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通貨の国際化の条件は貸し込むこと 円・ドル・ユーロ

前回は、なにがアメリカをそうさせるとしてアメリカ経済についてまとめた。ここでは、お金が国境をなくすとして円・ドル・ユーロについて解説する。

1 なぜヨーロッパは独自の通貨を捨てたのか

「貨幣は1つであるべきか」「なぜユーロなのか」という問題には共通点がある。それは江戸時代の日本には2つの種類の貨幣が流通していたこととも関係がある。江戸では金、浪速は銀が流通していた。なぜ東京円や大阪円を使わずに、「円」だけなのか。

それは効率が悪いことと、値段が変わるリスクがあるからである。交換の手間と為替差損を防ぐために、1つの貨幣を造るメリットがある。反対に複数の貨幣を持つメリットは、通貨主権を持てることである。例えば、北海道の失業率が高い場合、通貨の量を増やすという金融政策ができる。ユーロ導入は、通貨主義を放棄するという大英断をしたのである。

 

2 飲み込まれるか巻き込むか—ドイツとフランス

ヨーロッパの中央銀行(ECB)はドイツのフランクフルトにある。この体制の中心はドイツとフランスで、ヨーロッパの中でドイツの独り舞台になることを防ぐというフランスの思惑があった。また、ドイツの願いは通貨価値の安定で、過去のインフレによる被害を防ぐ目的を持っている。

通貨統合は戦後間もない頃にできたヨーロッパの鉄鋼関税同盟から始まった。EEC(ヨーロッパ経済共同体)のもとである。基本的にはヨーロッパで二度と戦争を起こしたくないことと、ドルに対抗することがこうした動きの理由である。

もう1つの理由は、自らをリスクの中におくことによって初めて自分たちの社会が変われるという危機感である。例えば、シエスタとして有名だが、イタリアの公務員は2時になったら一度家に帰るという。その理由は1940年代にできた法律で、戦争中爆撃があって危険だから帰りなさいという緊急避難的なものが既得権益として残っているのである。こうしたものを改善するという実利志向なども通貨統合の理由である。

 

3 ドルが基軸通貨といわれる理由

ドルが基軸通貨といわれる理由は、アメリカが最初にドルで各国に貸付を行ったからである。そうすると各国はドル建ての債務を持つため、安全を確保するためにある程度ドルの資産を持たざるを得なくなる。こうしてドルは圧倒的に相対的な強さを持った通貨になったのである。

それは戦後間もない頃、マーシャルプラン(欧州復興計画)もそうである。ドルがどっと世界にあふれるから、ドルの作用が一瞬ガクンと下がる。しかし、結果的にはこれによってドルは基軸通貨になったのである。その意味でドルはハードカレンシー(hard currency:金またはドルと自由に交換できる通貨)ともいわれる。

つまり、通貨の国際化の条件はどんどん円で貸し込むことである。そうすると、円建ての資産を持たざるを得なくなるから、このときに円は国際化するのである。円が国際化したときのメリットは、円で取引できることである。それはすなわち日本が信頼されているということである。反対にデメリットは、日本銀行が円をコントロールできなくなることである。

日本では環境対策や海外援助、国際協力といったものにおカネを使うのはいいことだ、という無条件の賛美論がある。そのため、おカネの使い方に対するアピールが下手である。それを利用してODA(政府開発援助)予算を各省庁が利権化し、日本国全体としての戦略がないままに支援している。

お金は稼ぐよりも使う方が難しいという人がいる。例えば、フルブライト留学生にはアメリカという国の名前はどこにも入っていない。しかし、フルブライトはすごいブランドになっていて、戦後の日米関係を作ってきた原動力となっている。

 

4 通貨統合までの5つのステップ

ユーロの実現で為替レートが変動しないというリスクもある。為替レートが変動しないということは価格の調整がない社会なため、実物経済の方を調整しなければならない。例えば、東京での投資をやめて北海道へ投資をしたり、モノや人が移動しなければならない。日本の過疎の問題はそれに似ている。

経済の統合は、普通以下の5つの段階を経る。ヨーロッパを念頭において、1960年代から70年代にかけてバラッサが言った説である。

  1. 自由貿易圏:NAFTA(North American Free Trade Agreement)など
  2. 関税同盟:NAFTAやEUが外に対して共通の関税を課す
  3. 市場の統合:おカネとモノの移動を自由にする
  4. 経済の統合:規制の共通化。1993年頃から日本の医療品会社がヨーロッパへ出た
  5. 通貨の統合:現在のヨーロッパ

 

最後に

経済の統合は、自由貿易圏→関税同盟→市場統合→経済統合→通貨統合という5つの段階を経る。ドルが基軸通貨といわれる理由は、アメリカが最初にドルで各国に貸付を行ったから。リスクないところにリターンはない。

次回は、強いアジア、弱いアジアとしてアジア経済の裏表について解説する。

経済ってそういうことだったのか会議 (日経ビジネス人文庫)


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