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債権債務関係が明確で債権金額が確定しているもの 償却対象債権

前回は、無税償却と有税償却を使い分けよ 不良債権の税法上の取扱と償却証明について解説した。ここでは、債権債務関係が明確で債権金額が確定しているもの 償却対象債権についてまとめる。

1 償却対象債権の範囲

償却対象となる債権は、金融機関本来の業務活動から生ずる債権やこれに付随する業務から生ずる債権に限られず、金融機関の有するすべての債権を含むものとされている。以下に、実際に事務を行う際に問題となりそうな6点について取り上げる(なお、1997年6月に債権償却証明制度は廃止)。

 

貸倒引当金の対象債権の範囲との相違

貸倒引当金の対象債権は、内国法人の有する売掛金、貸付金その他これに準ずる債権(当該内国法人が債務者から受入れた金額があるため、実質的に債権と見られないものを除く)である(法人税法52条1項)。その他これに準じる債権とは、資産の譲渡の対価たる未収金、未収手数料、未収保管料、貸付金の未収利息など、原則として所得金額の計算上益金の額に算入された収益に係るものである。

一方、償却対象債権は、上記の諸債権に加え、抵当権設定費用、損害保険料、訴訟費用等の立替金なども含まれ、債権の発生原因や経理上の勘定科目のいかんを問わないものとされている。この差は、貸倒引当金は通常の営業活動から生ずる債権の評価に着目しており、償却は法人の担税力の減少に着目していることから発生している。

 

簿外債権、有税償却債権等の取扱

簿外債権や帳簿価額がゼロの債権は、償却対象とはならない。しかし、有税償却債権は帳簿上は価額がゼロとなるが、税務計算上は残存するので償却対象となる。

 

貸付有価証券の取扱

貸付有価証券は金銭債権ではないため、当該債権自体は償却対象とはならない。しかし、回収不能となった場合に発生する損害賠償請求権に基づく債権は、償却対象になるものとされている。

 

信託勘定の貸出金の取扱

信託勘定は単独運用の信託と合同運用金銭信託等に分けられるが、それらの貸出金は償却対象とはならない。前者については受益者が自らの税務申告において所要の手続を行うこととなり、後者は受託者(信託銀行)が信託の本旨(受益者公平の原則等)に則って自らの判断で償却を行うこととなる。

 

未収利息の取扱

貸付金の未収利息も償却対象になりうるが、これについては国税庁長官通達「金融機関の未収利息の取扱について」(昭和41.9.5)が定められている。この通達によると、金融機関の未収利息は原則として益金に算入されるが、利息延滞や利息棚上げの場合には一定の要件の下に益金不算入が認められる。また、未収利息を資産に計上している場合において、その計上した事業年度終了の日から2年間、支払の督促をしたにもかかわらず収入が全くない場合には、その額を貸倒として処理することができる。

 

違法行為により発生した債権の取扱

違法行為により発生した債権については、事実関係の解明、金融機関等内部の責任の明確化、行政への報告等が完了しているものについては、その実態を慎重に審査した上で証明して差し支えないとされている。また、金融機関が損害賠償金を支出した際は、ケースによって①給与以外の損金算入、②当該役職員に対する債権、③支払能力等に応じて貸倒として損金処理か当該役職員に対する給与とする。

さらに、役職員の横領など償却証明から除外されるような債権が発生した場合には、事実確認を徹底し、その事実に基づいて加害者である役職員や身元保証人等に対して新たな貸付を起こすべきである。その後、回収努力を行っても回収が不能であることがわかった場合には、その段階で無税償却を認めても差し支えがない。

 

2 担保物の評価

担保物の評価は、担保として受入れた当初の評価ではなく、当該債権償却時の事業年度終了の日における時価によるものとされている。しかし、必要に応じて、償却申請日の直近時点における時価によることとしても差し支えないとされている。

また、担保物の時価は客観的に評価される必要があるが、いくつかの制約のもとに一部の担保物について金融機関自身による評価が認められている。

さらに、評価の対象となる担保権の範囲は、抵当権、質権、先取特権、留置権のような民法上の典型担保に限らず、譲渡担保、代理受領、代物弁済の予約、担保見合等実質的に債権の担保を目的とするものはすべて含まれると解すべきである。

 

3 外貨建債権の償却

外貨建債権の邦貨への換算(外貨建取引)は、原則、当該取引発生時の為替相場による円換算額をもって記録する。決算時の換算方法は、原則、決算時の為替相場による円換算額を付する。換算差額の処理は、当期の為替差損益として処理することが原則である(外貨建取引等会計処理基準)。

 

4 不良債権の一部償却

不良債権の一部償却とは、損失の確定した債権(資産査定における第Ⅳ分類該当額)の一部分を償却することである。一部償却は、確定損の一部繰延であり、資産内容の充実という要請に反する不健全な処理と見られ、不適切な取扱である。

 

最後に

償却対象債権の範囲は、金融機関の有するすべての債権を含むものである。貸倒引当金の対象債権との違いは、前者は法人の担税力の減少に着目しているのに対し、後者は通常の営業活動から生ずる債権の評価に着目している。担保物の評価は、原則、当該債権償却時の事業年度終了の日における時価による。外貨建取引は、当該取引発生時の為替相場による円換算額をもって記録する。不良債権の一部償却は、確定損の一部繰延であり、不適切な取扱である。簿外債権、信託勘定の貸出金、未収利息、外貨建債権、仮払金、不良債権の一部償却、担保物の評価の取扱が重要

次回は、回収不能見込額を直接貸借対照表の資産項目から引き落とすこと 直接償却についてまとめる。


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