「作業記憶野とは脳の一部で、目の前で起きていることの意味を把握する働きがあります」ピーターは語りかける。ここでは、120万ビューを超える Peter Doolittle のTED講演を訳し、作業記憶野の重要性と限界について理解する。
要約
「人生の出来事が次々と目の前で起きています。私たちは、形も定まらない体験の流れを捉えて、そこから何らかの意味を引き出さなければなりません」 教育心理学者のピーター・ドゥーリトルは、この愉快でためになるトークで、作業記憶野の重要性と限界について詳細に語ります。作業記憶野とは脳の一部であり、目の前で起きていることの意味を把握するはたらきがあります。
Peter Doolittle is striving to understand the processes of human learning.
1 テキストを打ちながら歩くことができなかった
そう 昨日 このビルの前にある通りに出て 歩道を歩いていた時のことです。何人かの連れと一緒でしたが みんな交通ルールを守って 歩道を歩いていました。何か話をするわけでもなく前を向いて歩いていました。ただ動いていただけです。その時 前を歩いていた人の動きが遅くなり そう 彼の動きを見ていましたがゆっくりとなって ついに止まりました。そのペースは自分にとっては遅く感じましたから ちょっと合図して 彼の横を通り過ぎました。通り過ぎるとき彼が何をしているか見てみました。そう これをやっていたのです。 テキストを打っていたのです。テキストを打ちながら歩くことができなかったのです。この出来事は 作業記憶の観点と マルチタスクの観点から分析できます。今日は作業記憶野についてのお話です。
2 作業記憶は我々が一日中いつも感じている意識の一部
さて 作業記憶は 我々が一日中いつも感じている 意識の一部です。皆さんも今それを行っています。勝手にそれを止めることはできません。止まったとしたら、それは昏睡状態ということですよ、いいですね? ですから 皆さんは今は大丈夫だということですよ。作業記憶野には4つの基本的な働きがあります。その瞬間に経験したことの記憶や ちょっとした知識を保存します。また長期記憶から必要に応じて 情報の一部を引き出し その時々の目的に応じ 認識していることとミックスし 処理することができるのです。その時の目的は 大統領とか 世界一のサーファーになりたいとかではなく もっと俗っぽいこと 例えばクッキーが欲しいとか どうやったらホテルの部屋に入ることができるかといったことです。
3 知識の想起、物事の一時記憶、目的達成のために記憶を使う能力
作業記憶野の能力とは その記憶能力を活用して 知識を呼び覚ましたり 一時的に物事を記憶したり その時の目的を達成するためにその一時記憶を 利用する能力です。作業記憶野についての理解には 実に長い歴史があります。高い作業記憶能力は他の能力とも正に相関しています。作業記憶の優れている人は 話をするのが上手です。標準化されたテストを たとえ難しくとも 解こうとし解くことができる傾向があります。文を書く能力にも優れています。物事の分析にも優れています。
4 皆さんの作業記憶を発揮して頂きましょう
ではここでちょっと試してみましょう。ここで 皆さんにいくつかの作業をお願します。皆さんの作業記憶を発揮して頂きましょう。準備は出来ましたか? いいですね。5つの言葉を言います。それを覚えてください。紙に書いちゃだめですよ覚えるんです。5つの単語です。皆さんが忘れないようにしている間に3つの質問に答えて頂きます。単語はどうなるでしょうか。では その言葉です。木 高速道路 鏡 土星 そして電極 今のところ大丈夫ですね。では 次にお願いすることは 次の計算の答えを行ってみて下さい。23掛ける8はいくつになりますか。計算してくださいよ (つぶやき) (笑) 実際のところ — (うーん) — その通り(笑) ではいいですか。左手を使って 1 2 3 4 5 – 6 7 8 9 10と数えて下さい。これって神経学のテストです。お疑いになるといけないので いいですね。では次にお願いすることは アルファベットの後ろから順に 5つ言ってみて下さい。Zから始めなければいけませんよ (笑)
5 作業記憶は人間の機能として実に重要
はい ではどれだけの人が自信を持って 例の5つの言葉を言えるでしょうか?オーケー 普通は半分以下の人しか覚えていません。そう これが普通 でもバラツキがあります。5つなら覚えていられる人 10も覚えられる人 2つや3つしか覚えられない人。作業記憶は人間の機能として実に重要なのです。そしてここTEDでは特に重要なんです。というのも皆さんは実に多くの異なるアイデアに接しているからです。
6 作業記憶は今起こっている体験をその次へと進めながらも分析することができる
我々の直面する問題はこうです。人生の出来事が 次々と目の前で起こっています。私たちは 形も定まらない体験の流れを捉えて そこから何らかの意味を 引き出さなければなりません。豆ほどの大きさの- 作業記憶野の能力によって 誤解しないで下さいよ。作業記憶野はすごいんです。作業記憶は今起こっている体験を その次へと進めながらも分析することができるんです。我々の周囲で起きていることの意味を把握します。でもある限界が存在します。
7 作業記憶野は記憶の容量と記憶時間と集中の対象に限界がある
