んでおり 私が思うに 辞書を使う人は こうした人間的な判断を 認識すべきなのに ほとんど していません。例を挙げて どういうことか説明していきますが その前に この注意書きの中で 編纂者が 取り組んでいる内容を解説します。

 

11 「peruse」の意味の変遷

「peruse」という語について どういう意味で使っているか 考えてみてください。おそらく多くの方が考えているのは 「ざっと目を通す」「素早く読む」 というところでしょう。歩くことと関連して考える人も いるでしょう。食料品店の棚を見て回ることを 言ったりも しますからね。驚かれるでしょうが 最も標準的な辞書を引くと 最初に出てくる語釈は「じっくり読む」 「熟読する」なんです。それがアメリカン・ヘリテージの 1つ目の語釈です。そして2つ目の語釈が 「ざっと目を通す」 ただし そこには「使用上 問題あり」と 書いてあります (笑) ここに載っている注意書きは 一読の価値があります。

これが その注意書きです 「『peruse』は ずっと 『精読する』という意味だった。しかし砕けた使い方をする際に 単に『読む』という意味になり さらに意味の広がった 『ざっと目を通す』は 従来は誤用と考えられていたが 我々の投票の結果 容認の傾向が やや強く なってきていることが示唆される 『時間がなくて マニュアルを さっと’peruse’ しただけだ』 という文に対し 容認できないと答えた識者は 1988年では66% 1999年は58% 2011年は48%だった」

 

12 識者の会には約200人が所属している

識者の会ですよ。あの信頼できる言語の権威が これについて寛容になってきていると 皆さん 疑問を持ってくださいよ 「待って 識者って誰のこと?」 「彼らの発表に対して 自分はどうすればいい?」 アメリカン・ヘリテージ辞典の 前付けを見ると 識者の会のメンバーの 名前が書いてあるんですが 辞書の前付けなんて 誰も見ませんよね。識者の会には約200人が所属しています。アカデミー会員やジャーナリスト 文芸作家も入っています。最高裁判事もいますし 言語学者も数名います。2005年からは私も入っています (拍手)

私たちが皆さんのために できることは 揺れている語法について 意味の幅が伝わるように することです。それが私たちの権限で そこまでに留めるべきです。私たちは言語アカデミーではありません。私のところには 年に一度くらい 新しい用法 新しい発音 新しい意味が 容認できるかどうか 投票するよう依頼が来ます。

 

13 私の投票基準は聴くこと

私の投票基準は こうです。他の人々の話し言葉 書き言葉に 耳を傾けます。自分の言語的な好き嫌いには 耳を貸しません。正直に申し上げますと 私は「impactful(影響力の強い)」 という語が好きではありません。でも それは関係のないことで 問題は「impactful」が一般的に 使われており 散文で容認されてきているか ということです。責任を持って 回答するために 私は語法を調べます。Google ブックスのような ネット上の資料に あたることも よくあります。Google ブックスで 「impactful」を探すと こういう結果が出ます。どうやら「impactful」は 一定数の書き手にとって 実用的な語になりつつあり その実用性は ここ20年で どんどん高まってきているようです。

 

14 言葉の変化はおもしろくて魅力的

言語が変化していく中には 誰もが好きになれないものも 出てくるでしょう。こんな反応をされるものも 出てくるでしょう 「本当に? 言語って そんな変わり方を しなくちゃいけないの?」 私の意見は ある変化について ひどいと すぐに決め付けてはいけない ということです。他の人の言葉遣いについて 自分の好き嫌いを すぐに押し付けたりせず 英語が まずい状態に 陥っているという考えを 簡単に認めないように すべきです。実際そんな状態ではないのです。英語は豊かで力あふれ 英語を使う人たちの創造力で いっぱいです 「nice(良い)」が かつて「愚か」という意味で 「decimate(破壊する)」が 「10人に1人を殺す」 という意味だったなんて 今考えると 興味深いですよね (笑) フランクリンが動詞の 「notice(気づく)」を 気に病んでいたなんて バカらしいですね。でもね 動詞の「impact」や 名詞の「invite」を 気に病んでいる私たちも 百年後にはバカみたいと 思われるわけですよ。私たちがついて行けないほどの速さで 言語が変化することは ありません。言語は そんな風には ならないのです。皆さんにお願いしたいのは 言語の変化を気がかりと思わず 辞書の編纂者たちのように おもしろくて魅力的だと思ってください。私たちの言語を絶えずリメイクして 活気ある状態に保ってくれる その創造性の 担い手であることを 楽しんでほしいのです。

 

15 私たちが使っている言葉なら「まとも」

ある言葉が辞書に載るのは どういう場合でしょう。私たちが使い 使い続け 私たちが辞書編纂者の注目を 引いた場合です 「じゃあ 言葉の意味を決めるのは 私たち皆ってことか」 と思われたなら 私の答えは「はい その通り」 「今までも ずっとそうでしたよ」 辞書は素晴らしい指針であり 情報源ですが 言葉の意味に関して 最終審判を下すような 客観性のある辞書の権威は 存在しません。話者のコミュニティが ある言葉を使い 皆が意味を知っていたら その言葉は「まとも」です。俗語っぽいかもしれないし 略式かもしれないし 非論理的で不必要と 思われるかもしれないけれど 私たちが使っている言葉なら それは「まとも」なのです。ありがとうございました。

 

最後に

ある言葉が「まとも」になるための条件。「hangry」「adorkable」という新しい俗語。私たちが生む言語の変化についていくこと。一度しか挙手できない「今年の単語」投票。識者の会には約200人が所属している。言葉の変化はおもしろくて魅力的。私たちが使っている言葉なら「まとも」

和訳してくださった Emi Kamiya 氏、レビューしてくださった Ricky Park 氏に感謝する(2014年3月)。

世界言語への視座―歴史言語学と言語類型論


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