作業記憶野は他人とのコミュニケーションを可能にします。我々は会話することができますし 巧みな話術をつかいこなすこともできます。会話の流れを把握しながら どう会話に貢献すれば良いか分かるのです。問題解決や批判的思考も可能にします。会議のさなか 誰かの発表を聞いて それを吟味し それが良いかどうかを判断し 後で質問することもできます。これらが全て作業記憶野で行われるのです。お店に行って 牛乳と卵とチーズを買ってくることができます。本当に欲しいものが 滋養ドリンクとベーコンであってもね (笑) 本当に求めているものをしっかりと手に入れるんです。作業記憶の重要な問題は 限界があることなんです。記憶の容量と 記憶時間とそして フォーカスの対象に限界があるんです。我々は大抵4つ程度のことをその場で覚えることができます いいですか? かつては7つと言われていました。でもMRI(磁気共鳴画像)による検査では明らかに4つまでなんです。これまでは過度なまでに達成していたのです。さて 我々は約10-20秒間の間に 4つの事を同時に覚えられます。その時にそれで何かをしようとしたり 処理しようとしたり 何かに応用したり 他人に話しかけたりしなければですが。
8 戦略を持てばうまくやりとりできる
作業記憶について考えるとき その限界が様々な影響を 我々に及ぼすことを理解しなければなりません。ある部屋から別の部屋に移ったときに なぜここに来たのかを忘れてしまったことはありませんか? どうやったら思い出せるか知っていますよね? 元の部屋に戻ってみればいいんです(笑) 鍵を忘れたことはありませんか? 自分の車を忘れたことは? 自分の子どもの事を忘れたことは? 人と会話をしている真っ最中に 横で別の人が話していることの方が もっと面白いなんて思ったことはありませんか (笑) 皆さん うなづき 微笑んでますね。でも皆さんはこちらに注意を傾けています。ついにこの言葉を耳にして ふとお気づきになるまではね。質問の真っ最中だった! (笑) でもそんなことはないよって言いたいんですね。だってこう言いたいんでしょう。今日のトークは作業記憶についてだからねと。我々には出来ることと出来ないことがあります。作業記憶には限界があること。そして 作業記憶に関する能力とはその限界を うまくやりくりする能力であることを認識しなければなりません。戦略をもってうまくやりとりするんです。
9 扱うべき情報が溢れかえる中に身を置く
そう いくつかの戦略についてお話ししたいんです。これはとても重要なんです。というのはこれから数日間皆さんは 扱うべき情報が溢れかえる中に身を置くからです。まず第一に考えるべきことは 我々の存在そのものと人生体験を 直ちに そして次々と処理しなければなりません。次々と起こることを 起こったその場で 10分後ではなく 一週間後でもなく すぐさま処理しなければなりません。彼が言っていることに同意できるか 何が足りないのか? 自分が何を知りたいのか? その仮定に同意できるのか? これを自分の生活にどう応用できるのか? この様に目の前の出来事が処理されるのです。そしてその結果を後で利用することができるのです。繰り返し訓練をしなければなりません。ここで良く考えてみましょう。皆さんに何度も言いたいことは 必要な事を書き留めて 家に帰ったら そのメモを取り出して 良く考えてみて下さい。そして時間をかけて練習してみて下さい。練習は時には何らかの理由でマイナスなこともありますが これはとっても役に立ちます。
10 具体的に考えることが必要
次のポイントは 具体的に考えることの必要性です。実例的に考えるのです。しばしば 我々が新しい知識を古い知識と関連させなければなりません。頭の中で思考をめぐらせ 自分の中にある全てを活用して 新しい知識をうまく取り込むのです。このような関連付けをフルに活用することはとても意味のあることなのです。イメージを利用することも必要ですし人間はイメージを扱うことができる能力が備わっています。それを利用しない手はありません。物事をイメージにして考えてみましょう。そしてそれを実際に描いてみましょう。本を読んだら 訓練の題材にしてみましょう。私は「グレート・ギャツビー」を読み通しました。そしてギャツビーがどのような風体をしているのか 私の頭の中で 自分のイメージとして完璧なアイデアを得たのです。
11 人間は意味を紡ぎだす機械
最後にお伝えする戦略は組織とサポートです。人間は意味を紡ぎだす機械です。そう紡ぎだしているんです。我々は目の前で起きているすべての事から意味を見出そうとします。組織的な行動は役立ちます。それには意味のある方法で 建設的な方法で行動する必要があります。知識や経験を行動に活かそうとするのであれば それを組織的に用いなければなりません。
12 時間と共に洗練されるためにはサポートが必要
最後にサポートについてです。だれだって始めは初心者です。我々がなすことは何もかもが洗練へと近づくのです。時間と共により洗練されることを期待します。それにはサポートが必要です。サポートは他人に質問してみることであることかもしれません。組織図か もしくは理解の助けになるイメージが書かれた 一枚の紙を渡してみましょう。ともかくサポートが必要なのです。
13 体験を生きよう
さあ最後になりますが 作業記憶の能力という観点から お伝えしたい一番のメッセージです 処理したものについて 学ぶことができます。目の前の体験を処理しなければ 生きているとはいえない。体験を生きよう。有難うございました(拍手)
最後に
作業記憶は我々が一日中いつも感じている意識の一部。知識の想起、物事の一時記憶、目的達成のために記憶を使う能力を持つ。扱うべき情報が溢れかえる中に身を置き、具体的に考えること。人間は意味を紡ぎ出す機械。体験を生きよう。
和訳してくださった Tomoyuki Suzuki 氏、レビューしてくださった Eriko Tsukamoto 氏に感謝する(2013年1月)。